表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
5/51

マチュピア

よろしくお願いします。

 騎士団が走り去った後には、アスナリアしか生きているものは居なかった。

 偶に忘れた頃に盗賊が逃げてくるが、アスナリアに目もくれず逃げるか、無謀にもアスナリアに襲い掛かり周りに屍を一つ増やしていた。

 すると、入り口の(騎士が来た)方から一際豪華な鎧を着て、馬に乗った騎士が悠然としながら現れた。

 えらく遅く来たなと、アスナリアが思ってそちらを見ていると、先頭に居た騎士と目が合い、こちらに向かって馬を動かした。


「何故獣人がこんな所に居るのだ」


 遥か高みからの声。正しく人間が獣人の上に立っていると認識している者の言い方だ。

 アスナリアは眉を顰める。

 何故こんな知りもしない奴から、こんな不遜な態度を取られなければいけないのか。

 言い返したい気持ちをぐっと堪える。

 今ここで騎士と事を構えるのは得策ではない。

 そんなことはいくら盆暗のアスナリアでも分かる。


「盗賊に攫われて騎士殿に助けていただきました。ここに居ろと言われましたので……」

「ふん。ロゼル隊長か……」


 それでアスナリアに興味を失ったのか、又悠然と奥に向かって馬を動かし始めた。


(何者なんだ?いや、今はそれより……)


 ロゼル隊長とは聞いた名だ。

 勿論面識はさっきが初めてだが、今日冒険者から聞き出した強者の中にその名があったのだ。

 王国騎士団隊長で冒険者の憧れの的。

 一度剣を振るえば、ドラゴンをも切り裂く剣技。

 性格は清廉恪勤の一言。冒険者のクラスに無理矢理当て嵌めるなら、Sクラスは間違いない。と。

 恐らく盛っていると判断したが、本当にドラゴンすら一撃なら、アスナリアの防御を突き抜けてくる。

 念の為警戒すべき人物だ。

 そのまま一人で三十分程待った頃だろうか、漸く怒号が聞こえなくなった。

 盗賊は全滅されられたのか、もうこちらに来る盗賊はいなかった。

 代わりにロゼル隊長が部下を伴い戻って来た。


「待たせたかな?」

「いえ、問題ないです」


 先程の騎士とは雲泥の差だ。顔は変わらず厳ついが、アスナリアを一人の人物として接している。


「君は何処で攫われてここに来たのかな?」

「ま、魔の森と村の間です」

「そうか……。そこまで手が伸びていたか……。それは我々国の安全を守る騎士団の不徳とするところ。すまなかったな」


 周囲がざわめく。獣人風情に、騎士団長足るものが謝るなど想像の外の事なのだろう。

 だがそれは徐々に尊敬の念に変わる。

 それは周りがアスナリアを認めた訳ではなく、流石はロゼル隊長だということだが。

 だが、ただ一人だけそうではない人物がいた。


「獣人風情に頭を下げるなど、流石は音に聞こえる騎士団隊長ですね」


 遅れて来ていた騎士だ。

 明らかにバカにしている。アスナリアをバカにしているのはしているのだが、本当の矛先はロゼル隊長だ。

 ニヤニヤと嫌らしく笑いロゼル隊長を嘲る。

 それに反応したのが周りの騎士だ。

 皆一様に睨むが、言葉には出さない。

 しかし、当の本人はどこ吹く風で、アスナリアに話し掛ける。


「村には帰れるか?送ってやってもいいが……」

「い、いえ!大丈夫です!帰れます!」


 人間なんて連れて行ったら怒られる。と思ったアスナリアが必死に固辞する。

 それを特に気にした風でもなく「そうか」と返すロゼル隊長。


(中々に出来た人物だ。こんな人間も居るのだな……)


 この世界に来て、始めて人間でもいい奴がいると分かった。

 ただそれは、アスナリアの中でそれ以上の感情を産むことはなかったが。

 ではこれで。とその場を離れるアスナリア。

 騎士の面々はさして興味も無さそうに見送る。

 しかし、その中に、何かを思い付いたような目付きで、アスナリアを見送っている人間がいた……。


「ふぅ。何か色々あったな……」


 飛行の魔法で帰る途中、今日の出来事を思い出し一人ごちる。

 考えてみたらまだこの世界に来て二日だ。

 もう少し落ち着いて生活が出来ればいいのだが、状況がそれを許さない。

 若干の眠気を感じながら──ふと思い出す。

 睡眠防止のアクセサリーがあったな。

 あれをしていたら、もしかして眠気が無くなるのか?

 こういう細かいことも調べるべきなんだろうが、まっいっか。寝れないのも嫌だしな。としてしまうアスナリアであった。



 ドスン!


