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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第1章 〜まずは帝国、そん次サビキア、たまーに日本〜
7/73

第6話〜授業初日〜

作品全体の大規模な加筆修正を行なっている中で新たに追加した話です。

この世界についての超基礎知識として読んでいただければと思います。

(今後、別立てできちんとしたデータ集も作成します。)

ーー

【帝国 帝都 皇城】

ーー

食事を終え、早くもセシル先生による勉強会が始まった。

斎宮の兄貴はとても眠そうだったが、先生から変な液体を飲まされると覚醒状態になっている。

本人曰く、『キタキタァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!!』だそうである。

帰ってから薬中にならなければ良いが…。


「先ずはこの世界について説明をしたいと思います。」


邪念を払い、教壇に立った先生へと意識を集中する。

黒板には地図が広げられていた。

あれは羊皮紙なのか、紙なのか。

恐らく羊皮紙だろうが、現物を見たことがないので分からない。


「地理的な説明すると、ここはパンゲア大陸という場所になります。」


そう言って先生は地図全体を指差した。


「その中でも特にこの範囲をヌーナ地方と呼びます。」


先生が指差して囲って見せたのは地図の大部分だった。

便利なもので、指でなぞった部分が赤く光る。


「ヌーナ地方は北のこの部分と東を海、南と西、北の残りを山に囲まれていて大陸の他の地方へ行くことは不可能に近く、ほぼ全ての人がこの地方で生涯を過ごします。」


地図ではヌーナ地方の北1/3と東側の全面に海の絵が描かれていた。

対して、西側全面と南半分、北の残りには山の絵が描かれている。


「南のその部分の果てには何があるんでしょうか?」


気になったので質問してみた。

地図の右下、ヌーナ地方の南東部分には何も描かれていないのだ。


「そこは”未踏の地”です。

 文字通り、今まで未踏なのです。

 その先に何があるのか我々は把握していません。

 学者の推測では山がそのまま連なっていると考えられていますが…。」

「今までこの世界の誰も調査ができていないんですか?」


兄貴の質問に先生は頷く。


「後でまた説明しますが、この地域はモーモリシアという国に当たります。

 しかし、この国は一般の国とは違って国土のほとんどを鬱蒼とした森が占めています。

 そしてそこには縄張り意識のとても強い数々の部族や種族、野生の生き物が住んでいるんです。

 なので容易には近付けず、調査もままならないのです。

 更に厄介なのが、この地域に雨季があることです。

 4ヶ月程のこの雨季の際にこの地域の川は軒並み増水し、まず探検は不可能です。

 おまけに、この地域には深い霧が立ち込めていて空からも海からも調査ができないんです。」

「霧?」

「はい。

 その霧に入った者は戻って来れないことが確認されており、誰も近付かないのです。

 人々からは”神隠しの霧”と呼ばれています。」


『あー、そーゆーのもあるのね…。』


願わくば、その霧には関わりたくない。


「今言ったように、この部分の地形は不明ですが、その他の地点はこのようになっています。

 この世界の人々はヌーナ地方を囲む海を大海原(オケアーノス)、山を大山脈(オリュンポス)と呼び、どちらも信仰の対象と見なしているんです。

 大海原は帝国海軍をもってしても次の陸地まで船が到達したことがないほど広く、大山脈は何人をも寄せ付けぬほど高く険しい場所です。

 ですが、大山脈に関して言えば登頂は不可能なのではなく、登頂成功者の話も伝説としてきちんと残っています。」

「え、成功者がいるんですか?」

「いますよ。

 昔のどこかの国の戦士だったようですが、彼の話によると、山頂には神殿が聳え立ち神々が来訪者を迎え入れてくれたそうです。」

「神々?

 それは、実在しているんですか?」


これは兄貴の質問である。


「滅多に姿を見せることはありませんが、実在します。

 何十年かに1度の頻度ですが、各地で確かに目撃情報が伝わっています。」

「神が姿を見せるのは、やっぱり大きな戦争があったりした時なんですか?」


これは僕の質問だ。


「いいえ。」


先生はゆっくりと首を左右に振った。


「この世界にはそれぞれの神を信仰する文化があるのですが、神は気まぐれでそうした信仰者の元に姿を見せたり、自由気ままに世界を旅したりと、下界に姿を表す理由はバラバラなんです。」

「神とはそんなに自由なのか。

 羨ましい。」


兄貴は心底羨ましそうだった。


「実を言うと、神については私もあまり詳しく知らないんです。

 やはり彼らは謎が多いですから…。」


先生は頬をポリポリ掻く。

可愛いからOK !!!!!!!


