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婚約者代理のガーデンパーティ


「凄い数……」

「本当ね」


 私とニキは部屋中に広げられた贈り物やドレスの数々に圧倒されながら、思わずといった調子で呟いた。




 貴族会議が終了し、正式に私とリゼル様の婚約者発表が王城内に広がった。

 国民への発表やお披露目会は延期する形で決定させたレイナルド様の手腕は流石だった。そこまで進んでしまうと今更嘘でした、と引き下がることもできない。

 王城内で正式に発表された後に変更される事は、実はよくあったりする。特に幼い頃の婚約発表だと、双方の家族の関係が悪化したり体の成長に伴い病を患い辞退することもある。

 私の場合、全ての騒ぎが落ち着いた頃にリゼル様から私を慮り、双方合意の上で婚約を破棄する話になっていた。

 王家側が正しい手続きを取ることで、私に対して傷が付くこともない。それどころか、一度は王太子の目にかなった女性ということで箔が付く……というのは、ニキの話。

 ニキには全てでは無いけれど事情は伝えているので、事が落ち着けば私の婚約が白紙に戻ることを知っているから気軽に相談できてとても有難い。

「どうせならそのまま結婚しちゃえばいいのに」と言う彼女には苦笑しか浮かばない。

 お給金も更に上がるし仕事も楽しいからと、相変わらず仕事を続けてくれるニキには感謝しか浮かばない。


 さて。

 現実に戻り、今は部屋に敷き詰められた贈り物を眺めている。

 貴族会議が終わってまだ二日しか経っていないというのにこの贈り物の数。

 贈り主は数多くの貴族達で、婚約者となった私を祝う形で贈られてきている。


「こんなに贈られてくるなんて凄いわ〜ほら見てよマリー。これ、有名なデザイナーのドレスよ? 既製ドレスでも手に入らないって言われてるやつ!」

「そうなの?」

「あとこの装飾品セットも高価で有名な物よ。贈り主は……宰相様の奥方様からだわ。お茶会の招待状まで入ってる」

「………………はぁ」


 私は重苦しい溜め息を吐くしかなかった。


(これ……全部にお返事書かないといけないのよ……ね?)


 婚約者として王城に来た時のローズマリーにはこんな事は起きなかった。お茶会やパーティの招待や挨拶の手紙は数多くあったけれど、それでもここまで露骨に贈り物攻撃をされたことはない。


(それだけリゼル様とお近づきになりたいということ……)


 賄賂の贈り先が現国王と王妃から、リゼル王子と婚約者である私に切り替わったのかもしれない。

 聞けばリゼル様の元にも婚約の祝いの言葉が多く届いているという。それも、国内でも一部の貴族にのみ緘口令が敷かれるというのに、国外の一部有力な貴族からも送られてきているというから笑うしかない。


「ニキ。申し訳ないのだけれど全ての贈り主を纏めて貰っていいかな。私は礼状を書いていくから」

「え? これ全部に?」


 唖然としたニキの顔に私は笑う。


「そうよ」

「直筆で? 代筆の方は頼まないの?」

「相手も私の行動を探っていると思うから、手を抜いたら何を言われるか分からないもの」

「ええ〜そうなの?」

「纏める時、出来れば爵位が上の方から順にしておいて」

「はーい……頭痛いわ……」


 先ほどまで目を輝かせて贈り物を見ていたニキが、今では渋々といった様子で贈り物と手紙を調べている。

 何だか申し訳ないと思いつつも、私は髪をアップに、袖を捲り机に座った。

 これから何時間になるか分からない返礼状作成の準備に取り掛かった。





「今日はこれで終わり……かな?」

「ええ…………」


 すっかり疲れ果てた表情の私と、片付けに追われたニキの仕事が終わった頃には昼食の時間をだいぶ超えていた。

 軽食を給仕に届けて貰ったとはいえ、ずっと部屋の中に閉じこもっていたため窮屈な気分だったけれど、漸く終われば自由に活動も出来る。


「他に予定って何かあったっけ?」

「本当ならガーデンパーティに着るドレスの装飾を選ぼうと思っていたけれど。さっき贈られてきた物から選んだ方がいいの?」

「ううん。特定の贈り物を身につけてしまえば周囲からあらぬ誤解を招くから有り物で済ませる予定よ」

「せっかく頂いても宝の持ち腐れね〜着る機会なんてあるのかしら?」


 考えるに、ほとんど無いかもしれない。

 もし私がこのまま婚約者として暮らしていくのなら、贈り主の元に訪問する時に身につけたりすることはあるだろうけれど。

 

(私がここで暮らすのも、あと少し……)


 ガーデンパーティを終えて。

 リゼル様が王権の中心に立ち、国を是正された頃には。

 私はエディグマ領に戻る。


(うん……それでいいの)


 レイナルド様への未練はあるものの、それはあくまで私の私情だ。

 私は、ローズマリーは弟であるレイナルドが幸せであることを望んだ。

 彼の幸せが、王政の是正にあるとするなら私は最後までそれを手助けして、そして彼の元から離れよう。

 この気持ちを叶えたいとは思わない。

 そもそも今の私とレイナルド様の身分は大きく違う。ローズ領という北部の広大な土地を統括する国の英雄と田舎の男爵令嬢の私。

 そして何より、前世では弟であった事実が私を抑止する。

 

(あってはならないけれど……もしこの想いを知られたら)


 私は考えることが怖くなり目を閉じた。

 己の気持ちを抑える術は、ローズマリーの頃から覚えている。

 胸に秘めて、ただ相手の幸せを願う。

 私では幸せを与えることは叶わない。ならばせめて神に祈る。

 前世も今も、願うものはただ一つ。


(レイナルド・ローズに幸せが訪れますように)







 ガーデンパーティの日は有難いことに快晴だった。

 準備が進められる庭園では大勢の人が動き回っている。

 給仕の者達が忙しなく動く中、少し遅れた頃に大勢の華やかな女性達が庭園へと訪れた。

 婚約者候補として王宮侍女勤めをしていた女性達が、それぞれの美しいドレスを身に纏い。

 ある者はようやく終える勤めに嬉々とした様子で。

 ある者は婚約者になれなかった怒りの表情を隠しきれない様子で。

 見覚えのある方達の姿を窓辺から眺めながら、私はニキによって装飾を付けてもらっていた。


「ニキの準備は?」

「時間があるから大丈夫よ。ほら、これで完成」


 首飾りを付け終えたニキが満足そうに私を眺める。


「貴女ってやっぱり品があるわ。とても綺麗で上品で、これこそ王太子の婚約者って感じ」

「ふふ……ニキの飾り付けが上手なだけよ」

「そんなわけないでしょう? さあ、さっさとリゼル王子とお二人並んであの子達を驚かせましょう!」


 着飾られた私の手を取り、ニキが浮き足立ちながら扉の前に向かっていく。

 改めて姿見で覗いたその先には。

 

 別人のように美しく着飾られた私が居た。



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