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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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王都での発見

よろしくお願いします。

 アスナリアが王都に来てから既に数日が過ぎていた。初めは周辺の獣人の村を回るつもりだったのだが、そうは言ってられない事態に直面した。

 切っ掛けはフラリと立ち寄った大きめな商店。

 ユンダの街にある大商店よりも大きな店構えに好奇心が刺激されたのだ。

 外観にそれほど差異は無い。若干王都の方が古くさいといったところか。

 中に入ってみたら、ユンダのそれとは違い、夥しい数の商品に迎えられた。

 個人的な商談は個室でするのか、ソファー等は置いてはおらず、変わりに二階へと続く階段が奥に見える。

 ユンダの街と違って治安がいいのか警備兵は見当たらない。

 魔道具から消耗品まで幅広く扱っている商店のようで、見ているだけでも楽しめる。


 店の奥。一番入り口から遠い場所に何十冊もの本が置いてあった。

 当然それは羊皮紙で、製本などされていない。羊皮紙の端を紐で通しただけの本だ。

 本はこちらの世界では非常に高価なものだ。ユンダの街でも数冊しかお目にかかっていない。

 当たり前だが情報は金になる。それを誰が好き好んで世の中に広げようというのか。結果、貴重な本は国や貴族などが独占していて、偶に売り出されても膨大な値が付けられることになる。

 それが何十冊も売りに出されているとは流石は王都。興味を引かれたアスナリアは全部のタイトルを流し読みする。

 その中に──『闇を振り撒きし者』──があった。


 アスナリアは思わず二度見してしまう。そして手に取ろうとして、


「お客様。本にはお手を触れないようにお願いします」

「あぁ、すみません。これ買います」


 店員は買えるのか?という表情だ。当然だろう。この本の値段は下手な魔道具より高い程なのだから。しかし、Sランク冒険者としてユンダの街で荒稼ぎしたのは無駄ではない。

 ローブの懐からジャラっと音を鳴らして、金貨が詰まった袋を取り出した。

 店員の目の色が変わる。ベテランの店員なのだろうか。大きさと音でどれだけの金貨が入っているか分かるのだろう。

 袋から金貨を取り出し言い値の枚数を払う。


「あ、ありがとうございます!あ、あのお名前は何と仰るのでしょうか?」


 本をポンと買うような人だ。大貴族か大商店の関係者に違いないと店員は思い、必死に顔を繋ごうとしていた。だが、アスナリアはそれどころではない。

 引ったくるように本を取り、人に見られないように転移の魔法で今お世話になっている部屋へと移動した。




 恐る恐る本をめくる。

 暫くの間、本をめくるパラパラという音しか聞こえない。

 本を読み終わったアスナリアはふぅと一息吐く。

 似ている。というよりそのまんまだ。そう。この本に書かれている神話は『アニクエ』そのものだった。


 登場人物の種族が違うが、スタートから表のクリアまでがそのまま書かれていた。

 『アニクエ』のストーリーは人間に虐げられる獣人を助けるのがコンセプトだ。ただこれが、悪魔に虐げられる人間を助けるのに変わっている。

 そして、何故か途中から世界を征服しようとする魔族と戦うことになるのだが、その表のラスボスの名が『闇を振り撒きし者』なのだ。

 この本では魔族では無く悪魔と呼ばれているが、姿や戦い方が『アニクエ』のままだった。


 アスナリアは思考の渦に沈み込む。

 考えられる可能性は二つだ。

 一つはこの世界は『アニクエ』の世界で、ストーリーが終わった何年か後の世界。いや、神話となっているぐらいだから何百、何千年後の世界だろう。

 もう一つは過去に、アスナリアと同じ様にこの世界に『アニクエ』を知るものが来た。この二つだ。

 ここまでそっくりで、まさか偶々ということは無いだろう。

 この世界の魔法の形態は『アニクエ』に似通っている。一段が下級、二段が中級。『魔法障壁(マジックシールド)』で下級の魔法を防げるなど。そこから考えると前者の可能性の方が高いか。

