3話目 王都の風
しばらく、風見鶏の部屋で雑談をしていると、ドアが開いた。
「みんな、待たせてごめん。責任者の引継ぎをしてきたよ。」
「カメさん、お疲れさまでした。」
「駄女神さんとソシオさんは早速、風の聖地に行ってくるそうよ。」
「そういえばもうすぐ突風の止む時間だものね。向こうで泊まりかしら。」
「今日は夕方に戻ってくるって。
そしてそのまま、第1081基地まで戻って、明日必要な荷物を持って風の聖地に入り、夕方戻る。
これを数日繰り返すそうよ。」
「強力な風の魔法術士が二人でも数日かかる荷物って、どれだけ新婚家庭を豪華にするつもりなのかしら。わからなくもないけど。」
「越後屋さんの方も必要な施設の基礎工事と宿泊施設の建設が終わったら、今日は基地まで戻るって言ってたよ。
駄女神さんと同じように少しづつ宿泊施設に必要な荷物を運びこむそうだよ。
それに加えて、マドリンの内装業者の方に売りつけるお土産も持ってくると言ってたなぁ。」
「それじゃ、風の聖地組の仕事は順調に滑り出したと言ってもよさそうね。
安心したわ。なにせ、駄女神さんと越後屋さんというどこかに爆弾を抱えた人たちを一緒に隔離したような組だから。」
「「「・・・・・・・・・」」」
頑張れソシオさん&アラナさん。
決してあなたたちを犠牲にしたつもりはないわよ。
適材適所よ。
シュウの気持ちは、まぁ、その通りだわね。
「さぁ、私たちも自分たちの役目を果たしましょう。
マドリン、そして王都に飛びましょうか。」
私たちは風の聖地待機施設のもう一つの風見鶏を起動した。
もうそこはマドリン、独特の潮の香りがする町。
「そういえば、王族とお会いするのに手土産のようなものは必要でしょうか。」
「タイさん、そのようなものはいらないと思うわ。
渡そうとしたら、それこそ、倉庫一つ分ぐらいの量がないとみんなに行き渡らないと思うし。
国と国との正式な外交官として活動するわけではないので、今回は何もなくても、皆さん、人類が訪ねてきたということが私たちエルフ族にとっては非常に喜ばしいことだわ。
特に、行方が分からなかったソフィア様のお子さんを探し当てて、連れて来てくれたということで、王族方はそれはたいそうな喜びようだと聞いています。
ですから、お土産のような形でなくても、エルフの王都を尋ねられてうれしいというような笑顔をされるのが一番のお土産のような気がしますわ。」
「そっかぁ、お土産かぁ。
おじさんやいとこには門前町のクッキーを食べてほしかったなぁ。
私、あれが大好き。
私はこういう物が好きってものをわかってもらえれば良かったなぁ。」
「ソニアちゃん、いつでも来られるわよ。
あなたは風の魔法術士で、エルフの王族の一員なんですもの。
第1081基地から王都まで祠と風見鶏を駆使すれば30分もかからないでしょ。」
「あっ、エリナさん、一つ問題がありますわ。」
「タイさん、問題というのは。」
「越後屋さんが買い占めて、店頭から肝心のクッキーが消えているということです。
しばらくは品薄、いえ、きっと巡礼でのお土産として人気が出るので、かなり入手が困難になるかも。」
「えええっ、越後屋めぇぇ、そんな所で私の邪魔をするとは。
隔離が甘いんじゃないの。
風の聖地の宿泊施設に閉じ込めておいた方が良いじゃないの、ねっ、お姉ちゃん。」
「ソニアちゃん、結局、駄女神さんと越後屋さんを止められるものなんて存在しない、いるとすれば死神大魔王様だけなんだわ、きっと。
その点は諦めて、私たちの役目を果たしましょう。」
「うぐぐぐぐっ、私のクッキー返せよ、越後屋。」
越後屋さんへの恨み言をマドリンに残しつつ、私たちは王都の風見鶏が集められた施設、人類で言うところの教会本山の転移魔方陣施設に漸くたどり着いた。
時は丁度、お昼時だった。
王都の様子を知っているのはカロリーナさんだけだ。
アイナさんはほとんど来たことがないらしい。
何せ特一風見鶏の村からは城壁都市までしか転移できないから。
「カロリーナさん、これからどこに行くことになりますか。」
「一度、王族と族長会議の事務局に顔を出すことになっているの。
そこからは迎賓館に入ってもらう予定よ。」
「ねぇねぇ、ちょっとだけ王都を見てみたいわ。
丁度お昼だし。一度迎賓館に入ったら、地井の様子を気軽に見に来れないのでしょ。」
「私も見てみたいな。エルフの王都。門前町のような賑わいなのかしら。」
「うふふふふっ、そうねえ、そうしましょうかあなた。
王族と族長会議の方には少し王都を見学してから向かうと、風見鶏の守り人に伝えてもらえばいいと思うわ。」
「僕も王都には来たことがなかったなぁ。ちょっとだけ覗いてみたいな。」
「それでは守り人にそのように伝言をお願いしてきますね。」
待ちきれないソニアちゃんが、もう風見鶏の施設から外に飛び出していた。
