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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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黒のドラゴン

よろしくお願いします。

 ミュレルが階段をしずしずと降りてくる。組合に居た冒険者が皆呆気に取られてそれを見ていた。

 こんな荒くれ者が集まる所に王族が来るなど前代未聞。始めてミュレルを見た者も少なくないだろう。

 冒険者達から感嘆ともとれる溜め息が其処此処から聞こえる。それはミュレルの美しさにだろうか、それとも、始めて王族を見たという感動からだろうか。

 そのような視線には慣れているミュレル。悠然と冒険者に向き直り、蕩けるような微笑を見せる。金色の髪が僅かに顔に掛かっており、それがまたミュレルの魅力を引き立てていた。

 男の冒険者は顔を赤く染めてその魅力の虜となる。だが、『永遠の雲』は女四人の冒険者パーティーだ。直ぐに立ち直り疑問をぶつける。


「どうして王女殿下が?あっ、いや、そのじゅ──その方が王女殿下の客人とは知っていますが」

「それは……。今から話すことに信憑性を持たせる為。ですわね」


 ユミエールの言葉にミュレルがとても澄んだ声で答えて、またもや男達が蕩けたような顔を見せる。

 それを見たゴルゾーラが心の中で舌打ちをして、これだから男は……。と呆れとも嫉妬とも言える感情を抱く。


「皆様、驚かれたでしょうが、ここに居るアスナリア殿は歴としたSランクの冒険者ですわ」

「それは私も保証しよう。ユンダの街の冒険者組合長が発行した証明書を確認している」


 ミュレルの言葉に組合長が補足をする。

 獣人がSランクという言葉に動揺が広まるが、慌てふためくまでには至ってはいない。

 皆どこかで話を聞いているのだろう。ユンダの街の反乱の話を。そうだとすると、『忘却の空』を倒した獣人と、目の前に居る獣人をイコールで繋ぐのは然程難しいことではない。


