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八 臨時水夫トルルの戦い ③

 ”ジャジーネ号”は、今のアイリッシュ海を北に進んで、再び北大西洋海域に入った。ブリテン島の北にはシェトランド諸島、さらにその先には、フェロー諸島がある。


 現在、こられの諸島は狭小な面積しかないが、いずれも数万の人間が生活している。暖流である北大西洋洋海流の関係で、かなりの高緯度にもかかわらず冷涼な夏と、比較的温暖な冬という気候で、牧草を得て羊の放牧が盛んであるととともに、豊かな漁業資源に恵まれている。


 リファニア世界では、シェトランド諸島をサデバデ諸島、フェロー諸島をドムエノーデ諸島という。

 気候は極めて冷涼で、いずれの島もがツンドラに覆われている。特に北のドムエノーデ諸島は山間部は小規模ながら氷河まであり人が住むには厳しい地域である。


 サデバデ諸島には、わずかの羊の放牧と漁業を生業にする二千数百人程度の人間が細々と生活しているだけである。ドムエノーデ諸島はほとんどが無人島である。


 ”ジャジーネ号”は、ファレスリーを出港して、七日目にドムエノーデ(ファロー)諸島の沖に達した。夏に向かう季節であるが、急激に気温は低下した。


 タナステンの港で乗せた四人の女は、船長室の隣の空間を船大工が区切って、急遽造られた部屋に閉じ籠もっていた。


 ようやく、三日目に、女達は恐る恐る部屋から出て来た。タナステンの言葉に流暢な水夫が身の上話を聞いた。


 女達の話では、タナステンとその周辺を領地にしている部族長が、自分がイースに派遣した軍勢の主だった者達のために女を送ることを思いついた。

 そこで、タナステンの街で十人ばかりの女を身請けした。部族長が派遣した役人は女達に、イースで一年の稼げば、部族長は利子を取らないから借金を払い終えるばかりか金まで貯めることができると言ったらしい。


 最初は、”ジャジーネ号”に乗って喜んでいた女達は、水夫達からイースでのヘロタイニア軍の苦境と、イースまでは地獄と戸板一枚で隔たった危険極まりない航海であるということを知り騙された怒ったり、意気消沈していた。


 そんな女達に水夫らは、フレドリド船長なら無事にイースに着かしてくれる。食べ物も自分らが運んでいるから、イースで腹を空かせるようなことはない。それまでは、船旅を楽しんでくれと慰めた。


 フレドリド船長は、トルルのように新しく船に乗り組んだ者に、多少荒い編み方だが、羊毛の服を貸してくれた。他の船員は勝手知ったるのか思い思いの防寒具に身をつつんでいた。


 女達は自分で持ち込んだ派手だが安物の防寒具を身にまとっていた。


 ドムエノーデ(ファロー)諸島を少しばかり北上すれば、イースと同緯度に達する。フレドリド船長は、イースよりも、さらに北上してイースの北東からイースに接近する算段だった。

 イースの北東方面は、リファニア水軍の警戒が最も緩いだろうという判断と、初夏から夏にかけて出る霧を利用するためである。


 しかし、幸いをもたらしてくれるであろう霧が、”ジャジーネ号”号を邪魔した。


 ヘロタイニアの商船でも、原始的な方位磁石は使用しており、星や太陽を利用した簡単な航海術も航海士ならば知っている。

 そうは言っても、船の強度や天測に万全の信頼を置けないので、陸を見て航行できる海域はできりだけ陸の近くの通り位置を確認するとともに、頻繁に起こる海難への備えとする。


 ”ジャジーネ号”がドムエノーデ(ファロー)諸島に接近しだした頃から、濃霧が海上を覆いだした。

 

