戦争-4
本日二話投稿の二話目です。
よろしくお願いします。
五十メートル上空で睨み合うアスナリアとテュイ。いや、正確にはお互い睨んでなどいない。アスナリアは無表情。そして、テュイはヘラヘラと笑っている。
「魔道士はねぇ?僕には絶対勝てないんだよぉ?」
アスナリアは杖を突き付けたまま、ピクリと少しだけその言葉に反応を示しテュイを観察する。そして、「なるほど……」と一言呟いた。
「『地獄の業火』」
そして、そのまま魔法を放つアスナリア。
業火がテュイを包み込む。天を焦がすは地獄の焔。かつて、騎士の鎧すらも溶かして消した炎を受けたテュイは──笑っていた。
「きゃはぁ!何この魔法?!凄いねぇ!でも効かなぁい!」
バッとテュイが手を振ると同時に炎が消え去る。
神話の領域である三段の魔法。それ以上である最上級の魔法が効かない。
この事実に少なからずアスナリアは驚愕した。理由はある程度分かってはいるが、実際目の当たりにするのでは話が違う。
「次は僕の番!『多重魔法・風斬』!」
煌めく風の刃がアスナリアを襲う。しかし、アスナリアは動かない。無効化出来るのが分かっているから。
渇いた音が聞こえる。数え切れない程に。
全く効いていないアスナリアを見て、テュイが中空にも関わらず地団駄を踏む。
「なんなの?!なんで魔法が効かないの?!」
「いやいや、お前もだろ?」
魔法は無駄だなと確信したアスナリア。常闇の杖をアイテムボックスに戻して、新たな武器を取り出す。
取り出したのは深紅に染まる神槍グングニル。
「槍?もしかしてそれを僕に当てるつもりなの?っていうかそれ何処に持ってたの?」
ぷぷぷと笑いながらアスナリアを馬鹿にするテュイ。しかし、そのニヤけた顔は直ぐに消えることになる。
──ビュン!
尋常でないスピードで迫り来る槍に、テュイは当然のように反応出来ない。
「いだいっ?!」
深紅の槍がテュイの腕を貫きそのままアスナリアの手に返ってくる。
(あれ?頭狙ったんだけどな?距離があるからか?)
ゲームではどうだったけなぁ。とアスナリアが悩んでいる間に、テュイは回復魔法にて腕を治している。その額にうっすらと汗を流しながら。
テュイの着ているローブは帝国の国宝で、攻撃魔法を一切通さない。
今までの戦闘では、その効果のお陰で怪我一つ無く勝つことが出来たテュイ。
当たり前だろう。飛行の魔法ですら使い手を選ぶと言うのに、魔法以外でどうやって空にいるテュイを倒せると言うのか。
唯一の弱点とも言える室内を除いては、テュイはこの世界では絶対的な強者だった。
そう。この世界ではだ。
アスナリアはグングニルという必中の武器を持っている。テュイのローブの効果を知っているアスナリアからしたら当然の選択と言えよう。
「ど、どんだけコントロールいいんだよ……」
少し的はずれの感想を抱くテュイ。一々その間違いを正す義理は無いのでアスナリアは黙っている。
「ほら、もういっちょいくぞ」
グサッという音を残してテュイの足が千切れ飛ぶ。
「ぎゃあああぁぁ!」
(何だよあの槍?!何で当たるんだよ?!)
