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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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諸国

よろしくお願いします。

 ザラスーラ帝国、帝都マーヴィスには小高い丘があり、その一番高い場所にある帝城からは城下町を一望できる。

 その帝城の中には一際豪華な部屋があった。

 壁に飾られている物や、置かれている調度品は、一つ一つ匠の手により作り出された一品物。

 敷かれた絨毯の毛並みは長く、まるで新雪の中を歩いているような感覚を抱かせる。


 そんな部屋の中央には、優に三人は座れそうなソファーが存在感を示している。黒い皮をふんだんに使い、手摺や足の部分にまで細かな装飾がなされている。

 そして、そのソファーには一人の男が座っていた。足を組み、何かを考えるように中空に視線を彷徨わせている。

 中央集権に成功し、無駄飯食いの無能な貴族を次々と粛清してきた男。そう。彼こそが皇帝ストラニア=ファスト=マルソー=ドラゴンロード。

 年は三十にまだ届いてはいないぐらい。

 皇帝としてはまだまだひよっこと言える年齢だが、頭は柔らかく、何が重要で、何が不必要かを判断し、決行する行動力も備わっている。

 まさに眉目秀麗、英明果敢な青年。


 たっぷりと思案したストラニアは、金色の髪を靡かせ翡翠色をした瞳を側に居る貴族に向ける。


「さて、王国にドラゴンが現れて討伐された件、貴公はどう見る?」


 その獲物を見据えるかの如く向けられた視線に少々怯んだ貴族。だが、この場に居る貴族の中で、テーブルの上に散乱している報告書の中身を知らない者は居ない。


「鉱山を治めるトワイセン男爵領の騎士が大幅に減りました。引いては王国の防備が薄くなったとに繋がります」

「短慮だな」


 ストラニアが貴族の言葉を一刀両断する。


「あそこは元々防備が薄い場所だ。国境付近の騎士達は動かさんだろう。俺が言いたいのは誰がドラゴンを討伐したかだ」


 回りの貴族に困惑が広がる。何を分かりきったことをと。

 報告書には確りと書かれていた。Sランク冒険者の永遠の雲が討伐に行ったと。


「お前たちの言いたいことは分かる。が、事はそう単純ではなさそうだ。一緒に行った獣人がいただろう?」

「はい、一部ではその獣人が討伐して、永遠の雲が全滅しかけたと噂がありますが……」


 そうだ。と呟き、また中空に視線を彷徨わせてるストラニア。

 周りの貴族は、何をそんなに考えることがあるのか分からなかった。

 その獣人は王国王女の知り合いで、無理矢理討伐に参加しただけだろう。そう思いストラニアを見つめる。だが、暫く沈黙が続き、それに耐えられない貴族が口を開く。


「単に獣人の博付けに同行させただけでは?」


 ミュレルが獣人保護派なのは有名な話で、専属護衛を獣人に任せるぐらいだ。

 帝国は今獣人の騎士を増やして軍備を強化している。ミュレルがそれに倣い、獣人を騎士にと画策しても不思議ではない。

 その為の博付けではと貴族はストラニアに進言する。


「ふむ。その可能性が一番高い。だが、それなら何故専属護衛に行かせなかった?その獣人なら周りへの根回しも簡単だったろう。態々知名度の低い獣人を行かせる意図が読めない」


 貴族達が確かにと考え込む。


「その獣人。ユンダでの反乱に絡んでいるのではないか?」


 ユンダの反乱。これは帝国としても見過ごせない事件だった。

 何せ騎士として獣人を使役しているのだ。人間が騎士として獣人を鍛えて、それで反乱を起こされては堪った物ではない。

 王国とは違い、ストラニアは獣人をそこまで蔑ろにしていたわけではない。だからだろうか、それに刺激される獣人はいなかったが。


 ストラニアはその反乱について詳細に調査をするよう指示を出したが、ルワンダ辺境伯が箝口令を出していたせいもあり、そこまで反乱に関しての情報が入ってこなかった。

 入ってきた情報としては、獣人の反乱が成功して、その中心人物がユンダの街でSランク冒険者をしているということ。

 ドラゴン討伐に参加させるぐらいだ。Sランク冒険者並みでなければ意味が無いだろう。

 ストラニアは、そのSランク冒険者の獣人と、ドラゴン討伐に同行した獣人はイコールなのでは、と睨んでいた。


「Sランクなら専属護衛のズーと同等、説得もまだ楽に出来るだろう。だが、それでもあのズーを出した方が簡単なのには変わりはない。あの王女がそんな無駄なことをするとは思えない……」


