魔剣憑き 1
悠太はイリーとの決闘後普通に授業を受けていた。
天神学園に存在する訓練場にイリーと遅れて行き、謝りつつも早速授業に取り組む。
何をしていたのか担当教師に聞かれたが問題視されないように転入生に街を案内するように言われたと教師には言っておいた。
それから飛び入り参加の悠太は制服のブレザーを脱ぎネクタイを取りワイシャツ状態になる。
軽い準備運動を済ませ、
「イリーは一旦見てて、すぐに終わらせてくるから」
実戦形式の授業に参加した。
訓練場では旧訓練場で見せた力を一切使わずに、訓練用に開発された疑似聖魔剣を使って実戦形式の授業を難なくこなしていった。
疑似聖魔剣は、簡単に言うと魔力を通す特殊な剣で、後は一般的の剣と何ら変わりはない。
Bランクから上のクラスは自らの聖剣、魔剣を使い、本格的な実戦形式の練習を行っているが、悠太のいるEランクとなると力を制御できずに大怪我に繋がる事故が多発し使用を禁止されたのである。
だが、これはほぼ悠太のために作られたと言っても過言ではない制度だ。
実際に学園長が悠太を入学させてから取り入れた制度だからだ。
クラスの皆には笑顔を絶やさずに会話をし、平均以上の成績を叩き出している悠太。
今の授業でも相手の風魔法を魔剣に魔力を付与し上手くいなす、空間魔法で相手の目の前に移動。
それに気づいた相手は地面に風の衝撃波を撃ち悠太を吹き飛ばそうとするが、それに感づいた悠太が片手で魔剣を持ち直し魔法を撃つ前に腹部に衝撃魔法を含んだ拳を放つ。
相手もその打撃に反応し魔法を発動する前に掌底を弾き、距離を取るためバックステップで移動する。
悠太はそれを見逃さず、足が地面から離れた瞬間に足元で魔力を弾き自らを加速させ首元に魔剣を突きつける。
相手は両手を上げ降参し、悠太はクラス全員と実践担当の教師から拍手を貰っていた。
だが、悠太の表情は不自然だった。
笑っているのに笑っていない。
あの写真を見てから、自分に集中しきれていないような感じがする。
「悠太」
実戦が終わりクラスメイトと楽しそうに話しをしている悠太を呼んだ。
「私の自己紹介はいつ始まりますか?」
「教室戻ってからじゃないかな?多分だけど、あの先生…山本先生っていうんだけど、この授業の担当の先生だからこの授業が終わったらすぐだと思うよ」
「そうですか。暇でしてもので」
「ごめんね。一人にさせちゃって。もう僕の順番は終わったから一緒にいるよ」
悠太は後ろを向き、クラスメイト数人に挨拶しイリーと一緒に訓練場を後にした。
授業が終わると、あとは自由な時間が貰える。
それがこの学園の授業の良い所だ。
ただしある程度の合格点は貰わなければならないが。
「まずは教室まで案内するよ」
ネクタイを結びながら、学園内に入って行く。
「空間魔法を使われてるんですか?」
「あぁ、うん。それでほとんどの人には『異端児』ってことを伝えてるよ」
「なるほど。悠太は隠し事が上手いですね」
「いや、一部には感づかれてるよ。学校内ではないけどね」
「……そうですか。というよりも、悠太はEランク程度の場所にいるべき人ではないと思いますが、どうしてあのクラスに?」
「それはもちろん「契約者」じゃないからだよ。まぁ、僕以外は皆、「契約者」なんだけど、もしも「契約者」じゃない僕が魔法だけで上に行ったとしたら学園長も大変だし僕も大変だよ」
「どういうことですか?」
「つまり、暴動が起きかねないんだよ。自分よりも弱いと思っていた人間が自分よりも上の場所にいるなんてプライドやら強さに拘っている人達からしたら居ても立っても居られないからね」
「なるほど……、この学園の生徒のことが少し理解出来た気がしました。日本風に言うと弱い奴ほどよく喚く。ということですね」
「いや弱くはないよ。聖剣や魔剣を最初っから本気で使われたら、流石に手も足も出ないよ」
あと吠えるだよ、なんて笑いながら言う悠太の表情は悲しさと寂しさが混じっていた。