飛行の魔法を制御出来なくなったのか、フラフラと地面に向かい降りていくテュイ。
──勝てない。
テュイの必勝のパターンが通用しない。テュイは幼いながらもそこまで馬鹿では無い。ストラニアと話をしては色々な知識を吸収していた。そして、絶対に死ぬなと厳命を受けてもいる。
「『転移門』!」
「あっ?!」
(あちゃ……。逃げられた……)
まさか転移門を使えるとは思ってなかったアスナリア。
まんまと逃げられたが、そこはアスナリア。まっいっかと気楽に思い石壁へと向かう──前に、ロズベルの前へとスタンと降り立つ。
「ひっ?!」
アスナリアを見て、ズザァと派手な音を立てながら後退る。
周りの騎士が漸くロズベルを救おうと動き始める。
──しかし、
「『飛行』」
ロズベルの首根っこを掴まえて、石壁の中へと誘う。
ドサッとロズベルを放り投げてからアスナリアは転移門を唱える。
「ズー、先に行ってて」
アスナリアが何をするかに気付いたズー。だが、とても止める気にはならない。戸惑う近衛兵を連れて黒の塊に身を投じた。
「さてと」
「お、俺はこの国の王になるのだぞ!」
お前は何を言っているのだ。という視線を向けてアスナリアはロズベルに近付く。
「お前は本当に馬鹿だな」
この状況でもそんなことを宣う神経はある意味尊敬に値するが、勿論そんなことは口には出さない。
「この石壁は後数時間は消えないんだよ」
ロズベルが何のことだと訝しる。
ズーをあれだけ追い詰めた男なのだ。アスナリアは当然ロズベルを許す気は無い。
そして、
──普通には殺さない。
鈍い音が響く、その音は石壁に阻まれて外には聞こえない。
変わりに石壁に反響し、その中でグワングワンと耳に五月蠅い。いや、本当に五月蝿いのはロズベルの悲鳴だろうか。
顔、腕、足、肋骨等のあらゆる骨を折る。
ロズベルは血を垂れ流し、意識が朦朧としているようだった。
「もしかしたら助かるかもね」
コンマ何パーだろうけど。と、心の中で付けたして、アスナリアはその場を後にした。
門を潜ればユンダの街だ。アスナリアには見慣れた場所である冒険者組合。受付にはいつもと同じ様にイシュルが座っている。
近場で戦争が起きるからか、組合内に冒険者の姿は見えない。
「アスナリア殿……。ロズベルは?」
「うん?殺したよ」
ズーは、「当然の報いか……」とだけ呟く。少しだけ寂しそうなのはミュレルの兄だからだろうか。だが、ここまで大それたことをしたのだ。どのみち捕まれば死刑は免れないだろう。
騎士達はズーの要望により殺さないでおいた。死刑になるか、そのまま騎士として使うかを、ズーとアスナリアでは判断がつかなかったのだ。
「あっ!アスナリア様!」
先程から何度か同じ様に現れたからなのか、然程驚いた様子を見せずにイシュルが声を上げる。
「勘弁してくださいよ?!国王陛下とか始めて会ったのですよ?!」
どうやら、アスナリアがイシュルに王族を押し付けたのが気に入らないようだ。
それはそうだろう。市の職員に総理大臣を接待させるようなものだ。
「ごめん、ごめん。他に適当な所が思い付かなくて」
言葉だけで謝り、アスナリアは手をピラピラと振る。イシュルは溜め息を吐き、もう諦めてるといったようにこの話題を終わらす。
「陛下と王女殿下はちゃんと領主館に送り届けましたよ」
「ありがと」
そして、アスナリアはズーと近衛兵を連れて領主館に向かった。
領主館は突然現れた国王とミュレルに驚きはしたが、当然歓迎すべきことなので、手を挙げて喜んでいた。
取り急ぎ身支度を整えてもらう為、湯を張り、新たな服をロードルスが従者に用意させる。
完璧な装いをした国王とミュレルは、会議室になっているロードルスの執務室へと歩を進める。
