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奴隷な魔王

続きになります!ここまでしか書き留めてません!

感想、ブックマーク、お願いします!

 まだ太陽が空に昇っていない明朝、俺は約束の時間に待ち合わせの酒場の前に来た。

 そこには、パイプタバコをふかすエリニアが立っていた。更にその前には、商業用の馬車があった。


「来たわねぇ?じゃ、行くわよ。早く乗ってちょうだい♡」

「あぁ……」

「あら?緊張しているのかしら?」


 緊張は……しているに決まっている。

 あれだな、正直「魔王との決戦前くらい緊張してます」……なんて言えない。

 だが、ここまで来て、今更引き返すなんていうのは出来るわけがない。

 でも……なんか気まずいじゃん?俺が倒した訳だし。


 そんな事を考えながら、俺は馬車に乗り込んだ。


「よし、乗ったぞ」

「それじゃ!出発よ~!」


 エリニアがそう声音を発すると同時に、馬車を引っ張る馬が、喚声上げて勢いよく前進した。

 日が昇り始め、徐々に明るく、鮮やかになる町並みを俺は馬車の荷台から外を見る。


 馬車は、石畳で舗装された道の真ん中を走っており、その脇には木組みと石組みの家々が並んでいる。対した街のシンボルもないこの冒険者の街『セオレム』は、観光なんてものには力を入れておらず、ただ冒険者と商人が暮らしやすい街として特化させている。

 ただ、唯一象徴となるものが、ギリギリここから見えた。他の家と比べると一際大きく、異彩を放つ建物。

 それは、街の北側に位置する大きな『冒険者ギルド』だ。

 冒険者ギルドは二十四時間年中無休で運営されている。毎日多くの冒険者達が集まり、多くの冒険者が誕生する。いわば、冒険者たちの出発の場所である。


 街の出口に近づくと、検問所に差し掛かかる。

 巨大な壁に囲まれているこのセオレムの街には、出口が東西南北の四つしかない。ここは、その中の一つ南のゲートの検問所だ。


 更に、その検問を抜け、街を出て百メートルも走れば、もう道は舗装されていない。

 舗装されていない道は、砂利やら石やらを踏む度に、馬車が小さく跳ねる。

 街の外は、のどかな草原が広がっている。いくつか畑地があり、至る場所に大きな風車が備え付けらていた。遠望すれば、マルベス地方を囲むようにして、連なる山脈が目に映る。


 山から風が吹けば草原の草木は揺らぎ、荷台に座る俺の髪を小さく揺らす。


「平和、だな……。」


 俺が勇者として旅だった頃、この辺りにはモンスターが蔓延っていた。

 冒険者がこの辺りで狩りをしている光景なんて普通だったのだが、今やこんなにも平和になっている。


「そうねー、昔はワタシもよく護衛を付けてたわよ~!いい時代になったわね」


 馬車を運転しながら、エリニアは言う。


「まぁ、お前らみたいな悪党が居るのを見るとまだまだ平和なんて程遠いんだなーって思うが」

「失礼しちゃうわ~!奴隷商売はまだグレーゾーンよ、グレーゾーン!」

「ははっ、まぁな」


 俺もかつては奴隷制度に対して嫌悪感を抱いていたっけか。

 人を売り買いするのはどうなんだとか、奴隷になった人の事は一切考えないんだなーとか……。まぁ、そんな事、今じゃどうでも良くなっている。


 ただ、今は復讐にしか興味がないって感じでしかない。俺を裏切った奴らを報復させる事だけに人生を捧げている感じだ。昔は、正義感とか、何かを助けるとか、そんなアイデンティティが俺にはあった。


