9話目 理に縛られる哀しみ
「あなた方旅団の調査したいことは十分に理解できたと思います。
そのような調査目的であれば、どんなことでも協力させていただきます。
本来はエルフ族が率先して調査すべき事柄ですからね。
エルフ族で進めなければならないのに人類の主導で始まったことはちょっと恥ずかしいですね。
ソシオ君より聞いているかもしれませんが、寿命が長いという理を持つエルフ族は新しい事柄に対して、良く言えば慎重、悪く言えば臆病なんですよ。」
「それでも、私たちの行動の理由を聞いて、積極的に協力していただけるのであれば問題はないかと思います。
慌てて動いて失敗するとなかなか取り戻すのが難しいですから、よく考えてから慎重に動くことも大事なことかと思います」
「そう言っていただければ、ありがたいですね。
行動の遅いことを優柔不断ではなく、慎重だと思っていただける方と働けるのはありがたいです。
まぁ、固い話はここまで、調査は明日からということで、まずは迎賓館に入っていただき、夕食は王族との内々の交流会にさせていただきたいと思います。」
「初日に、内々の交流会ですか。
まずは、王族と族長会議の公式な歓迎会ではないのですか、通常の外交ではそちらが先のように思いますが。」
「カロリーナさん、通常ではないのですよ。
何せ、190年間失われていた王族の一人が漸く我々王族の前に現れてくれたのです。
まずは一族として歓迎したいし、その王族を家族として大事に思っていてくれる方たちも一族の親しい友人としてまずは歓迎したいと考えているのですよ。」
「と言うことは、エリナさんたち調査隊は人類の外交団と言うよりは、王族の友人と言う立場の方が強いんですか。」
「その方があまり公式行事的なものに引っ張り出されなくて、ゆっくりと王都を楽しんでもらえるかなと思っていますよ。
当然、王族の人類の友人ですから、ある程度の公式的なものにも顔を出していただくことになるかと思いますがね。そう言う余計なものはできるだけ少なく。
ああっ、カロリーナ夫妻はどんどん外交を進めてもらってもいいですよ。
旅団の外交部なんでしょ。寝返ったんだからエルフ側の事情はよく知っていると思うし。」
「そうですね。旅団では調査の方はエリナさんたちに、外交は私たちの役割ですわね、あなた。」
「そうだね、調査は王族と族長会議の事務局の方で進めてくれるというし、僕たちの役目は調査結果の確認と外交の下準備だね。」
「と言うことで、エリナさんたちには調査結果が一端まとまるまで、王族と友好を深めてもらい、カロリーナ夫妻には王族と族長会議の事務局と友好を深めてもらおうかな。」
そのとき、ドアがノックされた。
「入ってください。」
「失礼します。」
清楚な美しいエルフの女性が入ってきた。エルフ女子は皆きれいなんだけどね。
その姿が美しいだけでなく醸し出す雰囲気も素敵な女性だ。
悔しいけどシュウが一緒じゃなくてほっとしたわ。
まぁ、私の方が圧勝だけどね、ふんっ。
その女性はゆっくりと部屋に入ってきて、事務局長の後ろに控えた。
「こちらは私の妻のリリアナです。
今回はエリナさんたちの王城での案内役を頼んでいます。
カロリーナ夫妻は外交の仕事と言うことで、案内は特に必要はないと思うけど、エリナさんたち王族の友人たちには案内役が必要と思ってね。
ここに滞在する間はリリアナになんでも相談してください。
そして、お互い仲良くなってほしいと思います。」
「リリアナさんよろしくお願いします。エリナと言います。」
「よろしくね。ソニアだよ。ちなみに旦那の事務局長とは従兄だって。」
「ジェンカです。でも愛称のタイさんと呼んでいただけたら嬉しいです。」
「私は特一風見鶏村のアイナです。人類の調査隊の案内役をしています。
リリアナ様よろしくお願い致します。」
「リリアナです、皆さんよろしくお願いします。
迎賓館の用意が出来ましたので、ご案内いたします。
カロリーナさんたちはどうされますか。一緒に行きますか。」
「私たちはもう少し、事務局と話がありますので、それが終わったらそちらに向かいます。場所はわかっていますので案内は不要にお願いしますね。」
「それではあなた、お客様、私たちの友人をご案内しますので、失礼しますね。」
「お願いするよ。私もここでの仕事、友人たちに頼まれた調査の指示と人類の外交官との打ち合わせが終わったら、迎賓館を訪ねることにするよ。」
「それでは参りましようか。ご友人方。
荷物の方は先ほど風見鶏の守り人より届けられておりました。」
