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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第3章 〜やーーっとカイロキシア ちょっぴりイェンシダス????〜
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第72話〜動き〜

ーー

【カイロキシア 宮都 人民殿】

ーー


ついこの前まで謁見の間と呼ばれていた場所に指導部の面々はいた。


「予想通り、帝国軍はこちらへ向かって進軍を続けています。」

 

外政団長を務めるチダンが手元の資料を確認して報告する。


「我々の扇動もあって、国民の大半が帝国軍と反対方向へ移動を開始した。

 予定通り、大部分はイェンシダスへ、残りはエリナスへ向かうように誘導している。」


チダンの報告に付け加えるように内政団長のアーミルが発言した。


「国内にいる使えそうな奴らは義勇軍に仕立て上げてイェンシダス方面へ移動を開始させている。

 ここには適当な人数を残し、あとは野となれ山となれだ。」


最後に義勇団長を務めるイルファが報告した。


「報告ご苦労。

 俺からも報告ついでだが、エリナス方面に放っていたこちらの手の者が殺られたようだ。

 読み通り、王子達は母国へと向かっている。

 王子を殺し損ねているのは誤算だが、母国に逃げ帰ったとするならば頃合いを見て一家皆殺しにすれば良い。

 我々は計画通りイェンシダスを落とすことに専念しよう。」


エシュラは皆を見渡してそう言った。


「この国ともあと数日でおさらばだ。」



ーー

【エリナス 鴇羽楼 政議の間】

ーー


室内を満たす空気は緊張していた。


「直ぐにでもカイロキシアとの国境を封鎖するべきです。」


御賢侯の中で最も若い男がイルデフォンソへと主張した。


「私もイズマールの意見に賛成だ。」


イズマールの隣に座る男がイルデフォンソに告げる。


「他にイズマールとラーカーンの意見に賛成の者は?」

「余も賛成だ。

 このままでは異国の有象無象が我が偉大なる女王の御国に流れ込んでしまうだろう。」


イズマールの向かい側に座る男が手を挙げた。


「ニザールも賛成ということは、過半数が賛成のようだな。

 カハールはどうだ?」


イルデフォンソが二ザールの隣に座る男に目を向けた。

彼はこの中で2番目に年長に当たる。


「国境封鎖には慎重な立場だ。

 闇雲に国境を封鎖しては救える命まで放り出すことになるではないか。」

「それでは異国の有象無象のために女王陛下の御国を危険に晒すべきだと申しているのか?