 ……なんて考えていると、馬車が急停止した。


「どうした?何かあったのか?」

「あ、着いたわよ」

「えっ!はやっ!?……って、ここか?」


 そこには、広大な草原にぽつんと佇む煉瓦造りの廃屋だった。

 苔やカビが付着し、屋根や壁の一部が崩落していて、中が丸見えだ。

 昔、ここら一帯にあった村の名残りだろう。他にも痕跡は残ってはいるのだが、ここまで綺麗なものは残ってない。


「さ、入るわよ〜!」

「あ、ああ……?お邪魔しま〜す……!」

「な〜に?怖がっているのかしら?大丈夫よ!」

「あれ……?この部屋の何処にいるんだ?」

「この下よ、これが鍵ね!」


 中は何も無く、腐食した床から草が生い茂っている中に、よく見たら扉のようなものがあった。


「これ……まさか、地下へ続いてんのか?」

「そうよ」


 扉を開け、エリニアが中に入った。その様子を見て立ち尽くす俺にエリニアは「早く入りなさい」と、手招きした。

 俺が中に入ると、そこには下へと続く階段があった。ランタンが一定の間隔で掛けられており、中に入った蝋燭ろうそくが煌々と暗い通路を照らしている。


 俺とエリニアがその階段を下りていくと、鉄で出来た重厚な扉があった。


「ここか?」

「そうここよ。ちょっと危ない人がここに入れられる」


 エリニアは鍵を開けて、力を入れて扉を開いた。

 軋むような嫌な音が響く。


「この扉の先に、魔王が居るわ」


 その言葉に、俺の心臓は跳ね上がった。

 なんとも言えない緊張感、この先に……本当にいるんだな。

 俺は息を飲む。ついにこの時が来たのだ。

 そう考えていると、扉が完全に開いて、中が露わになる。


「ん……?なんだ飯の時間か?」


 そこに、魔王ラバナは居た。両足を鎖で繋がれ、身動きが取れない様になっている。

 紅の髪に、二本の角、整った目鼻立ちに魔族とは思えない程に白い肌、そしてこちらを見つめるその紅い瞳――……間違いなく、魔王だ。


 それから二人目が合って、沈黙が続いた。


「あー……久しぶりだな?魔王……ラバナ」

「はっ、はぁぁぁぁぁあああっ!?何故勇者がここにおるのだ!?」


 元気だなーこいつ。とても奴隷とは思えない。


「いやー色々あってだな?」

「ばばばばば馬鹿な……!あり得ぬ、あり得ぬわ!我の目の前で貴様は裏切られ、死んだハズだ!」


 鉄格子を掴み、死人でも見たような吃驚とした表情を俺に向ける。

 まぁ、当然の反応ではある。自分を殺した人間が目の前にいるのだから。


「何とか生き延びたんだ。そう言うお前も元気そうだな……って、なんかちっさくなったか?」


 なんか、小さい女の子になっている気がする。ボロボロの服のせいなのか?いやいや、関係ある訳ないだろ。

 だが、俺よりも三、四歳年下にも見えるのだが、気のせいか?


「我は、貴様の仲間に力を完全に奪われてこんな姿になったのだ。だから今は力が使えん」

「待て、子供の姿になったのは分かった。だが、力が使えないってのは……?」

「言った通りである。我は力が吸収され使えんのだ。今の我はそうだな……街の冒険者と対等に戦えるかどうか分からんレベルだ」


 力が吸収されているの無論知っていたが、冒険者と対峙する事すら怪しいのか……。


「……まぁ、いい。とにかくお前は誰に売られて誰にここに連れて来られたんだ?」


 そうだ。俺が欲しかったのは力だけじゃない。

 魔王を売り、ここへ連れて来た奴らの情報だ。エリニアからは、知らないおっさんがお忍びで『魔王』を売りに来たと言っていたらしい。

 その件に勇者達が関与しているのは、火を見るよりも明らかだ。

 勇者『五英勇』の誰があの後どうしたのか、誰がここまで運んだのか、それだけでも聞き出せたら問題は無い。


「我は気が付けばここにおったからな、だから、それは我にも分からぬわ。あっ、だが凄い金額で取引されたと聞いたぞ、うーん……流石は魔王である!」


 あ、駄目だコイツ。


「あー……帰ろー」

「駄目、契約は破棄できないわよ。この子は責任を持って預かってもらうわよ?」


 エリニアは俺を睨む。デスヨネー……と俺は笑顔を向けた。

 まぁ、仕方ない。『五英勇』に対する恨みは魔王コイツも同じはずだ。


「何!?この我が人間の下に!?しかも勇者だと?……断る!!」


 あれだな、この姿だと、だだこねてる子供にしか見えない。

 あの威厳はどこにいったんだ?あの身震いする程の恐怖感が無くなって……なんか、今はワガママな子供に成り下がっている。


「ねぇー何とかこの子を説得してくれないかしら?」

「はぁ……分かった。任せろ」

「何だ糞勇者!?我を説得しようとしても無駄だ!」


 まあ、やるしかない…か。取り敢えず、攻めてみるとしよう。


「魔王……お前、寿命は?」

「我の肉体は五百年、今は大体二百二十年経過しておる。肉体が無くとも我が魂は、新たな肉体を見つければ永遠となる!貴様ら下等生物には理解できないだろうがな!わーはっはっ!」

「いや、でもお前……ここから出なきゃあと数百年はこのままだぞ?」

「そ、それはー……」


 魔王ラバナは黙ってしまった。

 あと何百年もこのままだというのは流石に魔王といえどキツいだろう。

 俺だって城の中で半監禁みたいなものを食らっていた。城の領外に出ることは許されず、朝から晩まで勉強か訓練ばかりだった。だから、気持ちは分かる。


「ふ、ふん!その程度で屈するわけなかろう!我は偉大な魔王だ!貴様らと違い退屈には慣れておる!」

「だがな?いずれ、お前は忘れられるぞ?この先に新しい魔王が出現したりしたら、それこそお前は用済みだぞ?だったら今の内に俺と勇者に復讐しに行って力を取り戻した方が得じゃないかなぁ?」

