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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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討伐依頼

よろしくお願いします。

 宮廷魔道士が使えないと分かり、ベルメール伯が無駄に腹を揺らし、呆れたように口を開く。


「何だそれは?それでは一体何のために宮廷魔道士がいるのだ?あれらは王国最高の魔道士集団では無かったのか?」

「対外的には。ですが、優秀な魔道士全てが国に仕えているわけではない。ということですよ」


 当たり前だが、王国に住む魔道士全員が愛国心に溢れているわけではない。だとすれば、危険度は上がるが、より稼げる方に傾くのは当然のことだろう。


「宮廷魔道士の話はその辺でいいではないか。今は喫緊の問題を先に考えないといけないだろう」


 ヴィルマルク侯が逸れかけている会議の本筋を元に戻すように声を上げ、ローグシェラー伯、ベルメール伯が共に軽い会釈をする。

 三人の大貴族と言われているが、誰が一番力を持っているかが顕著に現れていた。


「では、冒険者を使うしかない……か」


 ロズベルの嫌そうな言葉には、ハッキリと侮蔑の感情が表れていた。ベルメール伯も言葉には出さないが、似たような表情をしている。

 騎士の中にもいるのだが、王族や貴族の中にも冒険者を嫌悪している者達がいる。騎士とは違い、言うことを聞かないというのが一番の理由だろう。

 貴族の言うことを聞かないとは何たる不遜な態度か、という考えなのだろう。

 見栄と虚栄にまみれた王国貴族らしい理由だ。


「やはりSランクの冒険者に頼むべきだろうな」


 ヴィルマルク侯の言葉が重く部屋に響く。ロズベルもその言葉には首を縦に振りざるを得なかった。

 ここで、ローグシェラー伯とロゼルが示し合わせたかのようにミュレルを見る。


「既に、今王都に居るSランクの冒険者五人に、指名依頼を出していますわ」


 ミュレルの言葉に、感嘆する声が漏れ聞こえる。

 ここまでの流れを的確に読み、既に手をうっているミュレル。前情報の差はあるだろうが、そこも含めて、何も考えずに会議に参加しているロズベルとは雲泥の差だった。

 まさに苦虫を噛み潰した顔のロズベル。ギリリと歯を鳴らし、ミュレルを睨み付けている。


「この依頼の依頼主は、レイブラント王国国王、レミルトン十三世。でよろしいですわね?」


 当然だろう。と参加者が首を縦に振る。

 国の行末を決める国王参加の会議の決定だ。最高責任者は国王以外の何者でもないだろう。


「ミュレルよ。いい働きをしているな」


 ミュレルはそれを受け、軽く頷く。

 レミルトン十三世。御年四十五歳、在位二十年。

 王冠が乗ってある金髪の中にもそろそろ白いものが混じり始めて来ていたが、まだまだ現役だと示す顔は、威厳に満ち溢れていた。


「では、その冒険者を含めた増援の騎士団の編成ですが……」


 ロゼルの言葉に皆意識が編成する騎士団へと移る。


「数はあまり多くない方がいいだろう。三百の魔物を抑えられる最低限の数、やはり千ぐらいが妥当だと思うが?」

「そうですね。冒険者をドラゴンに当てるための露払いはすべきでしょう」


 ヴィルマルク侯が提案し、ローグシェラー伯がそれに賛同する。

 いくら人智を超えたSランクでも、他の魔物を相手取りながらでは満足な働きは期待出来ない。

 五体満足の体で、冒険者をドラゴンに当てる必要がある。


「父上!ここは私ロズベルに、騎士団の総指揮をお任せを!」


 騎士団の編成の話が決まった直後、ロズベルはここが勝負どころとばかりに声を張り上げて、国王に進言をする。

 録な案も出せずにミュレルに先手を打たれ、先の増援も、結果的には意味が無かった。会議を通してよくよく考えると、そのまま増援に向かえば無惨に騎士団は壊滅していただろう。

