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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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姫様の不安

よろしくお願いします。

 王都の冒険者組合のスイングドアが開かれて永遠の雲が入ってくる。その場に居る冒険者達には当然見慣れた場面。だが、ここ最近はその後ろにもう一人付いて入ってくる。漆黒のローブに身を包んだ獣人が。


「あ、あ、あ、アスナリア、今日は王女殿下に招かれて王城に行く日よ。ローブ以外の服は無いの?」

「リーダーよぉ。いい加減名前ぐらいスッと言えないのかい?」


 顔を少し赤くしながらアスナリアの名前を呼ぶユミエール。


「えっ?これじゃ駄目なの?いつも姫様に会うときはこの格好なんだけど」

「冒険者なんだし別にいいんじゃねぇか?」


 俺達も大して変わんねぇだろ。とゴルゾーラが自身と双子を見ながらフォローをする。

 普通王女に謁見するとしたら正装を着るものだ。だが、ここに居るのは魔物との戦いを生業とする冒険者だ。騎士達と同じように、鎧やローブ姿でも咎められることは無いだろう。

 ユミエールだけが舞踏会にでも行くのかと言うようなドレスを着込んでいる。

 あの跳ねっ返りの娘が王城に招かれるのだから、実家のサザンベルク家が頑張ったのだろう。


「そ、それより、何か言うことは無いの?」

「何かって?」


 キョトンとしているアスナリアにゴルゾーラが耳打ちをする。


「おめかししてるんだ。一言誉めてやってくれ」


 ふぅん。と呟きユミエールを一瞥する。確かにいつもの軽鎧よりは色っぽい姿をしている。背中もぱっくりと開いて、雪のような白い肌が眩しい。

 普段は申し訳程度しかない胸も、一体どんな魔法を使ったのか豊かに見え、そこから覗く谷間は立派な物だ。


「綺麗だよ。ユミエール」


 恥ずかしげもなく誉めるアスナリア。

 その真っ直ぐな誉め言葉に益々顔を赤くするユミエール。


「おお!直球!」

「アスナリアは意外とたらし?」


 双子が誉め言葉なのかよく分からない言葉を言いながら、アスナリアの腕にそれぞれ抱き付く。

 ここで我慢の限界が来たのであろう。その場に居る冒険者達から悲鳴が聞こえてくる。


「何だよぉ。ユミエールさんのあの顔」

「あんな顔始めて見た……」

「ルーナちゃんが!ルーナちゃんが!」

「サーナちゃんが汚されていく……」


 永遠の雲は非常にもてる。

 ユミエールは活発な雰囲気なのだが、顔は貴族本来のお淑やかさが残っていて、そのギャップが男心を擽る。

 ルーナとサーナはそのお人形さんのような顔や体つきで、大人の色気はまだまだだが妹のように冒険者達から好かれていた。

 ゴルゾーラは──姐御と呼ばれている。


「ちくしょう!あの獣人が三人を独り占めかよ!」

「変わりてぇ……」

「闇討ちしてやる……!」

「止めとけって。ドラゴン討伐して永遠の雲が認めてるんだぜ?返り討ちに遭うのがおちだぞ」


 何やら不穏な呟きも聞こえてくるが、アスナリアと永遠の雲には届かない。他所から見たらいちゃついているようにしか見えない感じで話を続けている。


「お待たせしました。永遠の雲の皆様、アスナリア様」


 王女殿下の従者が入ってきて、迎えの馬車が到着したことを示す。

 いつもの適当にミュレルの部屋に行くのとは違い、今日は正式に招待を受けて王城へと向かう。当然ミュレルが用意した馬車で向かうことになっている。




 王城へと着き、アスナリアには慣れた、永遠の雲には始めてのミュレルの部屋へと足を踏み入れる。


「ようこそおいでくださいました。アスナリア殿、永遠の雲の皆さん」


 いつもより着飾ったミュレルがそこに居た。

 金色の髪に合わせた黄金のドレスに、ジャラジャラとはめられたブレスレット。普段より大きい深紅の宝石がはめられたネックレス。

 髪もシニョンのように纏められていて、その頂上には小さなティアラが乗っている。

