表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
43/51

ある商店の店主

よろしくお願いします。

 ユンダの街の冒険者組合。今その前には、大商店の店主がアスナリアと共に居た。


「ではアスナリア様。よろしくお願いします」

「はい」


 二人は一緒に西門へと移動を開始する。店主は馬車、アスナリアは徒歩という違いはあるが。

 店主は当初是非共に馬車でと誘ったのだが、アスナリアの護衛は外だろ。という至極もっともな返しに頷かざるをえなかった。

 ゴトゴトと相変わらず揺れの大きい馬車を伴い西門へと進む。ユンダの街以外では滅多に見れない景色、獣人が荷馬車を護衛するという景色を見ても住民は然程驚かない。

 確かに、護衛が一人という少なさに一瞬不思議な顔をするが、それがアスナリアだと分かると直ぐに納得して視線を逸らす。

 今この街で一番有名な人物は誰か?この質問をユンダの街の住民にしたら、返ってくる答えは「アスナリア=ファングに決まってるじゃないか」これ一択だろう。

 獣人奴隷を解放して、領軍を一人で撃退し、ドラゴンをも退治するSランク冒険者。

 一人だけだが、そんな人物が護衛するなら商人も枕を高くして寝れるというものだ。


「あっ!アスナリアさん!お疲れ様です!」


 衛兵の憧れが混じった視線に手を挙げて答える。

 いつもならそれだけで街の外へと出れる。だが、今回は大商店と言えども、荷を積んだ馬車がその後に続いているのだ。これを素通りさせることは出来ない。

 物の輸出入は当然税金が課せられてる。それのチェックをしなければいけないのだ。


「はい!お手数お掛けしました!」


 衛兵のチェックが終わり、無事に街の外へと馬車を進める。


「いやぁ、アスナリア様が護衛だと関税のチェックも早くていいです!」

「うん?そうなの?」


 見渡す限りの草原に一本の街道。そんな景色を見ているアスナリアに、店主の機嫌のいい声が御者の頭を超えて聞こえてくる。

 ここ最近アスナリアに敬意を払うようになった騎士達。初めは獣人風情が、と思っていた者もいたのだが、元より強さを追い求める者達だ。それが獣人だとしても、アスナリアの圧倒的な実力や戦歴を見て、憧れを抱く者も多くなってきている。

 そんな人物が護衛をしている商店のチェックなのだ。最速で終わらそうとしても不思議ではないだろう。


「じゃ、いつも通り上で警戒してますから。『飛行』」


 スーっと馬車が眼下へと移動していく。

 そのまま馬車の真上まで浮かび、トロトロと移動している馬車の速度に合わせて魔力を調整するアスナリア。


「本当に護衛をあの獣人一匹に──」

「馬鹿野郎!」


 店主の突然の大声が見習い商人の脳に突き刺さる。


「二度と獣人族をそのように呼ぶな。呼んだらクビだ」


 店主が冷ややかな目を向けて、見習いの頭をはたく。

 余所の場所から修行としてユンダの街に来た見習い。アスナリアのことを知らないのだろう。

 全く理解していない見習いを見て、溜め息を吐きながら理由を説明する。このまま意味も分からず頭ごなしに言っていてもいつかはボロが出る。


「以前その呼び方をアスナリア様に言った冒険者がいた。その冒険者はどうなったと思う?」


 見習いはいきなり冒険者の話になり、目をぱちくりとさして店主の質問の答えを探す。だが、そんな自分が来る前の話など分かるわけもなく、答えられずに沈黙している。

 そんな見習いを真剣に見つめている店主。見習いがその至って真剣な店主の表情を見て、ゴクリと唾を飲み込む。

 店主は見習いの緊張感がピークに達したと確信して、徐に話始める。


「そいつらは別の街でAランクの冒険者をしていた奴等だ。そんな奴等が獣人を見ただけで下を漏らすようになったのだぞ」


 Aランクの冒険者。人智を越えたSランクには一歩及ばないが、それでも人間離れしている能力を持っているパーティー。

 そんなパーティーが獣人一人に敵わないどころか、トラウマを植え付けられるほど痛め付けられた。そんなことは見習いの常識の欄外の話だ。到底信じられるものではない。


「えっ、そんなこと。僕を担ごうと──」


 からかわれていと思った見習い。だが、店主の真剣な眼差しを受けて言葉を止める。

 店主は一緒に来ていた店員に、ちゃんと教育しとけよと視線を送る。


「たくっ、いいか。この街での一番の禁止行為を教えといてやろう。獣人を蔑ろにするな。今までの獣人に対する偏見を全て捨てろ。でなければ、私の商店には置いてはおけない」

