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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第3章 〜やーーっとカイロキシア ちょっぴりイェンシダス????〜
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第70話〜決断〜

【??????】

「知りたいことが知れるって、便利な能力だな。」


龍郎は白砂の上に座ってぼんやりと向こうを眺めていた。

隣には例の美女も一緒だ。


「行き来できるのは過去だけですけどね。

 この世界であるならば、過去の好きな時点に好きなだけ行き来ができます。」

「で、行った先では透明人間だから壁だろうが何だろうが通り抜けられると。

 そんなのありかよ…。」


どのくらい彼らがこの白砂の空間にいるのか分からない。

最初は二人とも立って話していたが、今ではこうして座り込んでいる。


「あのさ、この世界って言うけど、こちらの世界には来られないの?

 魔法陣では2つの世界が繋がっているわけでしょ?」

「それは単純な話ですよ。

 さすがに外縁世界まではこの力が及ばないのです。」

「外縁世界?」

「はい。

 この世界は全ての世界の中心にあるのです。

 一方で、貴方の世界はこの世界から見るととても遠くの外縁部にあるのです。

 なので、私の能力は行使できないということです。」


幾つかのファンタジーものの映画を見ていたお陰で、龍郎はどうにかこの話を処理することができた。


「んーと、この世界が中心ってのは本当なの?」

「もちろんです。

 私の父がここ以外の世界を創造しましたから。」

「あーと、ゼウスだよね、確か。

 んで、貴方の名前が…。」

「アルテミスです。」


彼女は笑顔で答えた。


「あー、そうそう、アルテミスさんね。

 ゲームとかアニメとか映画で聞いたことあるわ。

 もう、ゼウスだのアルテミスだのって、何で神話の神が実在しちゃうわけ?」

「それは…。」

「あ、いや、言わなくて良い。

 どうせ、僕らの世界の昔の人が貴方達をお話にしたんでしょ?」


アルテミスは頷く。


「そうか…。

 作り話だと思っていた神話は実は本物だってことか…。

 え、でも待って。

 なら、どうして貴方達は今はこっちの世界にちょっかい出さないの?」

「実は父が世界を創り過ぎてしまいまして…。

 今ではこの世界と貴方達の世界との間には無数の世界があります。

 そうした他の世界と比べて、貴方達の世界は順調に成長・発展を遂げたので安心して放置していると言ったところでしょうか。」

「え…。

 本当にそんな理由なの…?」


またしてもアルテミスは笑顔で頷いた。


「まぁ、もう良いや…。

 話を最初に戻すと、ハーデスとかいう神が僕を蘇らせたらイェンシダスっていうところに行って、そこでお偉いさんのクリストフに会って『機は熟した。主の声に従え。』と伝えれば後はどうにかなるんですね?」

「その通りです。」

「分かりました。

 では、ハーデスが蘇らせてくれるまでボケッとしてましょうか。」


そう言って龍郎は白砂の上に寝そべった。



【カイロキシア東部】

アデリーヌらを乗せた馬車は昼夜を問わずに休まず走り続けた。

彼女らが帝国の支配地域に辿り着いたと同時に、馬は倒れた。

倒れた馬には目もくれず、アデリーヌは内大臣を伴って帝国政府の者を探す。


「誰か!!

 誰か帝国の人間はいないの!?」


アデリーヌはほぼヒステリーを起こしている。

彼女は一目も憚らずに大声で帝国の人間を探し求めていた。


「止まれ!!

 貴様らは何者だ!?」


その甲斐あってか?ほんの数分で彼女達は帝国軍の兵士に囲まれた。


「私どもはカイロキシア政府の人間です。

 こちらはカイロキシア国王のアデリーヌ女王でございます。

 私どもは帝国政府に対して亡命を希望するべく参りました。」


内大臣の言葉を聞いて周囲はにわかに騒ついた。


「貴様らがカイロキシア政府の人間だという証拠はどこにある?」

「な、何を!?」

「そこの女!!

 それ以上近づくな!!!」


帝国兵へと掴みかかろうとするアデリーナを他の兵が制止する。


「そこのお前達!!