 思わず見惚れて感嘆の声を漏らす永遠の雲。


「きれい……」

「さすが王女様」

「うん。勝てない」

「そうね。勝てない」

「綺麗だね」


 さすがにここまで分かりやすいとアスナリアでも分かる。先程と同様に、上辺だけの誉め言葉をミュレルに送る。

 ミュレルはクスクスと笑い、


「アスナリア殿、お世辞は結構ですわよ。どんなに着飾ってもセリナ殿とファスミラ殿には勝てないですわ」


 と嫌味を飛ばす。

 その名前がミュレルから出てくるとは思わなかったアスナリアは、ハッキリと分かる動揺を表に出す。


「ちょ?!何で姫様が二人のこと知ってるの?!」


 始めてそんなアスナリアを見た永遠の雲。だが、そんなことより聞かなければいけないことが出てきた。


「女の名前?ライバル?」

「流石たらしのアスナリア」


 双子の姉妹は既にアスナリアをたらしだと決めているようだった。


「だよなぁ。恋人ぐらいいるよなぁ。どうした?リーダー?」


 何やら下を向いてぶつぶつ言っているユミエール。


「いや、別に?好きじゃないし?私にもカロリックがいたし?アスナリアにも好きな人がいてもおかしくないし?そもそも──」


 そこで漸く情報の出所が分かったアスナリア。何やら言っている永遠の雲を完全に無視して、元々部屋に居たロゼルを一睨みする。


「あっ、いやぁ、すみません」


 素直に頭を下げるロゼルに、いつもお世話になっているしな。と矛を収めるアスナリア。


「うふふ。すみません。ちょっとからかってみました」

「まぁいいです。それで、何で今日はそんなに気合い入ってるんですか?」


 確かに正式に招待をされたが、いつも友人として来ているミュレルの部屋だ。そんなに着飾る理由が分からない。


「実はですね。この後に私の父上に会ってもらおうと思っているのですわ」

「お父さんに?」

「ええ」


 この言葉に反応したのはアスナリアではなく永遠の雲だ。


「えっ?!王女殿下のお父さんって国王陛下?!」

『聞いてない!』

「昨日決まりましたから。謁見の間で正式な恩賞をくださるとかではないのですわ。今回の件について、ちょっと会って一言貰うぐらいですわよ?」


 今回のドラゴン退治はゴング大山脈に向かって狩りに行ったのとかとは訳が違う。王国の危機に立ち向かい、見事それを討ち滅ぼしたのだ。獣人や冒険者だとしても、それに報いなければならない。


「でも……。何もしてない私達まで……」

「何言ってるの?ちゃんと足止めしてたじゃない」

「だからそれは、私達のエゴで……」


 トワイセン男爵の言葉に乗り、アスナリアとドラゴンを離したことを正直に話した永遠の雲。だが、それを聞いたアスナリアは「別にいいんじゃない。言ってることは間違ってないし」と、あっさりと永遠の雲を許した。

 代わりにロゼルが血管が切れるんじゃないかと思うほど怒っていたが、無事にドラゴンも退治出来たこともあり、お咎め無しになっていた。

 結果良ければ全て良しだ。


「まぁ、ある程度は仕方ないでしょう。アスナリア殿の力を初見で見抜ける人はそういないですわ。それより問題はお兄様ですわ……」

「王命とまではいきませんが、国王が出した依頼に真っ向から逆らいましたからね」


 ロゼルの言葉に困ったもんだとばかりにミュレルは溜め息を吐く。


「トワイセン男爵なら証拠を残すようなことはしないでしょうし……」

「訴えたところで無駄でしょうな」


 いくらSランクの冒険者だとしても証言だけでは弱い。貴族の言葉を信じないのかと突き上げが来るのが目に見える。


「私が何のためにアスナリア殿をドラゴン退治に捩じ込んだと……」

「そう言えば姫様、俺が勝手に行って倒したら駄目だったの?」


 確かにそれが一番楽だろう。無駄な会議も騎士の犠牲も一切無しで事が済むのだから。


「最終手段は当然それでしたが、出来るだけ公式にしたかったのですわ。もう既にドラゴンの存在は王都にまで伝わり、対策会議が開かれるまで進んでいましたわ。それを私の客人であるアスナリア殿が勝手に退治する。それはつまり──王国の意向に従う気が無いことを示しますわ」