「あんたがSランクなのは納得した──しました。でもそれと俺達と一緒に仕事をすることどう繋がるんだ──繋がるんですか?」


 ゴルゾーラが慣れない口調でミュレルに聞く。その口調が見た目に反して面白かったのか、ミュレルがクスリと笑う。


「ふふ。そうですね。保険、ですわね」

「私達の保険ってことですか?そんなのは──」

「違います。違います」


 ミュレルは大袈裟に手を振り、ユミエールの間違いを指摘する。

 次にその口から語られた言葉は、組合長とアスナリア以外のこの場に居る全員が耳を疑う言葉だった。


 ──「『永遠の雲』が保険。ですわよ?」


 一瞬誰もが言葉を失った。あまり感情を表に出さない双子の姉妹ですら口を開けて驚いている。

 ──意味が分からない。


 人類最強の戦闘集団であるSランクの冒険者パーティーが保険。その言葉は、この獣人がそれ以上の力を持っていると言外に示していた。


「貴女方『永遠の雲』はアスナリア殿の護衛として付いていき、アスナリア殿がドラゴンと戦闘──」

「ちょ、ちょっと待って!」

「──何ですか?」


 構わず喋り続けようとするミュレルの言葉を遮りユミエールが抗議の声を上げる。

 王女殿下であろうとも、今の発言は聞き捨てならない。もしかしたら違う意味があるのかもしれない。そう思いユミエールは再度尋ねる。


「今の言い方って、私達のパーティーよりその方一人の方が強いという風に聞こえたんだけど?」


 思わず普段の口調に戻るユミエール。他のことならいざ知らず、こと強さに置いては譲れない。これは高位ランクの冒険者では至極当然の思考回路だろう。

 その証拠に、『永遠の雲』以外の高位ランクの冒険者も微妙な表情でミュレルを見ている。

 その表情は、いくら王族といえども戦闘の強さに関して愚弄するのは許さない。と言っているようだった。

 ──しかし、


「ええ、そう言ったつもりですわ」


 あっさりとそれを肯定する。

 いくら『忘却の空』が獣人に倒されたと言ってもそれは無いだろう。そもそも今は一人ではないか。

 この言葉が冒険者達の頭に浮かんだ言葉だろう。


「だから私がここに来たのですわ」


 ミュレルは始めに信憑性を持たせる為と言った。それはこれのことを言っていたのだ。いくら組合長がこれを言っても絶対に納得はしないだろう。


「なによそれ……」


 ユミエールが肩を震わせる。恐らくこんなに馬鹿にされた依頼を受けたことが無いのだろう。

 Sランクと言えば、大貴族からも指名依頼が来るようなパーティーだ。討伐ランクがSランクの魔物を倒したのも一度や二度じゃない。


「私達が露払いってどういう意味よ!」

「より強い方をドラゴンに当てるのは当たり前のことではないですか?」


 実はミュレルが言った保険という言葉の中には、違う意味がもう一つある。

 いくらなんでも雇った冒険者が一人では、他の会議の参加者が納得しないだろう。なのでミュレルは敢えてパーティー名を暈し、人数だけ報告した。つまり、『永遠の雲』は人的な保険では無く、対外的な保険、という意味だ。ここでは敢えて口にはしないが。

 だがもう国王の名の元で依頼を取り付けた。ここで『永遠の雲』に気を使う意味は無い。それどころか、アスナリアの邪魔をしないように言い含めておく必要すらある。とミュレルは考えている。


(さすがに邪魔だから殺す。ということは──無いですわ……よね?)


