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魔女が剣を握ったら…  作者: 豚肉の加工品
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魔剣憑き  4

琴乃葉ことは。

自分が化け物だということに初めて気が付いたのは小学五年生の夏だった。

両親は共に働き、兄妹もいない。常に家に一人の状態だった。

学校は夏休みということで学校という暇つぶしに行くことも出来ず、ただ一人で孤独に家で本を読むことしかなかった。

友達と呼べる者はいない、学校でもほとんど一人で本を読みふける毎日だったが一人ではないと思うとそれだけで楽しかった。


リビングのソファに座りクーラーの聞いた部屋でテレビをつけながら本を読む。

そんな退屈で怠惰な日々を過ごしていた。


夏休みも半ば、持っている本も読み終わり宿題もやってやることがなくなったある日のことだった。

いつも通りテレビをつけ、どうでもいいような番組を聞きながら読み終わった本を読み返していた時、テレビから聞こえてくる激しい爆発音がやけに耳に響いた。

大きな歓声が沸き、実況している人も飛び跳ねながら歓喜していた。


『見てください!今っ、ここにっ!!新たなる〈剣聖〉が誕生しましたッッ!!!』


テレビを見ると止まない歓声の中に一人の女性が佇んでいた。

笑顔もなく、むしろ当然の結果とでも言いたげなその表情に……自分は憧れた。

自分とは違った充実した無の表情。

だが、そんな憧れもすぐに諦めがついた。

テレビに映る女性は〈契約者テスター〉だったからだ。

魔剣や聖剣といった自分には意味が分からないような世界で生きて来た人間には必ず何か才能が必要だ。

たかが書物から得た知識だが、知識を得ると契約者テスターの見る目は変わっていった。

民間人とは違い戦う力が必要というだけでも充分違うが、彼ら彼女らには契約した存在から使命を貰っている——————ただ選ばれるだけならだれでも出来るだろうが選ばられるだけの何かがあったのだろう。


それすらもない一般人の自分は友達を作る才能も、退屈な時間を潰す才能もない。

そんな自分を見つめ直すと形容しがたい焦燥感と憎悪が体を走った。


「下らない……」


どれだけ自分を嫌悪しようと、どれだけ自分がそんなことを思っても何にもならないことを知っているのに夢を見てしまう。

自分には本当は才能があるんじゃないか?

自分には何かあるんじゃないか?


「って言っても、私には何もない……」


自分が本当に下らない。

非常に退屈な日常から逃れるためにソファに横たわり眠りについた……





 聞こえるか…なぁ


 え?


 やっと聞こえたか。


 誰?暗すぎて見えないよ?


 今は感じ取るだけでいい。我の存在を知っているだけでいい。いつか、貴方が私を使う時が来たら……



 望め、いつでも我は貴方の中にいる……



自然と目が覚めると、もう夜になっていた。

頭の中がすっきりとし目覚めが良い。


「誰ったの?」


調子のいい体を動かし蓄えた知識を働かせパソコンで自分に起きた不可思議な現象を調べたところ、魔剣に目覚めた人間に現れる特有の現象らしい。

掲示板には匿名の人らがそれぞれ好き勝手に思ったことを書き込んでいる。

それを眺めていると書き込んである一言に共鳴した。


神は祈っても救わず、悪魔は祈わず救わない。


「確かに……それは人も、書き込んでいるあなたにも言えるけどね」


だがその一文は心の奥に染み込んだ。


「この現実にはどれだけ望んでも救ってもらえない人間なんて沢山いるんだから…………」



我が救ってやろう……それが貴様の望みなのだろう?



またしてもこの声。

どこかノイズがかった聞き取りにくい女性の声。


「あぁー……うん。その時は助けてよ、助けられるならね」


もう声は聞こえない。

どこから聞こえるのかも分からない、どこにいるのかも分からない。まさに得体の知れない存在と平然と会話してしまっている。

平然と受け入れてしまった……自分が化物だということに気が付いてしまった。


が、


目の前には何かが違う、化け物がいた。


それは、一月前に出会ったばかりの天神学園に在籍する上代悠太である。

一般区域では滅多に見ることのない契約者テスターという存在。

どれほどの強さかなんてことは全く分からない。名前と天神学園の寮に在住し、毎朝の早朝ランニングをかかさない努力家という事実。

そんなことくらいしか知らなかった。

だけど、


「今から、僕の事を教えて上げるよ」


魔剣と呼ばれる摩訶不思議な現象が起き、自分の心を忠実に叶えてくれる存在。

それまで完全に意識を持っていかれていたのに、不思議と目が覚めた。


黄金に輝く宝剣を片手に、悠太の周りの空気すらも輝きを放っている。


『忌々しい輝きだ……』


そんなことはない。とても綺麗な光だよ?


