ヘジテーション・スパイラル
朝、目覚まし時計のアラームに起こされて、アラームを止めようとする時の一瞬の逡巡。その僅かな暇に私の脳内を巡るのは、アラームを止めた後の安穏と、態々手を伸ばす面倒を両端に乗せた、天秤の想像である。
世間話を耳に入れると、不安な話ばかりが印象に残ってしまう。今日も今日とて耳にへばりつく話は、殺人事件やわいせつ事件、強盗事件ばかり。そういったさりげない時間帯に、不意に想像してしまうのは、いわゆる加害者の方々の事件当時の心境も、やはり逡巡に支配されていたのではないかということだ。合法な労働と違法な利益を天秤にかけて、彼らは悪行の道を選んだ。逡巡の連鎖は善悪の国境だろうか。私は、アラームを止められない人々を可哀想だと思いつつ、コーヒーをすすった。