そこには既に、連絡を受けたロゼルと大貴族が待ち構えていた。
挨拶もそこそこに、国王が開口一番ベルメールの裏切りを告げる。
「はっ?!ベルメール伯が?!」
ヴィルマルク侯の呆れを含んだ大声が聞こえる。
国王はコクリと小さく頷き、肯定する。
今この部屋にいる全員の考えが一致する。このままでは負ける。と。
「一つだけ、不確定ですが案がありますわ」
ミュレルが重い空気の中、口を開く。
「ただこれは、もしかしたら今以上の苦境を王国に強いる可能性を持っていますわ」
「何を言うておるミュレルよ。どのみちこのままでは王国が滅亡するのだ。よい。申してみよ」
「はい。お父様。アスナリア殿に頼むのです。自身が使える最高の魔法で戦端を開いてほしいと」
皆の顔は二つに別れた。先ずは肯定的なズーとロゼルとローグシェラー伯。そして、懐疑的な国王とヴィルマルク侯。
「しかしミュレルよ。十万の騎士相手に魔法などとは……」
国王のこの感覚は正しい。だが、間違ってもいる。世の中には、例外というものが必ず存在するものだ。
「正直に申しまして、私もアスナリア殿がどれだけ強力な魔法を使えるのかは分かりませんわ。然れど、真正面からぶつかるよりかは勝機が出てきますわ。お父様、アスナリア殿の魔法でユンダまで送ってもらいましたわね?」
「そうだな」
「あれは三段の『転移門』という魔法ですわ。永遠の雲に確認しましたが、三段の攻撃魔法もアスナリア殿は使えます」
今度こそ国王とヴィルマルク侯は言葉を無くす。
そして、部屋が静寂に包まれた時、コンコンコンと扉がノックされる。
「アスナリア様とズー様がおいでになりました」
「通せ」
アスナリアとズーが部屋に入ってくる。一礼をしたズーはそのままミュレルの後ろに、アスナリアはそのままロゼルの横の席に腰を落ち着かせる。
「アスナリア殿、此度は本当に助かりました」
「気にしなくていいよ」
ミュレルの言葉に適当に手を振り答える。
「──で、何時ぶつかるの?」
前置きも何も無しの単刀直入なアスナリア。
その不遜な態度に国王とヴィルマルク侯は眉を顰める。そして、当然それ以外のメンバーは冷や汗をかく。
「ごほん!アスナリア殿、少々言葉遣いが……」
「あぁ、すみません」
はぁ。とミュレルの溜め息の後、話題を変えるようにロゼルが答える。
「明日、でしょうな」
分かったと頷くアスナリアに、ミュレルが先程まで議題に上がっていたことを伝える。
アスナリアはこっちから注文しようとしていたので問題は無かった。『あの魔法』を使うのなら初っ端が一番いいと思っていたから。
アスナリアの肯定を受けて場にホッとした空気が流れる。
「アスナリア殿、どのような魔法を使われるのでしょうか?」
ミュレルとしては、アスナリアがどれだけの魔法を使えるのかを無理に聞き出すことはしなかった。
単純に意味があまり無かったというのが理由だ。だが、今は当然聞く意味がある。
「あぁ、うん。魔法と言うか何というか……」
ミュレルは小首を傾げてアスナリアを不思議そうに見つめる。
その、あまりにいつもの不遜なアスナリアとはかけ離れた態度に少々疑問を持つ。が、今から行う戦は王国の存亡を掛けた戦争だ。あまり細かいことは気にしていても仕様がない。
「えぇと。どのような魔法なのでしょうか?少しでも戦いを有利に進めるために聞いておきたいのですが?」
「え?」
「え?」
ミュレルとアスナリアが見つめ合う。お互いに不思議な顔をしている。
「いや、ですから、アスナリア殿の魔法の後にどのように攻めるかを──」
「ああ、そういうことですか。いや、大丈夫ですよ」
──何がだ?
