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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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カロリックの憂鬱

よろしくお願いします。

 村に騎士が来てから一週間がたった。

 話し合いの結果、アスナリアの仕事は村を守ること全般を任されることになる。

 これは数多くの魔道具を持っているアスナリアが最適だから。

 さらに、アスナリアは二つの魔道具を提供した。


『石造りの壁』

 単なる石ころにしか見えないが、ちゃんとした魔道具だ。

 これは本来なら拠点をある程度守るだけの消費アイテムである。試しに使ってみたら、若い獣人十人掛りでも壊せない石壁が村を囲むように現れた。

 ただこれは、数に限りのある消費アイテムなので、最後の手段として、村長の家に数個置いておくに留めておく。


『魔封じの珠』

 呼んで字の如く、一定時間魔法使用不可の空間を作り出す消費アイテム。紫色に輝く綺麗な球だ。


 若い獣人に、魔法に対抗出来るように出来ないか?と言われ、アスナリアは難しいと首を振る。

 確かに魔法耐性のある装備などはあるが、数に限りがあるし、アスナリアがいたら『魔法障壁(マジックシールド)』で事足りる。

 さらに急に強くなり、調子に乗られるのも困る。

 いくらアスナリアがこの世界では飛び抜けているとはいえ、全てに目を配るなど不可能なのだから。

 だから、若い獣人にはこのアイテムを人数分渡しておいた。


 実はこれと同じ効果を持っていて、しかも使用回数に制限がない『魔封じの杖』をアスナリアはセリナにこっそりと渡していた。

 これは他の獣人には内緒のことだ。といっても杖なのですぐにバレたが、他の獣人は生暖かい目をするのみだった。

 あまり無目的にアイテムをばらまいて人間に奪われると、アスナリア自身の首を絞めることになるので、この程度で留めておいた。


 後は只管に村の周辺を見回り、獣人を攫おうとした冒険者を潰して回る。

 これが一番骨が折れる作業である。

 まず見た目では判断がつかないからだ。

 だからアスナリアは、姿を『不可視(インビジブル)』で消して、冒険者の後を付いて回った。

 実はこの魔法は、一定時間敵に発見されないだけの魔法だったのだが、現実になると実際に透明になる魔法になっていた。因みに攻撃動作に移るか、誰かと接触すると解除される。