「そうなったら少々厄介ですな。表向きは称賛するでしょうが、王女殿下まで何か言われるかもしれません」

「うわぁ、面倒臭い」

「まぁ、アスナリア殿なら例の魔法で分からずに出来るかもしれませんが」


 永遠の雲が居るので暈して言うミュレル。アスナリアの許し無しに手の内を晒すような真似はしない。


「そんな!下手したらルンカの街が壊滅していたのに!」


 ルーナの言葉は正論だ。上の(しがらみ)で無辜の民が死ぬかもしれない手を取るのは、神官として許せることでは無かった。

 ミュレルは困ったようにアスナリアをチラリと見てルーナと向かい合う。


「ルーナ殿、確かに誉められることでは無いですわ。ですが、アスナリア殿の前で言うのもなんなんですが、それをした場合アスナリア殿が敵に回る可能性がありますわ。アスナリア殿の実力は、私より永遠の雲の方々がよく御存じでしょう?」


 一気に血の気が無くなったように顔が青くなり、アスナリアへと視線を向ける永遠の雲。

 いつもふざけた発言をしている双子の姉妹ですら何も言えない。今まで微動だにしなかったズーも冷や汗を流し尻尾を震わせている。


 ──あれが敵に回る?あの大魔法を連発するアスナリアが?誰が止められる?私達永遠の雲でも無理なのに──


「うっ、わ、分かりました……」

「今王国が滅びた景色が浮かんだぜ……」


 ルーナが漸く絞り出した答えにゴルゾーラも同調する。そんな反応を呆れながら見ていたアスナリア。


「そんな人を知性の無い魔物みたいに言わないでくれる……?」

「ふふ。アスナリア殿が聡明なのは分かっていますわ。今言ったのは最悪の場合ですから」


 アスナリアとてそこまで阿呆ではないし、ミュレルやロゼル、またはローグシェラー伯が最大限守ってくれるだろう。それでも、批判の矢面に立たされたらどうなるかは誰にも予測はつかない。帝国にでも亡命されたら王国の滅亡は確定する。

 今でさえ徐々に国力の差が広がっているのだ。そこにアスナリアというこの世界最強の個の力が入れば王国に抗う術は無い。


 ──コンコンコン。


「どうやら準備が整ったようですわね」


 メイドが部屋に入り、国王の準備が整ったのを告げる。


「王様かぁ。ちょっと楽しみだな」

「アスナリア殿、出来れば陛下と呼んでくださいましね」

「あぁ、そっか。分かりました」


 ──不安だ。


 ミュレルはそっとロゼルと目配せをして、フォローを必ずするように心に決めた。


 別の部屋に向かう道すがら、ミュレルがアスナリアに臣下の礼を教え込む。といっても、ロゼルの真似をしていればいいという簡単なものなのだが。


「総理大臣に会うと思えばいいのかな……?」

「そおりだいしん?何それ?」


 アスナリアの呟きを目敏く聞き取ったルーナ。

 その聞き覚えの無い固有名詞に興味が引かれたのか、スススとアスナリアに寄ってくる。


「う~ん。俺の故郷の一番偉い人」

「アスナリアを従えていたの?すっご」

「従っていた訳では無いけどね」


 不思議そうに小首を傾げる。その童顔も相俟って、マチュピアに話しているような感覚になるアスナリア。

 これ以上は詳しくは言えない。いや、言っても理解できないだろう。王国は絶賛封建社会の真っ只中だ。民主主義など理解できる訳もない。

 民主主義が上手く機能するには、民衆の識字率を上げて勉強させなければならない。何も分からない民衆に国の行末を決めさせるなど愚の骨頂だ。


(誰かが言っていたな……。民衆がものを考えないということは、支配者にとっては実に好運なことだ。だったかな……?)


 だからこそアスナリアは思う。国王を味方に付ければ、獣人の地位向上に必ず繋がるだろうと。


 王族のみが住まうことを許される宮殿。綺麗に磨かれた廊下をメイドの案内にて進む。


「こちらでございます」


 そのメイドが一つの扉の前で立ち止まる。ミュレルの部屋の扉に勝る豪華な扉。

 この部屋こそが、国王が公的ではない、私的な要件を行う部屋となっている。

お読みいただきありがとうございます。

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