 自信無さそうにそう思うミュレルだった。


 そんなミュレルの思いなど想像も出来ないユミエールは、恥辱を受けたと感じて、怒り心頭にミュレルを見ている。


「そんな依頼……!」

「断るのですか?」


 ミュレルは言外にそれでもいいと含める。というより、そっちの方が助かるとすら思っている。

 アスナリアとユミエールはこの前揉めたばかりだ、出来るだけ接触さしたくはない。


「いえ……。受けます……」


 勿論ユミエールはそうは取らない。何かしらの圧力を掛けるけど断るのか?と取る。

 パーティーのリーダーとして、断る選択肢が取れる筈もなかった。


「では、説明を続けます」


 そこからの話をユミエールはあまり覚えてはいなかった。羞恥と怒りに頭がいっぱいで。


「おい!あんた何処行くんだ?!」


 ユミエールがハッとなったのは、ミュレルが話終わり、組合を出ようとしているところだった。

 ミュレルと一緒に組合を出ようとしているアスナリアに、ゴルゾーラが少し焦ったように声を掛ける。


「うん?何処って?家に帰るんだけど?」

「ちょっとは連携の話とかをした方がいいんじゃねーか?!」


 いくら護衛だからといってもお互いに戦えるもの同士。いざという時のために、最低限の情報の交換はすべきである。

 いくらSランクといってもお互いに連携が取れていなければ単なる烏合の衆。腕が何本あっても上手く動かせなければ意味がないのだ。

 幾多の冒険を体験している『永遠の雲』は、その事の重要さはよく分かっていた。


 だがアスナリアの返答は、


「そんな面倒臭いこといいよ。あんた達は邪魔さえしなければそれでいい」


 これである。態と怒らせてるようにしか聞こえない。当然アスナリアにはその気は一切無いのだが。

 ミュレルはそのやり取りを聞き、はぁ、と溜め息を吐く。


「アスナリア殿、もう少し優しく言って下さいませんか?」

「えっ?十分優しくないですか?何もしなくていいと言ってるんですから」

「いや、そういう意味ではなくてですね……」


 そして、仲良く喋りながら馬車にも乗らずに歩いて帰っていく二人。

 残されたのは微妙な空気と、数多くの冒険者の前で馬鹿にされた『永遠の雲』。

 始めは、ドラゴン退治という栄誉を『永遠の雲』が受けると思って来ていた冒険者達。それが蓋を開けてみればこれである。

 組合長が何とも言えない顔をして、二階へと続く階段を上っていった。




 転移の魔法を使いミュレルの部屋へと帰ってきた二人。その二人へズーの冷たい視線が突き刺さる。


「何て顔をしているのですか」


 ミュレルが少し笑いながらからかうようにズーへと視線を向ける。


「あっ!いや、申し訳ございません!」


 土下座をする勢いで謝るズー。命を掛けるべき相手になんたる無礼を。と言いながら。


「心配しなくても姫様を取ったりしないよ。今日は特別だったんだから」

「えっ?!いえ!そんなことは──」

「あら、ズーったら、焼きもちですか?」


 ミュレルがクスクスと笑いながらズーを突く。顔を真っ赤にして俯くズー。


「さて、冗談はここまでにして」


 真面目な顔になり、アスナリアへと向き直る。


「ドラゴン退治についてですが……。やはり『永遠の雲』では無理と感じましたか?」

「見ただけでそこまで強さは分からないけど……。今ある情報から推測すると無理だと思う」


 ローグシェラー伯の文献、及び人間が狩ったドラゴン。これは何れも色が白かったとある。

 『アニクエ』ではドラゴンの種類は色々あった。その中で白は一番レベルの低い魔物。レベルが三十もあれば倒せる相手。

 この世界の魔物と、『アニクエ』の魔物はレベル帯が似ている。これが冒険者として依頼をこなした上でのアスナリアの結論だ。

 当然ゲームのように数値化されていないので、討伐ランクなどの曖昧な基準になるが。

 『鑑定(アプレイザル)』の魔法は道具にしか使えず、レベルを測ったりは出来ない。そして、基本的にはほぼ一撃で相手を倒しているアスナリアに、他にレベルを測る方法が無かった。


 これが人間にも当てはまるとすると、Sランクでも使える魔法は高位の中級まで。それだと大体レベルが三十に届くかどうかだろう。

 剣士などもそれに準ずると考えると、Sランクの冒険者パーティーは全員がレベル三十前後だと思われる。

 ドラゴンのレベルは弱い順番から、白、赤、黒、金となっている。当然その中にも色々いるのだが、概ねこの法則が当てはまる。

 そして黒のドラゴンを倒すのに必要なレベルは──五十だ。

 レベル三十のパーティーで挑んだとしても、まず間違いなく勝てない。


「れべるというのがよく分かりませんが、強さの数字と考えて聞いたら無理だと感じますわね……」

「故郷の話だから当てはまらない可能性もあるけどね」


 それは逆に言えばその可能性もあるということ。そうなれば王国の最後だろう。白のドラゴンですら国土の五分の一が焦土と化したのだ。それより遥かに強大なドラゴン。

 想像するだけでも怖気が走る。しかしそんなことを発表しても信じてはくれないだろう。なんといっても獣人の一人が言っているだけなのだから。


「アスナリア殿なら倒せるのですわね?」

「大丈夫だと思うよ」


(くっ?!軽いですわね!人事だと思って……)


「そんなドラゴン放っておいたら獣人も危ないからちゃんと全力で倒すよ」

「よろしくお願いしますわね」


 本当にですわよ。と願いを込めてアスナリアを見つめる。


「今回冒険者に関してはそこまで気を使うことは無いですが、死なないようにだけ気を付けてくださいましね」


 ミュレルは今日、大分冒険者に不満を持たれた。これを少しでも解消するには、『永遠の雲』にアスナリアを認めてもらうのが一番手っ取り早いだろう。

 自分達よりアスナリアが上だと『永遠の雲』が認めたら、今日ミュレルが言ったことが分かってもらえるだろう。

 優先順位はドラゴン討伐より遥かに低いが、放ったらかしにしてはいけないことだ。冒険者にそっぽを向かれたら治安面で不安が出てくる。


「分かってるよ。セリナを泣かしたやつだけど我慢してるでしょ?」


 あれで我慢していたのか。と呆れる他無いミュレルだった。

お読みいただきありがとうございます。

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