そして一泊、そして夜襲
すみません遅れました!
急いで書いたのでちょっと文章とか誤字脱字がおかしいかも知れません……
俺とゴブリン達で、ラバナを部屋へ運んだ。
家は木で造られており、扉はなく、窓にはガラスがはめ込まれてない為、風通しがいい。木の枕に動物の皮で造られた布団、他は、大したものはない殺風景な部屋だった。
呼吸が荒く、悲痛の表情を見せるラバナをその部屋で横にさせた。
「……勇……者よ」
しばらくして、ラバナは今にも意識を無くしそうな声で、俺を呼ぶ。
「ッ!? おい、大丈夫か……!?」
「ふん、心配はいらぬ……。魔力を使いすぎただけだ。貴様の魔法で造られた……剣の魔力を吸収したが、我の使った魔法は……相当な魔力を有する者でなければ、使用できない。それを……今の我が、無理に使った事が失敗だったようだな」
どうやら、先程のサベッジウルフを倒す為に使った魔法が、今の自分の魔法使用範囲を有に超えていたのだろう。
俺の<エント・ヴィケル>の剣を魔力に還元したのはいいが、それでも足りていなかった。当然といえば当然、俺は魔法があまり使えないし、魔力もあまり無い。魔術師なんて職業が一番向いてないのだ。
「……ったく、無茶するな。今は魔力を回復できるマジックポーションを持ってない……だから今は休んでろ」
「良かったなゴブリン達、心配してるぞ?魔王様らしくなったんじゃないか?」
「黙れ、糞勇者。言われずとも、我は偉大な魔王だ」
ラバナは笑いながら言う。
無理もない、今日はコイツに無茶ばかりさせてしまったかもしれない。思い返せば、今日は長い一日だった。
数年監禁されていた奴をこんなクソ暑い中、無理に動かしすぎた。ラバナが倒れてもおかしくはない。
「寝なくて大丈夫か?」
「大丈夫で……ある。それより、長に挨拶は行かなくていいのか?」
「向こうから来てくれると思うぞ……って、噂をすれば」
すると、部屋に誰かが入ってくる。
「お、意識を取り戻したようですな」
髭を生やして、他よりの老けたゴブリン、人間の言葉を流暢に物言う。恐らくこの村の長老だ。
「やっぱり、人間の言葉……話せるのか」
「なぬ?やっぱり、とな?お主は他に人間の言葉を話すゴブリンに会ったと?」
「あーっと、ゴブレア族の長が喋ってた」
「なぬ~……!あの野蛮なクソ民族共が遂に人間の言葉を習得しよったか」
なんか、怒ってる。なんで、怒ってる?
「それが、何か……?」
「我々ゴブリア族の方が知能は勝っておる!脳筋のアイツらと並ぶのが許せんのだ」
「でもあなたの方が流暢っすよ?」
「そ、そうなのか?ならば我らの方が上だな」
どうやら機嫌を直したようだ。
何の勝負かは知らないが、大事なことみたいだ。
「それで、聞きたいんだが……。ゴブレア族の連中はいつからこの辺に?」
「あぁ、奴らは魔王様の支配から解かれ……」
「……領土を拡大を計画した……。それは奴らから聞いた」
「ほう……アイツらもお喋りだな。ゴブレア族は一週間くらい前か、ここらに住み着き、我々の土地を支配しようとしておった」
「そして、今日……。俺達を利用して作戦決行したって訳か」
「うむ、そしてこの森に足を運んだ人間も襲っておる。何とも野蛮な奴らだ」
ただの初級クエストのつもりが、面倒な事に巻き込まれてしまった。
今頃、魔王の幹部のエリリスは心配してるだろう。
もう日はすっかり落ちて、夜が来た。村のゴブリン達は街の広場でキャンプファイヤーをして、手には皆、松明を持っている。
この村にはランタンが無ければ、ロウソクもない黒い世界。周囲を照らす為に、大きな火を起こしているのだろうか。
「もうすっかり暗くなったな、ラバナは……寝ちまったか」
魔王とは思えない程に、愛くるしい寝顔を見せてラバナは眠っていた。
今日は色々と疲れただろうな、そのままにしておくか。
ー◆ー
夕食、猪や野菜をふんだんにあしらった料理を頂いた。
ラバナはその間も爆睡していた為、俺だけの夕食になった。ゴブリン達の食事は、恐らくゲテモノ揃いになると見越していた俺は、そのギャップに驚かされた。
恐らく、知能の高いゴブリア族ならでは……という感じだろう。
満足した俺は部屋に戻ると、俺は何故か眠れずに外を眺めたいた。
ふと俺は、昔の事を思い出す。
「エーレン、知っておるか?」
アンドレアス、その長々と伸びた白い髭と老い特有のしわ、他のパーティメンバーとは弁別的で、いつも濃い紫色のとんがり帽子を斜に構えている老魔術師だ。
「何がだよ、まず主語をだな」
今はエルフの森の中、他の森とは違うその雰囲気にアンドレアスはテンションが上がっていた事を覚えている。
「ホッホッホ、すまぬな!ゴブリンじゃよ、ゴブリン」
「ゴブリン?それがどうかしたのか?」
「ゴブリンには気をつけるのじゃ……奴らはこういった森に生息しておってな、ずる賢く、勝つためならば手段を選ばん奴らだ……。特に奴らは夜の行動も得意とする」
そうなのか、とか思いながら俺はその話を聞き流していた。
―――
――
―
エルフの森……そういえば昔、行ったっけか。
そこで、ゴブリンはずる賢く、睡眠時間を削って、夜間行動も行う……と、アンドレアスが話していた。今更、どうしてこんな事を思い出したのかは分からない。
「ギャ……!?」
何か聞こえた。入り口付近で、ゴブリンの鳴き声が、一瞬だけ。
「なんだ……?」
嫌な予感が俺の脳裏を過る。もしかしてと思い、俺は部屋を飛び出した。
広場のキャンプファイヤーは消え、森は月光が薄らと木々の隙間から照らしている。その光以外は、無い。
そういえば、夜間は村の外で見張りのゴブリンが二匹居ると、夕食の時に聞いた。そのゴブリンの話し声が聞こえただけだろうか?
