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魔王

 天に浮かぶ宮殿。


 言葉通り宮殿は天に浮かぶ大地の上に建造されている。外観は白を基調とした金の装飾によって彩られている。

 宮殿の内部も、外観同様に白を基調としているが、それ以上に金の装飾、そして一目見ただけで分かる値段をつけられないような美しい絵画、調度品、ガラス細工などが配置されている。


 その宮殿に敷かれた赤いカーペットの上を、クラウンはゆっくりと歩いていた。


(さて、何を言われるのやら。戦闘の記録は、既に提出しているが……それで、済ませられる事態なわけないですよね)


 クラウンは小さくため息を吐く。


 時雨悠との戦いから何とか逃げおおせることができたクラウンは、すぐに所持していた記録映像を情報収集・調査部門に提出していた。


 今までの調査報告書を考えるなら、「問題なし」という結論の報告を適当に提出すれば、調査は終わりなのだが、今回は残念ながら問題なしで済ませられる話ではない。


 仮にも魔王の幹部の自分の攻撃を余裕で無傷で防ぎきっているのだ。


 しかも1000年以上も別空間に隔離されていたとか言っていたが……本当のことを言っている可能性もある。そもそも、嘘を言う必要も、嘘を前提とした質問をしてくる理由もないだろう。


 そして、魔王様からの急な呼び出し。もしかしたら、男の正体の何かをつかんだのかもしれない。


 面白そうだが、面倒でもある。魔王側にとって利益のあるイレギュラーではまずないからだ。


(あの男は人間。こちらに対する敵意が妙になかったのが不思議ですけど、相容れぬことはまず間違いないでしょうね)


 1000年前の魔王が、世界を滅ぼそうとしていた時代を生きた人間なら、魔物に対して強い恨みや敵意を持って然るべきだ。


 そう考えるクラウンだが、ふと一つの疑念が湧く。


(ふむ……しかし、1000年前という言葉が本当なら、僕たち魔族が魔物と全く別に見えてしまっているという可能性も高いのか?)


 1000年前という言葉が本当なら、当時存在していた魔物達は自我など無く暴れる、今自然発生している魔物達と同種の存在だったはずだろう。


 だとしたら同じ魔物の因子を持ちながらも、自我を得て、魔族と呼ぶ自分達を1000年前の魔物と同種と判断することは難しいかもしれない。


 もしかしたら、これからも我々魔族を魔物と一括りしない可能性もあるが……だからといって、人間として敵対しているのだから、友好的な感情は持たないだろう。


 あの男が、今の情勢を知ったら、今度は見逃すという選択肢を持たない可能性が高い。


(そう考えると僕の運が良かったってことかね)


 あのまま戦いっていたらまず勝てなかった。転移で逃げれる可能性もあったが、魔力をかなり消費した状態で、すぐに転移はできなかった。もし、すぐに攻撃されたら自分は死んでいただろう。


 時雨優が、情報を優先したからこそ自分は生きているとも言える。魔王の幹部としては、その人間の侮りに苛立ちを覚えるべきだが、あそこまで力の差があると、運が良かったと喜ぶ気持ちしか湧かない。

 

「魔王様がお待ちだ。入れ」


(っと、何時の間についていたか。さて、不況を買って、ここで殺されたら意味がないね)


 5メートル近くある、白と金の荘厳なる扉がゆっくりと開いて行く光景を見ながら、クラウンは気を引き締める。


 







 謁見の間の天井の中心には特殊な円形のガラスが張られており、夜の海に輝く煌びやかな星々の光が差し込み、足りない光は透き通るクリスタルのシャンデリアが室内を光輝かせている。


 そのような謁見の間の中で、赤いふかふかとしたクッションの玉座にもたれかかっている、1人の少女がそこにいた。


 光輝くプラチナブロンドの髪を結い、瞳は深海のような深いディープブルー、顔立ちはどことなく幼さが残り、慎重も150㎝程だが、大人びた漆黒のドレスと豊かな胸のアンバランスさが、彼女の妖艶さと、美しさを醸し出していた。

 

 少女――否、魔王。


 魔王の目の前に跪くクラウン、その両脇に立ち並ぶ他の幹部11人、魔王の両サイドに侍る2人の魔王の右腕と左腕のみが、今回魔王が許可のもと入室を許可された者だ。


 招集した面々を前に魔王が指示したのは、クラウンに今回のアビスコアの魔力調査の報告を述べさせることであった。

 

 そして、クラウンが跪きながら報告した内容を聞いた魔王は、少女のような高いソプラノ音ながらも、高貴さを感じさせる声で確認をとる。


「ふむ……その人間が、今回感知したアビスコアの魔力と全くの無関係とは思えんな。人間側から派遣された人間でもないようだしな。再度確認するが……1000年前に終結した、この世界の魔王との戦争時に生きていた人間ということで間違いないかの?」


