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想定外と想定外

「え~と、あなたは誰ですか? 俺は時雨悠と言います」


 突然声をかけられ、しかも振り返ってみたらピエロという想定外の事態に数秒呆然とするが、とりあえずまずは自分の自己紹介をすることした。

 

 人類滅亡もしかて滅亡してない?と軽く鬱になっていた悠にとっては、例え相手が普通じゃなさそうなピエロだったり、なんだか訳ありそうな発言をしていても、とりあえず友好的にいきたいのだ。


 そんな悠の気持ちが届いたのかどうか分からないが、ピエロも悠の自己紹介に応じる。


「おやおや、これはご丁寧に。僕の名前はクラウンと言います。以後お見知りおきを」


 クラウンは、そう言いながら頭に被っ被っていた王冠を持ち上げながらお辞儀を返してくる。


――何を聞こうか。なぜここには誰もいないのか。クラウンは何のためにここにきたのか。人間がいる街に案内して貰えたりしないだろうか。


 悠は、クラウンとどうコミュニケーションをとればいいのか、何から聞けばいいのかを頭でグルグルと考えるが、コミュ力の低さから、なかなか言葉がでない。


 そうこうしている内に先に口を開いたのはクラウンだった。


「僕の方からひと~つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな~?」


「……何でしょうか?」


 緊張した声で悠は了承をする。何を聞かれるのだろうかと思いながら、クラウンの顔をじっと見つめる。


「この辺りに魔王を見たりしませんでしかね? もしかして、あなた様が実は魔王だったりとかは?」


 悠は目を開く。


 (魔王……だと!?)


 軽い感じで質問してきたクラウンだが、その目は笑っておらず、悠がどのような反応をするかを探るような視線を向けていた。


 だが、クラウンの『魔王』という単語で、悠の思考は、初めての人間らしき存在とどのようにしてコミュニケーションを取ろうかという半分パニック状態から、一気に思考が冷えたものへと変わる。


「まあ、あなたが新たな魔王というのでしたら、そもそもこの辺りは、魔物達によって溢れかえっているでしょうし、仮に見かけたというのでしたら……あなたは生きていませんよね。そのため、以後お見知りおきという先ほどの言葉は前言撤回です!死んでく~ださい」


 クラウンは、そう言いながら手のひらに黒い球体をいくつも生み出し、悠に向けて一斉に放つ。


 悠は、自分に向けられた攻撃を眺めながら、特に避ける様子は見せない。


 クラウンは、その悠の様子を見て、悠が反応できずにいるのか、それとも諦めたのか――どちらにしても、この攻撃で殺してお終いという余裕の表情を浮かべているように悠には見えた。


 そんな光景を眺めながら、悠は考えていた。


――どうやって、クラウンとかういうピエロから情報を引き出せばいいか。


(攻撃してきたということは、友好関係はとりあえず一度諦めるべきだな。さて、どうするか。魔王なんて言葉を聞いたからには、逃げ出す分けにもいかなしな。とりあえず……やるとしますか)


 黒い球体が目の前に迫ってきたのを確認して、悠は周囲に結界を張る。


 複数の黒い球体の一つが悠の結界にまず触れる。その瞬間に、黒い爆炎が吹き上がる。その爆炎が収まる前に、次々に二つ目、三つ目と黒い球体が次々に殺到していき、連鎖的に爆炎を引き起こしていく。


 悠の視界は黒い爆炎により、黒一色染まり、けたたましい爆音が悠の耳を刺激していく。だが、それだけ。光の結界は一切の爆炎を通すことはなかった。


光鎖(チェイン)


 連続した引き起こされた爆炎が終わったのを確認した悠は、片手をクラウンに向けて、周囲の空間引き出すように、十数本の光の鎖を生み出し、捉えることを試みる。生み出された鎖は、本来の鎖のようにジャラジャラといった効果音どころか、風切り音もだすことなく、それでいてクラウンの放った黒い球体よりも速い速度で上下左右から逃げ場が生まれないように少しずつ包囲して行く。


「……ッツ」


 クラウンは、悠が無傷であったこと、そして油断していたからといって、まさか一瞬で鎖の魔法に包囲されてしまったことに不意をつかれたのか、その表情は素で驚いているように見える。


 そんなクラウンの様子を見ながら、悠は周囲一帯を鎖で包囲し、全ての角度から一斉に鎖の切っ先をクラウンに殺到させる。


 光輝く鎖が、クラウンの手を、足を、胴体を絡み取って行く――ことはなかった。鎖はクラウンの体を素通りしたからだ。


「捕らえたかと思った? それじゃ次は僕のターンだよ」


(な!)


 上から聞こえる、嘲笑がこもった声。悠が視線を上に向けると、クラウンがこちらをニタニタ笑いながら見下ろしていた。



(あの短時間で転移をしたといのか? それに、幻影まで一瞬で作って……って、なんかヤバいぞこれ)


 悠は、周囲から強大な魔力によって包囲されていることに気づく。


 視線をクラウンから自分の周囲に向けると、自分が浮いている足下の下、そして周囲に一つ一つに強大な魔力が困ったトランプが浮いているのだ。


「これは……上にも!?」


 見回した後に、先ほどクラウンがいた場所にもトランプが数十枚散らばっていた。それを確認した悠は、瞬時に身を守る魔法の準備をする。


(かなり大規模な攻撃がくる)


 悠は、自身の魔力を練り上げながら身構える。


 悠の余裕が消えた理由――それは、周囲のトランプが規則性を持って浮いているように見えたからだ。


(魔法陣だと! この短い攻防の中で、どうやって描いたっていうんだよ!)



 ほとんどの魔物が、魔法陣だったり、詠唱をして魔力のこもった攻撃をしてくることはなかったが、魔法陣だったり、詠唱をしてくる魔物の魔法は総じて凶悪であった。特に魔法陣系は、大きさと魔法陣の数が威力に比例していることを悠は経験則で知っていた。


 一方で、魔法陣を描くのには時間がかかる。大規模になる程に時間は比例する。そのため、1対1で使用することは非常に難しい。相手に気づかれず描き、発動させるなんてことは、ほぼ不可能といってもいい。


 それなのに、いつの間にか悠の周囲にはクラウンの描いたであろう魔法陣が複数も存在していたのだ。


 これでは魔法陣を描いたというよりも、一瞬で生み出したと言った方が正しいだろう。


 現在悠を包囲している魔法陣の数は、上下に一つずつ。そして、周囲に包囲するように五つ。


 大した数ではないが、不意打ちのように突然包囲されているとなると話は別だった。クラウンが油断していたように、悠自身もクラウンに対して油断していたのだ。


 魔法陣が今にも発動しようとする中で、どの魔法を使用するか考えるよりも先に練り上げていた魔力を使用して魔法を発動させる。魔物との戦いの中で、想定外の攻撃受けることは悠にとって日常茶飯事だった。だからこそ、緊急時は無意識に魔力を練り上げ、そして発動させる魔法も意識せずとも勝手に発動させてしまう。 

 

 悠の周囲に先ほどのようなシンプルな正方形の結界とは違い、光輝く人の形をした女神のような存在が悠を包みこむように生まれる。悠が勇者として戦う際に頻繁に使用した、攻防両方に使える魔法。


 生みだした瞬間に、悠は自分を中心として、光の衝撃波を放つ。


 呼応するように、クラウンのトランプによって描かれている魔法陣が黒く輝く。トランプはバチバチと黒い電気を放電したかと思うと、黒い稲妻が全ての魔法陣の中心から噴き出す。


 白と黒の衝突。


 悠を中心として巨大な魔力の爆発が生み出された。


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