「そう?」


『あぁ、まるで神々のようだ』


お兄さんみたいな人が神様なら助けてくれるかな……


「有難い一言だね。でも、これはちょっと違うかな」


『……知っている。先程の説明で大体理解した』


とにかく〝見ていよう〟。そうお兄さんが言ってたんだから



魔剣を握る手に力が入る。

足に魔力を溜める。今にも悠太の背後に回り込めるように……

姿勢を低く、臨戦態勢に完全に入る。


『どうした?来ないのか?』


「いや、よくよく考えたら君はことはちゃんを守っているの?」


『そうだ。貴様のように邪魔な奴を排除するためにな……』


「そっか…」


周りの空間魔法が一瞬で解けた。

悠太を見ると輝かしいオーラも黄金に輝く宝剣も解除した。


『死ぬ気になったか?』


「いや、ちょっと聞いて欲しいことが出来た」


『なんだ?』


自分も力が少し気が緩んだ。

何故か分からないが、相手から完全に闘気が消えた。


「僕と一緒に天神学園に来ない?」


『……ん?何だ、それは』


「琴乃葉ちゃんに相応しい場所に行こうって言ってるんだけど。まぁ、簡単に言うと琴乃葉ちゃんのような人がいっぱいいる所かな?」


『そんな場所があるのか…?親にすら化け物と言われた子に、相応しい場所があると?』


「それならむしろ好都合だよ。僕が家族になるから、生憎だけど一人くらいなら余裕で面倒見れるからね」


悠太は一歩ずつ琴乃葉に近づいていく


「僕は君の味方だ」


徐々に学園長から借りた魔法が解けていく


「出会って一月、君のことは結構知った。知らないだろうけど、魔法である程度の情報も見た」


パラパラと周りの黒い空間が剝がれていく


「仲良くやろうよ。ことはちゃん………の悪魔さん?」


完全に魔法が解けると、全身切傷だらけの両親が怯えた表情でお出迎えだ。

ギュっと琴乃葉の体を抱きしめると魔剣が粒子状になって霧散する。

今のを見るに、イリーとは違い不完全な覚醒だったと見える。


「お義母さん、お義父さん」


無言のまま悠太を見つめた。

その瞳には今だに自分の娘への恐怖が含まれている。


「ことはちゃんのことを貰いますね?」


コクコクと物凄いスピードで首を縦に振った。

その姿を琴乃葉に見せなくて本当に良かったと思った。

自分の娘に怯え、他人に躊躇いもなく預ける様は中学生に見せるには酷すぎる。


「じゃ、行くよ」


空間魔法を展開し、瞬時にその場から立ち去る。

転移先は学園長室。

面倒だが、一応許可を貰わなければならない。

更に師匠にも連絡を入れないといけない。


全てが解決したことを……




    ◆




「貴方、悠太とどういう関係なの?」


「それ。私も聞きたかった」


「友達……ではないし、恋人でもないですし……なんと言うか、もう認め合った仲。ですかね?」


授業も終わり、先生からの指示もないまま自由な時間を過ごしているイリーの前に現れた二人の女。

訓練場には人気はなく誰の視線も感じない。

そんな中、その場にいる三人だけは見る者の背筋を凍らせるほどの殺気を放っていた。


「へぇ……おもしろいこと言うね。アメリカから来た最強は」


「そうですね」


「事実ですから」


常軌を逸脱した魔力のぶつかり合いはなく、素早く自らの力を反応させる。


「貴方たちの殺気は悠太の半分くらいですね…」


つまらないと言いたげなそのセリフの裏腹に表情は体が震えるくらいにイカれていた。


「でも、戦ってみないと分からないですよね?」


学園の風紀を守る者として、学園の内での魔剣、聖剣の顕現は禁止している。

だが、今は別だった。

個人的な理由だが……


「世界最強と言われる所以はその聖剣と貴方の才能センスから放たれる雷魔法」


「ならこっちも最強で対抗しなきゃダメだよね?」


二人の周りは静かにその風が舞い始めた……



 


   



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