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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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ユンダの街

よろしくお願いします。

 男は朝からイライラと歩き回り、従者に当たり散らしていた。

 その理由は従者には明確に分かっている。

 男の息子であるベズライヤ=ルワンダが、もう一週間も行方知らずになっているのだ。

 騎士団隊長のロゼルに預け、共に盗賊退治に送り届けてから帰ってきていないのだ。

 当然ロゼルはもう戻って来ていて、話を聞いている。

 盗賊退治を終え、後始末に追われているどさくさに紛れて消えていたらしい。

 見かけた騎士によると、十名程の騎士を連れて行ったと。

 盗賊退治まで確かに居た。

 なので、その後に盗賊なり魔物なりに襲われたのだろうとロゼルは推測していた。

 それで納得できるはずもなく、男は必死に行方を追っていた。

 レイブラント王国の最西端にあるルワンダ辺境伯領。そこを治めるロードルス=ルワンダ辺境伯。領主館は、領内最大規模の街であるユンダにある。

 これが男の肩書きだ。

 ロードルスはあらゆる伝手を使い、息子の行方を追っていたが、中々成果は出ない。

 故に日々機嫌が悪くなっていた。


「ええい!まだ何も分からぬのか?!」

「はい。商人、冒険者、その他領民にまで聞き込みをしましたが、一切行方が掴めません。ただ……」

「なんだ?!」

「最近獣人の村付近に行った冒険者が、かなりの数帰ってきていないのです」

「そんなこと息子とは関係が無かろう!」

「はっ!申し訳ありません!」

「一体何処に行ったのだ……」


 そして、又イライラと歩き出す。

 最近は毎日これの繰り返しだ。

 これでは従者もいい加減嫌になる。そもそもベズライヤは下の者にあまり慕われていない。いなくなって精々してる従者も少なからずいる有り様だ。

 では、父親である領主は好かれているのか?と聞かれればそれは又別の話だ。


「旦那様」

「何だ?!」

「騎士団隊長のロゼル様がお見えです」


 扉が開かれ、不精髭を生やした男が入ってきた。

 まだ許しもしていないのにとロードルスは憮然とするが、ロゼルには柳に風である。


(貴族の礼儀も知らない成り上がりが……!)


 ロードルスは、今回ただでさえロゼルに貸しができたと感じている。さらには息子の軍規違反。

 ロードルスが今最も会いたくない人物であった。


「失礼する」

「これはこれは、ロゼル隊長。本日はどういったご用件で?」

「そろそろ王都に戻りますので、その挨拶をと」

「それはご丁寧にありがとうございます」


 上辺の挨拶が終わり、ロゼルが部屋から出ていく。

 それを苦虫を噛み潰した表情でロードルスは見送っていた。



 領主館を出たロゼルは、屋敷を振り返りポツリと呟く。


「ふん。狸めが……」

「何か?」

「いや、何でもない」


 部下の言葉に手を振り答える。

 あの親子は共にロゼルは好きになれなかった。

 強者に媚び、弱者に横暴、正にロゼルとは正反対の性格をしているからだ。

 馬に股がりのんびりと進む。


「では最後に獣人族の村を見てから帰るぞ」

「はっ!」


 物好きだなと部下は思うが、それを表に出すことはなかった。


 今回の盗賊退治に召集した王都の騎士は約十名。

 何れもロゼル自身が鍛え上げた精鋭だ。

 これにルワンダ辺境伯の領軍より二十名の計三十名で盗賊退治に当たった。

 こんな辺境の地の盗賊退治を、王都の騎士団隊長が引き受けたのは、ロゼルが獣人族の村を見たいからだった。

 勿論王都の近くにも獣人族の村はあり、ロゼルは単独で様々な援助をしている。

 ロゼルはここの獣人族の村の現状を見ておきたかったのだ。

 漸く仕事が終わり、それが叶う。


 十一騎の騎馬が獣人族の村に近付く。

 それを見た村の入り口に居た獣人が、慌てて村の中に駈けて行く。


(ちっ、やはりか……)