 ロズベルは何とか武功を挙げようと必死だった。

 国王は暫し目を伏せ思案する。そして、手に持つ王笏をシャランと鳴らし、宣言する。


「……ロゼル」

「はっ!」

「此度の総指揮は其方に任せる。ルンカの街まで騎士を無事進軍させ、冒険者と共に見事ドラゴンを討ち取ってみせよ」

「はっ!畏まりました!」


 ロゼルは王命をしかと心に刻み、頭を下げる。

 ロズベルが恥辱を受け、顔を真っ赤にして震えている。

 これが戦争。つまり、相手が人であるならば、後ろの方で一軍を指揮させてもよいのだが、今回は相手がドラゴンだ。一つの過ちが王国の行く末に直結する。

 それを軍事に疎いロズベルに任せるほど、国王は耄碌してはいなかった。それが愛しい自分の息子であっても。

 ミュレルは勿論わきまえており、ロゼルに任されたことに否はない。

 国王がそっとロズベルを盗み見て気付かれないように溜め息を吐く。

 その顔には、そんなことも分からないのか。とありありと書かれていた。


 国王が部屋から出ていき、皆一息吐く。三人の大貴族が体の凝りをほぐして、少しばかり気持ちのよさそうな顔をした。


「しかしローグシェラー伯」

「何ですか?」

「随分と変わりましたなぁ」


 ベルメール伯が侮蔑とも取れる軽薄な顔を浮かべ、ローグシェラー伯の変化を笑う。


「何のことですか?」

「貴公はいつの間に王国の歴史家になったのだね?これも獣人に絆された結果かね?」


 確かにローグシェラー伯は自分の家の歴史ならいざ知らず、王国の歴史にはそこまで興味が無く、態々書庫にまで出向き、昔の文献を漁るような人物では無かった。

 アスナリアに言われ、古今東西の強者の情報を調べているに過ぎなかったが、当然それをベルメール伯に言うほどローグシェラー伯は愚かではない。


「強者の情報は重要ですよ。いつどこで厄災に見舞われるか分かりませんからな」

「そうだな。いつどこで味方が裏切るかも知れんしな」


 ロズベルが横からローグシェラー伯の言葉に付け足す。まさに当て付けるような物言い。


「獣人風情の保護などバカなことを──」

「お、お待ちください!」


 ローグシェラー伯がロズベルの言葉を遮り、悲鳴とも取れる声を出す。

 普段のロズベルなら、王子の言葉を遮るなど何たる無礼な。と憤慨するところだが、あまりのローグシェラー伯の剣幕に驚き言葉が出ない。


「あっ、し、失礼しました……」

「お、お兄様。あまり汚い言葉は王族には似合いませんわ」


 何故かミュレルとロゼルも顔を真っ青にしている。

 訝しげな顔をするロズベル。


「どうしたのだ……?うん?確かに少し冷えてきたか……」


 ロズベルは体をブルッと震わせて思わず部屋をキョロキョロと見回す。何処からか冷たい空気が流れてきた気がしたのだ。

 気のせいか。と頭を振り、ベルメール伯を伴い部屋から出ていく。


「儂はそういう派閥争いは好かん。ローグシェラー伯よ。あまり王国を騒がしくしないでくれよ」


 ヴィルマルク侯が、「お先に失礼します」と恭しくミュレルに礼をしてから部屋から出ていく。


「──では、続きは私の部屋で話をしましょう」


 部屋に残った者はその言葉に頷いて、ミュレルの後に続き部屋を出ていった。




 ☆★☆




 王都レイブラントの冒険者組合。幾多の若者を受け入れ、幾多の若者が夢を散らす場所。


 冒険者組合がある場所は王都の商業区。様々な物を売り買いする上に、塒を宿屋に決める冒険者が多いので、これは当たり前と言えるだろう。

 王都にある建物の中では比較的大きな建物。その入口であるスイングドアから、冒険者と思われる人達がかなりの人数出入りしている。

 中に入ると目の前には受付、左手には掲示板があり、依頼書らしき羊皮紙が張り出されている。

 右手には冒険者がちょっとした相談を行えるように、テーブルと椅子が数セット備え付けられている。今そこは、様々なランクの冒険者で埋め尽くされていた。


 冒険者になるのは至極簡単だ。受付に赴き冒険者になりたいと告げるだけでなれる。しかし、そこから始まるのは全てが自己責任の命懸けの仕事。

 依頼を受けるのも、断るのも自己責任。そして当然──死んでも自己責任だ。


 始めは薬草の採集など危険度が低いものばかりを受けるが、それだけでは生活もままならない。なので、無理をして討伐系の報酬の高い依頼を受ける。

