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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
30/51

種族変化

よろしくお願いします。

 ローグシェラー伯が獣人保護派になった。この一大ニュースは王都中を駆け抜けた。

 今までの態度を百八十度変えて、獣人を攫った人達を全員死刑にするぐらい厳しく当たるようになった。

 ロゼル隊長の見廻りにより大分少なくなっているが、アスナリアが王都に居るからありがたいことには変わりはない。だが、ミュレルは分からない。ローグシェラー伯が何故そこまで考えが変わったのかを。

 細かな装飾が真っ白のカップに施され、高級感に溢れているカップにメイドが紅茶を淹れる。ミュレルはそれをすすりながら思案する。

 そして、そのカップの淵を指で何となくなぞっていると、扉がノックされる。

 入ってきたのはロゼルとズー。


「待っていましたわよ。一人では答えが出なかったのですわ」

「ふむ。ローグシェラー伯ですな。それは私も知りたいところです」

「先ずはズーの話を聞きたいですわね。一体あの人攫いの拠点で何があったかを」


 ズーはあの日あったことを覚えている限りミュレルとロゼルに話して聞かせた。ズーが死にかけたところで、ミュレルの顔が悲壮感に溢れたのを見て、尻尾を揺らしながら。


「どうやらその魔道士がローグシェラー伯に何かをしたのは確実ですわね」


 後ろ楯を気にし、組織のリーダーだけを連れて何処かに消えた。情報を吐かせてローグシェラー伯まで辿り着いたのだろう。

 しかしどうやって?一魔道士が大貴族を抑えれるものなのか?話を聞き、さらに混乱するミュレル。

 ミュレルのそんな混乱を余所にロゼルが口を開く。


「物凄い魔法使いがいたものだな。回復魔法も攻撃魔法も一流の魔道士か。是非宮廷魔道士に誘いたいものですな」

「ですが、そんな人物が王都に来たら噂ぐらいにはなっている筈なのですが……」

「そう言えばアスナリア殿の噂も聞きませんな。街をあんな格好をした獣人が彷徨けば、噂ぐらい聞いてもおかしくない筈ですがな」


 言われてみればそうだ。この部屋にも何回かアスナリアは来ていて、王女の部屋に出入りする獣人が一人増えたと王城では噂になっているのに。

 何かおかしいとミュレルは考え込む。

 アスナリアと同時期に王都に現れた人智を越えた魔道士。


「あっ!」

「どうしたのですか?ズー?」


 いきなり声をあげるズー。いつも二人が話しているのを直立不動で聞いているのに、珍しいなとミュレルとロゼルがズーを見る。


「いえ、すみません」

「いいですわよ。何か思い出しましたか?」


 さっきの話の中で、その魔道士が来たときにはズーは気絶していた。なので、どんな回復魔法だったとか、どのようにズーを倒したヴィスチェという女を倒したかは見ていなかったのだ。