 あの者達は自らの王政を打ち倒したのだぞ!」

「落ち着くのだ、ニザール。

 儂はカハールの言わんとすることも理解できる。」


イルデフォンソが興奮するニザールを諭す。


「確かに、こちらが性急な手段を講じて無辜の命を危機に晒すのは懸命とは言えない。

 しかし、我々が存在しているのは単に我が偉大なる女王陛下の御国を守り、維持し、繁栄させることにある。

 考えるに、事態は急転直下で推移していると見るべきだろう。

 それに、二ザールの言うよう、群衆の中に我が女王の王政を打倒せんと目論む者達がいるやもしれぬ。

 儂は陛下の御国の安全を確保することが最も優先されるべきことであると考えるが。」


イルデフォンソの言葉にカハール以外の者達は満足そうな表情を浮かべた。


「議卿がそのように仰せられるのであれば異論はございません。」


そう言ってカハールも目を伏せる。


「議は決した。

 それでは速やかに陛下へと奏上しようぞ。」



ーー

【シャウラッド コルカソンヌ 冒険組合本部 組合長室】

ーー


「王子は帝国皇女の護衛達と一緒だそうだ。」


ヘルゴンザが届いたばかりの情報を確認する。


「既にエリナスへも同様の伝言がマレーから発せられている。

 王家も一安心だろうな。」

「それは良かったが、どうしたって帝国のお嬢ちゃんが居合わせるんでい?」


老父が煙を燻らせながら情報の続きを促した。


「何やら大きな陰謀とのことらしい。

 現在は急ぎエリナスへ向けて移動中のようだ。」


そう言ってヘルゴンザは羊皮紙を老父へと渡す。

受け取った羊皮紙を眺めて、他に隠された伝言が無いかを探る。


「くそ。

 これだけか。」


他に情報が無いことを確認すると、老父は羊皮紙を机に放り投げた。


「でけぇ陰謀ってのは、デシレアとかいう協会の女が言ってたことだろうな。」

「間違いない。」


ヘルゴンザは老父の推測に同意した。


「こりゃあ、いよいよこんなところで籠っている場合じゃねぇのかもしれねぇな。」


老父は腕組みをしながら天井を見て呟いた。


「と言いますと?」

「共闘しようってのに互いの頭が異国にあるってのは不便だろうが。」


老父は目をギョロりと動かす。


「少なくともお前か俺のどちらかは向こうに出向かなきゃまともに動けん。

 自分で言うのは何だが、ここは俺が行くべきだと思う。」


ヘルゴンザとはいえ、先代には経験も実力も劣る。

それに、現組合長の彼が本部を空けるのも体面としては不都合だ。

以上を踏まえて、ヘルゴンザは老父の提案を断らなかった。


「それで構いません。

 ただ、こちらとエリナスで意思疎通を行う上で通信速度の懸念があります。」

「あぁ、同感だ。

 速達で急いでも半日以上はかかるからな。

 そこは奴らに上手いこと魔法で知恵を働かせてもらおうと思う。」

「それと、可能であれば輸送の機動力についても何か知恵を借りてきていただけると助かります。」

「全く、組合の名前が泣くぜ。」


実を言うと、ヘルゴンザの懸念していることは老父も同様だった。

この世界では魔法を使わない限り、通信速度も輸送速度も日単位で考慮せねばならない。

仮に魔法を使えたとしても瞬時の移動が簡単にできるのか彼にも自信はなかった。

しかし、魔導協会ならばその辺りの課題を克服しているのではないか?

老父にとっても、それは珍しく協会への期待となっていた。




ーー

【エリナス 鴇羽楼 政議の間】

ーー


王子保護の報がもたらされたのは御賢候による奏上の途中であった。

現在はその報告を受けて女王臨席の下で議事の最中である。


「其方らの申していることはよく分かった。

 だが、フェルマルタが帰国するまで国境の封鎖は認めない。」

「しかし、陛下。

 国家の安全を考えますと、急ぎ国境を閉鎖するのが賢明かと存じます。」


イルデフォンソは額に汗を浮かべながらカタリーナを説得する。

先ほどからカタリーナは一歩も引いていない。


「国境はフェルマルタが到着した後に閉鎖をすれば良いではないか。」

「王子がいつ到着するのか不明なのでは、そのような策は混乱を極めます。」

「魔導協会にも人を出させれば済む話ではないのか?

 ボーダー上にある外交施設の警備を名目に増援を頼む。

 関所には治安魔導師を配備するのだ。」

「ですが、陛下。

 王子が到着されるまでの間に国境へ到達した難民は如何するおつもりでしょうか?

 まさか、我が国で面倒を見るおつもりではございませぬでしょうな?」

「馬鹿を申せ!!!

 そのための魔導師ではないか!!!

 フェルマルタ以外は問答無用で押し戻すのだ!!!」


正直なところ、カタリーナとて難民たちの面倒を見る気などは毛頭なかった。


「”問答無用で押し戻す”と仰いましたが、それは難民たちを”排除する”と受け取ってよろしいのでしょうか?」


イルデフォンソは主君へ言質を求めた。


「言質なら幾らでもくれてやる!!!

 我が国を守るため、難民たちへの”攻撃”を許可する!!!」


カタリーナは臣下の望みに応えた。


「だが、フェルマルタが到着するまで国境の封鎖は認めない。」

「御意。

 現場の魔導師には徹底させます。」


難民たちを排除して良いのであれば、それは他愛のないことだった。

門は開けども、人は通さず。

エリナス政府は直ちにカイロキシアとの国境へ魔導師を配備した。



ーー

【エリナス カイロキシア国境】

ーー


「我々はエリナス国王に代わり、諸君らへ警告します!

 諸君らの入国が認められることはありません!

 直ちにこの場から退去してください!

 我々は武力使用の許可を得ています!」


治安魔導師の一人がその場に集う難民たちへと告げた。

集団の中には警告を聞き入れて、泣く泣くその場を後にする者たちもいた。

しかし、


「俺らを見捨てる気か!?」

「後ろからは帝国軍が迫ってるんだぞ!!!!!」

「追い返すなんて出来る訳がねぇ!!!!」


残った難民たちが治安魔導師に食って掛かる。

大半がそうだった。


「もう一度だけ警告します!

 これが最後の警告です!

 諸君らの入国が認められることはありません!

 直ちにこの場から退去してください!

 従わない場合には武力行使も認められています!」


近づいてくる難民を手で制し、

魔法発動の体勢を見せる。


「上等だ!!!」

「やれるもんなら、やってみやがれ!!!!」


数名の難民が魔導師へさらに接近する。

その中の一人が魔導師の胸ぐらへ手を伸ばしたその時。

野菜を切るかのような音とともに、その手は地面に落下した。

男の肩から血飛沫が上がる。


「ほ、ホントにやりやがった…。」


腕を切断された者の横にいた男は思わず腰を抜かして座り込んでしまった。


「に、に、逃げろっ!!!!!」


状況を理解した者たちは慌てて元来た道を引き返していく。


「諸君らはどうする?」


治安魔導師は驚きと恐怖とで体が硬直してしまった者たちを見遣る。

彼らはなおも動かない。

魔導師の問いに答えることさえ叶わない。


「ふむ。

 応答なしか。

 回答を拒否したと見做す。」


治安魔導師は彼らに火を放った。


「て、テメェ…。

 なんでこんなことを…。」


腕を切断された男がようやく口を開く。


「君に恨みはない。

 主人からこうするように命令されたからだ。」

「なっ…。」


男は遂に地面に倒れ込んだ。

これだけの出血だ。

彼は時期に死ぬだろう。


「他にはいないな?」


魔導師は部下に周囲の状況を尋ねる。


「はい。

 生存している難民はいません。」

「よろしい。

 この調子で王子が到着するまで警戒を怠るな。」

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