 フレドリド船長は「まだ、早すぎる」と苛立ったように言うが、自然現象にはいかんともしがたい。


 ”ジャジーネ号”は、位置を見失いゆっくりと北に向かった。


 フレドリド船長は、ドムエノーデ諸島が近いので見張りを厳重にさせて、巫術師のギガムスレントの能力をさらに手加減させて人間が歩く程度よりもゆっくりした速度で進んだ。


 霧に閉じ込められて三日目に災厄が訪れた。船首にいた水夫が「たくさんの鳥の鳴き声が聞こえてくる」と叫んだ。


 フレドリド船長が「方向は」と聞き返す。水夫はしばらくして「真っ直ぐ前から」と言ってきた。


「取り舵だ。船を止めろ」


 フレドリド船長は船底まで響くような大声をあげた。


 この時、左舷の舵櫂を操作していたのはトルルだった。舵櫂は普通の舵より操作性は悪いが、唯一の利点は少しばかりだがブレーキをかけられることである。

 トルルは古参水夫のウォータンに加えて、そのあたりにいた水夫を呼び寄せて必死に舵櫂を操作して船の行き足を止めよとした。


「ギガムスレント、船首に行け。前から風を帆に送って船を止めろ」


 フレドリド船長の時ならない緊迫した口調に、いつもは、よろめくように歩いてい巫術師のギガムスレントは、精一杯走った。

    

ギガムスレントが船首に行き一度巫術の風を送った時に船は座礁した。船底から木と岩がこすれる不気味な音がしたと思うと完全に、”ジャジーネ号”は停止した。


 フレドリド船長は「船底に行って様子を見てこい」「ボートをすぐに出せるようにしておけ」「食糧と水を甲板に揚げておけ」と矢継ぎ早に命令を出する

 

 船底から上がってきた水夫が、船底近くの横っ腹に一間ほど亀裂が出来て水が入って来ていると報告した。


「前の砂浜に乗り上げろ」


 霧を通して、海岸が指呼の距離にあるのが見えた。巫術師のギガムスレントが風を送り、トルル達が船の向きを操作する。”ジャジーネ号”は砂浜に斜め向きにのりあげた。


 船は船首から前の半分くらいが砂浜にめり込むように乗り上げて、船尾は波に洗われているような状態だった。 


 皮肉なことに、船が浜に乗り上げてから、幾ばくもたたないううちに霧は急に雲散して視界が回復した。


 ”ジャジーネ号”が乗り上げた砂浜は、高さが二三十メートルほどのある断崖の下にあった。断崖には多くの海鳥がいて、やかましく鳴いていた。


 この海鳥の鳴き声がなければ、”ジャジーネ号”は、もっと酷く岩に船体を壊されるか、浜にまともに乗り上げてしまっていただろう。


 霧が晴れて見ると、”ジャジーネ号”は名も知らない島の西端にいることがわかった。その島の西端が少しばかり海に突き出ていて僅かのところで”ジャジーネ号”は、陸にかかってしまったのだ。



挿絵(By みてみん)




 船長と船大工がかなり長い間、船底の亀裂部分を検分していた。結局、損傷した部分の周囲を含めて、取り外して新しい板で船の補修をすることになった。


 フレドリド船長は、碇を浜の方に運ばせて船を固定して十日後の満潮を利用して船を、海に押し出すことにした。そのために、船の修理を行う人間以外で出来るだけ積荷を砂浜に降ろした。


 船が完全に海に浮かんでから、もう一度積荷を船に搭載しようという考えである。


 積荷をあらかた降ろすのは、フレドリド船長と巫術師のギガムスレントを除いた総動員でまる一日かかった。

 トルルは船に荷を積み込む作業ばかりだったので、船から荷を降ろす作業が目新しかった。


 船の補修には、五日ほどかかった。”ジャジーネ号”号に乗船していた船大工の腕がよく、あくまで補修の範囲だが外側からも内側からも、木材の新旧のみで修理箇所が判別できるほどのできだった。


 ただ、船が浜に乗り上げたのは、小潮の前で満潮になっても多少船の後部が心持ち浮く程度だった。フレドリド船長は大潮になるまで、気長に待つと宣言した。


 大潮までは十日以上もあるので、水夫達は暇つぶしに目の前の断崖を登っては海鳥の卵を手に入れてきた。

 中世段階の世界では卵は貴重品である。別の水夫達はさらに手製の釣竿で、オヒョウのような大きな魚を釣り上げた。


 トルル達は、思わぬご馳走に毎日舌鼓を打った。騙されたと愚痴って、船酔いで弱っていた女達も機嫌がよくなった。女達は新鮮な魚を食べ、酒を飲んでは浜で水夫相手に踊って見せた。