「あ、新たな魔王だと?!くっ……ぐぬぬ!」


 よし、効いた。これで少しは俺の下に付いてくれる気にもなっただろう。


「さ、一緒に行くぞ?」

「だが断るっ!!その程度で心が動かせるとでも思ったのか馬鹿め!」

「はぁっ!?コイツ……!いいんだな?!このままお前は悠久の時間をここで過ごし、挙句の果てには飯も運ばれて来なくなるし、誰もここに来なくなるんだぞ」

「ふん!我は食べなくとも生きる力くらい持っておるわ劣等種め!」


 そんなやり取りを繰り返して、二時間程が経過した。

 結局、このままではらちが明かないという事で、首に無理矢理鎖を付けて引っ張り出す事になった。


「ほら、乗れ」

「くっ……!我を大衆の晒しものにするつもりだろう……!?」

「ちげーよ、寧ろお前が魔王だとバレる方が面倒だ。ほら、これを着ろ」


 俺とお揃いの魔術師ウィザードのローブを魔王ラバナに渡す。


 一番安い魔術師ウィザード装備で、手に入りやすいし、顔を隠しやすい、万能アイテムだ。

 しかし、魔王様は警戒を解く気が毛頭無いみたいだ。


「何だ……?何を企んでいる!?」


 魔王ラバナは俺を睨みつけた。

 まぁ、疑いの気持ちは分かる。俺だって魔王の下に付けと言われたら困惑もするし、怒りだって覚える。


「お前に協力して欲しいだけだ。他は求めねーよ、奴隷とかそんなんは関係ない」

「協力だと?我に何をして欲しいのだ?」

「勇者に復讐したい。その為にお前をわざわざ買ったんだ。」


 まぁ、力は使えないんだけどね。


「ふん!その為に我の力を借りたいと申すのか?ならば貴様が我に服従するべきであろう!」

「はぁ、断る……。いいから早く馬車に乗れ」

「何をーコイツ!糞勇者!バカ!」

「本当にあの魔王かお前……?」


 喧嘩しながら、俺達二人が馬車の荷台に乗り込んだ。


 ―◇―


 セオレムの街へ戻ると、朝と違って、多くの人々が街を行き来している姿が目に入る。

 市場で買い物をする者、今からクエストに行く者、その冒険以来クエストから帰還するもの、馬車に乗って街の外に行くもの、外から帰って来る者と様々だ。

 俺もその一人、俺達が馬車から降りると、エリニアは上機嫌で何処かへ姿を消してしまった。恐らく、今まで扱いに困っていた商品が消えたから喜んでいるに違いない。

 まぁそれで、今は魔王と二人きりになってしまった。


 ちなみに降ろして貰ったこの場所は、冒険者ギルドの前。何故かというと、今の俺には一銭も金がない。モンスターでも狩って金を手にしないと、今日の夕食にもありつけない始末。更に魔王のウォーミングアップも兼ねてっていうのもある……のだが。


「チッ!何故、我が人間共の蔓延るこんな悪夢のような場所に来なきゃならんのだ!しかもこんな糞勇者の奴隷なんぞに……!」

「おい、声がでけーぞ。いいか?取りあえず勇者って呼ぶのやめろな、今の俺はエレン=ルヴァンシュで通ってる。エレンって呼んでくれ」

「貴様の名など興味ないわ!糞勇者が!」

「だから勇者はやめろ、ラ バ ナ?」

「ひぃぃ何だ!気味が悪いわ!我の名を呼ぶな!」


 ラバナはゾッとして表情をして、後ずさる。


「あー!もういいから中に入るぞ、来い」

「ぐおっ!急に鎖を引っ張るな!」


 中に入るとそこには様々な風貌の冒険者達が居た。

 剣を持つ者、槍を持つ者、杖を持つ者、甲冑を装備する者、ローブを着る者……と多種多様だ。

 酒場もあり、昼間から盛っている人だっている。

 だが、この時間は多くの冒険者が受付に向かう、窓口は多めに設置されている。そして、受付嬢が冒険以来クエストの手配やランクやクラスの管理などを行ってくれる。


「すみません、この子を冒険者登録したいのですが……」

「チッ、エレン=ルヴァンシュさんですね、」


 俺は何度も顔を見合わせた受付嬢に話しかけた。

 もう顔見知りなのだが、何故か毎回嫌そうな顔をされるし、舌打ちも毎回される。

 しかし、仕事は馬鹿みたいに真面目にこなしている様で、ただ単に人間嫌いって感じだろう。


「えーっと、十六歳以上でないと登録は不可能なのですが……その子は本当に十六歳以上ですか?」

「なっ……!」


 受付嬢の言葉にラバナは反応した。


「我は少なくとも貴様らより長く生きておるわ!」


 どれだけマウント取られたくないんだよ人間に……。

 また地団駄を踏んで、喚き散らしている。

 その姿は、やっぱりただの子供にしか見えない。じゃなくて、止めないと。


「おい、声がでけーよ、うる……」

「ま、まさかそのお声は……っ!!」


 次は受付嬢が、ラバナの声に反応した。

 一体何に引かれたのかは知らないが、口元を抑えて、何故か涙を流している。


「ま、魔王様!?」

「はぁっ……!?」


 一体何を言っているのか、俺には理解が追いつかなかった。



魔王と勇者みたいな敵同士が仲間になる感じ好き

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