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プロローグ

ゆっくりと更新していきます。

「世界を守るため……か……」


 一人の青年が空を見上げながら、誰に語るつもりもなく、ぽつりと呟く。

 

 青年の目は虚ろだった。

 青年の全身は、黒と赤の液体に染まっていた。

 青年が片手に持つ、意匠を感じないシンプルな真っ白い剣もやはり黒と赤の液体によって汚されていた。

 青年の服装も、スタボロであり、僅かに残る装甲が、青年が元々身を守るような服装を着用していたことを示していた。

 そして、全身からあちこちから流れる赤い液体……血が、彼の現状を、そしてどれだけの戦いを切り抜けたのかを物語っていた


 この青年は、魔王を倒した勇者。


 彼がいる瓦礫だらけの場所は、魔王が居た城。

 魔王を失ったことにより、黒く脈動していた城は、灰色に染まり崩壊したのだ。

 彼は、魔王を倒し、何とか崩壊していく城を抜け出すことに成功した。しかし、天空に浮かんでいる地盤の崩壊も進んでおり、少しずつだが高度も下がっていた。


 だが、そこまでは彼も、そして青年を送り出した軍側も予想していた事だった。脱出用の段取りも事前に彼には伝えられていた。


 だから後は、彼を……勇者を送り出した世界の国々によって結成された連合軍の迎えを待つだけだった。


 そして勇者は信じていた。


 普通の青年として、いや英雄として歴史に名を残し、もしかしたら政治的な側面や、人間関係の側面で悩まされることがあっても、とりあえずは「人」として生きていけると信じていた。


 信じていたのだ。


 だが、虚ろな彼の目が映す光景は……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………連合軍の飛空艇に装着されているを魔道兵器の砲口が自分に向けられている光景であった。


 攻撃は既に受けていた。迎えにしては飛空艇が多かったが、そのようなことに疑問を感じるよりも青年は、ようやく戦いを終えることにで気を抜いてしまった。


 だからこそ、突然の味方と思っていた飛空艇からの集中砲火に対しての対応が遅れてしまい、まともに攻撃をくらってしまっていた。


 それでも生きているのは、勇者だからこそ。それでも、魔王との戦った後の、不意打ちの攻撃により、ただ生きているだけの状況にまで追い込まれてしまっていた。


 そして既に、砲口部分には眩く輝くまでに、魔力が充電されており、今にも発射されようとしていた。


 魔王と対面した時以上の、いや絶望であり、自分が命を懸けて守ろうと戦っていた人の裏切りであった。


「アホらし」


 彼のその言葉を待っていたかのように、彼の目に先に存在する無数の飛空艇から、魔道兵器による砲撃が開始された。


その攻撃が向かう先は……すべて、世界を救ったはずの勇者である青年だった。


※※



 世界に突如出現した漆黒に染まった城と、城から大量に生み出されて解き放たれて行く異形の怪物たち。


 異形の怪物たちは、動物のような存在、神話のに出てくるような悪魔、邪神のような存在、人形やおもちゃのような存在、そして人型まで多数に解き放たれ、科学では説明できない超常現象……魔法と呼ばれる力によって多数の人類を殺していった。


 人類は未曾有の大混乱となった。人間同士の戦争と違い、異形の怪物とは交渉することができず、力ない人々は殺さていくだけ。

 唯一の救いは、人類の武器である化学兵器が怪物達にも有効であった点だろう。各国の軍隊による奮闘、そして周りの被害に目つむった破壊兵器により、人類は一方的に怪物に蹂躙される事態だけは回避することができた。


 また、異形の怪物……この時には魔物と呼称されるようになるのだが、人類共通の敵が生み出されたことで、皮肉にも歴史や宗教上の問題で争っていた国々も、一旦は過去の経緯を、そして外交上の損得を棚上げにして、協力し合うことに踏み切ることができたのも、人類が滅ばなかった理由とも言えるだろう。


 人類と魔物の戦いは、長く、そして日に日に人類はゆっくりと追い詰めれれて行くことになっていった。


 城から無尽蔵に生み出されて行く魔物と、人類の魔物化に比べて、人類は生み出される数よりも、減ってい数の方が上回ってしまったからだ。


 そして、魔物との戦争が続く中で、戦いも変化していった。


 人類側の一番大きな変化は、魔力を待ち、魔法を使える人類が生まれるようになったことだ。伴って、世界に魔素(まそ)と呼ばれる魔力の源が存在していることも判明するようになった。

 この魔素は、もともとはあったのか、それとも魔物達が出現したことによって発生したかは分からないが、おそらく後者だろうという学説が今では主流となっている。


 そして、人類は科学の力と魔法の力を融合させた魔科学による兵器を生み出していった。魔力を持った人間は強制的に軍に連れていかれて、実験及び、兵士としての訓練が強要されて、魔物達との戦いにおいて中心的な部隊として取り込まれて行った。


 また、足りない人材を補うために、クローン技術による人類の増加、そして魔力を組み込んだホムンクルス製造実験といった、非人道的な実験もおこなわれるようになっていった。


 手段は選べない。


 何よりも、魔王と呼ばれる存在が城で、沢山の魔物を生み出していることが判明し、更には魔物達が時間と共に強力になっていることも、非人道的な行いを許容するようになっていった最後の後押しになったのだろう。


 追い詰められれて行く人類。


 だが、戦いは終わることになった。


 勇者の存在によって。


 狂気に染まって行く世界の中で、光輝く力を備え、手にはどうやって入手したのか不明な白い剣。


 一人で数万の大軍の魔物を倒した。

 一人で空を覆うような巨大な形状しがたい悪夢を体現しかたのような魔物を倒した。


 まさに人類の悪夢を切り裂く、物語……いや、神話にでてくるような存在と言っても過言ではなかった。


 彼の名前は、時雨悠(しぐれゆう)


 記録では、魔王が居る城に単独で乗り込み、壮絶な戦いの上で、魔王を倒し、そして力尽きたとされている。


 世界を救った英雄。


 人類史で、唯一の『世界を救った英雄』の名であり、世に語り継がれる名前。


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