 船が座礁して四日目に、女達のリーダー格がフレドリド船長に、格安でいいので商売をしたいと言い出した。

 最初は難色を示したフレドリド船長だが、浜にいる間だけで、水夫は二日に一回までという条件で飲んだ。


 早速、浜に女達が数だけテントが建てられた。


 リーダー格の女はフレドリド船長以下の幹部船員専用ということで、マエルを含む他の三人の女が水夫の相手をした。


 トルルも一回、マエルを抱きにテントを訪れた。マエルは少しなげやりな態度だった。船に乗っている間だけは商売をしなくていいと思っていたと愚痴のようなことを言っているのがなんとなくトルルにもわかった。

 トルルは出来る限り優しくマエルに接するように心掛けた。マエルは少し機嫌がよくなったのか、或いは商売っ気が出たのかトルルに深い口づけをしてから行為を始めた。


 行為が終わると、マエルはテントから出てトルルを見送った。トルルの後に並んでいた水夫達が「色男」とトルルをからかった。


 マエルは次の水夫に手を引かれるようにテントの中に入ったが、トルルはマエルが崖の方をじっと見やっている姿が妙に心に残った。


 トルルは二度とマエルを抱きには行かなかった。ただ、トルルも若い男なので、他の二人の女は一度づつ抱いた。


 トルルは若い女との経験は婚約者のリャシカとは何度もあるが、後の女性経験はファレスリーで、中年や下手をすると初老といった女を買った経験ばかりである。

 そこで、まだ二十台前半と思える二人の商売女を目の前にして我慢をすることはなかった。


 次第に、大潮の日が近づいて、満潮時には船の過半が波に洗われるようになった。フレドリド船長は船を引き出す時に少しでも船底などに傷が付かないように船の回りの砂を掘り出しにかからせた。トルル達は少しばかり多忙になった。


 そんなある日、事件が起こった。女の一人が逃げたのだ。逃げた女は、マエルだった。


 フレドリド船長は捜索隊を組織した、トルルもその中に加えられた。トルルが不審がっていると、古参水夫のウォータンが、お前ならあの女を真剣に探そうとするからだと言った。


 確かにトルルはマエルの境遇に同情していた。


 島の名も判然とせず、人が住んでいるのかもわからないような極北の地である。逃げ出したマエルが生き延びていけるような場所ではない。


 捜索隊は浜からの唯一の出口である断崖をよじ登った。捜索隊はロープを使って断崖を登っていったが、マエルが一人で登っていけとのだろうかとトルルは不思議に思えた。


 断崖の上の辿り着いた一行は、ツンドラの荒涼たる風景を見た。歩くたびに足が少し地面にめり込むようだった。


 そのツンドラの泥濘になった場所に、人の足跡が残されていた。トルル達は断片的に残されている足跡を追った。

 一刻ばかり足跡を追跡したが、マエルの姿は見えなかった。ほとんど樹木のないツンドラであるから、かなり、遠方にいても人影は見えるはずである。


 さらに、半刻ばかり追跡をおこなったところで、遂に人影を発見した。方向から判断すると人影は島の南へ向かっているようだった。



挿絵(By みてみん)




 捜索隊は足を速めて、ほとんど小走りのような状態でマエルとおぼしき人影を追った。ところが、一刻ばかり追跡しても、その人影との距離はほとんど縮まることはなかった。

 女の足からすると追いついてもよさそうなであるが、反対に追跡隊の方が息が切れてきた。


 追跡隊がいるツンドラは見晴らしはいいので、少し速度を落として人影を追跡することになった。追跡隊が速度を落としても人影が離れていくようなことはなかった。


 更に一刻ばかり追跡したところで、島の南側が見えてきた。海の見え方から船が座礁した島の西側のように断崖になっているようだった。追跡隊は二隊に分かれて左右から人影を包み込むように進むことになった。