 だとしたらアスナリア=ファングの名が無いとおかしいのだが、主役が人間に変更されているのをみると変えられた可能性が高い。


 そして、本には色々な魔法が書かれていた。最上級魔法の『吹き付ける風(ブローアンゲスト)』やら、蘇生魔法である上級魔法の『復活(リザレクション)』など。微妙に効果が違うが、アスナリアが持っている魔道具等も書かれていた。

 そして──極大魔法も。


(そういえば冒険者が『瞬間移動(テレポーテーション)』出来る杖を持っていたな……。あれは『瞬きの杖(またたきのつえ)』だったのか?)


 中級魔法だから気にも止めなかったので、どんなに頭を捻ってもどんな杖か思い出せない。

 白かったのは覚えているが、それ以上は思い出せない。そもそも、あの時点で相手に対して興味を失っていたのだ。現物があれば、アスナリアが持っている物と比較が出来るのだが。

 後問題があるとすれば敵モンスターだ。

 この世界の何処かに裏ダンジョンにいるようなモンスターがいるのかもしれない。だが、周辺にはいないのだろう。アスナリアのレベルでも、ソロなら手を焼くモンスター達だ。こんなレベルの低い人間しかいない国なんて、とっくに滅ぼされていないとおかしい。

 取り敢えず他の神話が書かれている本でも探すか。と思い部屋を出ようとする。


「おっと忘れてた」


 一つ魔法を唱えてから部屋を出る。

 廊下を進んでいると執事と擦れ違う。燕尾服をキチッと着こなしていて、髭は生やしていないがとても優秀そうな執事だ。大分年齢がいっているように見えるが、きびきびと動き年を感じさせない。


「これはアスナリア様。いつの間にお戻りになられたのですか?」

「うん?あぁ、ちょっと前だよ。また出掛けるけど」

「畏まりました。ロゼル様が夕食をご一緒にと仰ってましたので、それまでにはお帰り願います」


 ビシッと九十度のお辞儀をしている執事に見送られ、分かったと返事をしながら玄関に足を向ける。

 ここはロゼルの屋敷で、王都にいる間は好きに使ってくれと言われている。

 それから数日は商店巡りをして、神話に関する本を読み漁っていた。中身のストーリーは殆ど一緒で、登場人物や使われる魔法などが違うだけだった。

 後これは、神話の内容とは関係無いのだが、この神話が書かれているのは共和国が多いそうだ。

 共和国は遠いからあまり気にしていなかったが、これからは気を配ろうと心に留めた。


 そして、主な商店を回り終えて、本来の目的である獣人の村を見て回ろうと王都の西門へと足を向ける。


(あっ!お土産買わないと)


 王都に行く際セリナとファスミラにお土産を買ってくると約束していたのを思い出す。


(確かこの先に……。あった。あった)


 アスナリアの行く先にこぢんまりとした商店が見えてくる。商店巡りをしているときに見つけた、小さいながら中々お洒落な雑貨が置いてある商店だ。

 中に入ると繁盛しているようで人でいっぱいだった。


(女の子に贈り物とかあんまりしたこと無いんだよなぁ)


 何がいいかなとアクセサリーを見て回る。当然ながら魔法がかかった品物など置いてはいない。

 アスナリアは自身がはめている五つの指輪を見つめる。

 本来指輪としての装備枠は一つしか無かったが、現実になると当たり前だが指は十本ある。どういう理屈かは分からないが、はめた指に合わせて指輪の大きさも変わってくれる。この辺は魔道具の武具と同様だ。

 質量保存の法則はどうなっているんだ?と首を傾げたものだ。

 取り敢えずは五個の指輪を付けているアスナリア。

 状態異常に完全耐性のある指輪、俊敏力を上げる指輪などだ。

 当然だが左手薬指は空けている。そして、セリナに指輪を渡すことを想像して顔が赤くなるアスナリア。

 ブンブンと頭を振り、気を取り直してアクセサリー選びを再開する。


(これがいいかな?)


