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犬耳たちに繁栄を!  作者: 涼
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獣人族の会議

よろしくお願いします。

  徴税官が去った後には、騎士の死体が数体と、税として納める筈だった食料というアンバランスな組み合わせが残った。


「アスナリア、死体を燃やしておいてくれるかい?私は食料を倉庫に移すために若い獣人を呼んでくるさぁね」


 当分納税どころでは無いだろうから食料を保管庫に戻さないといけない。

 こんな日向に置きっぱなしにしていたら腐るだけだ。


「はい。おばば様」

「しかし、あんたは人間に相対すると口調まで変わるんだぁね」

「変ですか?」


 アズスはいいやと首を振る。

 いくら強くても、肝心なところで腰が引けたら意味が無い。


「頼りになると思ったんだぁね」


 アズスは家の方に向い歩き出す。

 とうとう明確に領主に反抗した。そう認識したら途端に足取りが重くなる。

 もしかしたら今日死んでいたかもしれない。アスナリアがいなけれは確実にそうなっていただろう。

 大丈夫だと分かっていても怖気が走る。


(粘ったかいがあったぁね)


 アズスが短絡的に反乱を選んでいたなら、もうとっくに村は無くなっていただろう。

 重税を課せられても耐えた。

 村の獣人を攫われて、領主に訴えても無視された。

 若い獣人からの突き上げを食らいながらも耐えた。

 そして、粘りに粘って村を維持していたらアスナリアが現れた。

 アズスに対して、神様からの御褒美だと言わんばかりのタイミングで。

 涙が零れそうになるが、今から村の皆に会うのだ。

 変な誤解を受けない為にも何とか堪えるアズス。


 アズスは減税が叶うのは半々とみている。

 領主が村を潰そうとしているのは確実だが、徴税官が確りとアスナリアの驚異を伝えたら話しは別だろう。

 村の反乱を抑えることが出来たとしても、騎士の被害が大き過ぎる。

 そもそも無茶な願いなど言っていない。税も三割は納めると言っているのだ。悪いから普通にしてくれと言っているだけだ。

 これで無理なら、もう話し合いなどするだけ無駄だろう。


「世の中何が起こるか分からないね……」


 村の入り口を振り返り、アズスは感慨深げにそう呟いた。



「『火炎球』」


 ボワ!


 騎士の死体を燃やし尽くして漸くアスナリアは一息吐いた。


「アスナリア~!」


 村長の家の方向からセリナが走ってやって来る。

 後ろにはマチュピアとファスミラも居る。

 その後には食料を運ぶ為だろうか、若い獣人が何人か付いて来ていた。

 茶色と銀色の髪が大陽の光で煌めき、アスナリアは目を細める。


「お兄ちゃ~ん!」


 ボフ!