 当然達成できずに死ぬ冒険者もいる。その数の多さは、冒険者になってからの一年以内の死亡率の高さから理解できることだろう。

 今ここにいるのはそれらを乗り越えた冒険者。


 何故こんなに集まっているのか。それは、ルンカの街にドラゴンが現れ、その討伐依頼が王家から出されると情報があったからだ。

 その証拠に、集まっている冒険者は皆ルンカの街の情報をやり取りをしている。

 王家からの依頼なら報酬が少ないなどあるわけがない。ドラゴンの討伐は無理でも、何かお零れがあるのを期待して集まっているのだ。

 それに、ドラゴン討伐の依頼なんていう世紀の場面を、この目で見たいという理由も少なからずあるだろう。


「どんな依頼だと思う?」

「そりゃやっぱり討伐依頼だろう」

「お零れは……無いか?」

「露払いは騎士団が出るって話だぜ」

「あぁ、やっぱりかぁ……」

「だとすると、依頼を受けるパーティーは……」


 皆の視線が一組の冒険者パーティーへと注がれる。

 先程からチラチラと目線を送られていることには気付いてはいるのだろうが、一切気にせずにその四人は堂々とテーブルにて寛いでいた。


「ドラゴン討伐かぁ。三年ぐらい前だったよな?」

「そう。ゴング大山脈に狩りに行った」

「そう。あれはいいお金になった」


 ゴルゾーラと双子の話を盗み聞きしていた冒険者は感嘆の声を漏らす。流石はSランク、俺達とは格が違うと。


「まだ私達とは決まってないでしょ?」

「何言ってんだよリーダー、『雷雲』が今いないんだらか俺達に決まってんだろ」


 ユミエールの肩をバシッと叩きカラカラと笑う。


「ユミ大丈夫?ゴルは手加減を覚えた方がいい」

「エール大丈夫?ゾーラは筋肉バカ」


 痛そうなユミエールを双子が慰める。然り気無くゴルゾーラを詰りながら。


「うるせぇな。大体──」

「──しっ」


 言い返そうとしたゴルゾーラを黙らせて二階へと続く階段を目で指すルーナ。

 そこからは、一人の男が降りてきていた。頭はもう真っ白になっていて、顔には深く皺が刻まれている。年齢は五十を超えた辺りだろうか。

 年寄りの部類に入るのだが、そんなことを感じさせない気丈さがあった。


「──ふむ。本来ならこんな見せ物じみたやり方は好かんが……」


 そこで言葉を切り、無駄に集まっている冒険者達を一睨みする。

 それに挑戦的な笑みで返すか、たじろぐかで、ある程度のランクが分かるというもの。

 当然『永遠の雲』は前者だ。


「まぁ、これも必要なことか……。さて、それでは王家から指名依頼があった。その冒険者パーティーを発表する」


 冒険者組合が静まり返り、組合長の次の言葉を待っていた。


「『永遠の雲』、そして──アスナリア=ファング」


 冒険者達の顔が面白いように変化していた。始めに緊張した顔。『永遠の雲』の名が呼ばれたときのやはりという顔。そして、最後に呼ばれた名を聞いた、えっ、誰?という顔。

 まさに百面相のように瞬時に変わっていた。


「呼ばれた五名は受付まで来てくれ、依頼内容を説明する。受けるかどうかはそれで判断してくれ」


 そんな微妙な空気などお構いなしに組合長が話を続ける。

 冒険者達がアスナリア=ファングなるものを一生懸命に探しているが、周りからは出てこない。

 それは当然だろう。アスナリアは今まさに、二階へ続く階段から降りてくるところなのだから。

 その姿はユンダの街の人々には見慣れた姿。真っ黒のローブに、先端に黒く輝く宝石が付いている杖。まさに魔道士の装い。

 それを見た『永遠の雲』のユミエールは顔を歪ませる。数日前に絡んだ相手が、一緒に仕事をすると出てきたのだから当たり前だろう。


「おいおい、どういうことだよ。なんであんたが一緒に行くんだ?」

「冒険者なの?」

「獣人の冒険者なんて始めて見た」


 他のメンバーからも困惑の声が漏れ聞こえる。しかし、それに答えたのは組合長でも、アスナリアでも無かった。


「それについては私から説明しましょう」


 混乱している一同が一斉に階段へと目を向ける。そこには、レイブラント王国の王女である、ミュレル=エル=レメン=レイブラントが居た。

お読みいただきありがとうございます。

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