「お兄ちゃん!朝ですよ~!」

「う……ん」


 何やらお腹の上に乗っている。

 昨日は遅くに帰って来たため、少し寝不足気味の頭でそう感じた。


「起きて~!」


 尚もお腹の上で暴れる。

 さすがに意識がはっきりしてきて目の焦点が合う。

 なんとお腹の上に幼女が居た。


「マチュピア……?」

「そうだよ!お兄ちゃん!昨日のお礼を言いに来たの!」


 何故お礼を言いに来たのにお腹の上に乗るのだ?と思ったが、まだまだ幼いから仕方ないかと叱るのを止め、取り敢えず頭を撫で耳をモフるアスナリア。


「ふぅあ!こしょばいよ~!お兄ちゃん!」


 尻尾がフリフリと揺れる。

 ここで確かめておこう。今マチュピアはアスナリアのお腹の上に居る。そして、尻尾はお尻から生えている。それがフリフリと揺られている。結果、ある部分に刺激を与えるのだ。朝だから元気いっぱいのある部分に。


(おうぅ?!これはヤバい!)


 アスナリアはロリコンではない。

 大事なことなのでもう一度言おう。アスナリアは決してロリコンではない。

 これは単なる生理現象なのだ。

 しかし、そうは取らない人が扉から入って来た。


「マチュピア~。アスナリア起きた~?」


 セリナが入って来た。

 一番見せたくない姿を、一番見せたくない人物に見られたアスナリアは焦る。


「えっ?!何してんの……?」

「違う!これは朝だからで!」

「ふ~ん。まぁ、獣人が生まれるのは良いことだけどね。アスナリアはロリコンっと……。そりゃ湖で私を覗かないわけだわ」


 未だにお腹の上で暴れるマチュピアを余所に、一気に気温が下がった。

 違う違うと一生懸命弁明し、マチュピアを下ろす。


「まぁいいわ。今日は三人で狩りに行くわよ」

「まぁよくないよ!」


 アスナリアの言葉を無視して話を進めるセリナ。

 どうやらマチュピアの両親に頼まれたみたいだ。

 冒険者から助けられる程の男に預けた方が、両親の側より安心できるそうだ。

 そもそも、そんな状況が安心とは程遠いのだが。

 両親の側に子供も置けない。溜め息をどうにか堪え、三人で朝食を摂る。


「お兄ちゃん!マチュは見てないけど昨日はありがと!」

「マチュピア、昨日アスナリアに助けられたの見なかったの?」

「うん!何かね、急に眠たくなっちゃってね、寝ちゃったの!」

「ふ~ん。魔法みたいね」


(やばっ?!話変えないと!)


 セリナの胡乱な視線を敢えて無視して、狩りに話を戻す。


「そ、そういえばマチュピアは狩りは出来るの?」

「マチュはあんまり出来ないの……」


 まだ若いマチュピアは当然体も出来上がっていない。あと五、六年は必要だそうだ。


(後、五、六年したらこの幼女もでかい猪を狩るのか……。ありだな!特にギャップがいい!)


「アスナリア……。なんか変なこと考えてない?」

「か、考えてないよ!」


 三人で魔の森に入る。

 昨日は出会わなかったが、ここには魔物も居るので、必ず二人以上で行動するのが村の鉄則となっている。


「オークだわ……」


 セリナが見つめる先には食事中のオークが居た。

 そこまでアスナリアの驚異では無い。

 セリナからしてもナイフ一本で対処出来る存在だ。

 ただ、今はマチュピアが居る。

 万が一の事態を避けるため、その場をソッと離れるように動く。

 魔物は特に獣人に対して厳しいわけではない。

 人間にも等しく驚異な存在だ。

 だからこそ、この魔の森が人間を避けるために役に立っている。

 森の奥には高レベルの魔物が居るらしいので、下手に藪を突いて蛇を出すことは無い。

 だが──「くしゅん!」

 マチュピアのくしゃみが豪快に響く。


(嘘だろ?なんてテンプレな……)


「グルゥ?」


 オークが振り返りアスナリア達と目が合う。


「グオオォォオオ!」


 脇目も振らず突っ込んでくるオークに身構えるセリナ。

 ただ、戦う気持ちではなかったためか、少し表情に焦りが見える。

 もし対処を誤れば、いくら獣人の身体能力だとしても致命傷もあり得る。

 たがだかオークと侮ってはいけない。

 そこには純然足る肉体の差があるのだ。

 しかし──アスナリアは別だ。

 カンストまで上げたレベルのステータスは、例え魔法に寄った大魔道士だとしても、一般の獣人とは一線を画する。

 結果、セリナに降り下ろされようとしていた腕は──受け止められていた。


 ドン!


