第7話〜接触〜
大規模修正・整理に伴って追加したお話です。
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【帝国 帝都 皇城】
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休憩の後、セシル先生の授業が再び始まった。
魔導協会とやらについての説明だ。
「魔導協会とはこの世界の魔法を司る非国家組織です。
どこの国にも属してはいないのですが、とても巨大な組織で時に国家権力を凌駕する権威を保有しています。」
「それがエリナスを守っているんですか?」
「厳密に言えば、”エリナスを守る”という言い方は適していないかもしれません。
エリナスに身を置く”自分たちを守る”ため、というのが適切かもしれません。」
僕の質問に先生はそう答えた。
だとしたら、魔導協会ってのはとんだ利己主義集団ではないか。
「その魔導協会ってのは、強いのか?」
「軍事力という意味でも、権力という意味でも、答えは肯定です。
魔導協会の職員は全員が魔導師です。
それもとんでもなく強い魔導師がウヨウヨいます。
協会はこの世界の魔法界を掌握しているとともに、様々な現象を古来から調査しているんです。
時に実力を盾に国家に介入し、欲しい物や情報だけ仕入れて引き上げる。
見返りは寄越さず、自分たちが集めたものは決して外には出さない。
魔導協会とはそんな組織です。」
「最低だな。」
兄貴は真顔でそう断言した。
「確かに、協会のやり方は好ましいくない点も多々見受けられます。
ですが、ズバり言う人には初めて会いましたよ。」
先生は笑っていた。
「その協会というのはどうしてエリナスにあるんですか?」
「協会は”今は”エリナスにはありません。
その説明をするには少し回り道をさせてください。」
先生の頼みとあっては断れない。
好きなだけ回り道しておくんなせぇい。
「そもそも、お二人の故郷である地球との決定的な違いは魔法の存在ですね。」
兄貴も僕も頷く。
その通りだ。
俺だって魔法が使いたい。
40歳まで童貞なら地球でも魔法を使えるというが、眉唾だ。
「この世界では年齢、性別、種族に関係なく魔法を扱う人々を“魔導師”と呼んでいます。
そして、魔法に関する一切の事柄は原則的に魔導協会が国境を越えて管理しています。
勿論、事案によっては当事国が魔導協会の介入を認めない場合もありますが、大抵は協会側が無理矢理にでも立ち入ろうとします。」
「本当に強引だな、魔導協会ってところは…。」
斎宮の兄貴は魔導協会が嫌いなようだ。
強引なタイプが苦手らしい。
かく言う先生もどちらかと言えば斎宮の兄貴と似たところらしく、しきりに頷いていた。
「良く言えば、探究心が強い。
悪く言えば、知りたがり。
初代魔導協会会長のウォーロック・リュートは『魔導師は賢者に最も近い存在である。』と言ったとも伝わっています。
この言葉に表されるように魔導師の世界は“学”の側面が強いのです。」
不意に、先生がこちらを見る。
え、何何???
トゥクン!!!!!!!!
「ここで、エリナスと協会の関係に戻りますが、魔導協会は本部とそれに準ずる上級支部から構成されていて、それらが魔導三学府にて持ち回りで設置されているのです。
帝国のコート魔法大学校、サビキアの王立魔法魔術大学校、そして、エリナスのファミリオ魔術大学校が魔導三学府です。
現在はサビキアの王立魔法魔術大学校に協会の本部が設置されています。
ですが、各学府それぞれに協会の職員が詰めているので扱いは変わりません。
なので、魔導協会は表面的にはエリナス防衛のために出動する訳です。」
「先程から”防衛”と言ってるが、魔導協会は侵略には手を貸さないと理解して問題ないかな?」
「その通りです。
あくまでも協会は自分に降りかかる火の粉を払うだけです。
だから、エリナスは攻め込まれもしませんが、攻めることもできないんです。」
兄貴は納得した顔で話を聞いている。
「あの、僕らも魔法って使えるんですか?」
「残念ながら、ご存知の通りタツローさんの世界にはそもそも魔法が存在しません。
基本的にこの世界で生まれた生物は魔法を扱う素質があると言われていますが、異世界から来たお二人が魔法を扱うのは不可能だと思われます。」
「そうですか…。
まぁ、仕方ないですね…。
使ってみたかったなぁ、魔法…。」
「気を取り直してください!
この世界に生まれた生物でも初級魔法まで使えるかどうかは先天的なことで、大きく篩がかかります。
初級魔法まで磨きあげるにはそこまでの過程を体系化しているかどうかが非常に大切なんです。
一般的に、言語を持たぬ種族は種全体がここで脱落となると考えられています。
なので、魔法が使えない人はたっくさんいます!
