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魔女が剣を握ったら…  作者: 豚肉の加工品
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魔剣憑き 2

「もしもし」

『もしもし、悠太か?』

孤児院から自分を拾ってくれた親でもあり、剣術及び体術を教えてくれた武術の師匠である近藤兵蔵にだ。

聖魔抗戦連盟日本支部で名家の一つでもあり、この中央魔導区域を管理している。

『どうした?悠太、お前からなんて珍しいな。いつも俺からなのに』

返事をした向こう側から、複数の声と風の音がする。

電話越しに聞こえる音から察するに外にいる様子だ、だが風よりも人の声の方が気になった。

兵蔵の声とあと複数人の声が微かに聞こえた悠太は無意識に階段を上る速度が上がった。

「いや、今日の聖魔連の動きを知りたくて」

『なんだ?またあの女に言われたのか?』

「そうだけど、今回は僕の事情も重なったんだ」

『おっ、こりゃ珍しいな。あ、いやでもこれは愛しの息子のためでも…………』

電話越しに兵蔵の唸る声がするが、今の悠太はここで長々と話している余裕はなかった。

「お願い、師匠」

「まぁ…………いいか。今日はな、一般区域に魔剣の暴走があってな。たった今、その家を包囲している最中だ』

悠太は一般区域と言われた瞬間、階段を駆け上がる。

「それって曲がり角からこの学園が見える!?」

『あぁ、見えるぞ?それがどうした?」

「ありがと。今すぐに僕も行くから、〝そこにいる女の子にはなにもしないで〟」

返事を聞かずに携帯を閉じる。

校内での魔法、魔剣聖剣の顕現リアライズは禁止されているが誰も確認できないのを良いことに空間魔法を発動し、一瞬で学園長室の扉前に移動してノック無しに無作法に入っていく。

「学園長!」

「また悠太くんは………魔法を使ったらダメでしょ?少しは歩かないと太るよ?」

呆れたように返事をするが、悠太が魔法を使ってまで来るということを察し黒革のソファから立ち上がり悠太の目の前に立つ。

「今日はもうサボっちゃうのかい?」

「はい、すみません。どうしても行かなきゃいけない理由ができました」

きっぱり言い切るが、もう既に朝の授業を休んでいる悠太。

自分でもよくもまぁ悪びれもなしにこんなことを言えたものだ、と内心では思いつつも学園長にそう言った。

「へぇ………珍しい。「依頼」に私情を挟もうとしているんだね。悠太くん」

まるで我が子の成長に関心をしている母親のような笑みを見せると、優華の体に対して大分大きく見える机の引き出しから黒い結晶を取り出した。

その結晶は記憶結晶メモリアルコアといい、魔法を記憶しておくことが出来る結晶だ。

よく「依頼」の時に優華が念のために持たせる超高級品だが、悠太の方へまるで野球ボールをなげるかの如く放る。

「悠太くんがいない期間にイリーちゃんが問題起こしたら全責任負ってもらうからね、子守役なんだから」

「まぁ…………分かってます。リアルタイムで五分で帰ってきます」

無動作で空間魔法を発動し、その場から悠太が姿を消す。

消した数秒後、優華は応接間にある一つのソファに目を向ける。

「明華ちゃん、もう良いよ」

学園長室にある応接用のソファから座った状態の明華が突然現れる。

透過魔法の応用で自分の姿を消していたようだ。

「上代くんには甘いのね、母さんは……」

「まぁね。そーいえば、イリーちゃんはどう?」

「さぁ?今頃はクラスの人に色んなことを聞かれていると思うわよ」

優華も自分が座る椅子から明華の隣へと空間移動する。

明華は驚いた様子もなく両腕を開く。

その行動に応えるように優華は明華の体を優しく抱きしめる。

「大丈夫……きっとあなたのことを助けてくれるから……」

抱きしめる強さは増していく。

不思議と苦しくはなく、優しさに溢れていた

「うん」

悠太のいなくなった後の学園長室は淡い何かに包まれていた……




     ◆




悠太は毎朝、近藤家で教わった剣術と体術の基礎応用に加えてロードワークをしている。

学園から始まりアーケードを抜け一般区域に伸びる長い道を走る。

それから一般区域の住宅街を通ってアーケードに戻り旧訓練場で剣術と魔法の基礎を行う。

毎日毎日、同じことの繰り返しをしているとある日突然、どこからか妙に視線を感じるようになった。

「なるほどね……こうやって感覚を研いでいくわけか」

場所は一般区域。魔導区域に繋がる間近の一般道。

だけどそれを不思議に感じていた。

自分のことを観察しているような視線を感じながら走るたびにその視線を逆に追ってみた。

日が上がりそうな早朝に起きている人なんかは健康第一に考えているご老人かと思っていた悠太だったが、

「あそこ………だな」

カーテンの隙間から眺めている人物の性別は一瞬で見分けることが出来ないが、ご老体ということはなさそうな感じだった。

立ち止まり気配をもう一度後方を確認すると、豪邸までは言わないがそれなりに大きな家の中から視線を感じた。

「やっぱりね」

本来、一般区域での魔法は魔導法令で禁止されていることだが悠太はためらいもなくその家の二階のベランダに空間魔法を使って移動した。

「何か要かな?」

中学生くらいの女子が一瞬で目の前に現れた悠太に驚き目を見開いていた。

目と目とが合うとその女子はカーテンをバッと閉めてしまう。

「この区域のでの魔法は犯罪、聖魔連に通報するよ?」

窓越しから聞こえたのは見た目に反して低い声音だったのに驚かされ、少し唖然とする。

「んじゃ、何で僕のことを毎日見てるの?」

「…………」

返事はかえってはこない、そんな感じの出来事が数日続いていたある日のこと。

悠太はわざとその場を通らずに、その家の近くできっとまた見ているであろう女の子に何で見ているのか確認すべく空間魔法を発動し二階のベランダに転移した。

いきなり悠太が現れた瞬間に驚きすぎて唖然としていた姿に逆に驚かせれた。

(この子……)