 右手に心地よい振動が伝わる。

 アスナリアが感じたのはそれだけだった。

 そして、左手でアイテムボックスからバジリスクの毒を取り出し、そっとオークの腕を傷つける。

 ジュワジュワと地面に落ちる毒。

 それを見つめるオークがフラりと蹌踉て、そのままドスンと倒れる。

 ふぅ。と一息吐き後ろを振り返る。

 呆然としているセリナ。それとは裏腹に、目を輝かせアスナリアを見ているマチュピア。


「お兄ちゃんすっご~い!」


 凄い凄いと騒ぐマチュピアを嗜めるが、興奮は収まらず、アスナリアの周りをぐるぐると尻尾を振りながら回っている。


「アスナリアって……。なんか凄いよね……」


 セリナも言葉が無いのか、結局はマチュピアと同じ事を言うしかなかった。


 狩りは順調だ。

 セリナとアスナリアと交互に、マチュピアの側に居るのと獲物を狩るのを繰り返した。

 アスナリアは心からこの狩りを楽しんでいた。

 セリナと話し、マチュピアの手を握り森を歩く。

 たったこれだけなのだが、アスナリアの心は満たされていた。

 元の生活には無かった充実感が胸を埋め尽くす。


(これが幸せってことなのかな……)


 十分過ぎる程狩り、ちょっとまだ早いが村に帰ることになった。

 村に間もなく着くというところで、セリナがアスナリアをじっと見つめる。


「どうしたの?」

「アスナリア……。あなたって何者なの?明らかに普通の獣人では無いわ」


 正か元人間で、ゲームの力が使えます。とは言えず、答えに窮するアスナリア。


「えっと、何者とか言われても……」

「まぁいいか。獣人が強いのは悪いことじゃないしね」


 勝手に自己完結してくれたようでホッとするアスナリア。

 そのまま村の中に入り、マチュピアを両親の元に届けようと歩いていたら、村の入り口が俄に騒がしいことに気付いた。


「うん?何だろ?」


 セリナの言葉に顔を見合せる。

 少し不安気味なセリナ。

 恐らく又人攫いかと思っているのだろう。


「ちょっと見てくるね」


 ここはセリナとマチュピアを連れていくべきではない。鴨がネギを背負って行くようなものだ。

 そう判断し、アスナリアは村の入り口に向かい、走り出した。


 村の入り口には二、三人の年老いた獣人と、何故か十人程の馬に乗った騎士が居た。

 先頭には一際豪華な鎧の騎士。昨日のあの不遜な態度の騎士だ。

 何やら言い争いをしているようで、騎士は馬の上から喚いている。


「だから若い女はいないのか?!わざわざ私が様子を見に来てやったのだ!」

「ですから狩りに出かけて今はいません!」

「では旨い物でも食わせろ」

「この村にはそんな余裕はございません。何卒お許し下さい」


 土下座もかくやというほどに頭を下げる年老いた獣人。


(ちっ、単なる接待の強要か……)


 この騎士達は昨日盗賊達を壊滅したのだから、お礼に持て成せと言っているようだ。

 ロゼル隊長はそういうタイプには見えなかった。恐らくこの不遜な態度の騎士の独断だろう。


「む、そこに居るのは昨日の獣人か?」

「あっ、はい」


(やばっ?!)


 昨日盗賊団の所に居たのがバレると焦るが、騎士はそこまでアスナリアに興味が無いようで、すぐに目を逸らす。


 アスナリアの予想通りに、この騎士はロゼル隊長に黙ってここに来ていた。

 騎士は盗賊退治で特に美味しい思いが出来なかった事に不満を持っていたのだ。

 何故なら、ロゼル隊長が盗賊の塒に居た女に手を出すことを許さなかったからだ。

 略奪品も確りと管理し、厳正に持ち主に返そうとする始末。

 これではなんのために盗賊退治に参加したのかわからない。

 そう憤慨していた騎士の前にアスナリアが現れた。

 その時に、獣人にでも接待させるか。と、思い付いたのだ。

 獣人からしたら税が六割も取られているのに、これ以上余分な食料などあるはずが無い。本当に迷惑しかない話だ。


「ふん!つまらない!帰るぞ!」


 やっと諦めたのか、馬を反転させ周りの騎士に帰るよう告げたその時……。


「お兄ちゃんを虐めるな~!」


 ギョッとしてそっちを見れば、セリナの制止を振り切って、マチュピアが家の物陰から飛び出してきたところだった。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