ガーデンパーティの幕開け
着飾ったことで慣れない足取りのまま庭園に続く廊下をニキと一緒に進んでいく。
途中の部屋でリゼル様とレイナルド様と落ち合うことになっており、その部屋に向かっている。
裾も長く、普段以上にきつく絞められたビスチェやコルセットに嫌でも背筋が伸びてしまう。
普段は緩めに結う髪も崩れないか心配なほど綺麗に編まれ纏められている。
(ローズマリーの頃だって、こんなに着飾っていなかったような……)
二十年の間に装飾の華やかさが変わったのだろうか。
それとも本来はこれが当然で、ローズマリーへの扱いが悪かったのかもしれない。
到着した小部屋をニキが軽く叩き、到着を知らせる声をあげる。
すると中から扉が開き、真っ先に出迎えてくれたのはアルベルトだった。
「おはよう、マリー嬢」
「おはようございます」
微かに頬を緩ませるアルベルトに案内され、私は中にまで入るとそこには既にリゼル様もレイナルド様もいらっしゃった。
リゼル様は何故か呆けた表情のままじっと此方を見ているので、私はとりあえず笑顔で挨拶を交わす。
すると。
「マリー嬢……あの……」
「はい?」
話しかけながら近づいてきたリゼル様の頬が赤い。けれど視線は真っ直ぐ私を見てくる。
「とても…………お美しいです」
「あ……ありがとうございます……」
恥じらいながらも仰って下さるリゼル様の方が大変お美しいです!
白を基調としたコートには刺繍が散りばめられていて、袖や胸元にアクセントとして飾られた勲章やカフスの金細工はそれだけで芸術的だった。
いつも流し軽く束ねる髪を今日はしっかりと結んでいらっしゃる。男性でありながら髪に束ねるリボンが似合うのは反則だと思う。
「マリー」
突然、名前を呼ばれた。
私を呼ぶ先に視線を向けてみれば、いつものように漆黒の衣類を身に纏うレイナルド様の御姿。
いつもより髪を上げて、褒美として頂いた勲章を胸元に付けている。
私の名を呼んだレイナルド様に視線を上げているだけで、私の胸からは動悸が煩く騒ぎ立てる。
それでも平静を保ち頭を下げる。
「おはようございます、レイナルド様」
「…………よく似合っている」
レイナルド様は私の手を取ると白の手袋を嵌めた手の甲に挨拶とばかりに唇を充てる。
「……今日は長い一日になるだろうから、少しでも疲れたら言うように」
「はい」
未だに手を握られたまま会話をしていたけれど、リゼル様の咳払いにより手が離された。
「今日の流れをもう一度確認しようか」
その言葉に、私は改めて意識をガーデンパーティへと引き戻した。
今日の主催はリゼル王太子の名の下で婚約者候補として王宮侍女勤めをしていた女性達への慰労と送別を兼ねた会と表向きではうたっている。
実際のところはリゼル様の婚約者お披露目の名目もある。つまり、私という存在の発表。
その場に恐らくグレイ王とティア王妃も遅れて姿を現すことになっている。
「個別に時間を取ることは出来ないと予め通達はしているよ。正式に話を執り行うのは婚約者候補として教育が落ち着いてからと言っている」
「それで通ります?」
仮にも息子のお嫁さんとの時間なのだけれど……
少なくともローズマリーはグレイ王の父であった先王とは婚約者候補になる前から御顔を合わせることが合ったことを思い出す。
するとリゼル様が諦めたように微笑まれた。
「興味が無いようだよ」
「そんな……」
実の息子であるリゼル様の口から聞かされる言葉はあまりにも辛い。
「そういうものだ。だが、母上は何を考えているのか分からないから、なるべく一人にならない方がいい」
「はい」
(ティア王妃……ティア・ダンゼス)
かつてローズマリーの前に現れ、そして陥れた女性。
(できることなら顔を合わせたくない……)
表情に出てしまっていたのだろうか。
背中をそっと優しく撫でる感覚に顔をあげる。
横を見れば正面を見据えたままレイナルド様が私の背を優しく支えて下さっていた。
ドレス越しでは伝わらないけれど、その優しさはしっかりと私に伝わってきた。
私がレイナルド様の御顔を見ていると何処からか視線を感じて前を見る。
リゼル様と目が合った。
「……レイナルド。このパーティの翌日に主要貴族を集めて会議をするって聞いたんだけれど」
レイナルド様の手が離れる。
「ええ。上位の貴族も集っているところですし、先手を早々に打つべきだと考えています」
先手というのは、リゼル様に実権を持たせるための話だろうか。
とはいえ詳しい話までは私も介入出来ることではないので、ニキが淹れてくれたお茶を飲んでひと息つく。ニキは別室で待っていてくれている。
お二人の会話をぼんやりと聞いているところで扉をノックする音が聞こえてくる。
「失礼します」
現れたのは見知らぬ男性だった。
反応したのはレイナルド様で、立ち上がり訪れた男性の元に向かわれた。
「マーデル子爵だよ」
向かいに座られていたリゼル様が立ち上がり私の傍にいらっしゃった。そして流れるように手を取りながら、訪問者の名前を教えてくれる。
(マーデル子爵……)
先日の話に出ていた方の名前だ。レイナルド様の腹心のような方だと。
レイナルド様と話をし終えるとこちらに視線を向けられた。少し吊り目が印象的な男性で、アルベルトよりも歳上かもしれない。
こちらに笑顔を向けると近付き、手を前に置き頭を下げてこられた。
「初めましてエディグマ嬢。マーデル・エルメイダと申します。先日はエディグマ領でお父君の護衛を一時預からせて頂きました」
「父の……それはありがとうございます」
「いえ。特に大きな変化もありませんでした。お父君も令嬢をご心配していらっしゃいましたよ」
「そうですか……」
手紙では問題ないと伝えていても、心配を掛けてしまうことは申し訳ない。
今は兄がエディグマ領で対処をしてくれているらしいけれど、直接会って話をしていないだけ私としても気掛かりだった。
「早く終わらせて、父君にお顔を見せにいきましょう」「はい」
マーデル子爵の言葉に私も元気を取り戻し、顔を上げた。
「それでは行こうか」
リゼル様にエスコートされ、私は部屋を出た。
この先で待ち受ける婚約者代理としての第一歩にひどく緊張しながらも。
どうにか平静な表情を浮かべながら、庭園へと進んで行った。