 ユンダの街では獣人の扱いは良いものではなかった。ある程度の納得と、大きな不満がロゼルがユンダの街で感じたことだ。

 国の方針として仕方ないと納得しつつも、感情が許さない。

 村の入り口に付き、ロゼルが周りを見渡してどうしようかと思案する。

 周りに獣人が居ないのだ。

 暫くしてから漸く若い獣人が数名ロゼルの前に現れた。

 さすがに無視はしないか。と、ロゼルが安心し、一番前にいる獣人に話し掛ける。


「村長にお目通り願いたい」

「ロゼル隊長ですか?」

「む。そなたは……。あぁ、盗賊の塒に居た獣人か!無事村に戻ったのだな」


 あの時は少々立て込んでいて、村に送る余裕があまり無かったのも事実。

 ちゃんと村に戻れたようで、ホッと胸を撫で下ろすロゼル。

 ロゼルの身元が判明したからか、漸く他の獣人からの視線が和らぐ。

 部下を抑えるのも大変なので、それも込みで助かった。

 そもそも行くと連絡すらしていないのだ。

 警戒するのは当たり前だろうに。

 ロゼルは後ろの部下を見て、溜め息を吐きそうになるがなんとか堪える。

 優秀な部下なのだが、やはりそこでロゼルとは齟齬がある。


「では村長の家まで案内します」


 その言葉を聞き、ロゼルは頷き馬から降りる。

 周りを見渡し案内の獣人に付いていく。

 少なくない幼子が走り回り、こちらを遠巻きに見ている。

 やはりどこか怯えた表情だが、思っていたよりマシである。

 ロゼルが以前王都の獣人族の村に行ったときなど、悲鳴を上げて逃げられたものなのだが。


「ようこそいらっしゃいました。私がここで村長をしておりますアズスという者だぁね」

「うむ。騎士団隊長のロゼルだ」

「して、今日はどのようなご用件で?見ての通り貧しい村だぁね。何も差し出すものなど……」

「いや、そうではない。私の個人的な訪問だ。おい!」


 ここで後ろの騎士を呼び、持ってきていた物資を出す。

 そこには、純粋なるロゼルのポケットマネーで買った食料や布などが山と置いてあった。


「これは納めてほしい」


 アズスは目を見開きロゼルを見ている。

 大体の第一印象はこうだ。今までの経験から慣れているロゼルは、特に気にすることなく物資の説明をしている。


「アスナリアの言った通りだぁね」

「ん?どういうことなのだ?」

「以前あなた様が盗賊の塒で、獣人にも関わらずしっかりと対応してくれたと聞いただぁね。こんな人間もいるのかと驚いていただぁね」

「おぉ、そなたがか。そうか、アスナリアというのだな」


 アズスの横に居るアスナリアの目を見ると、真っ直ぐにこちらの目を見て頷いている。

 ロゼルは俄に沸き上がる歓喜の気持ちを抑えて、努めて冷静に振る舞う。


(そうなのだ。このように徐々に溝を埋めるしかないのだ!)


「そうだ。アスナリアといったな。あの時一際豪華な鎧を着ていた騎士を覚えているか?あの騎士の行方が分からなくなったのだ。何か知ってはいないか?」


 ロゼルからしたらほんのついでで、有力な情報など入るとは思っていなかった。

 だが、アスナリアの目が若干泳いだのをロゼルは見逃さなかった。


「い、いえ、知りません」

「……そうか」


 何か知っていて隠している。

 ロゼルはそう確信した。


(まさかこの村で……?)


 俄には信じられない。いくら獣人の身体能力が人間のそれを上回っているとしても、一人の逃亡も許さず十人からの騎士を壊滅出来るとは思えない。

 しかし、アスナリアのあの振る舞い。

 あれは自分に自信があるものの振る舞いだ。

 盗賊の塒でも一切震えていなかった。

 そこまで考えロゼルは頭を振る。

 そして、あんな親子の為に骨を折るのはごめんだ。とばかりに話を変える。


「領主に何か不満はあるか?可能なら私がルワンダ辺境伯に伝えておこう」

「でしたら、税率を下げていただきたい。六割も取られたら、少しの不作で行き詰まってしまうだぁね。人攫いの取り締まりと後は……」


 次々出てくる不平不満。

 ロゼルは開いた口が塞がらなかった。

 まさかここまで酷いとは。

 税が六割?気紛れに役人が若い獣人を攫う?徴税官の暴力は当たり前?