 途中でセリナを追い抜いたマチュピアがアスナリアの足に抱きつく。

 フンフンとアスナリアの匂いを嗅ぎ、尻尾をブンブンと振っている。


「お兄ちゃん?血の臭いがするよ~?どこか痛いの?」

「大丈夫だよ。怪我とかはしてないから」


 ふ~ん。と小首を傾げて不思議そうな顔をする。

 そのマチュピアのほのぼのとした言動に心が温まるアスナリア。

 因みに今のはセリナとファスミラにも言ったつもりだ。

 二人はキョロキョロとアスナリアの体を見て、怪我が無いかどうか確認しているようだったから。


「流石アスナリアね」

「おばば様が騎士が十人もいたって言ってたにゃ!すごいにゃ!」


 照れて何も言えないアスナリアと、その周りをぐるぐると回るマチュピア。

 ここ最近よく見られる光景である。


「これからどうなるのかな?」

「領主次第だろうね」


 不安そうなセリナだが、どこかスッキリした表情を見せている。ファスミラも同様だ。


「おばば様は半々って言ってたにゃ!」

「半分は反乱を抑える鎮圧部隊が来るってこと?」

「そうにゃ……」


 ファスミラはぺたんと耳を伏せて俯いた。


「領軍が来るとして切り抜けられるのかしら?」

「何とかなるよ」


 アスナリアは即答する。

 未だにここがどのような世界かは分からないし、アスナリアの知らない魔道具があるかもしれない。

 アニクエには無かったが、もしかしたらアスナリアを問答無用で無力化させられる方法があるかもしれない。

 今度の戦闘で、相手がそういう手段を持って出てくるかもしれない。

 しかし、そんなことを言っていたら、この世界で何も出来ない。

 もうこの村は、アスナリアにとって危険を冒してでも守りたい村になっている。


「皆!おばば様が会議をするから集まるようにと!」

『は~い!』


 四人揃って返事をし、村長の家に向かい歩き出した。



 昨日の会議と同じ場所、同じ獣人で会議を行う。

 まだ日が高いので、蝋燭の灯りではなく、窓を開けて陽の光を燦々と取り入れている。

 窓というが、突っ張り棒で支えて開いている、時代劇でよく見るタイプの窓だが。

 昨日ほど張り詰めた空気ではなく、若い獣人にはそこそこ笑顔も見える。


「今日徴税官を追い返したぁね」


 さらりと軽くアズスは伝える。


「おお!流石アスナリアだ!」

「騎士は十人も居て、魔道士もいたらしいぞ」

「ちくしょ~!俺も魔法使えたらなぁ」


 口々に声を上げる若い獣人達。

 やはりフラストレーションが溜まっていたのだろうか、次々に歓喜を表に出す。

 この会議は十人で行っているのだが、半数以上の七人が若い獣人だ。

 これは、反抗することを決めたときに、その方がいいだろうと村長の意向で決めた。

 それまでは半々で会議を行っていたのだが、当然そのままでは意見が割れ、会議が停滞するのが目に見えていたからだ。


「静かにしな。大変なのはこれからだぁよ」


 これから領主がどう出てくるか。これによりこの村の今後が決まる。


「はっきり言って領軍が出てくる可能性も低くないさぁね」

「望むところだ!」


 村長の言葉に勇ましく答えたのはレヴィンという若い獣人で、マチュピアが攫われた時に話した獣人である。

 鼻息荒く拳を合わせている。そこから伸びた爪は鋭く、人間の皮膚など容易に切り裂くだろう。

 身体能力は非常に高く、村一番と言ってもいいぐらいだ。

 髪型は茶色の髪を短く揃えて、ソフトモヒカンにしている。


「レヴィン。落ち着きな。だから今日から、村とユンダの街を繋ぐ街道を監視する役割を作るだぁね」


 いつの時代、どんな世界でも情報は大事だ。

 領軍の動きが分かれば、魔道具を使うタイミングが計りやすい。


「人攫いが出たらどうするの?」


 セリナが最もな質問を出す。村を守る為だと言っても、獣人が攫われたら本末転倒だ。


「最近人攫いが来る頻度は減ってるよ」

「ほんとかい?」


 アスナリアは村長に向かいコクリと頷く。

 初めの方は本当に掃いて捨てるほど人攫いが来ていたのだが、最近は一日に一組来るか来ないかになってきている。


「仮に来ても返り討ちにしてやるぜ!」

「そうだぁね。アスナリアにおんぶにだっこじゃなく、それぐらいはしないとね」


 アズスは出来るだけアスナリアには頼らないように努めている。

 見張りぐらいは任せろ。ということだろう。


「ただ、無理に戦闘する必要はないだぁね。あの魔道具も数に限りがある。そうだぁね?アスナリア?」