俺は流石に考えすぎかと思ったが、恐る恐る……俺は村の外へ出る。
「……ま、まじかよ」
しかし、時は既に遅かった。
ゴブリンが二匹、松明の光を握ったまま倒れている光景が目に映る。そよ風で揺らめく松明の火の光が、ゴブリンを照らすと……ゴブリンのは身体は赤く染まって、死んでいる。
ここで、何かが起きた。間違いなく襲撃だ。まだ死んで間もない、恐らく、まだ近くにいるだろう。
「心剣と真剣、泡沫の剣、我が呼び掛けに応え、現出せよ――<エント・ヴィケル>……。これが、今日使える最後の一本……」
俺は魔力が少ない。<エント・ヴィケル>は相当な魔力を有する者が本来使用するもので、俺みたいな魔術師が使っていいものでは無いんだが。
剣を手に取り、構える――晦冥の中から何かが来る。
「ギャアッギャ!!」
ゴブリンの絶叫が森に響き、サベッジウルフにゴブリンが、闇から俺に向かって出現する。
俺は左手の平を向けて、目を瞑る。
「……来たか……!!蒼き雷撃、放て――<ブラウ・ブリッツ>!」
蒼く迸る稲妻の閃光が、ゴブリン目掛けて飛んでゆく。初等魔法<ブラウ・ブリッツ>による雷撃が、俺の掌から放たれた。
その稲妻が直撃し、薄弱の声を上げてゴブリンが感電し、サベッジウルフの背中から落ちる。
「ギギ……ャギャ……!」
だが、乗っていた御主人様が落ちて、倒れようと、サベッジウルフは止まる事なく、真っ直ぐこちらに向かって駆ける。
俺は右足を一歩前に出し、目を凝らして剣を構えた。
そして、サベッジウルフの脇腹を斬る。すると、先程までの威勢とは打って変わり、血を流し、鳴き喚く。
しかし、その鳴き声を合図にして「グォォ!」と、何か吼えた。枝や落ち葉を踏み鳴らす音が静寂の森に響く。こちらへ向かって来ている音……間違いない、まだ何かが居る。一匹だけじゃなく、何十匹と。
俺は目を凝らし、耳を澄ました。来る──左、右、前、全方向から。
「ギャガギャガアア!!」
一斉にゴブリンが闇黒の中から出現する。数は十一匹──
「……我が呼び掛けに加速し、神速の領域へと昇華せよ――<ハイ・ブースト>!」
俺はその刹那の間に詠唱し、剣を構える。
「……ギャギャギッ!?」
<ハイ・ブースト>の掛かった俺の速度に、ゴブリンが目で追いつくことなど、不可能に等しいだろう。
一匹、二匹、三匹、目にも止まらぬその速さは、一振で三匹のゴブリンが息絶えた。攻撃する暇を与えず、自らの斬られる瞬間さえも見せない──まさに神速だった。
ゴブリンの武器が、俺の剣をかみ合せる暇も無い、攻撃が来る前に、確実に首や心臓などの急所を捉えて、迅速に敵を殺める。
この<ハイ・ブースト>は、<ブースト>のよりも高い効果を得る事ができる。その速度は人の域を超え、一振りは音速。しかし、<ハイ・ブースト>は、常に魔力を消費するというデメリットが付いてくる為、余り長くは使えない。
「ギャガギャ……!!!」
そして、最後の一匹を殺す。頬に付着した返り血を拭いで周囲を見渡すと、そこはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しかった。
見慣れた光景だ──かつて勇者だった俺にとっては、死体の山を見るなんて朝飯前だ。
死体を残して、村に戻ろうとすると、反対側……俺が立つ村の入口、その逆の方角にある壁の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえる。
「破壊を我が手に、踊れ豪炎、炸裂せヨ──<エクスプロード>」
次の瞬間、ドゴォンッ!という爆音が森に響き渡り、驚嘆した鳥が一同に逃げ出す。
熱風と木の破片が俺の頬かすめる。そう、爆発によって壁が破壊され、巨大な穴が空いたのだ。
爆発で起きた灰色の煙幕が薄れるにつれて、壁の向こうが顕になる。
