パーティメンバー募集
今回かなり雑ですわあ
あの小さくも大きな戦いから一夜明けた朝、俺とラバナが死んだように眠りに着いたと村長から聞かされた。
当然といえば当然……たった一日で色々ありすぎて、俺も疲労が溜まった。
俺とラバナは英雄だと言われ、死体の片付けやら残党の処理(説得して捕虜とかにする)は、「ゴブリンの問題はゴブリンが何とかして解決する」と言っており、「何か助けが必要な時は言ってください、魔王様とエレン様」とも言われて見送られた。ようやく、名前で読んで貰えて良かったと思う。
そして、俺達は朝早くから『セオレム』の街への帰路を急いでいた。
「……喉乾いたぞー!腹も減った!」と、約一名、何かしら限界の奴が居たが、俺は耳を指で塞ぎながら歩き続けて、何とか予定より早く街へ着いた。
まずはクエストの報告へ向かう。まず俺とラバナはローブを被って街に入る。討伐の証拠となるゴブレア族長の爪を持ち、意気揚々と俺はギルドに入るといつものように活気で沸いている。
……あと、それともう一人、
「魔王様ーッ!!!!生きてて良かったです!!!!」
物凄い勢いと大きな声で、魔王に抱き着くエリリス。
「おい仕事しろよ」と、口を挟めない感動的な再開と周囲の「魔王……?」というドン引きの視線。
「ぐるしい……!な、何……を、は、放せ~……!」
エリリスの豊満な胸に押し潰され、ラバナは窒息する。
空を写したような青い髪のツインテールに、黄色い瞳と皆が羨ましがるであろうナイススタイル――
「あ、す、すみません魔王様……!それで、クエストはどうでした?!」
周囲の目など気にせず、子供の様なキラキラとした瞳で魔王という単語を連発している。
しかも、魔王様とそのお連れはフードで顔を隠している為、傍から見たら異常な光景だという事は重々承知している。
「フフフ、我の活躍もあって見事に成功であるぞ!」
「流石は魔王様~!早速、今回のクエスト報酬を出させて頂きますね」
そして得られた報酬は800サーク、これで二日は飯と宿には困らないだろう。
あくまでも二日、それを越えれば金は無くなるが、新たなクエスト受注は明日にしよう。流石に俺も疲れている。
「……と、いう訳で……今日はゆっくりしてもいいぞ。何処か行きたい場所……」
「我は腹が減った!まずは飯だ!」
そういやコイツ、腹を空かしていたな。俺も朝から何も食べてないし、いい頃合だろう。
丁度、冒険者ギルドは食堂も完備している。安めの料理を何か適当に注文をして――あれ、ラバナの姿が無い。
「おい、ラバ……って何してんだ?」
食堂で何かを注文しているラバナが目に映った。
俺は駆け寄ると、ラバナが俺の方を向いて伝票をひらひらさせていた。
「んー?貴様が遅いから先に注文しておいたぞ?」
「……ちなみに何を注文した?」
「ウルトラデンジャラスアドベンチャーミックスコースある!」
「すみませーん!ちょっと取りやめて貰っていいですか!?」
危ない、危ない……宴会用のコースじゃねーか。二人で食べる量でも無いし、800サークどころじゃすまない値段だ。
「な!?どうして止めたのだ!」
ラバナが俺の肩をぽかぽかと殴ってくる。
コイツはあれか?もしかしなくても馬鹿なのか?魔王だから、世間知らず……っていうのも頷けるが。
「いいから、適当に安いやつにしろ。働きたくないならな」
「チッ、仕方あるまい。……で、さっきから持ってるその紙はなんだ?」
「パーティ募集の貼り紙、掲示板に貼るんだよ」
俺が指さした先には、紙が何枚も貼られている板、掲示板。
掲示板には、パーティ募集用とクエスト依頼用とあって、クエスト依頼を行う場合はその紙を受付に持っていくか、条件に合ったクエストを依頼の中から適当に見つけてくれる。
パーティ募集をする場合は、受付に依頼すると掲示板に貼って貰える。パーティに入りたい場合は受付に貼り紙を持って行って、依頼をする。後日、募集者がパーティ申請があったか聞くと、受付で教えてくれるっていうシステム。
「ほう、別のパーティに入ればいいだろう」
「EランクとFランク魔術師二人、誰が入れてくれる?しかも約一名は奴隷ときた」
「ど、奴隷だと……!?遂に認めたな!?」
「ちげーよ。一応そういう関係になってるんだから仕方ないだろ」
「じゃあこの首輪をさっさと取れ!」
ラバナが自分の首に掛けられた首輪を指さす。
「ほほ、駄目だ!お前が逃げ出さないように付けてある」
言い忘れていたが、この鉄の首輪は特殊な細工がしてあると、エリニアから聞いた。
「くっ、この糞勇者め!貴様も下劣ではないか!」
「……で、話を戻すがな」
「無視だと!?我を無視だとー!?」
……で、俺はラバナとの会話を終えてから、受付に依頼書を提出、ようやく飯に有りつける。
適当に照り焼きチキンとライ麦パンとポタージュスープを注文して、ラバナの座る席の前にテーブルを挟んで座る。
俺の目の前に座るラバナは、先に食事を始めていた。
「おい、それ、いくらした?」