アスナリア以外が持つ疑問。しかし、それには答えずにアスナリアは言葉を濁す。
「明日になれば分かるよ」
(言っても信じてくれないだろうなぁ)
アスナリアのその言葉にミュレルは聞くのを諦めた。ここで臍を曲げられても困る。
全ては明日には分かる。今はこのアスナリアの言葉を信じよう。
☆★☆
リューリュー大草原にて両軍が睨み合っている。その数は六万対十万。倍近くの差がそこにはある。
国王とミュレルは無事ユンダの街に来ているらしいが、帝国の勝ちは揺るがないだろう。
ストラニアは騎士十万の壁の奥、本陣に持ち込ませた豪華な椅子に座っていた。
「しかし……、テュイが負けたのは意外だったな……」
ストラニアの心配は唯一そこだった。
テュイがストラニアの前に足が千切れた状態で転移してきたのだ。まさかあのテュイをあそこまで追い詰める存在がいるとは思わなかった。
仮にテュイが敵にいたとしたら一直線にストラニアを叩きに来るだろう。それを防げるだろうか。
当然皇帝であるストラニアの周りには騎士の精鋭が護衛に当たっている。
「上空の警戒を少し増やすか……」
現れたテュイは、血が多く流れているのに三段の魔法を使った影響か、気絶していて、一日経ってもまだ目覚めない。まだ、本陣よりさらに後方にて治療を受けている。
戦端が開かれる前にどうやって負けたかを聞いておきたかったが、どうやらそれは叶いそうにないようだ。
騎士に魔道士をもう五名本陣に配置するよう命令する。何れも二段の飛行の魔法が使える猛者達だ。
さすがのテュイでも、飛行する魔道士に囲まれたら苦戦は必至だろう。
「出来れば手駒に加えたいところだが……」
テュイに匹敵する魔道士が王国にいるとは思わなかったストラニア。そんな傑物がこんな予定調和のような負け戦で失われるのは宜しくない。
しかし、もう手遅れだろう。どんな天才魔道士だろうと、生物であれば疲れという限界がある。そうなれば数に押されるのは明白だろう。
「逃げ回ってくれたら僥倖と言ったところか……」
ストラニアがそう頭で決断し、部下に進軍の命令を出そうとしたときに、王国側から何かが飛んできてくることに気付いた。
「降伏か……?」
ストラニアは一言そう呟き、ふんと鼻を鳴らした。受けるわけないだろうと言うように。
アスナリアは、国王が居る本陣から飛行の魔法を唱え、飛び立つ。
最前線を越えて、両軍の丁度中央。そこにアスナリアは降り立ち、ふぅと深呼吸を一つ。
ざわざわと両軍から雑音がアスナリアに送られるが、一切頓着せずに魔法を唱える。
ゲーム内では一度も使ったことの無い魔法。それは、人間に変化する魔法の進化系。だが、変化するのは当然人間ではない。即ち──第三の形態。
──「『神獣変化』」
魔力の渦がアスナリアを包み込む。眩しい光ではない。どちらかと言うと、吸い込まれるような魔力の光。それが、ぐるぐるとアスナリアの周りを回っている。
徐々にその光は膨れ上がる。離れているのに見上げるような大きさだ。
その光は不意に消え去る。何処かに飛んでいったのではない。アスナリアの中に忍び込むように光は消えていった。
現れたのは一匹の狼。いや、あれを狼と言うのには無理がある。では何だ?と聞かれても、答えれるものはこの場にはいないが。
ただ、一つだけ分かることはある。あれは神だ。それ以外に表現出来る語録を知らない。
六万と十万。合計十六万以上の人間と獣人が言葉一つも出せずに神を見ている。
これは夢なのか?そんな定番の問い掛けすら出てこない。
ガチャンガチャンと武器が地に落ちる音が聞こえる。それは始めは細波のような音だった。だが、次第にそれは、オーケストラの如くに奏でられる。何時何時までも続く武器と地面との協奏曲。
それでもいつかは終わりは来る。全ての兵が武器を手放した後は静寂が訪れた。
たっぷりとその静寂味わったアスナリアは吠える。
アスナリアからしたらちょっと大きな声を出しただけ。しかしそれは、普通の生物にはある一つの感情を与えた。
結果、全てが跪く。騎士、王族、獣人族、この場に居る全ての生物が跪いた。
この戦いにおいての死者はゼロ。いや、これは戦争とは言えないだろう。
そして、アスナリアの名前は周辺国家に知れ渡る。
獣人族の神として……。
お読みいただきありがとうございます。
完結とさせていただきます。