「わぁっ、ここが王都かぁ。」
ソニアちゃんの大声にめっちゃびっくりしたエルフさんたちが私たちをガン見して、そしてくすくす笑っている。
これはあれだね。お上りさんと勘違いされて、・・・・・まぁ、その通りか、王都なんて着たことないんだし。
どう取り繕ってもお上りさんだわ。
タイさんなんて余裕でニコニコして、ソニアちゃんを見守っているし。
王都は特一風見鶏の村のように緑と土色で染められているわけではなく、マドリンの町のように灰色と緑で染められているような町だった。
規模的な、活気的なところから見るとマドリンよりも門前町に近い感じの町だった。
建物も石造り、道も石畳みで、きれいに舗装されていた。
門前町と違うところは建物と建物の間によく大きな樹が植えられていること、そして、緩やかな風が吹いていることだった。
この緩やかな風にはほんの僅か魔力が含まれているような感触があったことが驚きだった。魔力で吹かせているのだろうか。
私はもう一歩前に進み、大きな伸びをした。
風に乗った魔力が体の中に入ってきて元気のもとになってくるような、心地よい感じを受けた。
「タイさん、ここの風は気持ちがいいわね。この心地よい魔力が混じった風、本当に心を元気にしてくれるようだわ。」
「ごめんなさい。私は炎の魔法術士のせいかエリナさんのおっしゃる風の中に魔力を感じることができませんわ。
魔力がふわふわ漂っているような感じですか。」
「私も感じないなぁ、まだ、風の魔法術士としてはひよっこだからかなぁ。」
「そういえばソニア様は余り風の魔法を使われませんね。
不得意なのですか。」
「それはねっ・・・・もがもが。」
「そっ、そうなのよアイナさん。ソニアちゃんは風の魔法が苦手なの。」
「そうなんですね。まぁ、情報の伝達と風見鶏を回せればここでは困らないから。」
「ところで、アイナさんは、エリナさんの言う風の中に魔力を感じ取れますか。」
「私もよっぽど集中しないと感じませんね。それでも魔力を感じるというような具体的なものではなく、なにかうずくようなわずかな感触でしかありませんね。
王都の風の中に魔力を常に感じ取れる方は特別な魔法使いだと聞いています。
例えば、そうですね、3属性魔法術士とか、とんでもなく高い魔力を必要とする大魔法を使える大魔法術士様やその上の賢者様のような。」
「私も大魔法が使えるし、3属性・・・・・・もがもが。」
"ソニアちゃん、アイナさんは輪廻の会合について知らされていないの。
だからその辺の話をシュウがちゃんと彼女に話してからね。"
"お姉ちゃん、ごめん。忘れてた。"
「私が人類領での魔族との戦闘で雷魔法を使いまくったので、それでかもしれないわね。特に大魔法術士ということもないと思うし。」
「そうなんですね。
でも、魔族との戦闘を多数経験され、命の炎を燃やし続けられているエリナさんは大魔法術士と言ってもいいのかも知れませんね。
その経験が王都の風に含まれる魔力を感じ取れるほどに魔法術士として成長されているのかもしれません。」
「成長かぁ、本当に成長していればいいんだけど。ふっ。」
"エリナちゃん、成長しているわよ。
そして今回の王都での出来事はあなたをもっと成長させてくれる予感がするの。"
"シルフィード様、本当にそうならいいのですが・・・・・、いえ、シュウとの約束だから、任務をきちんと遂行して、自分の成長につなげて見せるわ。"
"お姉ちゃん、頑張ってね。"
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。
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この物語「優しさの陽だまり」は「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
第108旅団の面々は3つのパーティに分かれて行動することになりました。
「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」
の本編はシュウを中心として、月の女王に会いに。
「優しさの陽だまり」はエリナを中心としたエルフ王族の寿命の調査にエルフの王都へ。
もう一つは駄女神さんを中心とした風の聖地の運営に。
この物語ではエリナの王都での活躍をお楽しみください。
また、この物語は本編の終盤に大きな影響を与える物語となる予定です。
10/5より「死神さんが死を迎えるとき」という別伝を公開しています。
この物語も「聖戦士のため息 トラブルだらけですが今日も人類が生きてく領域を広げます」の別伝になります。
「優しさの陽だまり」の前提ともなっていますので、お読みいただけたらより一層この物語が美味しくいただけるものと確信しております。