「はい、その通りです魔王様。もちろん、あの人間……時雨悠と名乗った男が嘘をついている可能性はありますが、一方で私を殺すことも、捉えることもできたのに、あくまでも見逃すことを条件に質問の返答を要求したことや、男の言動や様子を見ると……嘘の可能性は低いと思います」


「であるか。そうなってくると、色々と面白いことになってくるの」


「面白い……ことですか?」


 独り言のように呟いた魔王の言葉に対して、クラウンは疑問を口にする。側に控える魔王の側近たちも、口にはしないが、魔王が思わず口にし言葉の意味を知りたいのか、クラウンの疑問の返答を待つように魔王の表情を伺う。


「今回クラウンが向かった場所で、アビスコアの魔力が時折発生していたのは周知のとおりじゃろう」


 魔王の言葉に、全員が頷く。その様子に、魔王は「ウム」と言い、続けて口にする。



「そして今回その男が目覚めた事が全く無関係とは思えん。ましてや、アビスコアの魔力が度々発生していた場所で、我々が見つけることができない時間も停止させた隔離結果を1000年以上も張っていて、全くの無関係と判断する方が問題じゃろうしな。しかも、隔離結界を張っていた理由は不明ときている」


「しかし、今も監視を続けている該当の男の魔力からは、アビスコアの魔力の気配は一切ないという報告が来ています」


 魔王の横に侍る、左腕にあたる女性が時雨悠の現在の調査報告を口にする。魔王軍は、クラウンが帰還した後も、魔道具により時雨悠の動向を調査しながら、魔力値なども調査していた。


 流石に精密な調査はできないが、仮に時雨悠が魔王の魔力の元であるアビスコアを所有しているなら分かるはずである。


 そう判断しての報告であった。


「隠すことに成功している可能性もあるだろうさ。絶対などはないのだからな。まあ、我は……時雨悠となるの男が魔王とも、魔族でも、魔物であるとも思ってはいない。それでもアビスコアを持っているという可能性を言っているのだよ」


「魔王でも、魔族でも、魔物でもなく……アビスコアを? 人間が所有できるようなものではないはずですが?」


 アビスコアは、人間の負の感情を蓄えるクリスタルである。そんなものを人間が所有すれば、たちまち魔物化するだろうし、正気を保つこともできないだろう。


「絶対にありえない……なんてことはないのじゃよ。私達という存在も本来は、生まれることあり得ないに等しい存在と呼べしの。何よりも、1000年前の戦いの歴史を少し調べれば、私が何故その可能性を口にするのか少しは分かるはずじゃが……この中で、1000年前の魔王と人類の戦い知らぬ者はいないであろうに」


 その言葉に、数秒の静寂が生まれ――女性が一人手を上げる。


「シオンか。お主なら私の考えを察することができるか」


「おそらく……ですが。一応人類側の過去の歴史や政治などの調査を担当させて貰っていますからね。もしかして、魔王様が可能性として挙げているのは……勇者のことですか?」


 勇者という言葉に、謁見の間の空気が張り詰めた雰囲気へと変貌する。


 再度の数秒の沈黙。その沈黙を破るのは、やはり魔王であった。


「クックククク。その通りじゃ。そもそも、あの時代にまともな魔術師はいなかったという資料がほとんどじゃからの。仮にも幹部の一人であるクラウンが手も足もでず、白き強力な浄化の魔力持ちとなれば、勇者である可能性を考えるべきじゃろう」


「ならば、すぐにでも殺しに行くべきと思うのですが?」


 これまで、黙って聞いていた身長3メートルはあり、その背には翼を生やした偉丈夫が落ち着きながらも、どこか興奮を込めた声で魔王に質問をする。


「ライネル、落ち着くがよい。まだ確定したわけでもない上に、仮に我の憶測が合っていたとしても、アビスコアの魔力と勇者との関係性が全く分からん。勇者の憶測が合っていても、実はアビスコアの魔力が時折感知される原因とは関係なく、別の原因という可能性おもある。それに……歴史書には、勇者の最後に対していくつかの説があっての。魔王と果敢に戦い、世界を守るためにその身を犠牲にして死んだというのが有力なのだが……人間の闇を伺える説もあるのだよ」


「人間の……闇ですか?」


「魔王様……それは、もしや」


 ライネルとシオンが、それぞれ口にする。ライネルは疑問を、シオンは何か思い当たる節があるかのように。


「うむ。少々試してみたいことがあっての。復讐は蜜よりも甘い。もしかしたら……勇者をこちら側に引き込めるかもしれんぞ。まあ、あくまでも今は憶測の範囲内であるがな」


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