 人影が進んでいるのは南側の断崖であるので、そこから左右どちらに人影が逃げても対応できるようにするためである。


 トルルは右から追い込む方のグループになった。そのグループのリーダー格の水夫がは、こんなに歩かせてくれたんだから、捕まえたら全員、その場でタダでやらせてもらおうと言った。ほかの水夫達も見た目にもいやらし笑い声をあげて同意する。


 トルルはマエルが懲罰のように男達に弄ばれることは不本意であったが愛想笑いを浮かべて形ばかりは同意した。


 やがて、人影は断崖を目の前にして立ち止まったようだった。


 距離がどんどんつまり、やがて、その人影が女であることが判別できるようになった。そして、姿形、髪の毛の色からマエルであることがわかる距離にまで近づいていた。


 マエルは追跡隊に気がついていないのかずっと追跡隊を背後にして海の方を見ていた。


 やがて、トルル達はマエルに指呼の距離に迫った。左から接近したグループもやや離れてマエルに近づきつつあった。もう、マエルが追跡隊から逃げることは不可能である。


 突然、マエルが振り返った。マエルは微笑んでいた。トルルはそのマエルの顔が初々しい少女の顔に見えた。


 マエルが振り返ったのは一瞬だった。マエルは前を向くと断崖に向かって走り出した。とても女の走る速さとは思えなかった。あっという間に断崖の端に達したマエルは断崖に身を躍らせた。

 

 ところが、マエルの体はさらに前に進んで行ったかと思うとかき消すように見えなくなった。


 驚愕した追跡隊の面々はマエルが身を躍らせた断崖の端につくと断崖の下を見た。断崖の下はほんの少しばかりの砂浜になっていたが、そこにマエルの姿はなかった。


 よほどの速さで走ったのでマエルは砂浜を飛び越して海に落ちたのだろうということになった。

 追跡隊は海にマエルの体が浮かんでいないかしばらく見ていたが浜に打ち寄せて砕けていく波の他は何も見えなかった。


 このまま帰っては、フレドリド船長に叱責されそうだったので、追跡隊の半分が苦労して断崖を降りて浜を捜索して岩陰などにマエルが隠れていないかを調べた。断崖は二十メートルほどの高さがあったので、落ちて無傷だとは考えられないが万が一のことをおもんばかったのである。


 砂浜は数メートルほどの幅で、マエルが落下したような形跡はなかった。付近の岩陰もすみずみまで捜索したが何の手がかりもなかったので、やはり、直接、海に落ちて、たまたまやってきた大波にさやわれたのだろうという結論になった。


 追跡隊は、浜でマエルの捜索をしたころで思わない時間を過ごしたために、断崖の上で一夜を過ごすことにした。

 ツンドラにはすぐに燃やせそうなモノがなかったので、浜に打ち上げられている流木を集めて薪を起こした。


 ほとんど、遮るモノのないツンドラでは一晩中風が吹きすさんでトルルは熟睡するようなことはなかった。

 寝ながら半分、意識が残ったようなトルルの耳元で、以前、マエルが歌っていた子守歌のような歌がマエルの声で聞こえてきた。


 目が醒めたトルルの耳にはツンドラを横切って吹く風の音だけが聞こえていた。


 翌日、重い足取りで”ジャジーネ号”が座礁している浜にある崖の上に到着した追跡隊の一行は疲労困憊異していた。そこで、できるだけ安全に崖を降りられそうな場所を探すことにした。


 しばらく、一同で手分けして探していると一人の水夫が大声で全員を呼び寄せた。水夫が指さした先には、崖の中程で岩棚になった場所に仰向けに倒れているマエルがいた。


 トルルと、もう一人水夫が急いでロープで岩棚まで降りた。マエルは明らかに死んでいた。マエルの死体は上を向いて口を半開きにして瞼を大きく見開いていた。そして、眼窩の中に目はなかった。


