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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
22/51

王女の勧誘

よろしくお願いします。

 

(なんで!私が!こんなことを!)


 メイヤは馬に揺られながら只管に上司であるロードルスに悪態をつく。

 目線の先には三台の純白の馬車。一台は囲むように騎士が護衛をしている。王女殿下が乗っている馬車だ。

 向かう先は獣人の村。何を思ったかミュレルが獣人の村に行きたいと言い出したのだ。メイヤはミュレルの目的がアスナリアだとは気付いていた。だがそれは、ユンダの街での会談を予想していた。

 獣人の村に行って何かあったらどうするのか。

 護衛はいるが、そんなものはアスナリアの前では何の役にも立たないことはメイヤには嫌と言うほど分かっている。

 未だに人間を恨んでいる獣人もまだいるだろう。

 当然メイヤはそんな訪問に好き好んで付いていくような趣味を持ってはいない。

 ミュレルが一番獣人の村に詳しいのは誰ですか。と質問した際に、あろうことかロードルスがメイヤを指名したのだ。


(確かに私が一番詳しいけど!これで何かあったら私は打ち首なのかなぁ……)


 うっ、と呻き、馬上にも関わらず器用に薬を飲む。

 そうこうしていたら獣人の村が見えてきた。

 特に先触れなどは出してはいないが、見張りがいるのだろうか、村の入り口にはこちらの騎士の数を越える獣人が集まっていた。

 皆剣を抜身で持ち、鎧を身に纏っている。その中の少なくない数が魔道具なのだろうか、他とは違う輝きを発していた。

 多少動揺している騎士の中をロゼルが割って前に出る。


「私は騎士団隊長ロゼル!村長殿にお目見えしたい!」


 その言葉にざわめく獣人達。どうすればいいのか悩んでいる雰囲気だ。

 そこに後方より見慣れたあの黒いローブの獣人がやって来る。アスナリアだ。


「あれ?ロゼル隊長にメイヤさん。どうしたのですか?」

「アスナリア殿。知り合いなのですか?」


 そこに鎧を着た壮年の獣人がやって来る。明らかにアスナリアの方が年下なのに敬称で呼んでいる。


「この人達は大丈夫ですよ。よくしてもらっていますので」

「しかし、アスナリア殿に何かあれば……。考えすぎですな。この程度の人間にアスナリア殿が傷一つ付けられる筈もないですな」


 ふん。と鼻で笑い騎士達を侮蔑の表情で見回す。

 ロゼルは柳に風なのだが、他の騎士はそこまでできていない。

 今ここにいるのは騎士団の中でも特に優れた精鋭達。当然そこに至るまでの壮絶な特訓や稽古の数々を潜り抜けた者達だ。

 今この獣人は何と言った?我々を弱い。そう言ったのか?今までのこと、その全てを否定する物言い。

 騎士達は当然許せるものではなかった。口々に怒りの声を上げ、剣を抜こうとするものまで出てくる。

 しかし、


「控えよ!」


 ロゼルの一喝にて冷静さを取り戻す。


「御前であるぞ」


 その一言で騎士達の殺気は霧散した。

 因みに獣人側も大人しくなった。


「アスナリア殿。久しいな」

「はい。お久しぶりです」


 メイヤは止めていた息を吐き出し、ぜいぜいと荒く深呼吸をする。


(何でいきなり戦いそうになるんだよぅ……。もう家に帰りたいよぅ……)