 そこにおわすのは我がカイロキシア国王ご一行であらせられるぞ!!!」

「おぉ、そこに見えるはルミエールではないか!!」


馬に跨がる細面の男を見たアデリーヌは顔を喜ばせた。


「ご無事でしたか、陛下!!」


馬から降りたルミエールはアデリーヌの元へと走る。


「この無礼者!」


走り寄ってアデリーヌへ抱擁しようとしたルミエールを内大臣が制する。


「こんな時に何を言っている!?

 危うく陛下の命が奪われるところだったんだぞ!!」


ルミエールも負けじと内大臣へと言い返す。


「いつまでも子供みたいに過去の恋愛に囚われるな!!

 依にも寄って相手は現国王陛下だぞ!!!

 お前には分不相応にも程がある!!!」

「そうやってまた僕を島流しにするのか?」

「貴様!!!」


内大臣が我慢の限界を迎えるよりも先に動いたのは帝国兵だった。


「いつまでやっている!!!」


見ると、先ほどよりも人垣が増えていた。

二人の喧嘩を止めた兵が下がる。


「帝国占領地域の執政を任されたメゼンツェフ伯爵と申します。」


入れ替わりで前に出た男が告げた。

増えた人垣はこの男の付き人らしい。


「ルミエール氏、こちらはカイロキシア政府の方々でお間違えありませんね?」

「間違いありません。

 彼らはカイロキシア国王及び内閣の面々です。」

「分かりました。

 それでは皆さん、外でお話するよりも屋内へどうぞ。」


そう言ってメゼンツェフは全員を町の中心部にある大きな天幕へと案内する。

町自体が小さいのか、ものの数分で天幕に到着した。


「豪奢な宮殿とはいきませんが、居心地は保証致します。」


笑みを浮かべねがらメゼンツェフは天幕の入り口を開ける。

アデリーヌを含めた全員が天幕へ入るのを確認してからメゼンツェフは入り口を閉じた。


「広いな。」


中を見たアデリーヌが思わずこぼす。


「恐らく魔法か何かが使用されているのでしょう。」


彼女の真横に陣取ったルミエールが推測する。


「それでは皆さん、御着席ください。」


長方形の長机にカイロキシアと帝国とが分かれて座る。


「帝国側の交渉者は其方だけか?」


アデリーヌは驚いて尋ねてしまった。


「左様です。

 私が当該地域の行政一切を司っておりますので。」

「役者は少ないに越したことはない。

 単刀直入で申し訳ありませんが、我々全員の亡命を受理していただけますかな?」


内大臣の言葉をメゼンツェフは曇った表情で受け止めた。

カイロキシア側に不穏な空気が流れ始める。


「亡命、ですか…。」

「そ、そんなに驚くようなことではない筈だ。

 其方も宮都の現状を知らない訳ではあるまい。」

「勿論です陛下。

 しかし、それとこれとは話が違います。」


これまでとは打って変わったメゼンツェフの視線に硬直する一同。


「ご安心を。

 私とて、無碍に皆さんを新政府へと引き渡したりは致しません。」

「それならどうして…?」

「私は見返りのないのが単に面白くないのです。」


彼の言葉にアデリーヌは即応する。


「見返りなら好きなものをやろう!!

 何でも申してみよ。」

「まず初めに、残りのカイロキシア領土です。」

「な、何だと!?」


これには内大臣を初めとした諸大臣が否定的な声をあげた。


「次に、兵力です。」

「そんな内容は受け入れられない!!!