「はい」


 消費アイテムがこちらで補充出来ない限り無闇に使うことは避けたい。

 いくら山ほど在庫があろうともいつかは無くなる。

 そもそも、魔道具といってもピンからキリまであって、アスナリアが持っているのは効果が高すぎるらしく、普通の冒険者は持ってはいなかった。

 例えば『魔封じの珠』は、その辺の町で売っていた物で、当然高レベルモンスターには耐性があり効果が無かった。

 しかし、冒険者に使ったところ目に見えて狼狽え、パニック気味に魔法を使おうとし続けた。

 少し面白かったので、魔道士だけ残して見学していたら二時間後に効果が切れた。

 これだけでも、このアイテムがどれだけ珍しい物か分かるだろう。

 従って、補給の目処がつかないことは想像に難くな。

 当然アスナリアに魔道具を作ることなど出来ない。

 高ランクの冒険者の持ち物や国宝の中にはそういった魔道具があるらしいが。


「分かったかい。レヴィン?」

「これが無ければ、俺達は魔法の餌食になることぐらいは分かってるよ」

「じゃ、監視の順番を決めるよ。アスナリアは省くからね」


 転移魔法の使えるアスナリアが一番見張りには向いているのだが、アズスはアスナリアがいつでも万全な状態であることの方を選んだ。

 これはアスナリアが切札であるので当然のことと言える。

 見張りは若い獣人のみで行い、領軍が来たら即座に村に戻りに知らせる。

 それに対応するのは当然アスナリア。それと、アズスが村全体の指揮を取る。

 そして、会議が終わるや否や、若い獣人はやる気満々に飛び出し、他の若い獣人に知らせに走っていった。


 この若い獣人がやる気に逸っているのにはアスナリアの存在以外にも理由がある。

 アスナリアは騎士と冒険者をこれまでに数え切れないほど倒してきた。

 そこには当然相手が持っていた武器・防具や魔道具等が残る。

 それらは全て村に持ち帰り、若い獣人に配っている。

 この村には当然製鉄技術などないし、魔道具も勿論無い。

 あるのは騎士が忘れたか捨てたかしたボロい剣やナイフしかなかった。

 若い獣人は三十人ほどいるのだが、全員に行き渡って余りあるほどの武器が今は村にはある。


 魔道具もそれなりに冒険者が持っていたのでありがたく使わせてもらっている。

 特に助かったのが水を二十リットルまで入れることが出来る魔道具だ。

 アスナリアがいくら魔法で水を出せるからといっても、生活用水は膨大な量だ。

 今までは朝一に川や湖に水を汲みに何往復もしなければならなかったのが、何日かに一回、しかも軽いので年老いた獣人でも十分可能な仕事となった。

 これからは村の周りの治安がよくなったことによって、子供の獣人でもその仕事は可能となるだろう。

 後は少ないながらもボーションも持っていた。

 このポーションは切れた腕を繋げたり、欠損した部位を復元したりは出来ないが、切られた傷の血を止めるぐらいの効果はあった。

 これはアスナリアが持っているのとは雲泥の差なのだが、今までの怪我をしても放ったらかしの生活に比べると画期的な物だった。


「そういえば言ってなかったけど」

「何?」

「セリナにあげた杖はその辺の剣より攻撃力高いから、戦う時はそれで殴った方がいいよ」

「嘘?!そんな杖をパッと渡したの?!」


 魔道具でもある『魔封じの杖』は、当然ながら魔力が込もっているので、単なる鉄の剣では太刀打ちできない。


「ただ魔法が使えるだけの杖だと思ってた……」

「俺もその認識だったけどね」


 苦笑しながら答えるアスナリア。

 ゲームでは殆ど使わず、アイテムボックスの肥やしになっていた杖だからだ。

 終盤では魔封じなど効くモンスターは殆どおらず、同じ効果の魔法で沈黙(サイレンス)があったのも理由の一つだ。

 因みに上位沈黙(オーバーサイレンス)という問答無用で魔封じの状態にされる魔法があるのだが、プレイヤー側はこの魔法が使えなかった。

 裏ダンジョンのボスに、この魔法でどれだけ泣かされたか分からない。


「あれだね。魔道具があれば、アスナリアがいなくても人間に勝てそうって思う」

「そんなこと言わないでよ!」

「ふふ。冗談よ」


 そろそろ暮れ始めた太陽を背に笑うセリナは、とても神秘的で美しかった。

お読みいただきありがとうございます。

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