拝啓、画面の向こうのあなたへ
誰かの損得勘定にて、この世界は焼き増されている。僕達が持ち合わせたプライドは、欠片すらも消滅するだろう。そこには虚しく足掻くだけの、先細りする未来しか残されていない。
世界中から、敵意の雨に曝されたとしても――だ。
張り詰めた凶気の感情は、人々の無関心な生活に静かに浸透していく。フィクションではない映像に、漠然としていた皆の緊張は研ぎ澄まされる。そして、水面下にて密かに繰り広げられていた『それ』は今、暴発を迎えようとしていた。
『まだ、目覚めないで』と、誰しもが願っていた。淡く甘い夢は、そう長くは続かない。現実は時として、残酷で無慈悲なものになる。
『私を、置いて行かないで』
僕の帰りを待っていた君の頬に、一筋の滴が流れる。それでも僕は、慣れない作り笑顔で心配無用を伝えたあと、静かに手を振った。吐き気の催しそうになるほどの恐怖心を押し殺して、勇気を振り絞って、悲鳴と爆発音の嵐の中へと踏み出したんだ。
ありがとう。
君のその想いだけで、僕は充分に報われた。
だからせめて、どうか。
君は目を逸らさないで、背けないで。
画面の向こうで、見ていてくれるだけでいいから。