「話が神にまで及んでしまいましたが、ヌーナ地方の外縁はこんな感じです。」


そう言って先生はヌーナ地方の隣に新たな地図を貼った。


「これが帝国の地図です。

 帝国はヌーナ地方の北東部分に位置している巨大な国家です。

 正式名称はムリファイン帝国と言いますが、一般的には帝国と呼ばれています。

 帝国は経済力・軍事力においてこの世界最大を誇っていて、まさに覇権国の名を欲しいままにしています。」


先生の指摘通り、帝国の版図はヌーナ地方最大であった。


「帝国の経済は主に農業生産・輸出によって支えられています。」


先生の声に合わせて帝国の地図に線が引かれる。


「これは帝国の農業生産分布です。

 この国は中央部にあるヘラクトス山脈を境に東西で気候が違います。

 なので、それに伴って農業の内容も大きく差があるんです。

 例えば、帝国北東部は大海原からの空気が湿った空気を運んでくるため、山脈の付近は小麦や大豆の栽培が盛んです。

 他にも、この小麦や大豆を餌に家畜の生育や酪農が行われていたり、野菜などが広く栽培されています。

 変わって、こちらの温暖な帝国南東部では綿花や果物の栽培が盛んです。

 一方で帝国西部は砂地も見られる乾燥地帯なのでこうした農業には適していません。

 ですが、帝国西部は魔石などを始めとした鉱物資源が豊富に確認されています。

 と言う訳で帝国西部ではこれらの鉱物を加工する工業が盛んなんです。

 輸出の要という点で言えば、帝国西部の方が重要なんですよ。」

「ふーん。

 帝国経済はこの東西の両輪で回っているんですね。」

「タツローさんの言う通りです!

 この東西が上手く支え合って帝国の圧倒的な国力を生み出しているんです。」


そう言って先生は黒板をバシバシと叩いた。

可愛い。

もう何をやっても可愛いよ。

付き合ってくれよ。

童貞ですが宜しいですか?

暖かく抱擁してくれますか?

貴方のためならどんな願いも聞き入れます。


「龍郎、顔に邪念が浮かんでいるぞ。」

「へ…?

 いやだなぁ、もう!

 そんなの浮かんでませんってぇ!!」

「怪しいな。」


斎宮の兄貴はジト目でこちらを睨む。

全く萌えない。


「次はサビキアについて説明したいと思います。」


先生は別の国の地図を貼り出していた。


「この国は帝国の南に位置するサビキア王国です。

 この世界では経済力、軍事力ともに帝国に次ぐ勢いを持つ国として知られています。

 尤も、帝国とサビキアでは国土が倍近く違いますから、両国の差は大きいです。

 ですが、技術力においてはサビキアの方が優れているかもしれません。

 帝国との国境地域の山間では織物の生産が盛んです。

 サビキアの織物は丈夫で色鮮やかで細かな刺繍も何のその。

 魔導師にも人気の逸品なんです。

 しかし、この山間部には鉱物資源も埋まっているため、有事に備えてサビキア軍が常時駐留するなど、帝国との緊張状態のタネにもなっています。

 この地域からは南に向かって国を縦断するかのようにペーエ川が流れているのですが、完成した各種製品はこの川から国中に運んでいくんです。

 そして、この川の恵みを授かるように温暖な中央部は穀倉地帯となっています。

 ここでは小麦や稲、トウモロコシが中心に育てられているんです。

 川はここから曲がって行き、大海原へと流れ着きます。

 ここから更に南下した丘陵地帯ではお茶が名産品になっています。

 モーモリシアに近い地域まで行くと森林地帯となっていて、良質な木材の宝庫なんです。

 ここで得られた木材が海沿いの街で船へと変身する訳です。」

「そう言えば、この世界に四季ってあるの?」


居心地が良いのか、関係ないと思っているのか、兄貴は既にタメ口だ。


「季節の移り変わりはございますが、四季というのはないかもしれませんね。

 例えば、次に説明するこのモーモリシアなのですが…。」


そう言って先生は次の地図を貼る。


「ここは通年、温暖で湿潤な気候です。

 私は帝国以外だとイェンシダスという国にしか行ったことありませんので実体験ではありませんが、文献や証言だととても蒸し暑いようです。

 先程も言いましたが、このモーモリシアは”国家”と呼べる状況にはありません。

 外界とのやり取りは全て”守族”という守護者たちが仲介をしています。」

「蒸し暑いし、過酷だし、意思疎通も不便なのにやってくる奴がいるんですか?