 それでは政治的に死ねと言っているようなものではないか!!!」


内大臣が激昂して立ち上がる。


「では、今直ぐに死にますか?」


メゼンツェフの凍てつくような視線と言葉が内大臣を貫く。


「兵力は如何程を御所望なの?」


努めて冷静に、アデリーヌがメゼンツェフへ尋ねた。


「少なく見積もって3000人。」


最早、諸大臣からは何の声も聞かれない。


「厳しい条件よの。」


天幕に満たされた静寂をアデリーヌの小さな声が破る。

メゼンツェフが無言で笑みを返した。


「文字通り死ぬか、政治的に死ぬか、か。

 これは議論の余地はないな。

 メゼンツェフ伯爵、余とルミエールの命は必ず助けてもらうぞ。」


閣僚達が驚愕の表情で女王へと振り向く。


「大丈夫ですよ。

 全員のお命を保証致します。」

「全ての条件を飲もう。

 それ以外に助かる道はない。

 それに、いざとなれば余は民などどうでも良い。

 好きにしろ。」

「お話の分かる陛下で何よりでございます。」


彼女はメゼンツェフの笑みが一段と増したような気がした。

これにて交渉は決した。

その時、ただルミエールだけが深々と主君へと首を垂れていた。



【カイロキシア西部】

カテリーナ達はエリナス国境まであと数十kmの地点にいた。

普通なら馬車で数時間の距離であったが、彼女達の前には障害が立ち塞がっていた。


「とっとと倒して先に進むぞ!!」


敵は5人。

彼らは待ち伏せを企図していたようだが、ヴェロニカの魔眼は彼らを捉えていた。


「マレーは王子を頼む。

 エヴァノラは私と一緒に敵を叩くぞ!!」

「間も無く接敵します!!」


ヴェロニカに呼応するかのようにフィアンツが叫ぶ。


「結界を確認!!

 馬車を止めます!!」


フィアンツが馬車を止めた直後に敵からの攻撃が降り注ぐ。


「向こうは本気で殺しに来てるな…。」


ヴェロニカらが展開する魔法障壁に守られながらカテリーナが呟く。


「何を寝ぼけたことを言っているんだ…。」


ヴェロニカが半ば呆れながら馬車を出る。

現在地は森の中。

死角が多く、今は敵が霧を発生させているため、魔眼も満足に行使できない。


「囲まれていますね…。」


エヴァノラも馬車から降りてきた。


「今回はアンタの”気”を頼りにさせてもらうよ。」

「お任せを。」


二人は悠長に話しているが、今もなお敵の攻撃は継続している。


「私はこのまま障壁を展開する。

 先ずはアンタが仕掛けな!」


ヴェロニカの指示を受けてエヴァノラが魔法を発動する。

障壁の外で大爆発が発生した。


「手応えは!?」

「ダメです!

 三人残っています!!」


エヴァノラは周囲の気を感じ取る。


「今度は私が行く!!