落ち込まないでください!」
えっぐえぐ…。
セシル先生、やざじいぃよぉぉ…。
「魔導師って名乗るには何か資格のようなものが必要なのかい?
それとも勝手に名乗っても良いものなのかい?」
僕のことなどお構いなしに自分の興味を優先する兄貴であった。
「一応、規則があります。
正式な魔導師を名乗るには、まず魔法適正評価試験に合格する必要があるんです。」
「ほう。
なんだそりゃ?」
「年に一度、魔導三学府で実施される試験で、魔法に関する知識や初級魔法の腕を評価されます。
その試験に合格すると魔法適正有と認められるようになるのですが、そこで初めて魔導三学府に入学を許可された”魔導師候補生”と名乗れるようになります。
そこから三学府のいずれかへ進み、自分が希望した魔法系統をその系統の魔導師の元で6年程度学び、魔導考査を経ることでようやく魔導師と名乗れるようになるんです。」
「大変だな。
また試験を受けないといけないのか…。
でも、6年か…。
その年数には何か理由があるのかい?」
「魔導考査では自分が専攻した魔法系統に関する深い理解を問う口述試験と中級魔法の実技が課されます。
それを突破するために必要な能力を身に付けるまでにそのくらいの時間が必要だと言われています。」
「6年間毎日毎日勉強するのか…。
俺には無理だな…。」
「一般的に、魔法適性評価試験に合格するまでに2年程度は時間が必要と言われているので、魔導師を名乗るまでに8年程度は見積もっておいた方が良いですね。」
「魔法適性評価試験に合格するための勉強はどうやってするんですか?
そのための学校とかはあるんですか?」
「良い質問ですね、タツローさん!」
ウォシャァァァァ!!!!!!
「勉強方法は3つです。
より一般的なものから挙げていくと、個人で誰か魔導師に習う、幾つかの町にある魔導協会特設支部、通称”魔導学院”に通う、書物等で独学するという方法です。」
「魔導学院???????」
え、青春スクールライフ始まっちゃう?????
「数は多くありませんが、各地の大きな街にはありますよ。
ただ、費用が高いのが難点です。
生徒は貴族など裕福な家庭のご子息か、魔導師になるのが諦めきれず頑張って費用を工面してきた大人かですかね…。」
後者に刺があるような気がしたが、セシル先生なのでOK。
「大人でも入れるんですね。」
「はい。
魔導師になることへは何の制限もありません。
なので、三学府は勿論のこと、魔導学院にも様々な年齢、性別、種族の方がいます。」
「へー。
懐が深いっすね。」
日本でも大学などはそうだが、その前の教育機関というとせいぜい夜間高校などだけだろう。
「ところで、魔導師になった者は何をするんだ?」
兄貴の質問が僕と先生の甘い時間を乱す。
「協会に入る者、更に大学校で研究を続ける者、学術的あるいは軍事的側面で国に仕える者、お抱えの魔導師になったり放浪したりする者などバラバラです。」
「そうかー。
この世界は自由で本当に羨ましいな。」
兄貴、アンタそれしか言ってなくない??
WoW WoW????
「お二人の世界がどんなところかは存じ上げませんが、この世界はそんなもんですよ。
権力闘争などに巻き込まれなければ自由気ままです。」
そう言って先生は持ってきた教材を片付け始めた。
「さてと。
今日はこの辺で終わりにしましょう!
続きはまた明日です!」
「ありがとうございました。」「あざしたっ!!!!」
「お疲れ様でございます。
お部屋のご用意ができておりますので、どうぞこちらへ。」
老執事が何やら話しかけてきた。
相変わらず、意味は不明だ。
「お二人の部屋をご用意してくれたみたいです。
案内してくれるそうですよ。」
まだ部屋にいた先生が通訳してくれる。
便利だな、おい。
皆で老執事とメイドに付いて行く。
「お部屋は上の階でございます。」
当然だが、牢屋の方ではない方向へと廊下を歩く。
もしも牢屋に戻るのなら、あの部屋で寝させてもらうところだった。
見ると、斎宮の兄貴も同じことを思っていたようで、執事が逆方向に向かって安心していた。
廊下を曲がったところには上に伸びる階段があった。
何の変哲もない石造りの階段。
執事の話だと部屋は上のようなので、この階段を上がるのだろう。
間違えようがないのだが、やはりこの階段を上がった。
「こちらがお二人のお部屋でございます。」
部屋は階段を上がって直ぐにあった。
ご丁寧に部屋の外には衛兵(?)付き。
さっきの衛兵とは格好が違うが、誰なのか分からん。
「見張りのために騎士団が常駐しますが、お気になさらないでください。」
騎士団もいるのか。
全く、ファンタジーだな。
ともあれ、部屋へ入る。
「うわー!!!!」
「すっげ。」
スイートルームのような部屋だった。
いや、スイートルームなんてクソみたいに思える部屋だった。
広さは教室1つ分なのだが、ベッド(天蓋付き)はふかふかだし、調度品は高級そうなものばかり。
趣味は合わないが。
言い忘れたが、ベッドはきちんと2つある。
果物(偽物じゃない)も沢山置かれていた。
「何かありましたら、いつでも外の騎士へお声がけください。
直ぐに我々が駆けつけて参ります。
晩餐はこちらにお運び致しますので、それまでの間はごゆるりとお寛ぎください。
それでは…。」
老執事とフェロモンメイドは恭しく礼をして去っていった。
性的接待を求めようか真剣に悩んだが、兄貴と先生の目があったので自重した。
「セシル先生もありがとうございました。
先生は夕飯は一緒に食べるんですか?」
「はい。
ご一緒させていただきます。」
ヨッシャァァァァ!!!!!!!!!