「よろしくお願いします。」
私たちは立ち上がり、事務局長、カメさん、カロリーナさんに先に迎賓館に行く旨の挨拶をした。
そして、リリアナさんの後ろに付いて部屋を出た。
入ってきた廊下とはまた別の廊下と玄関をから外に出た。
ただ、外に出たと言っても玄関から先に延びる道には屋根があり、廊下の続きのような趣があった。
「ここは王族と族長会議の施設と迎賓館を繋ぐ道です。
人類領とエルフ領の行き来ができたころは、人類から来た外交官や賓客は迎賓館に滞在し、この廊下を通って、王族と族長会議の施設で交渉を行ったそうです。
もう私の生きている間はこの廊下を通るのは施設を維持する職員だけかと思いましたが、また、こうして王族のご友人、そう言えばソニア様は王族ですね、に進んでいただく日が来るとは嬉しい限りです。
向こうの建物が迎賓館になりますが、あそこの使用も数十年ぶりですね。」
「リリアナさんはエルフの方ですよね。」
「その通りです。」
「事務局長が人類の女性と結婚していたと話していたので、今の奥さんがリリアナさんと言うことですか。」
「その通りです、私は彼の後妻になります。」
「こんなことを言って気分を害されるかもしれませんが、今の話を聞いて、やはり、人類とエルフ族の理の違い、寿命の違いを感じました。
その理の壁を越えて、一緒になるというのは何か大変な事のように思いました。」
「そうですわね。
ソシオさんは残されたエルフの片割れは、人類の片割れが亡くなった後はその愛の結晶が片割れを失った哀しみを支えてくれるとおっしゃっておりましたが、そうそう割り切れるものではないと感じました。」タイさん
「そうですねぇ。王族には人類の方と結婚した方、その子供であるハーフの方がいらっしゃいますが、その寿命の違いについて、両族の理の違いだから仕方がないと言って割り切った考えをしている方だけではないように思います。
片割れを見取って、その理を受け入れられずに、苦しみ続ける方もいらっしゃったようです。」
「ソシオさんはその悲しみを二人の間の子供が、時間はかかっても、癒してくれると言っていたけど。」ソニアちゃん
「そういう場合もありますねと言うことですね。」
「そうじゃないこともあるということですか。」
「はい。」
「そうですか。今、新たな人類とエルフ族の婚姻が2組も結ばれようとしています。
残されるソシオさんとカロリーナさんのことを思わずにはいられませんわ。」タイさん
「ソシオさんはその日を一日千秋の思いで待ってんじゃねぇの。」
「ソニアちゃん、皆が確実にそう思っているけど、仲間の不吉を口にしない方がいいわよ。」
「お姉ちゃん、ごめんなさい。」
「理の違いがもたらす哀しみは残された片割れのだけではないのですよ、残されたお子さんも・・・・・。」
「えっ、リリアナさん今何か言いました。ちょっと、仲間の婚姻のことで話をしていて、よく聞いていなかったの、ごめんなさい。」
「いいえ、なんでもごさいませんわ。気になさらずに。
さぁ、迎賓館に着きましたわ。
今日は移動でお疲れでしょう。まずは、中に入って下さいな。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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この物語「優しさの陽だまり」は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
第108旅団の面々は3つのパーティに分かれて行動することになりました。
「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」
の本編はシュウを中心として、月の女王に会いに。
「優しさの陽だまり」はエリナを中心としたエルフ王族の寿命の調査にエルフの王都へ。
もう一つは駄女神さんを中心とした風の聖地の運営に。
この物語ではエリナの王都での活躍をお楽しみください。
また、この物語は本編の終盤に大きな影響を与える物語となる予定です。
10/5より「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語も「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
「優しさの陽だまり」の前提ともなっていますので、お読みいただけたらより一層この物語が美味しくいただけるものと確信しております。