悠太のことが『異端児』と呼ばれていることは全世界に広まっているので、知らない人間はいないだろう。だが、そう呼ばれているのは知っているが、どんな扱いを受けて来たのかは分からない自分を含むほぼ全ての人には、今の悠太の表情はきっと読み取れないだろう。
何か心の距離が遠くなっていくのを感じる自分がいた。
そんな話をしているうちに階段についた。
「さっ、話を戻すね。僕たちのクラスは一階にある一年Eクラス。多分だけど一週間くらいでイリーはSクラスに行くけどね———」
一階へ通じる階段に足をつけたところに、
「上代くん」
突然上から、女の人の声がした。
この声の主は悠太の記憶に強く刻まれている人間の中の一人……クラスの委員長こと
「明華さん。どうかした?」
国光明華だった。
少し灰色がかった髪の色は日本人にしてはインパクトが強く、クラスの中で一番最初に名前を覚えた人物でもあり、学園長の娘でもある。
「今日の日直は代わりに行いました、有難く思ってください」
それだけ言い残し、そのまま上の階からイリーのことを目で軽く捕らえたまま、悠太の隣を通り過ぎる直前、悠太は明華に声をかける
「明華さん、もしも教室に向かうんだったらこの子も一緒に連れてって。僕…少し用事を思い出しちゃって……」
イリーは不安そうに悠太の袖を握る。
そんなイリーの表情を見てやめた方が良いと悟った悠太はやっぱり自分で連れて行こうと断ろうとすると、
「いいですよ。これで上代くんに借りを作ることが出来ますから」
断る前に明華はイリーの腕をつかみ、悠太から離すように引く。
「行きますよ、そこの人」
強引に一階に連れて行かれるイリ―の表情はとても嫌そうな表情で、寮に帰ったらきっと愚痴を零されるのだろうと一瞬で悟った。
「さて、師匠に電話するか…」
携帯を取り出し、階段を上がり四階にある学園長室に向かう悠太だった。
◆
「あの」
「何ですか?」
二人は階段を下り一階に到着しても尚、殺伐とした雰囲気だった。
「そろそろこの手を離さないと……灰になりますよ?」
先に殺伐とした雰囲気を壊したのはイリーだった。
魔力ではなく幾千もの戦いを楽しんできた狂者としての殺気が明華の体に突き刺さった。
が、
「ふふっ」
明華は不敵に笑った。
「可愛い殺気ですね?世界最強さん」
階段を下り、昇降口の前に来た二人。
「……………何がおかしいのか見当もつきませんが、貴方はいずれ灰にしてやりますよ」
普通の学生ならばここで既に意識はないであろう殺気と怒気が含まれた声音だった。
その怒りからなのか微かに金色の魔力が揺らいでいた。
だが、明華も普通ではなかったようだ。
むしろリラックス状態の時の余裕のようなもが表情に現れる。
「これが〝次世代〟の最強を名乗る人物ですか……」
イリーは明華の表情を見た瞬間に全身が泡立った。
「大したこと……ないですね」
揺らめく灰色の魔力が明華の瞳に纏っていく。
「まさか…………その力」
イリーがその先を言おうとした瞬間————
「いいですか?その先を声に出したら、この魔導区域に〝天災〟が降りかかりますよ」
先程自分が放った殺気よりも更に尖っていて、濃密な殺気を放つ。
感じるのは明確的な殺意と、狂気……
「こんな近くにいたなんて、驚きです」
「そうかしら?さっきまでもっと近くにいたのに」
と小さく笑い、ついて来いと言わんばかりに先を歩く。
遠くを見ると一年Eクラスと見えてきた。
廊下の外まで聞こえる位に騒がしく不特定多数の人数が楽しそうに話しているのがよく分かるが、問題はここから。
「アメリカ皇帝の次女、イリーガル・アルバドフ、別名〈壊滅王〉」
「………」
「ここで成長するといいですよ。聖剣杯に出てれば他の最強と会えるかもしれないですしね」
明かな強者の余裕。
それが嫌に強調された笑みをイリーに向ける明華は一人足早に教室の中へ入って行った。
「〝魔女〟如きが…………」
と、思わず口に出してしまった。
明らかに自分より下に見ている明華に対して少し頭に血が上ったようだだが、これは本当にまずい状況だというのは聞いていなかった明華もイリーも分からない。
もう既にイリーは明華の言っていたことを憶えていない様子だ。
〝天災〟が降りかかるということを…………