「んあ?我は人間の食を良く知らぬ。適当にはんばーぐ?と、こむぎぱん?それに、新鮮野菜さらだ?とゲンイン豆のがーりっくいため――……」
「ストォーップ!!この量は何だ!?安いやつにしろって言っただろ!?」
ラバナが注文した料理は、どれも単品メニューだが、一人で……いや、二人、三人でも食べるのはキツいであろう数十品が置かれている。まるで何かのパーティでも催しているのかと錯覚を起こしてしまう。
「仕方あるまい!どれもこれも最高に美味なのだ!人間とはこんなにも美味いもの食べておったのか!?」
「監禁されてた時は?」
「貧しくて、美味しくも無い料理ばかりであったわ!」
ラバナは食べる手を休めない。
そういえばコイツ、昨日から何も食べてないんだったか。
「はぁー……で、いくらしたんだ?伝票見せろ」
「ふぉれ!」
ラバナはパンを頬張りながら、嬉しそうに伝票を俺に差し出す。
「650サークだとぉ!?俺が注文した料理が合計で90サーク……」
こいつの注文した650と俺の90を足すと740……更に800-740=60……つまり、今日の俺のギャラは殆ど飯に消えた。
「やばい……働かないと……!」
こうして、束の間の休日は幕を閉じた。
―◇―
何とか腹に間食し、俺は冒険者依頼の紙が貼られている掲示板を見ていた。
流石に昨日の疲れがやばいということで、街の外に出るクエストは控え、街中でできる仕事を探す事にした。
すると、良さげな依頼が俺の目に止まった。店番依頼、店主が長らく野望用で遠出するので店番を任せたいという依頼だった。
その店は、何やら怪しい魔法道具を取り扱う店らしく、報酬額もそこそこ良い。
迷いなく、俺は受付に紙を持ってった。
「い、いいのか?ここだけの話、余りいい話を聞かないぞ?」
「いいんだよ。考えている暇など無い!」
「じゃあ、これが店の鍵と場所が描いてある地図。エレン=ルヴァンシュ、ラバナ様で登録しておくぞ?」
やっぱり、エレン――って呼ばれるのは、まだ慣れないな。
「ああ、頼む……行くぞラバナ!」
「えぇー我も行くのか?」
「当たり前だ!」
ギルドの外を出ると、いつも通り――暑い……ったく、復讐は進まないし、手がかりは無しで、最悪だ。
それで、場所がここから割と近いのはいいんだが、どうも変わったアングラショップが集う路地裏に位置しているようだ。
しばらく道を歩いているとラバナの姿が無かった。「まさか、逃げたか?」と振り返ると、興味津々で何かを見ていた。
「……何見てんだ?」
「えっ!?な、何も見とらんぞ」
ガラス越しに子犬が一匹、ラバナを見ていた。
どうやら、ここはペットショップのようだ。冒険者のストレスを癒すとか何とかで売られているらしい。
「欲しいのか?お前も案外あれだな……」
「はぁ~!?我は偉大なる魔王だぞ?ここここんな下等生物……」
じっ~と尻尾を振って見つめる子犬をチラチラと見ながらラバナは顔を頬赤くしている。
恥ずかしいのか?別に恥ずかしがることなんてないだろうとか思いながら値札を見る。
あーこれは無理だ。
「残念だが、高いから買えないぞ?」
「い、いらぬわ!ほら行くぞ糞勇者!」
道も分からないくせに走り去って行くラバナ。素直じゃないなアイツも。
そして、目的の路地裏に到着する?そこは影で覆われており、どうも胡散臭そうな店がいくつも並んでいた。
「ここが……その店か?」
カーテンで閉め切られた店の入り口には『準備中』の掛札があり、俺は恐る恐る鍵を開けて中に入る。
「別に変わった所では無いのではないか?」
「あ、ああ……案外普通だが、汚ねぇな」
店内は、棚の中に如何にもそうな代物が色々と入っており、どれも用途が分からないものばかりだった。
埃を被っている事から、結構日が経っている事が伺えた。
「とりあえず、片づけるか」
――数時間後。
大方片付き、店内は見違えるように綺麗になった。
俺達は商品になるべく触れないように細心の注意を払った。
――更に一時間後、俺達は客が来るのを待っていた。
しかし、誰も来ない。そりゃ埃が被る位に放置された店なんて誰も足を運ばないだろう。潰れたと思われて仕方がない。
「……おい、暇だぞ!」
「知らねーよ、ってお前商品触んな!」
ラバナが、不気味な水晶を手に持っていた。
「わ、分かっておる。ちょっと気になっただけだ!」
――そして、営業時間の終了時刻。
客が、まかのゼロ人……大丈夫なのかこの店。
二日目、三日目、四日目、五日目、六日目……そして、勤めて一週間経過した。
結局、誰一人として店には来なかった。だが、約束は約束だと、俺は冒険者ギルドに来た。
「エリリス!今日の報酬を頂きに参った!」
「あ、ああ……だが、その前に話がある」
「んあ?」
「貴様のパーティに入りたいという奴が現われた」
「何!?本当か!?」
詳しく話を聞くと治癒師てあり、なんと俺達の働いていた店の店主らしい。
しかもちょっと特殊で、あまり大きな声で言えない種族らしく、エリリスは小声で囁く。
「なんと、竜族だ」