そして、松明を持った大量のゴブリンとサベッジウルフ……そして、先頭にはゴブリア族の長が立っている。
「しまった……!挟み撃ちか!?」
「ギャガガヤガァ!!」
長が突撃命令を出すとゴブレア族のゴブリンが一斉に村に入り込む。
「チッ!面倒だ!」
「ガギャガギャガガヤ!!」
ゴブリア族の村長が、唐突な襲撃に対して、命令を下すと、ゴブリア族が武器を持って、応戦を始めた。
二種のゴブリンの戦い――しかし、力の差は歴然だ。
このままだとゴブリア族が負けるだろう。俺は考えるより先にその戦いに参戦するべく、音速のスピードで走る。
「ギャガヤギャ!!」
俺の眼前まで迫るゴブレア族が数匹、俺を目掛けて跳びかかる。
「蒼き雷撃よ、放て――<ブラウ・ブリッツ>!」
雷撃が跳び掛かるゴブリン達に直撃して、感電――……そして、地に落ちる。
「あの人間……やはり居たのカ!!」
「やっぱてめぇかああぁぁぁ!!?」
「ギャギャギギャ!」
杖で地面を突き、長が叫ぶと、俺の目の前にサベッジウルフとゴブリンが立ち塞がる。
「邪魔だッ!!」
音速の斬撃、まずは二匹を斬る。次に身体を捻って、その勢いで回転斬り――次々と俺の周囲の敵は倒れていく……が、
「破壊を我が手に、踊れ豪火、炸裂セヨ――<エクスプロード>!」
「詠唱する為の時間稼ぎかッ!?」
再び爆撃が炸裂すると、敵味方関係なく、吹き飛んで、大きな穴が口を開く。
「げほっ……!あっぶねぇー……!!」
ギリギリの所、辛うじて、身体を後方に退いた事で功を奏した。
「なんだ……うるさいぞ!って何だこれは!?」
「ま、魔王様!大変です!ゴブレア族の襲撃であります!魔王様はどうか安全な場所へ、私は奴らと!」
村長《ゴブレア族》が剣を持って、戦いに参戦し、次々と倒していく。
「ふん、何ともややこしい事に巻き込んでくれたわ」
「おーい!元気そうだなー!ちゃんと休んでろー?」
「こんな騒がしいのに休んでられるか!」
ツリーハウスの上から眺めるラバナに声を掛けて、俺は再び剣を構える。
「……ほウ、人間……耐えただト……!ならば」
「させねーよ、遅い!」
「クッ!ギャギャガガアアギャ!!」
もう一波、その呼び掛けに、再びゴブリンとサベッジウルフが俺の面前に立ち塞がる。
「させるか!ギャガガ!!」
「サンキュー村長!」
俺の行く手を阻むゴブレア族のゴブリン共をゴブリア族が止めに入り、活路を作ってくれる。
しかし──あと、一歩の所で俺の魔力は枯渇した。
「流石に飛ばし過ぎたか……!?」
焦燥、汗が頬を溢流し始める。やばい、倒れそうだ。
剣が消え、<ハイ・ブースト>の魔法も切れ、目と鼻の先に居る長の前で、体力が切れかけてしまう。だが、隙は作ってはならないと俺は掌を前に掲げ、
「蒼き雷撃、放て──<ブラウ・ブリッツ>……!駄目か!」
しかし不発──蒼い稲妻は放たれない。
「クク……残念だナ!蒼き雷撃、その一閃は敵を穿ツ」
中等魔法<ブラウ・ドンナー>の詠唱を始めた。指先が怪しく煌めき始める。
「人間……大丈夫か?!」
「糞勇者よ!これを受け取るが良いわ!」
見物人のラバナが、ツリーハウスの上から大声で叫ぶ。
何処から見つけたのか、左手に持っている短く小さな剣を全速投球で投げた。鞘に入れてない剣は、回転しながら地面に刺さる。
「サンキュー!魔王!!」
「<ブラウ・ドンナー>ッ!」
その剣を手に取ると同時、長の詠唱が完成する。一か八か俺はなりふり構わず突っ込む。
「……ッ!」
俺は屈む。真っ直ぐと伸びたの閃光が俺の肩をかすめ、地面を焼いた──……が、俺の一刺しはしっかりと心臓を捉えて──
「グウアアああぁぁァ!」
「へっ……クエスト完了……!てか……」
叫び、倒れゆくゴブレア族の長。その叫びに全てのゴブリンが争うことを止め、死にゆく長をただ見つめていた。
そして、森に再び訪れる静寂。俺はため息を吐いて、欠伸を零した。