 そして、冒険者の会話を盗み聞きして依頼内容を推測し、潰すかそのままかを決定する。


 その時に実はセリナと一悶着あった。


「ちょっとアスナリア!何よ!その魔法は!そんなこと出来るなら覗き放題じゃない?!」


 セリナが目を吊り上げアスナリアに詰め寄る。

 アスナリアは心外だとばかりに顔を真っ赤に染める。


「そんなことに使わないよ!それに獣人なら匂いで分かるでしょ?!」

「そんなことですって?!あっそう!そうね。アスナリアはロリコンだったわね」

「ろりこんってな~に~?」


 しないと言ったにも関わらず、何故かさらに目を吊り上げたセリナは、側に居たマチュピアを引き寄せ、頭を撫でる。


「マチュピアはアスナリアから離れましょうねぇ。危ないから」

「危なくないよ!」

「アスナリアはロリコンだったのかにゃ……。知らなかったにゃ」

「ちょっとファスミラまで?!ほんとに止めてよ!」


 さらに近くに居たファスミラまでもが胡乱な視線をアスナリアに向ける。

 若干軽蔑が混じっているのは気のせいではないだろう。

 風評被害も甚だしいが、セリナの言い分もわかるアスナリアであった。



 今ユンダの街の冒険者組合は、次第に人が少なくなってきていた。これは比喩ではなく、本当に目に見える頻度で冒険者がいなくなっているのだ。


「おいおい、今度はBランクまでかよ……」

「その獣人どんだけだよ」

「でもその獣人に殺られたとは限らないんじゃねえか?」

「バカいうなよ。例の依頼をしに行って、達成の報告もなしに帰ってきてねえんだぜ?殺られたとしかおもえねえだろ?」

「それもそうだな……」


 その会話を横目で眺めながら聞き、カロリックはリーダーであるパーキンを見る。

 そこまで強い個体が獣人に出てきたのは初めてで、冒険者組合も初めは誰かが何とかするだろうと楽観視していた。

 だが、事ここに至って、本格的にこの獣人について問題視し始めていた。

 しかし、当然ながら依頼を強制的に受けさせるなど出来る筈もなく、結果、『忘却の空』に無言の視線で要求をするしか手が無かった。

 これ以上は本当に不味いんじゃないのか?私達の出番じゃないのか?とカロリックは目で訴えるが、気付いているのかいないのか、パーキンはそれを無視している。

 漸くこちらを向き、小声でカロリックに話し掛けるパーキン。


「カロリック。まだだよ」

「……?まだとは?」

「たかだが獣人一匹の掃除なんていつでも出来る。でも、依頼料は人攫いと変わらない。それじゃあねぇ」


 カロリックは漸く気付いた。パーキンは依頼料が上がるのを待っているのだ。

 確かにこの状況が続けば、いつかどこかの貴族なり商人なりが、高額の依頼として組合に出してくるだろう。──表向きの依頼は別として。

 パーキンはそれを待っているのだ。

 このせこいとも思われる行為だが、カロリックは反対はしない。

 体一つ命を張って依頼を達成するのだ。依頼料が吊り上がるのなら上がるまで待つべきだ。

 早く依頼を受けて欲しいなら、組合の自腹でも何でもいいから、早く依頼料を上げればいい。

 だが、一つだけ懸念がある。


「でも、それじゃこの街の冒険者組合がボロボロになるかもよ?」

「そうなったらそうなったで、違う街に行けばいいじゃん」


 カロリックは、なるほどと心の中で頷いた。

 カロリック達『忘却の空』は、そこまでこの街に愛着など無い。それはブラウディアとドーランも異議は無いだろう。


「納得したよ」

「それはよかった」


 カロリックに満面の笑みを向けるパーキン。

 そのまま組合を出る『忘却の空』の面々。

 組合の受付は、それを黙って見ているしか出来なかった。


「しっかしよぉ。一度その獣人と手合わせしてみてーぜ!俺達のランクの依頼料になるまで潰されるんじゃねえぞ!」


 バシッと手を合わせ勇ましく吠えるドーラン。

 背中に背負った大剣も、あたかも武者震いをしてるように、それに合わせてガチャンと鳴る。


「ったく。本当に戦闘バカだな」

「ブラウディアも人の事言えないよ?」


 呆れたように呟くブラウディアの言葉に、目敏く気付いたパーキンが突っ込みを入れる。


「おいおい、俺をこんな戦闘バカと一緒にするなよ」


 仲間の馬鹿話を聞き流しながら、カロリックは一人思考の渦に沈み込む。

 パーキンは魔法を使うということを甘く見ている節がある。

 自身が回復魔法しか使わないからだろう。

 攻撃魔法は使い方によっては絶大な効果を引き出すのに。

 獣人はこちらが魔法を使うと途端に驚異が無くなる。

 これはもう常識と言っても過言ではない。

 だが、近接のみで獣人と戦うと、当然ながら驚異が増す。

 具体的なランクでいうと、CランクからAランクまで討伐ランクは跳ね上がるだろう。

 恐らく『魔法障壁』だけしか使えなくても、そこまで上がるだろう。

 そこに攻撃魔法が加わればどうなるか?


 攻撃魔法は主に三段に別けられている。

 一段の魔法が使えれば(その中でも上下はあるが)御の字で、二段が使えれば王国に宮廷魔道士として招かれる。

 三段は神話の領域で、人間が使えたという話は聞いたことが無い。

 Sランクのカロリックは当然ながら二段まで使える。

 だからこそ思う。もしその獣人が二段まで使えたらと。

 怖気がカロリックを包み込む。

 カロリックと同等の魔法を操り、獣人の身体能力を持っている存在。


(なんの悪夢なんだそれは?)