「あ、はい。その魔道士が着ていたローブなのですが、アスナリア殿が着ているローブとそっくりだったのです」


 訝しげなミュレル。まさか、いやそんなこと。と二つの気持ちが頭の中をぐるぐる回る。


「アスナリア殿は今日はどちらに?」

「獣人の村を見に行くと行ってましたから王都の外では?」

「至急話がしたいとお伝え願いますか?」


 少し不思議な顔をしながらも、はいと頷きロゼルは部屋を退出する。


「その魔道士はズーに何か言っていませんでしたか?」

「特には……。先程言った以上のことは。あぁ、言ったというわけでは無いのですが、私のことを知っている雰囲気でしたね」


 確かに王女専門の護衛としてズーはある程度有名だ。知っている者がいても然程おかしくはない。


「本当に人間だったのですわね?」

「え、ええ」

「フードを被っていたとか尻尾を隠していたとかではなく?」

「尻尾は分かりませんが、顔はハッキリと出していました。確かに人間でした」


 そうですか、と呟きまたもや考え込むミュレル。その後ろで身動ぎもせずに佇むズー。

 いつもと同じ光景なのだが、どこか空気はいつもと違っていた。




 アスナリアはロゼルの屋敷に帰るなりミュレルに呼び出されので、ロゼルと一緒に王城に向かっていた。

 既に時間は夕暮れ時。仕事帰りの男共の酒盛りの声が遠くから聞こえてくる。

 宮廷魔道士が街灯の魔道具に灯をともしているのを横目に見ながらロゼルと進む。


「呼び出しとは珍しいですね」


 ミュレルは王都にアスナリアを呼んだにも関わらず、王都ではアスナリアの好きにさしていた。

 人攫いの組織のことで忙しかったというのもあるが、何をしてもらうにしても、よくも悪くも獣人というのは目立つ。なので、使いどころが難しかったのだ。


「何やら聞きたいことがあるご様子でしたな」


 ふ~んと、あまり興味も無さそうにアスナリアが頷いていると、王城に入る門が見えてくる。

 アスナリアはここを潜る時にいつも感じることがある。やはり人間と敵対しなくて正解だと。

 この見上げるような四重の城壁に、其処此処に立てられた物見の塔。

 自衛隊ならいざ知らず、獣人だけでこれを落とせるとは到底思えない。アスナリアの魔道具を渡せば可能になるかもしれないが。

 そうなると、この城を落とすのにはアスナリアが必須ということになる。アスナリアが為政者なら、必ず獣人の村を人質に取るだろう。

 アスナリアの実力が知られていない今の内ならうまく行くかも知れないが、結局はその後は硬直状態になるだろう。そうすると、物量の差で獣人達の負け戦になるのが目に見える。いや、そうなる前にアスナリアの動きを封じようとするだろう。知らないところで獣人の虐殺が起きるとか。


「お疲れ様です!ロゼル隊長!」

「む。ご苦労」


 アスナリアは特には声を掛けずに会釈だけして門を潜る。

 初めは皆訝しげに見ていたが、ここに来るときは必ずロゼルとともに来ているので絡まれる心配は無かった。


 王城の中に入り、中央の王族の居住地がある宮殿に足を踏み入れる。周りの騎士達が、平民から取り立てられた位の低いものから、貴族の親類等の形だけの騎士が増えてくる。

 近衛部隊は別として、こういう場所に出入りしている騎士は儀仗兵などの騎士も多くいる。

 よく分からない彫刻や絵画なども飾られて、ゴミ一つどころか塵すらも落ちていない程に磨きあげられた広い廊下を歩く。

 光が多く取り入れられる設計になっており、その光が反射して少々眩しい程だ。

 その先からこの国の王子であるロズベルが、数人の侍女を背後に侍らせて我が物顔で廊下を歩いてい来る。

 それに気付いたロゼルが廊下の端に寄り頭を下げる。アスナリアもそれに倣う。こうしないと面倒臭いことになるからという理由なので、ロゼルとは比べ物にならないぐらい適当な礼だが。