「村長殿にお会い出来ますか?」

「ええ。大丈夫だと思いますよ」


 坦々と話が進むアスナリアとロゼルを見て、これ私要らないんじゃ?とメイヤは思うが、それを口に出す間も無く馬を進ませることになった。


 村を進む内に以前との違いが見てとれる。木造しか無かった家屋が石造りの家へと形を変え、家屋自体も増えている。

 ユンダの街からの奴隷解放。これはアスナリアが思っていたよりも凄い効果を村に与えた。

 まずは人間の技術や知識を持っていた獣人が増えたことによって、生活レベルが飛躍的に上がった。

 建築関係、裁縫関係、料理関係その他色々。

 そして、一番の変化は人口だ。百人ぐらいしかいなかったのが、凡そ四百人にまで膨らんだ。

 当然これはユンダの街の奴隷だけでこうなったわけではない。噂が広がり、他の街から解放された奴隷や、はぐれの獣人達がこぞってこの村にやって来たのだ。


 当初は混乱したものだ。先ずは食料。明らかに足らなくなった。しかしこれは、アスナリアが魔道具の変わりに食料を買うことで事なきを得た。

 そして、寝る場所。当然足りず、若い者は広場で雑魚寝をするしかなかった。

 しかし、意外なことに皆素直で文句も言わない。何故かを聞いてみたら、ここを追い出されたら行く所が無いから当たり前だと返された。

 確かにそうだ。獣人は否が応にも一つに纏まるしかないのだ。


 そして、魔道具を身に纏った護衛団の立ち上げ。

 村の防備をいつまでもアスナリアに頼りきっていては駄目だと、若い獣人中心のメンバーが参加した。リーダーはレヴィンが勤めている。

 主に村周辺の見回りや魔物退治が仕事で、手の空いている者は農作を手伝う。

 この数が凡そ百。当然だが有事の際には若い獣人全てでことに当たることになっている。

 領軍の施設に居た獣人もいたので、その獣人に訓練の指導をしてもらっている。

 メイヤは村の広場で槍と剣を持ち、訓練をしている獣人を見て目を見張る。これはアスナリアがいなくても領軍は勝てないのでは。と思うぐらいだった。


「随分と変わったものだな」


 ロゼルが村を見渡し染々と呟く。

 現状ここまで人間の生活に近い生活をしている獣人の村は王都付近には無いだろう。


「ええ、大分まともになったでしょう?もう少しすれば、獣の皮や農作物をユンダの街に売りに行くことも考えています」

「アスナリア殿はそこまで考えているのだな。若いのに大した者だ」

「はは、ありがとうございます」


 外貨を得るのは当然のこと。ユンダの街と交流して、その技術を得るには貿易をするのが一番早い。商人だって慈善事業では無いのだ。利益が無ければ動かない。


「着きましたけど。護衛の方全員は……」

「ああ、分かっている。俺と、このズーの二人だけでいい」


 そうして騎士の中から一人の獣人が前に出てきた。

 これに驚いたのはアスナリアだ。先程あの馬車にはこの国の王女が乗っていると聞いた。そのような人の護衛に獣人を使うなんて思ってもみなかったのだ。しかも、直接の護衛の二人の内の一人に選ばれるとは。

 驚いているアスナリアを、悪戯が成功したような顔のロゼルが少し笑いながら説明をする。


「驚くのも無理は無いだろう。ミュレル王女殿下はそういう人なのだよ」

「は、はぁ」


 ズーと呼ばれた獣人は、アスナリアの前に来てビシッとお辞儀をして挨拶をする。


「ズーと言います。姫様専門の護衛を任されています。よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 幾分柔らかくなったアスナリア。それを見てロゼルがからからと笑う。


「私達にもそのように接してほしいものですな」


 やはり人間には冷めて見えるのだろう。アスナリアは一応人によっては気を付けているのだが、あまり効果は無いようだった。


「そうですわ。人間にも色々いるのですわよ」


 一人の女性が馬車から降りてくる。騎士は皆恭しく頭を垂れる。

 アスナリアはボケッとこれが人間の王女か。とのんびりとしたものだ。頭を下げるなど微塵も考えていない。


「アスナリア殿……!」


 ロゼルの声にて、あぁ、と呟き頭を下げる。

 その態度にまたもや騎士達から殺気が放たれるが、先程とは違い直ぐに収まる。

 怒られるかなと思ったが、ミュレルはクスクスと笑うばかりだった。


「よいのです。これから長い付き合いをする間柄なのですから」


 騎士がざわめく。信じられ無いのだろうか、隣の同僚に「今王女殿下は何と言った?」と聞いている者もいる。

 ミュレルはそれに厭わずに、アスナリアに中に案内するように促した。

 未だにざわつく騎士を置いて、四人の人間と獣人がアズスの屋敷に入っていった。


 アズスの部屋は、アスナリアが来た当初は松明を壁に掲げていた。今はそれを全て魔道具のランプに置き換えている。

 テーブルも貴族が使うような物ではないが、以前よりかはしっかりしている作りになっていて、椅子も数脚用意してある。


「よくおいで下さいました。お迎えに上がれず申し訳ありませんでしたぁね。ご覧のように老体ですがゆえ……」

「構いませんよ。こちらも先触れも出さずに来たのですから」


 アズスは頭を下げながら思う。王女殿下が来たこと、これについては素直に感動している。王国の現状を考えたら、獣人の村に王族が来るなどまずあり得ない。だが、所詮はアスナリアがいたからだろうとも思っている。それを表に出すほど子供では無いアズスだが。

