表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

天界戦争

初投稿の蒼比良 智一です。

至らない所も多々あるでしょうがどんどん指摘してください。

厳しく、厳しく。

それでは、お楽しみ下さい。

「これでもくらえ! 一つのイクシェル!」

 右手に漆黒の球体を作り出した悪魔は、天使に向かって投げつけた。

 それを避けた天使は、悪魔の方へ向かう。

「ちッ、無能で下劣な悪魔め。 排除して――」

 言い切る前に悪魔が言った。

「前だけ見てるとケガするよ」

「?」


「総てを隠す大いなるイクス・ネイト


「なッ!? 後ろだと……!」

 次の瞬間天使は、背後にいたもう一人の悪魔が繰り出した黒い煙に取り囲まれた。

「がぁッ!? う、ぐあぁぁぁ……」

 叫び声から呻き声になり、段々と小さくなっていく声が聞こえなくなった時、すうーっと煙は晴れていった。

 そこに立っているのは、だらりと首を垂らす黒き天使。

 則ち、悪魔。

 漆黒の球体を投げつけた悪魔が笑う。

「キハハハハ! 兄貴の術で悪魔になっちった! キハハハハ!」

 カチャリ

「……へ?」

「私たちの仲間をよくも奪ってくれたな」

 腹を抱えて笑っていた悪魔のこめかみに拳銃が突きつけられた。しかも、左右に。

「あなたには【更正】が必要だわ」

 二人の天使が引き金を引いた。

「「更正する悪魔のヘルシス・メンティ!」」

 ガンッと低い爆発音がした後、辺りにまとわりつくように高い金属音が響いた。

 撃ち抜かれた悪魔はまもなく、神々しい光を放ち天使へと昇華した――


     †


 天界は二つの勢力に別れていた。

 「白き天使」と「黒き悪魔」。

 互いに憎み合い、咎め合う関係にあった。

 天界を治めるのはどちらなのか。

 今こそ決着の時。

 天界戦争、開戦の時だ。


 白にどれだけ黒を交えても完全な黒にはならないし、黒にいくら白を混ぜても不完全な白にしかならない。


     †


「天使どもを皆殺しにしてやらァ!」

 「黒き悪魔」のサブリーダーが叫ぶ。リーダーが落ち着きなさいとなだめた。

「……いいですか、一人じゃ絶対に勝てません。二人で『挟み込む』のです。そうすれば何人相手だろうと必ず勝てます」

「わかったぜェ!」

「あなたの力を信じていますよ」

「おうよォ!」


     †


「天界から悪魔を排除するのだ!」

 声高に叫ぶのは「白き天使」の隊長だ。副隊長は大きく返事をした。

「イエス、サー!」

「大事なのは位置取りだ。背後を取られないように『隅の方』にいろ。それだけで勝率は随分上がる」

「イエス、サー!」

「よし、良い返事だ。全軍所定の配置につくよう連絡してくれ、いいな?」

「イエス、サー!」


     †


 天界戦争は八×八に分割された六十四のエリア、『混沌する対極のパレット』で繰り広げられた。

 天使と悪魔、双方の長が各エリアに人員を配置し、戦争は進む。

「四ノ三に、悪魔を」

 黒き悪魔のリーダーが天を指差すと、みるみるうちに暗雲が立ち込め、雨が降り始めた。

 落雷。

 爆音と共に現れたのは一人の悪魔。

「……えへへ、はさみうちぃぃ!」

 召喚された悪魔は、エリア三つ分前にいる悪魔とアイコンタクトを取った。

 悪魔達に挟み込まれた二人の天使は背を向け合い、防御の姿勢をとる。

 しかし、そんな天使を気にする訳でも無く、悪魔は呪文を唱えた。

「へへっ、幾つものメニ・イクシャ!」

「総てを隠す大いなるイクス・ネイト

 防御をしていた天使の二人は悪魔の攻撃に耐えきれず、ガクリと膝をついた。

「くそッ、耐えきれねぇ……!」

「万事休す、か……」

 天使は力尽き、その場に倒れてしまった。

 悪魔は倒れた天使達に歩み寄って、右手の掌を向けた。声を揃えて唱える。

「「闇との握手ホルドワ・イクシィ」」

 二つの掌から黒い霧が出てきた。それは、冷たくなってしまった二人の天使を隠すように広がる。

 その霧がすうっと天使の中に入っていった。

 すると突然、


 ドクン。


 屍となったはずの天使らが電気ショックを受けたかのようにビクッと跳ね上がった。

 そして、何事も無かったかのようにムクリと身を起こした。

「「…………」」

 彼らはもう天使ではない。

 闇と握手を交わした、悪魔だ。


     †


「隊長!」

「なんだ? 悪魔の連中を排除し終わったのか?」

「いえ……。現在の《パレット》の占領率が五割を切っていまして……」

「なんだと!? 詳しく教えろ!」

「ハッ。只今、天使側の占領率が三割強、悪魔側の占領率が五割弱、フリーエリアが一割程度であります」

「……隅のエリアは押さえたんだろうな」

「はい、既に四つの隅は天使側の領地です」

「……そうか。では【更正】を行い、悪魔の領地を奪うのだ」

「イエス、サー!」

 偵察兵から連絡を受けた天使軍の隊長は、余りの苦戦ぶりに業を煮やしていた。

(この戦争の勝利条件は憎き悪魔達よりも、多くのエリアを支配する事。このままでは……ッ!)