「でも、それは冒険者が相手だからでは?私達商人に暴力で訴えたら……」


 流石は大商店に見習いとして来る商人。少しは頭が回るようだ。

 確かに冒険者同士の争いではなく、相手が商人なら、悪口を言ったくらいで暴力を振るったら罪になる。

 店主はほぅ。と感嘆の声を上げる。


「確かにその通りだ。だが、私達商人は物を運ぶとき誰を雇う?誰が野盗や魔物から私達を守ってくれる?」

「それは当然冒険者です」


 表向きとしては領主が街道の治安を守ることになっているのだが、そこまで手が回らずに街道には魔物が蔓延っている。

 商人はそれを当然のこととして、冒険者に護衛を依頼して商売を行う。


「Sランク冒険者を馬鹿になどしてみろ。誰も私の商店の護衛を引き受けてはくれなくなるぞ」

「あっ、確かに、そうです……」


 見習いは頭からすっかり無くなっていた。獣人のアスナリアがSランクの冒険者だということが。


「それに最近はアスナリア様に憧れる冒険者も増えてきている。彼等は強いことに重きを置く者達。普通の人間より獣人に対する偏見が少ないのだろう」

「そんなに強いのですか?」


 見習いとてSランクがどれ程の強さかを肌で感じた経験など無い。ただ、店主の口振りが普通の──人智を越えた存在を普通と呼ぶのかは置いておいて──Sランクでは無いと言っているみたいだからだろう。そんな質問を返してきた。


「ふむ。良いことを教えてやろう。先程からアスナリア様は飛行の魔法で護衛をしてくれているな?」

「は、はい」

「アスナリア様はあれを、目的地に着くまで一度も降りてこずに続けられる。それがどういう意味か分かるか?」


 飛行の魔法で警戒をする。これは別に珍しいことではない。当たり前だが、高い所の方がより周りを見渡せる。ということは、異変に気付くのが早くなるのだ。だが、当然それは魔力を只管に消費する行為だ。異変に気付いても戦えなければ意味がない。

 普通は時間をおくことでしか魔力は回復しない。故に、見通しの悪い場所のみでそれをしている。決して護衛の間中やっていい行為ではない。


「ずっとって……。今から一日以上あるのですよね……?」

「そうだ。さすがに夜は降りてこられているが、移動しているときは常に飛行の魔法を使っておられる」

「ど、どれだけ魔力があるのですか……?」

「分からん。少なくともアスナリア様が魔力切れを起こしたとは聞いたことが無い」


 漸く見習いが理解する。アスナリアが普通では無いことに。

 実はアスナリアの無尽蔵に見える魔力にはからくりがある。常闇の杖のMPの自動回復だ。これにより、只管飛行の魔法を使っても魔力切れを起こさずに済んでいる。いくらアスナリアの魔力が高いとしても、一日中飛行していたらいくらなんでも魔力が切れる。