 そして、ロゼルにも向かい、深々と頭を下げる。


「いつぞやはありがとうございました」

「いや、そんなに改まらなくていい。役に立ったなら幸いだ」


 ズーは王女が座った後で、直立不動の姿勢を保っている。

 他の三人も椅子に座り、一息つく。


「この村に王族が来るなんて驚きだぁね。どのようなご用件で?」

「この村とユンダの街との間には不幸な出来事がありましたが、その遺恨を残さないためにもと」

「そのために態々このような村にまで……。ありがとうございます」


 アズスとミュレル。二人だけの会話が続く。

 空気が変わったのはどの辺りか。やはりとも言うべきか、アスナリアの話題に入った辺りだろう。


「ところで村長殿。横に居られるアスナリア殿についてなのですが、今回の件で素晴らしい武功を挙げられたとか」

「そうだぁね。アスナリアがいなければこの村の獣人は皆殺しにされていただろうね。人間に」


 場の空気にピリッとしたものが流れる。

 だが、この程度の皮肉、貴族の荒波に揉まれたミュレルには、凪の海を泳ぐようなものだ。


「一体どのようなお方なのでしょうか?少しお話を伺っても?」


 コクりと頷くアズスを見て、ミュレルはアスナリアへと向き直る。

 さて、ここからだとミュレルの握る拳にも力が入り、両者の視線が交わる。


「初めまして。レイブラント王国第一王女、ミュレル=エル=レメン=レイブラントといいますわ」


 挨拶は終わっている筈なのに再度、そう。私の立場をよく心に刻めと言うように自己紹介をする。

 いつもならその上からの物言いに腹が立つアスナリアだが、今回は違う。目を見れば、獣人を下になど見ていないことが理解出来るからだ。


「アスナリアと言います」

「単刀直入にお聞きします。アスナリア殿の最終目標は何ですか?」


 最終目標と聞かれ、アスナリアは顎に手を当て思案する。だが、答えは何も考えていないだ。

 ここまで行き当たりばったりで行動してきたのだ。

 あるとしたらこの村の安泰。といったところだろう。


「この村の安泰。ですかね?」

「独立したいとは思わないのですか?」

「上手くいくとは思えません。回りは人間の国なのですよね?人口が少ない国での軍事力と生産力で、どうやって対等に交渉するというのですか?」

「軍事力はあるではないですか。あなた自身が」

「所詮は個人です。対応策などいくらでもありますよ」


 ミュレルの心に驚愕の二文字が浮かび上がる。正直まだ獣人だと侮っていた。


(意外とものが見えている……)


「ではアスナリア殿は、村がこの国に所属したまま平和に暮らせればそれでいいのですわね?」

「そうですね。出来れば国での獣人の差別を無くしたいのですけど……」

「それは難しいと分かっているのですわね?」


 コクりと頷くアスナリア。

 今まで培ってきた価値観や習慣。これを変えるのは容易では無い。そして、無理矢理変えたとして、待っているのは──戦争だ。

 アスナリア自身はいい。だが、他の獣人は別だ。

 守るべき者を失ってまで人間を滅ぼして何になる。


「話の通じる方で嬉しいですわ。どうですか?一度王都に来てみてはいかがですか?」

「王都……ですか?」

「ええ。獣人の差別を無くすには、獣人が名を上げるのも一つの方法ですわよ」


 アスナリアは思わずアズスの方を向く。


「村のことは心配しなくていいさぁね。若いのが頑張ってくれるよ。偶には羽を伸ばしておいで」

「おばば様……」


 まぁ、いつでも転移門(ゲート)で帰って来れるしな。と軽く、そう。まるで今夜の献立を決めるように、アスナリアの王都行きが決まった。



お読みいただきありがとうございます。

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