 どうも、崖に住んでいる海鳥の仕業ではないかと思えた。いっしょに、岩棚まで降りてきた水夫が、自分達が海鳥の卵を取って食べていた仕返しかなと感心した様な口調で言った。


 マエルは崖の上までもう少しといった所から落下したようだった。後頭部が岩にぶつかったのか血だまりが頭の後ろにできていた。


 死体は死後硬直で完全に固まったようになっており死んだのは昨日だと思われた。


 トルル達はマエルの死体を回収して自分達も、マエルの死んでいた岩棚から浜に降りた。その場所は、登ってきた場所よりかなり手がかりが多く楽に登れそうだった。

 トルルはマエルの抱きに行った時に、マエルが崖の方を見ていたことを思い出した。今、思えば崖をよく観察してどこからなら登れるか見ていたに違いないとトルルは思った。


 確かにマエルが登ってきた思える場所は、比較的登りやすいが最後に、ほぼ垂直な岩壁があり左右に逃げることも出来ない。トルル達はロープで安全に降りられたがマエルには荷が勝ちすぎたようだった。


 岩棚に死体を放置するワケにもいかない。と言っても死んでいるからといって崖下に落とすことも憚られるので、トルル達はマエルの死体はかなり苦労してロープで崖下まで降ろした。


 ロープで先に死体を下ろすと浜で待ち構えていた水夫達が、浜に敷いた毛布の上にマエルの死体を横たえた。


 すぐに、仲間の女達が近づいてきた。


 リーダー格の女は仁王立ちのようになり、後の二人は目のないマエルの死体を見て口を手で押さえていた。リーダー格の女は、泣いているであろう二人の女に何事かを言いつけた。


 崖下に降りたトルルが見ていると、やがて、二人の女は幾つかの小石を拾ってきて、リーダー格の女に見せた。


 リーダー格の女は小石を二つ選んだ。いずれも丸くて少し青味を帯びた石だった。リーダー格の女は両手に一つずつ小石を持つとかがみ込んでマエルの眼球がなくなり虚ろになった眼窩にその石をねじ込むように押し込んだ。そして、持っていた布でマエルの目のあたりを隠した。


 トルルはリーダー格の女の行動に感心した。


 リーダー格の女の行動は、場合によっては非道な行いのようにもみえるかもしれない。しかし、ヘロタイニア人の多くが信仰しているロメオル教は輪廻転生の思想がある。

 死んだ者は、その功罪によりしばらく死者の世界で安楽に過ごしたり、責め苦を受けた後で、また、生まれ変わるのである。


 ところが、前世で死んだ時に身体の一部が欠けていると、生まれつきその部分がなかったり、障害を持つとされている。

 そのようなことを防ぐために手のない者には、形ばかりでも木で義手を作り。足の無い者には丸太で義足を作って葬る。


 リーダー格の女は、マエルが来世で目が見えないことのないように石を無くなった眼球の代わりに入れたのだ。


 ”ジャジーネ号”の幹部船員の間で、一悶着あったがマエルは脱走したのではなく断崖にある海鳥の卵を捕ろうとして誤って崖から落ちたということになった。

 預かった荷に逃げられた上に死んだとなると責任問題が出てくるが本人の不注意ということになればお咎めもないだろうという算段である。


 マエルの死体は、波に掘り返されては不憫ということで崖の上に引き上げられて、堅い地面に埋葬された。


 追跡隊の面々は、墓標を南に向けてやって欲しいと願い出たので、マエルの墓標は生まれ故郷のタナステンの方を向いている。


 追跡隊の経験した不思議な出来事も全員の話題になった。


 マエルの仲間の女達がマエルは両親のところに帰りたがっていたという話をしたことから、マエルは死んで、その霊魂がツンドラを横切ってから南の方に旅立ったのを追跡隊が目撃したということになった。


 中世段階のヘロタイニア地域の知見と宗教心、そして、技術者でありながら自然の力には勝てないことを知り尽くしている船乗り達は超常現象や心霊現象を、通常の自然現象を受け容れるとの同様に受け容れた。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)

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