 そんことは全く分からない周りからは、アスナリアの魔力は無限なんじゃないか?と思われていた。


「それにな、今回の商売。割に合わんと思わんか?」


 店主がちらりと積んでいる荷物を見る。食料や日用品等が積んであるが量は然程多くなく、三人の人間が乗っても大丈夫なぐらいしか積んでいない。


「ええ、いくらなんでも少なすぎます。Sランクの護衛を雇って儲けは出るのですか?」


 当然冒険者を雇うなら依頼料が必要となる。それがSランクともなれば法外な値になるのが普通だ。

 そんな見習いの言葉に店主はニヤリとした顔を向ける。


「今回の依頼料は銅貨三枚だ」

「はっ?!何ですかそれ?!」


 銅貨三枚。それじゃパンを買ってお仕舞いだ。SランクどころかEランクでももっと依頼料は高い。


「殆ど無料みたいなものだな。当たり前だが条件があるぞ?獣人の村に物を売りに行く場合に限り、この依頼料で引き受けてくれるんだよ」

「あぁ、なるほど。獣人の村の発展の為に格安で護衛をしているのですね?」

「そういうことだ」


 だが、それだけではこの時間の無駄とも言える商売をする理由にはならない。儲けは出るだろうが、往復四日を潰す程ではない。

 この条件を聞いたときの店主は、違う街に行き、ついでのように獣人の村に行くことを当然思い付いた。

 それを遠回しにアスナリアに聞いてみたら珍しく表情を崩して、「流石は商人。そうじゃないとね」と言って、魔の森近くの獣人の村に商売に行くことを条件に認めてくれた。

 月に一回程度の頻度だが、Sランク冒険者をタダで護衛に使えるのだ。これを使わない手は無い。


「商人がそれを思い付くと見越してその提案をしたってことですか?よく考えられてますね」

「だろう?実はな、以前アスナリア様に、ユンダの街の商人達は一杯食わされてるんだよ。あの方を力だけだと思っては駄目だぞ?」

「分かりました。でも、一杯食わされたって何があったのですか?」

「先ずはアスナリア様が街に始めて来た時の話からだな。アスナリア様は──」


 相変わらず勘違いしたままの店主を乗せて、馬車は獣人の村へと進んで行く。




 月に一回の商人が来る日。この日は獣人達の唯一の娯楽になっていた。

 今までは狩った動物や、育てた農作物しか口にしてない獣人達。群がるように商人が広げた商品を買っていた。

 見たこともない便利な日用品や、口にしたこともない食べ物。どれもこれもが魅力的に映る。

 然程裕福ではない獣人の村だが、漸く外貨を村の住民に回せるようになっていた。


「お母さん!僕これがほしい!」

「あら、どうしましょう……。こっちも欲しいけど……」

「これがアスナリア殿が言っていた物か……。ふむ。これを売ってほしい」

「毎度あり!」


 はしゃぎながら商品を見ている子供達。目の色を変えて装飾された服を吟味する女性。男性は鍬等の仕事道具に関心が高いようだ。

 そこには、人間が市場等で買い物をするそのままの風景があった。


「今回獣人の村へ行くと聞いてちょっと怖かったんですけど……。何も変わらないですね」


 見習いが少し恥ずかしそうにそう言った。


「それは私もだよ。始めてアスナリア様を見たときは震えが止まらなかった。何せ領軍を単騎で撃退した恐るべき獣人という認識だったからな。だがな──」


 店主が言葉を一旦止めて、店員達、獣人達を見回してから口を開く。


「人間と何も変わらないよ。無理難題を押し付けないから、貴族達よりアスナリア様の方が付き合いやすいぐらいだ」

「そうですよね。力で押されたら無理は通りそうなのに」

「あの方は先を見ているのだよ。獣人が商売相手になるのなら、放っておいても商人は来るからな。獣人の利益の為に、商人の利益も考えているのだよ」

「何も知らない貴族は、こっちの利益もお構いなしに無理言ってきますからね」


 そろそろ持ってきた物も無くなり、見に来る獣人も疎らになりだした。


「来月は持ってくる量を増やさないとな」

「終わりましたか?」


 店主が次に持ってくる量を計算していると、アスナリアがのんびりと歩きながら売り場にやって来た。

 一人の幼い獣人を肩車して、横に二人の美女を連れている。


(人間と変わらないと思ったら……。獣人の女もよく見えてくるな……)


 その不躾な視線に当然アスナリアは気付く。

 スッと目を細め、隠しきれない殺気が漏れる。


「何を見ているのですか?」

「えっ?!あっ!いや、美しい方だなと!決して卑しい気持ちは無いですよ!」

「そうですよね!流石大商店の店主!よく分かってる!」


 一気に機嫌が良くなるアスナリア。店主は、絶対にあの三人に手を出してはならない。と心の中に確りと書き留めた。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