 障壁と指示は頼んだぞ!!」


そう言ってヴェロニカは障壁を解除した。


「3時の方向!」


エヴァノラの指示を聞いてヴェロニカが霧の中へと突っ込む。

敵は程近くにいた。

しかし、ヴェロニカの接近を近くするのが遅過ぎた。

彼女の短刀が敵の喉元を裂く。


「次!」

「馬車の向こう、5時の方向!」


指示を受けて瞬時に動く。

短刀を敵の脳天に突き刺さんとするが、今度は相手の防御行動も間に合った。

刃が障壁に突き立てられる。

ヴェロニカは障壁ごと破壊しようと体重をかけるが、びくともしない。

彼女は素早く作戦を切り替える。

無詠唱で敵の左右から魔法を発動した。

左右から放たれた岩塊によって敵は圧殺される。


「次!」


しかし、最後の敵はエヴァノラの指示を受けるまでもなかった。

大きな火の波が魔法障壁に襲いかかる。

これだけの魔法攻撃なら障壁を破壊できると踏んだのだろうが、敵はエヴァノラの実力を読み誤っていた。

障壁はびくともしていない。

ヴェロニカは直ぐに敵との間合いを詰める。

ヴェロニカの接近に気が付いた相手は彼女へと照準を変更してきた。

先ほどの火の波がヴェロニカへと迫る。


「こんな程度で殺せると思われているのか…。」


ヴェロニカは火の波へと水の波をぶつける。

効果などいちいち確認はしない。

敵との力量さなら見るまでもないからだ。

そのままヴェロニカは相手に向かって魔法を発動する。


「ガハッ…。」


障壁展開すらも許さず、光矢が相手を貫いた。


「終わったぞ。

 念のため障壁はそのままで待機しろ。」


エヴァノラにそう伝え、賊の身元の手がかりを探そうと死体に近づく。


「これは…。」


戦闘中は気がつかなかったが、賊の衣服の紋章には見覚えがあった。

魔法で死体を移動させ、ヴェロニカは馬車の中へと戻る。


「王子、申し訳ないが確認してもらいたいものがある。」


怪訝な顔をしながらも、王子とマレーは馬車の外へ出た。


「えっ…!!」

「まさか。」


彼らは死体を見て意味を理解した。


「こいつの衣服の紋章は、エリナス王国の紋章ではないのか?」


ヴェロニカの問いに王子が答える。


「…、そうだ。」

「なぜエリナスが?

 王子の乗っている馬車だと知らなかったのか?」


マレーの疑問にヴェロニカも質問で返す。


「だとしても、なぜ彼らはこんなところで待ち伏せしていたんだ?

 こいつらはエリナスの隠密部隊か何かなのか?」

「僕の知る限り、エリナスにそのような部隊は存在しない。

 それに、彼らの服は我が国の治安魔導師のものだ。

 国外でこのようなことは通常任務では絶対にあり得ない。」

「それならば話は両極端になる。

 彼らはエリナス王国の魔導師ではない。

 もしくは、裏でエリナス政府の何者かが糸を引いている。」


王子の意見を元にマレーが推測する。


「実を言うと、我が帝国にも賊が紛れ込んでいる。

 こいつらはその一味なのかもしれないな。」

「それは初耳ですね。」

「あぁ。

 初めて言ったからな。」


ヴェロニカは素っ気なく返答する。


「国に属すのも大変ですね。

 心中お察し致します。」

「思ってもいないお世辞など無用だ。」


ヴェロニカはマレーを手で制した。


「王子、私の意見としては、彼らはエリナスの正式な魔導師ではないと考えます。

 予定通り、このまま帰国なさるのが賢明かと。」

「私はもう少し慎重に決断したほうが宜しいかと存じます。」


二人の話を聞いて王子は自分の考えを整理し始めた。


「仮に、彼らを動かしているのが政府の誰かだったら?」

「帰国してもなお王子の身は危険に晒されることとなります。

 ですが、我々が誠心誠意お守り致します。」

「私はあくまでも帝国の人間だ。

 共通の敵がいる間は協力するが、全面的に頼られても困る。」

「正直な方ですね。」


王子は少しだけ困った表情を見せた。


「では、もう一方の場合は?」

「敵の目的が不明です。

 王子の暗殺が目的なのか、単なる賊なのか。

 もしかすると、ここで我々が引き返すこと自体が目的かもしれません。」


ヴェロニカの推測に王子は険しい顔をする。


「どっちに転んでもこのまま狙われる可能性があるのか…。

 いずれにせよ、国に戻る危険と戻らない危険のどちらがマシか…。」


フェルマルタは目を閉じて思考に集中している。


「国には我が民がいる。」


不意に王子が呟く。


「僕の命を狙う者が国内、それも政治の中枢にいるとして、そんな者が政を担って果たして良いのだろうか?

 己が命を優先して、その者に我が民を委ねても良いものだろうか…。」


彼の眼差しからは曇りが感じられなかった。


「敵が待ち受けているのならば、その懐に飛び込もう。

 自分の死に場所は祖国であるべきだ。」

「誠にご立派です、王子。」


マレーは深々と頭を下げた。

ふと見ると、フィアンツも馬から降りて頭を下げている。


「行こう。」


そう言ってフェルマルタは馬車に乗り込んだ。


「帝国のお人。

 お世辞ではなく、君の立場はとてもよく分かる。

 だが、君の仕える主君と同じように、彼もまた死なせてはいけない人だ。」


馬車に乗り込む際に、マレーは伏し目がちにそう告げた。


「だそうだ。

 エヴァノラ、行くぞ。

 …、フィアンツ、馬車を出せ。」


程なくして、馬車はまた走り出した。

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