 貧乏揺すりが止まらない隊長は、爪が食い込む程、拳を固く握った。

「くそッ、悪魔どもめ……、一人残らず消し飛ばしてやる……! この私直々にな!」

 奥歯をギチリと噛んだ「白き天使」の隊長は。

 戦場へ向かった。


     †


「聞いてくれリーダー、今のところ俺らが勝ってるんだぜ。ま、天使どもには負ける訳ないんだけど」

「そうですか、でも油断は禁物です。勝利するまで何が起こるか分からないのですから」

「ああ、分かってる。ただ、リーダーが《パレット》にわざわざ出向くまでもないって伝えたかったのさ」

「ありがとう、もし私が戦場に立つ事になったらその時はよろしく頼みますよ」

「こちらこそよろし」「大変だァァァァァァァ!」

 突然、偵察兵が叫びながら走って来た。

「どうしました?」

 リーダーの問いに、偵察兵は肺腑の荒ぶりが止まぬまま答えた。

「いきなり、《パレット》に現れ、て、悪魔を、【更正】させまくってる、ヤツがい、る」

「はは。早速私の出番が来ましたか? 実戦は久しぶりです。大丈夫ですかね?」

「かなり、強い、天使、だった」

「そうですか、是非お手合わせ願いたいものです。偵察兵のキミ、ご苦労様でした。休んでいて下さい。もう一人の悪魔くん、行きますよ!」

「リーダー、やる気満々だな……」

 「黒き悪魔」のリーダーはもう一人の悪魔と共に、戦場へ向かった。


     †


「浄化する悪魔達のヘルシェリング・メンティーパ!」

 ガンッ、ガンッ、ガンッ。

 沢山の悪魔が天使へと姿を変えていく。

「はははは! 天界は我々天使のものだァ!」

 そこに、悪魔がやって来た。

「あなたですか、私の仲間を奪うのは」

「ふんッ、来たか悪魔の長め。いい加減決着をつけようじゃないか」

「そのつもりです」

「じゃあ、遠慮無くいくぞッ! 更正する悪魔のヘルシス・メンティ!」

 放たれた弾は悪魔の額に向かう。

 悪魔は首だけを右に曲げ、弾を避けて言った。

「私は手加減が嫌いなのですが」

 天使は笑った。

「ヘヘ……、本気を出したらアンタ、死ぬぞ」

 悪魔も笑った。

「ふふ……、優しいですね。流石は天使です」

 一瞬だけ静かになった。二人はにやりと口元を歪ませて呟いた。

「「死ね」」

 死闘の始まりだ。

「これで、アンタも終わりだ! 太陽の憤慨サニグリアス!」

 天使の持っているハンドガンの銃口に光が集まって球の形を成す。

「うおォォォォォォォ!」

小さな球が次第に大きくなってゆき、やがて直径五メートルくらいの大きな球体ができた。

「私の全てをコレに込めます。零世界ゼロセカイ

 悪魔は開いた右手の掌を天使に向け、目を閉じた。左手で右手首を握り締めている。

「はあァァァァァァァ!」

 掌から出て来る黒い霧が球になる。

 だんだんと大きくなるその球は、天使が構える光の球と変わらないくらいだ。

「「くらえェェェェェェェェェェ!」」

 白き天使が引き金を引いた。

 悪魔も手首から左手を離し、目を開いた。


 《パレット》は対極する二色が混沌とし、一色に染め上げられた。


 美しくて、醜い、灰色だ――



     ☆



「終わりだな」

「えーっと……。三十一対三十三、あぁ! またおにいちゃんの勝ちだよぅ。あともうちょっとだったのにぃぃ」

 兄妹が二人、部屋で遊んでいる。

「なんで? なんで私、勝てないの? 黒の方が先に打てるから?」

「いやいや、関係ないだろ。こういうのはな、力抜いてやるもんなんだよ」

 ちょっとトイレ、と兄は部屋を出て行った。

「ハンデですみっこ四つ全部もらったのになぁ」

 石を積み重ねて遊ぶ妹。しばらくして手を濡らした兄が戻って来た。

「まだやるのか?」

 そう言いながら、ズボンで手を拭いている。

「うん、勝つまでやる」

 意思の強い、澄んだ瞳だった。

「……よし、付き合ってやるよ」

「ありがとう、おにいちゃん」

「可愛い妹の頼みだからな、何回だって相手してやる。ほら、始めるぞ」

 妹は、兄に勝つまでずっと相手をしてもらった――





 オセロの。



いかがだったでしょうか。

ミスリードというヤツです。叙述トリックともいうのかな。

ともあれ、皆様がお楽しみ頂けたら嬉しいです。

以上、蒼比良でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] (カテゴリに気付かず)本格ファンタジーの短編ってどんなんやねん、とシリアスものかと構えて読んだらコメディーでした。(笑)  好きですわぁ。 こんな展開。 楽しませて頂きました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