「それでは、私は自室に戻ります。
また後程…。」
「あ、はい!
また!!」
斎宮も手を振って見送る。
「疲れましたね。」
我々以外に誰もいなくなった部屋でベッドに飛び込む。
「そうだね。
俺も疲れた。」
そういえば、この人はほとんど碌に寝ていないのではないか?
SBUとか言ってたけど、大したもんだ。
「夕飯まで時間もありますし、一眠りしますか?
僕はしますけど。」
「俺もそうさせてもらおうかな。」
兄貴も残ったベッドに入る。
あとは寝るだけだと思ったが、ふと気が付く。
「あ、そうか。
ずっとこの格好のままだったな。」
今更ながらに気が付いたが、ずっと制服のままだ。
さすがに汗臭い。
ていうか、寝にくい。
「着替え、用意してくれるでしょうか?」
ちゃっちゃとズボンを脱ぎ捨てながら兄貴に聞く。
兄貴は黒い戦闘服?のようなものを着ている。
「うーん。
どうかなぁ。
龍郎は不便そうだけど、正直、俺はこのままでも大丈夫なんだよな。」
兄貴は見るからに大丈夫そうだな。
俺でもその格好なら文句言わんわ。
「まぁ、言い出してなんですが、取り敢えず今は寝ます。」
「あぁ。
そうしよう。」
リラックスした格好になったら、目を閉じて数秒で夢の世界に旅立った。
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【帝国 帝都 皇城】
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龍郎たちの部屋を出たセシルは自室へと向かっていた。
先程までは警備の騎士団員やら使用人らがいたが、今は周囲には誰もいない。
『どこなの?』
誰とは言わないが、セシルは人を探していた。
キョロキョロするなと言われているので、極力前だけを見て歩く。
『授業が終わったら真っ直ぐ部屋に戻れ。』
彼女は昨日言われたことを思い出していた。
『彼が来たのはマルセルとかいう役人がやってきた後だった。
マルセルは皇帝陛下の命令で明日から皇城で教師をやれとか何とか言ってきた。
突然のことでビックリしたのだが、マルセルの部下が私を推したというのだ。
部下の名前を聞いてもよく分からない名前で、記憶にも残らなかった。
あまりのことで最初は断ったが、給料が良かったこともあって押し切られてしまった。
マルセルが帰った後、入れ替わるように彼が来た。
生徒の様子を具に観察し、それを報告しろと言ってきたのだ。
明日、授業が終わったら城内で接触するとも言っていた。
誰なんだ…。』
そんなことを考えながら歩いていると、セシルは使用人とぶつかってしまった。
「キャッ!!!
あ、すいません…!!!
お怪我ありませ…、っあ!!」
いた。
男は執事の格好をしていた。
「静かに。
例の件はどうだ?」
「健康な若い男性が二人です。
正真正銘、異世界人です。
一人は学徒で、もう一人は軍人ですが、どちらも魔法を使えず、言葉も異世界のものしか話せません。
健康状態ですが、二人には特に目立った様子はありません。
病気の節も怪我をしている節もありませんでした。」
「体型は?
それと、何か身につけているものはあったか?」
「二人とも痩せていて、至って健康そうでした。
身に付けているもの…。
変わった服装でしたが、二人とも他に持ち物の類はありませんでした。」
「健康な若い男が二人。
持ち物はなし。
間違いないな?」
「はい。」
「よし。
今度は奴らが走れるかどうかを確認しろ。
それと、持ち物は本当に無いかどうかも確認してくれ。
以上だ。
ご苦労だった。」
最低限のやり取りだけをして男は去っていった。
『これ、バレたら絶対にヤバいやつだ…。』
セシルは形容できない恐怖で背筋が凍った。
『でも、イケないことするのって、ちょっと楽しい…。』
そう思った刹那、何処とは言わないが、ほのかに体に熱を感じたセシルであった。