窓をノックすると、驚いたまま窓を開けてくれた。

朝も朝、まだ薄っすら月が見える程の時間帯のはずなのに完全に目が覚めている様子の女の子に悠太は少し驚いていた。

寝ぐせもなくしっかりと開いた瞼。疑問を感じざるおえなかったが、話しを自分の中で戻した。

「やっぱり眺めてた」

「……………魔法」

「うん、本当は使ったらダメなんだけどね。どうしても教えて欲しくてさ、なんで僕のことを見ていたのか」

最初に会った日は目が合ったらすぐに反らしていた女の子の薄紫の瞳が悠太の顔を映していた。

「………………見たことないから」

確かに聞こえた答えはとても単純だった。

「え?」

「この辺りに住んでいる人は全員覚えているんですが、貴方だけ見たことがなかったから…もしかしたら天神学園の「契約者テスター」かと思って……」

悠太は彼女が異様なことを言ったことに気づいた。

「全員……?」

「はい、私は今少し体を壊していて外に出られないので……。外を眺めることくらいしか出来ませんから」

いや、体の内側から微量な魔力が出てるせいだよ?なんて口が裂けても言えなかった。

本当に微量だから真夜中の魔粒子が起きている間に体に付着している可能性もあるが、たった一言で済ましてはいけないと悠太の直感が警告した。

悠太に慣れてきたのか部屋へ手招きしてくれる。

かなり優れた観察眼の持ち主なのだろう、そう既に感じていたが、

「これは?」

「私が描いた、ここを通った人の似顔絵です。何回か見ただけだから似てるか分からないけど」

その観察眼は異常とまで言えるものだった。

悠太にとっては知らない人ばかりだが一枚だけ新しい紙があり、そこには自分にそっくりな人物が描かれていたからだ。

「へぇ、凄い上手いね」

「私には絵を描くことと本を読むことしか出来ませんから」

確かに部屋の中はあまりにも質素で、ベットと本棚だけの部屋。まるで学園の自室を見ているかのようで少し親近感が沸くくらいだ。

「随分と静かだね?お母さんやお父さんとかは?

早朝だから静かなのは当たり前だが気配を感じないということはない、むしろ一般区域にいる人だって夜の環境のお陰で微かに魔力を持たされている。

魔力に敏感である自分がこの少女以外に魔力を感知出来ないということはありえないのだ。

「仕事が忙しいみたいで……」

「え!?まさかいつも一人なの?」

「毎日一人ですよ、親は私が病弱だと分かった時にですら家に帰って来ませんでしたから」

あまりにも普通に言うその表情は、孤児院の頃の自分に瓜二つだ。

一人に馴れすぎて、一人が楽になる。

だが、本当の家族がいるのにその感情を持ってしまうのはかなり重症だ。

だから、

「なら、僕が毎日来るよ。それで沢山話そう」

—————助けてあげたかったのかもしれない

「大丈夫です。私は一人でも生きていけますから」

「それでも僕は来るよ。君が僕を見ていたら」

女の子は無言だった。

嬉しいのか嫌なのか分からないが、拒否はしなかった。

それから名前も分からない女の子の所に毎日行って他愛ものない話をする。

それが最早朝の日課になっていた。

名前を聞いたり教えたり、魔法を少しだけ披露したり。

思い返すと懐かしい……



今。

目の前にいるのはその女の子であり、その女の子ではない。

少女には似つかわしくない暴力の塊のような漆黒の大剣を振りかぶり、自分の肉親を両断しようとしていた。

琴乃葉ことのはことは」

名を呼ぶとこちらを振り返る姿。

周りが魔力の濃度によって薄暗いからか瞳が赤く揺れるのが視て分かった。

『貴様…………』

琴乃葉ことはの姿であり、琴乃葉ことはではない何かが目の前にあった。

正に————悪魔

聖魔連はこの家を包囲している。

こんな姿を見られてしまった討伐対象になりかねない。

目の前に映る光景がまだ余裕のあった感情を隙間なく埋めていった。

「嫌な予感がしたからさ、家の中に移動してきてよかったよ」

涙を流しながら、獰猛に笑い、泣きじゃくる母親の肩に魔剣をおしあてている。

禍々しく輝く魔剣を引いている姿だ。

「記憶魔法=無音無風ヴォイドテイク

記憶結晶メモリアルコアを握り砕き、黒い破片から構築されていくのは学園長の魔法。

この世とあの世の境の空間を一時的に生み出し、ことわりから外れた空間を生み出す魔法。

ことはに似た何かはその異変に気付き、周りに目を向けた。

『…………魔女か』

悠太の方を向いたと思ったら、魔剣を構え始めた。

涙を流し続けるその黒い瞳には悠太が映っている。

「君を助けに来た………」

悠太もすかさずに、両腕に魔法を展開した……


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