「どうしたカロリック?」


 ブラウディアの言葉で現実に引き戻される。


(考え過ぎだな……。すぐネガティブになるのが私の悪い癖だ……)


 困難を一緒に乗り越えてきた仲間達を見る。

 頼りになる仲間だ。この仲間とならドラゴンだって討伐可能だろう。

 カロリックはバカな考えを頭の隅に追いやり、自分を納得させるようにうんと頷き確信する。

 今回の獣人もいつものように仲間と一緒なら倒せると。


(それにいざとなったら……)


 カロリックは右手に持つ真っ白い杖を見つめる。

 数年前に太古の遺跡で発見した、『瞬間移動(テレポーテーション)』の魔法が込められた杖。

 この杖で幾多の危機を乗り越えてきた。

 カロリック達『忘却の空』の最後の切札でもある。


「何でもないよ。ブラウディア」


 不思議そうな顔をしているブラウディアにそう答える。

 その時一陣の風が通り抜けた。

 ブルッと震えて街の外れ、獣人の村があるほうを見つめるカロリック。

 カロリックは頭を振り、そのまま仲間と共に自信を漲らせながら歩き出した。



 領主館の中でロードルスは机に座り、書類に目を通していた。

 もうベズライヤのことは半ば諦めている。

 最近は報告すらもまともに聞いてはいなかった。

 ここまで足取りが掴めないのはもう死んでいるのだろう。

 諦めてはいるが、気持ちの整理はついてはいない。

 ふとした時に、従者に理不尽に怒りをぶつけていた。

 ロードルスが一枚の羊皮紙を取上げ、見つめる。

 冒険者に関する報告だ。基本的に冒険者組合は政治から切り離されており、領主だろうとノータッチが原則だ。

 それにも関わらず、ロードルスまで報告書が上がるのは非常に珍しい。

 肝心の内容だが、ユンダの街の冒険者が激減しているという報告だ。


「ふん。冒険者風情の事など知らんよ」


 しかし、あまり放置も出来ない。冒険者が街の周りの魔物を狩って、治安が良くなっているのも事実だ。


「騎士の見回りを増やすか……」


 そう呟き、ゴミ箱にヒラヒラと羊皮紙を入れた。

 コンコンコンと扉がノックされる。


「入れ」

「失礼します」


 入ってきたのはメイヤという女で、この街の税収一切を取り纏めている。

 黒髪を一つに束ね、後ろに垂らしている。

 かなりの美人なのだが、いつも無表情でいる為あまり男受けが良くない。


「どうした?」

「そろそろ獣人の村の徴税の日なので、騎士を何人か用意していただけますか?」

「もうそんな日か……」


 獣人の村に税を取りに行くのだが、これがとてつもなく面倒臭い。

 まず獣人の村には貨幣などなく、全てが現物で納められる。

 ありとあらゆる動物の皮や干した肉、取れた野菜や小麦などが山と積まれるのだ。

 これをユンダの街に持ってきて、さらに貨幣に換える。

 文字通りの二度手間だ。

 だからロードルスは、一刻も早く獣人が居る村を潰して人を送り込みたいのだ。

 その為結構な重税を課し、冒険者組合の人攫いを見て見ぬふりをしているのだが、意外としぶとい。


「分かった。いつも通り三人でいいな?」

「いえ、今回は十人。それに魔道士も何人か用意してください」

「何故だ?」


 確かに三人の騎士では、獣人が一斉蜂起したら太刀打ちは出来ない。

 だがそんなことは今まで起こったことがない。いや、起こせないが正しい。

 そんなことをしたら、領軍を差し向けられ村が壊滅する。

 それぐらい獣人の足りない頭でも分かるだろう。

 そんなことぐらいこのメイヤなら、説明せずとも分かるだろうに。実際、今まで三人の騎士で徴税に行っていたのだから。


「理由はなんだ?」

「直接見たわけではありませんが、魔法を使う獣人が居ます。その獣人に冒険者が尽く返り討ちにされています。ですので、念の為に」

「なんだと?」


 それなら納得出来るが、腑に落ちない。

 そんな獣人今まで聞いたこともない。

 ロードルスの獣人の認識は正に脳筋の一言。

 だが、メイヤがここまで言うのなら信じるべきなのだろう。

 実際に冒険者も返り討ちに遭っているのだろう。

 数を減らしている報告とも合致する。


「分かった。用意しておこう。ただし、その獣人を観察して報告するように」

「畏まりました」


 一礼をして部屋を去るメイヤ。

 この時ロードルスはまだ安穏としていた。

 たかが一匹の獣人に何が出来ると。

 すぐ動かせる領軍は千はある。もし調子に乗って、その獣人が反抗しようものならしめたもの。

 直ぐ様軍を送り、壊滅さしてやる。

 そう思い、ロードルスは又書類に目を落とした。

お読みいただきありがとうございます。

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