Unimaginable sight
10月31日、午前5時59分に平野勝昭は目を覚ました。彼はすぐに枕の脇に置いてある目覚まし時計のボタンを押す。目覚まし時計が鳴る直前に目を覚ますのは、警察学校時代からの習慣だった。
午前7時30分に渋谷駅前交番に到着。夜勤明けの三浦が眠そうな顔で書類に向き合っていた。
「何か変わったことはあった?」
三浦は同期なので、平野はくだけた口調で話しかけた。
「なにもないさ。今日はハロウィンだから、警視庁から100人体制の応援が来るんだってさ。有名なDJポリスも来るらしいぜ」
「ま、今日が1年で一番忙しい日だからな。おれたちにとっては。三浦はどうすんの、ハロウィン?どっか飲みに行くの?」
「一応、吉田と山中と合コンの予定」
三浦はニッと笑った。
「おいおい、おれも誘えよな」
「ばか野郎!お前にはカンナちゃんがいるだろ!同期のアイドルと付き合ってんだから、大切にしろよな」
「わかってるよ」
「じゃあ、おれそろそろ行くわ!後はよろしくな!」
そう言って、三浦は交番を後にした。平野は、同期との束の間の会話で安らいだ神経を集中させた。
今日は、有象無象の輩が渋谷に押し寄せる。去年は警察車両が燃やされたし、今年も一部が暴徒化する恐れがある。この街の平和を守る。平野は決意を新たにその日の勤務に当たった。
時刻は午後4時を回り、渋谷駅前がコスプレをした若者でごった返している時だった。
交番前で警棒を片手に犯罪行為が発生していないか監視していた平野の前に、魔女のコスプレをした10代後半の女性2人が駆けつけてきた。
「助けてください!」
彼女たちは取り乱した様子で平野の腕を掴んだ。平野は突差に性犯罪を想定した。
「どうしましたか?」
なるべく優しい声で対応した平野に返ってきた返事は予想外のものだった。
「109の前で、宇宙人が人を食べているんです!早く、早く助けてっ!」
宇宙人が人を食べている?宇宙人のコスプレをした何者かが、無差別殺人を起こしているということだろうか。
「犯人の人数は?武器は所持していましたか?」
彼女たちは、ぼろぼろと泣いている。
「多分、3体でした!武器というか、手が大きなハサミになっていて、それでみんなの胴体や首を切って食べていたの!ねえ、とにかく、助けて!」
異常事態だ。通常の無差別殺人は、異常者1人が犯行に及ぶが、今回は3人もいる。テロの可能性もある。そして、人間の胴体を切れるほどの武器を所持している。平野は突差に交番の中に駆け込んだ。
「巡査部長!緊急事態です!109前で宇宙人のコスプレをした3名が無差別殺人を敢行中。人間の胴体を切れるほどの武器を所持しているとのこと!」
交番内で待機していた畑中巡査部長と谷町巡査は、ガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受けた。が、畑中巡査部長は、一瞬の後にイタズラじゃないかという疑念が頭に浮かんだ。ハロウィンの渋谷でドッキリ。あり得ることだ。だが、本当に無差別テロ起きている可能性もある。
「平野!おれと一緒に現場確認に向かうぞ!谷町!イタズラの可能性もあるが、至急本部に連絡しろ!現場確認後に状況を報告するから、本部にはSWATの派遣を要請してくれ!」
「了解です!」
畑中の指示に谷町は敬礼で答えた。そして、畑中は平野とともに109前に走った。
スクランブル交差点はいつも以上に混雑していて、通り抜けにくい。
「平野、念のため拳銃の用意をしておけ…。おれが許可する。犯人が市民に危害を与える恐れがあり、確実に犯人を打てる場合は躊躇せずに打て。ただし、市民に当たる可能性がある角度からは打つな」
畑中は平野に低い声で言った。平野は腰につけている拳銃を握りしめた。まさか、実弾を打つ日が来るなんて。
「了解です…」
109が近づくにつれて、人々の阿鼻叫喚の声が聞こえ始めた。また、大勢の人が109から離散しようとしているので、畑中と平野が進むのが困難となった。畑中の中では、徐々に不安が募った。これは、もしからしたら本当のテロかもしれない。
「警察です!道を開けてください!」
平野が叫び、人混みをかき分け、なんとか2人は現場に到着した。
平野と畑中の前には、想像を絶する光景が広がっていた。