 髪の長いセリナには花の形をした髪留め。ファスミラには髪の色に合わせた銀色のブレスレット。マチュピアには綺麗な石が嵌め込まれたネックレスを。

 喜んでくれるかなと、うきうきしながら店を出る。

 買った物をこっそりとアイテムボックスに仕舞い、今度こそはと西門に向かい歩き出す。


 ここ王都もユンダの街と同様に東西南北に門があり、衛兵が人の出入りをチェックしていた。長い行列の最後尾に着き、順番を待つ。

 中々アスナリアの番にならない。流石は王都。人の出入りが多い。

 主にチェックをしているのは積荷と、犯罪を犯して手配されているかどうかで、一人一人やっていると大分時間が掛かる。ユンダの街ではほぼスルーだったから余計に長く感じる。


(なっがいなぁ……)


 次からは転移で出入りしようと考えていたアスナリアの横を馬車が通りすがる。

 それにピクリと反応を示し、不思議に思い首を傾げるアスナリア。



 ☆★☆



 ミュレル王女殿下の専門護衛。これがズーの肩書だ。聞こえはいいが、ようは何もするなということだ。それぐらいはズーでも分かる。だが、ズーはそれで満足だった。

 命の恩人である姫様。その方の為に命を掛けれる一番のポジションだとズーは理解していた。

 あの日あの時姫様が通り掛からなければ、ズーは貧民街の片隅で命を散らしていただろう。

 何故あんな場所に姫様が来たのかは分からないが、そんなことはどうでもいい。あの瞬間からズーの生活が一変したことには変わりはないのだから。


 村から人攫いに連れてこられて、いつの間にか強制労働をさせられていた。記憶も覚束無い子供時代の話だ。村のことなど記憶の片隅にも残っていない。

 大人になり何とか逃げ出したはいいが、当然生活出来る当てもなく、貧民街に辿り着いた。

 王都であろうとなかろうとも、獣人が人間の街でまともに賃金を得るのはとても難しい。獣人の村に行こうと思っても、何処にあるかも分からない。そもそも王都から出れないだろう。逃亡奴隷として手配が回っているだろうから。

 ズーは、滅多に役人が来ない貧民街に行くしか無かったのだ。


 漸く拾った肉の切れ端は、同じ貧民街の人間に奪われる。もう反撃する体力も無かったズーは、黙ってそれを受け入れていた。

 何とか雨が凌げる軒下。そこがズーの寝床だ。当然だが吹きっさらしの所。そこに拾った毛布に包まって体力の消耗を最大限抑える。

 もう少ししたら飲食店のゴミ出しが始まる。その残飯しか食料の当てがない。たが、それには他の貧民街の住人との競争に勝たなければならない。その為の体力温存だ。

 だがもう限界が近い。目は虚ろになり、手足の先の感覚も無くなっている。


(こんな所で死ぬのか……)


 そう思った時、ズーの体に影が差す。

 そこには見たことの無い美少女。種族の違いはあれども醜悪ぐらいは分かる。

 思わず呆けて見つめるズー。ただ、その少女の服装を見て落胆する。


(貴族か……)


 目の覚めるような真っ赤なドレスに豪華なアクセサリー。庶民には到底手が出ないだろう代物だとズーでも分かる。

 貧民街をからかいに来たのだろう。そう思い、目線を逸らし再度毛布に身を包む。


「貴方、名前は?」

「……」

「喋れないの?」

「ズー」

「そう。お腹減ってる?」


 こくりと頷く。


「こんな物しか無いけど……」


 ズーはその時食べたパンの味を忘れることは無いだろう。あまりにも急いで食べたせいか、パンが喉に詰まりむせているズーを見て笑っている姫様の顔も。

 そして、その日からズーの生活は変わった。

お読みいただきありがとうございます。

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