 冒険者による人攫いは王都でも憂慮すべき案件だが、ここはそれどころではない。

 そもそも取り締まるべき領主が獣人を虐げているのだ。


「う、うむ。分かった。全てルワンダ辺境伯に伝えよう。しかし、私は王都の人間で、しかも貴族ではないので……」

「分かっています。今さら変わるなんて思ってないだぁね」


 諦めて項垂れるアズスを見て、なんともやるせない気持ちになり、怒りが沸いてくる。

 なにが溝を埋めれば……だ。これが今の王国の現状なのだ。

 所詮個人では限界がある。


「では、私はこれで失礼する」


 直ぐ様ユンダに戻り、あの領主に一言言わなければ気がすまない。


「隊長!もう王都に向かわなければ!」


 村を出てユンダに向かうと部下に告げると、部下に苦言を呈された。

 本来ならもう王都に向かっていなければならない。

 この村で一日費やしたから日程に余裕が無いのだ。


「む。確かにそうだな……」


 心残りはいくらでもある。しかし、所詮ロゼルも国に雇われている身だ。

 仕方ないかと断腸の思いで決断し、獣人の村に向け一礼をする。

 このままにしてはおけない。

 そう心に誓い、ロゼルは王都に向かい馬を走らせた。



 その頃ユンダの街の冒険者組合に、一組の冒険者パーティーが転がりこんできた。


「わかったぞ!最近の冒険者の失踪の謎が!」


 もう陽も大分傾き、依頼完了の手続きをしていた冒険者達は、その言に注目する。


「あの獣人の村付近のやつか?」

「結局魔物のせいになったんじゃなかったか?」

「いやいや、それなら真っ先に獣人の村がなくなるだろうが?」


 ざわざわと思い思いの感想を言い合う冒険者達を見ながら頭を振り、そうではないと主張する。


「そうじゃないんだよ!一匹の獣人がやってやがったんだ!」


 はぁ?と皆の顔が困惑に染まる。

 そんなことがあるわけがない。俺達は冒険者だぞ?

 基本一パーティーに一人は魔道士が居る冒険者を獣人一匹が殺す?なんの冗談だよ。

 様々な反論を受けるが、それでも自分が吐いた言葉を飲み込むことはしなかった。


「この目で見たんだよ!俺達のパーティー皆見ている!その獣人は魔法を使いやがったんだよ!」


 ここで漸く周りの冒険者達は信じ始めた。


「魔法を使う獣人だと?」

「それならまだ納得出来るな……」


 あの身体能力で魔法まで使われたら、確かに下手な冒険者では歯が立たない。

 ではそうではない上の冒険者ならどうか?と一斉にある一組の冒険者に視線が注がれる。

 人間として最高峰の戦力とされる、Sランクの冒険者パーティーである『忘却の空』だ。


 そのパーティーは四人の男で構成されている。

 あの有名な騎士団隊長のロゼルと互角と言われている剣士ブラウディア。

 黒い髪を無造作に伸ばし、腰には一本の剣を履いている。身軽さを重視した軽鎧を着て、油断の無い目付きをしている。

 そして、フルプレートを着込んでいる戦士ドーラン。

 顔の表情は兜により見えないが、その厳つい装いとは裏腹に、朗らかな声で仲間と話している。

 さらに、正にこれが魔道士という格好をしているのが、このパーティーの知恵袋である魔道士カロリック。

 真っ黒なローブに真っ黒な三角帽子。ただ一つ、黒揃いの中に一際目立つ真っ白な杖を持っている。

 最後の一人がリーダーである神官パーキン。

 金髪を綺麗に整え後ろに流している。神官にしてはガッチリと鎧を着込んだ装いだ。


「俺達はごめんだぜ。人攫いなんて仕様もない依頼をしたくないしな」


 ブラウディアの、その歯に衣着せぬ言い方に組合の人間は眉を顰める。実際に人攫いをしろなんて依頼を組合が出せるわけもなく、皆暗黙の了解として受けていたのだ。

 それを真っ向から人攫いの依頼と言われたら組合は面白くない。

 だが、文句を言う人もいない。

 それだけこの冒険者に皆頭が上がらないのだ。

 ただ一人だけ乗り気な男もいた。ドーランだ。


「面白そうじゃねーか!」

「又そうやって厄介事を受ける……。リーダーは?」

「結局人攫いに行って返り討ちにあっただけでしょ?僕達がなんで尻拭いしないといけないのさ」


 カロリックも乗り気ではないが、パーキンの意見によっては……というところか。

 だが、それを受けたパーキンはハッキリと断る。

 これで困るのが冒険者組合だ。

 今まで少なくない獣人を攫っては、貴族や商人にデカイ顔をしていたのに、最近は一匹足りとも連れてこれてない。

 徐々に援助という名の賄賂が少なくなるのも目に見えている。獣人からしたら、そんな勝手なことと怒るだろうが。

 受付は溜め息を吐き、結局は、誰かがその獣人をなんとかするのを待つしかないなと一人ごちるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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