「ふん。獣人風情は礼も満足に出来んのか」


 ロゼルは手を真っ直ぐに体に添えて、深々としているのに対し、アスナリアは手をダランとさせ頭も一応下げているだけという塩梅だ。

 ピクリとアスナリアの肩が揺れ、真っ直ぐとロズベルを見据える。無表情だが、威圧する雰囲気を醸し出しながら。


「何だその顔は?」


 無言で睨み付けるアスナリア。不味いと感じたロゼルが思わず間に入る。


「ロズベル王子殿下!ミュレル王女殿下に呼ばれていますので失礼します!」


 ロゼルとて政治に長けているわけではない。これは平民上りなので仕方のないことなのだが。

 こんな場面をうまく切り抜ける方法など咄嗟に思い付く筈もなく、アスナリアの手を取って逃げるしか出来なかった。

 急に痛みだしたお腹を押さえアスナリアに愚痴るロゼル。


「アスナリア殿……!勘弁してください……!」

「あぁ、すみません。ちょっといらっときまして」


 ちょっといらっとしたぐらいで王子に喧嘩を売らないでほしい。と思ったが、アスナリアに喧嘩を売るわけにもいかず、なんとかこちらも宥める。


「ローグシェラー伯の裏切りがあったので王子殿下も虫の居所が悪かったのでしょう」


 と言い訳をアスナリアにしておく。

 ふぅ。と一息吐き、気を取り直しミュレルの部屋に足を向ける。

 廊下にはズーのように直立不動の騎士達が所々に居て目を光らせている。この兵士達が近衛兵で、騎士団の中の精鋭が宮殿の警備を任されている。

 ロゼルが通る度に最敬礼にて送り出し、また直立不動に戻る。

 アスナリアはいつもそれを見てイギリスの赤い帽子を被った兵隊を思い出す。似ているな。と。

 そして、ミュレルの部屋の前に着き、ロゼルがコンコンコンと丁寧にノックをする。

 メイドに来訪を告げてから、部屋の中に入る。


「お待ちしておりましたわ」


 そう言ったミュレルはメイドを退出させ、部屋の中はいつもの四人になる。

 型通りの挨拶を終えてから、黒のテーブルの色に会わせた椅子に腰をおろす。


「さて、今日はアスナリア殿に聞きたいことがあるのですわ」

「……?何でしょう?」


 たっぷりと間をあげてからミュレルは単刀直入にアスナリアに尋ねる。


「人間に変身出来るのですか?」

「……」


 思わず動きそうになる眉をアスナリアは必死に抑える。見た目は無表情で澄ましているが、心の中ではそうではない。


(うおぉぉおお?!ばれてるぅぅ?!何で?!)


 驚愕を心の中で留めて、努めて冷静にアスナリアは言葉を紡ぐ。


「ちょっと言っている意味がよくわかりませんね」

「そうですよ王女殿下。いくらアスナリア殿が人智を越えていようともそんな荒唐無稽なこと」


 ロゼルまでもが否定するがミュレルは怯まずに言葉を続ける。


「ロゼル隊長はあまり神話を読まないのですか?神話の中にあるのですわ。自分の種族を変化させる魔法が。神話の魔法を扱うアスナリア殿ならその魔法を使えるのでは?」

「……」


 黙りこくるアスナリアを見て、ミュレルが溜め息を吐く。そして、後ろを振り返りズーを見る。


「ズーが聞いてみてくれませんか?」

「私がですか?」


 ええと頷くミュレル。そして、アスナリアの目を真っ直ぐに見てズーが問い掛ける。


「アスナリア殿は人間に変身出来るのですか?」


 先程のミュレルと同じ言葉。だが、アスナリアの態度は激変する。


(そんな真っ直ぐに目を見て聞くなよぉ……)


 目が泳ぎ、ズーを見れないアスナリア。手は所在無げにグーパーを繰り返している。動揺が丸わかりだ。

 その様子を見て思わずミュレルが吹き出す。


「わかりやすいですわね」


 とニッコリとアスナリアを見やる。

 ミュレルは王都までの道程で、アスナリアは獣人に対しては嘘をつけないと見抜いていた。


「ズーに聞いてもらって正解ですわね」


 そんな獣人をアスナリア専用の嘘発見器にするなよ。と思うが、あっさりそれを見抜かれるアスナリアにも問題はあるので、黙ってそれを受け入れる。


「認めてくれますわね?」


 はぁと溜め息をつくアスナリア。もうミュレルはほぼ確信しているのだろう。これ以上黙っていても無駄だと感じたアスナリアは、渋々人間に変身出来ることを認める。


「ローブぐらいは変えないと駄目ですわよ。そんなローブが普通に出回っているわけ無いのですから」


 ミュレルのダメ出しに顔を歪ませて頷く。思い付いたのが拠点急襲している時とはとても言えない。


「本当なのですか?」


 ロゼルがブルブル震えながら聞いてくるが、それよりもズーが大きな反応を示した。

 いきなりアスナリアに土下座をしてくる。


「アスナリア殿!この命を助けて下さってありがとうございます!」

「大袈裟だよ!」


 慌ててズーを立たせるアスナリア。しかしそれで収まらないのか、何度も礼をアスナリアにする。

 ズーからしたら命の恩人だけではなく、人攫いの嫌疑も晴らしてくれたのだ。それはひいてはミュレルを助けたことにも繋がる。何度礼をしても、したりないということにはならない。

 結局ズーは、ミュレルが止めるまで土下座を辞めなかった。


「アスナリア殿はローグシェラー伯をどうやって抑えたのですか?」

「えっ?それはまぁ。色々として……」

「あっ!いえ、やはりいいです。聞かないでおきます」


 拷問したなと気付いたミュレルは言葉を濁す。そんなことを聞いたらこの国を治める王族として、何もしないわけにはいかなくなる。

 そんなアスナリアと対立する愚をミュレルが犯すわけはなかった。


「取り敢えず今回のことは皆様他言無用でお願いしますわね」


 皆真剣な顔で頷く。アスナリアも頷いているが、何故かは理解していなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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