 少し開いた手を口に当てて考える。

 ストラニアはそこまでその獣人に拘るミュレルの真意が分からなかった。

 ユンダの街での情報収集では、あまりに信じられない報告が多々届いている。だが、それらは一笑に付されていた。単なる間違い、そうでなければ王国の情報操作だろうと。


「王女の単なる気紛れでは?」


 その貴族の一言を否定出来る者はいない。聡明な王女といえども所詮は人間。気紛れに動くこともあるだろう。


「ズー以外にも強い獣人がいると言いたかったのか?」


 質問口調だが、ストラニアは誰かに言った訳ではない。口に出しながら考えているだけだ。

 それが分かっている周りの貴族は黙ってストラニアの考えが纏まるのを待つ。

 しかし、その空気を読まずに口を開く者がいた。


「Sランクだとしても獣人でしょ?ズーより強いとしても僕がいれば大丈夫じゃない?」


 誰もがこの部屋に居るのに違和感を持つ人物。

 その理由は年齢だ。どう見ても十を少し越えたぐらいにしか見えない。

 纏っているローブは白一色のゆったりとした物。ブカブカの袖の先からは指先しか出ていない。

 髪の色は珍しくない金色で、短く切り揃えられていた。

 信じられないだろうが、この人物こそが帝国最強魔道士である。

 名前はテュイと言い、神話の領域と言われている三段の魔法を使う帝国では唯一無二の存在。


 テュイのその言葉を聞き、ストラニアはクックックッと笑いを漏らす。


「確かにそうだな」


 ストラニアは一つ頷くと宣言するように言う。


「計画に変わりは無し。引き続き軍備の拡張を行う。王国を飲み込むぞ」

『はっ!』


 綺麗に揃った声を聞いて、ストラニアは満足気に頷いていた。




 ☆★☆




 魔の森を越えた先にシャハンと言う共和国がある。

 そこの最高意思決定機関、略称最機で会議が今まさに開かれていた。

 国の方針を決める部屋としては、他の国に比べて些か質素なこの部屋。広さは庶民が暮らす家の一部屋と大して変わらず、調度品等も最低限度しか置かれていない。

 使われているテーブルや椅子も高級品とは言えない物だ。


 今その部屋には幾人かの人物が激論を繰り広げている。


「最高のお持て成しをその人物にすべきだろう!」

「いや、今は王国に籍を置いているのだ、先ずは王国に接触してからだろう」

「王国が付け上がったらどうする?!彼の国は獣人を虐げているのだぞ!」

「それなら戦争を吹っ掛けてみては如何か?」

「そんなことをすれば帝国も黙ってはいまい。そもそもそれで彼の方が出て来たら元も子もないだろうに。お主が責任を持って対処してくれるなら別に文句は言わんが」


 神の遺産とも呼ばれる強大な魔力を内包している魔道具が共和国にはある。

 その魔道具を共和国は長年研究し、二段の魔法である瞬間移動と、三段の魔法である転移門。その間の魔法として、体の感覚のみを転移させる魔法『千里眼(クレヤボヤンス)』を作り出していた。


 共和国はこの魔法で、周辺諸国の情勢を完璧に把握して発展してきた。そして、当然ゴング大山脈のドラゴンも監視対象としている。もし共和国の方に来たら即時に対処出来るように。


「先ずだ、どのようにその方と接触するつもりだ?正直に覗いていましたと言うのか?」

「監視の魔法は感ずかれたのだろう?今更誤魔化しても意味が無かろう」

「そもそもだ。本当に感ずかれたのか?気のせいではなく?」

「監視者が確実に目があったと言っている。三段の魔法をあれほど連続で唱えられる魔道士なのだ。何か感知する魔法があるのかもしれん」


 ドラゴンの監視の途中に恐るべき獣人を発見してから始まった会議なのだが、いつまで経っても結論が出ない。

 共和国の精鋭部隊でも、神話の領域の魔法は使えても一つか二つ。そんな大魔法を連続で唱えられる存在。一体どれ程の実力を持っているのか想像もつかない。

 そして、一番不味い事態なのが、その獣人に監視が気付かれたことだ。そう。今まで誰も気付かなかった千里眼の魔法に気付いたのだ。

 これにより、監視の継続が不可能になり、黒のドラゴンとの戦闘も監視が見送られた。ドラゴンの死骸を見つけたので討伐は確認されたが。


「もし共和国に来たら『ドライ』で対処可能なのか?」

「隊長に聞いたところ、三段を複数使うぐらいなら隊長一人と前衛が何人かいたら対処可能と」


 おお、と感嘆の声が上がる。

 ──だが、


「ただ、どこまで上の魔法が使えるか分からない。それにより変わる。とも」


 続けて述べられた言葉に、ある者は呆れ、ある者は震撼し、ある者は憤慨する。


「四段が使えるとでも言うのか?!そんなバカな?!あれは文字通り神の御業だぞ?!」

「隊長は念の為『ドライ』全員で当たりたい。と」


 ドライ全員。それは取りも直さず、国一つ潰せる戦力で当たりたいということ。あまりにも過剰な戦力故、周辺諸国には直隠しにしている対ドラゴン部隊。


「そ、そこまでの相手なのか?」

「一度監視者に声を掛けてもらったらどうだ?」

「ふん。あの魔法は声は聞けるがこちらから声を掛けることは出来ん」

「そうなのか?存外使い勝手が悪いのだな」

「何を的外れなことを。監視をするのに声を掛ける必要など無かろう。気付かれないから意味があるのではないか」


 そしてこのように、結論が出ないまま会議の行き先が明後日の方に向かい、議長が話を元に戻そうと声を張り上げる。

 何度このやり取りを繰り返したのだろうか、出席者の数名が重い重い溜め息を吐く。


「今日はこの辺で終了しますか」

「そうだな。何にせよ、今は王国に居るのだ。また新たな情報が入るだろうよ」

「では、このまま放置でと思う方、挙手願います」


 議長が問い掛けると参加者がバラバラと手を上げる。


「過半数を越えましたので放置する。また、王国の監視は継続する。これで最機を終了します」


 今は実害が無いので取り敢えず敵対しないように努めよう。新たな情報が入り次第次の会議を開催する。と、このように問題の先送りで会議は終わった。

お読みいただきありがとうございます。

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