 冒険者とか?」


疑問に思った。

そんなところにわざわざ行くのは物好きしかいないだろう。


「モーモリシアには人の手が加わっていない分、動植物や資源も同様に手付かずのまま今まで残されており、そうしたものの中にはここでしか手に入らないような種類もあるようで…。

 各国は機会があれば今でもモーモリシアへと接触を試みています。」

「なるほど…。

 世の中は上手く出来てるなぁ…。」

「モーモリシアの説明はこれで終わりにしますね。

 あそこは学者が束になっても敵いませんから。」


そう言って次の地図を貼り出す。

こちらも特に質問はないので良い。


「続いてはモーモリシアの西に位置するシャウラッドです。

 モーモリシアとの国境にあるアークタス山脈を含めて、この国は東西南を山に囲まれている過酷な地域です。」


確かに、地図には先程までの青々とした絵柄はない。

ここまで禿げた土地だと可哀想になってくる。


「この国では全ての街が城塞都市となっており、国内の街道も辛うじて道があるだけで周辺は荒地です。

 農業もできず、鉱物資源も乏しいために工業もこれといってできない。

 そんな彼らは傭兵業によって生計を立てています。」

「国家ぐるみの傭兵業?」


そんなもの聞いたことがない。

これには兄貴も興味津々、真剣だった。


「この国に生まれた男子は皆兵だそうで、幼い頃から戦闘術を学びます。

 そのため、生活資源が乏しい割りに戦闘力はズバ抜けて高い。

 士気も高く、主に忠実。

 なので、傭兵として人気があり、それによって莫大な利益を得ています。

 そしてその利益で北方の国エリナスから生活資源を購入しているのです。」


先生はそそくさと次の地図を見せる。


「これがエリナスです。

 国土の西側大部分が“大峡谷クラッツァー・シュルフト”と呼ばれる古戦場になっていて、切り立った険しい谷になっています。」


先生が指差した所には大きく大峡谷と書いてある。


「そして、この大峡谷を抜けた先にこの世界で唯一の大山脈への登山口があるんです。

 この地域は鉱物資源の埋蔵量も豊富で、エリナスの大事な稼ぎ頭となっています。

 他方で、国内東部では酪農を中心に農業が行われています。

 これらは主に国内消費とシャウラッドへの輸出分ですね。

 それと、サビキアと同じく繊維業も有名です。

 それにエリナスで作られる魔導具や武具といった工芸品も同様に評価が高いです。

 他にも変わり種だと、楽器作りや製紙業も一大産業として成り立っています。

 大山脈のお膝元と言って遜色ないサビキアの首都は”学芸の都”と呼ばれているのですが、これらの産業は全てそうした国内需要に後押しされている側面もあるんですよ。

 私も一度は訪れてみたい国です。」


おう。

俺も一緒に付いて行きたいぜ!!


「だーから、変な笑みを浮かべるなっての。」

「浮かべてませんって。」

「はい、そこの二人、次行きますよー。」


6カ国目の地図を貼る。


「これはエリナスの東、サビキアの西に位置しているイェンシダスという国です。」


地図を見てみると、ちょうどヌーナ地方の真ん中にあるのが分かる。


「この世界の中央にある国家で、魔法が盛んです。

 国自体は全土の標高が高く空気は綺麗ですが、寒く乾燥している高原国家と言って差し支えありません。

 国内の縁部には山が多くて陸路での入国は骨が折れます。

 このため、中央にありながら天然の要害に守られて他国の侵略を防いでいます。

 ですが、入国したとしても首都以外に目立った街がなく、イェンシダスを通る一般の商人などは首都に長居する傾向にあります。

 また、3、4ヶ月程の冬季は非常に厳しい時期となるため、滞在する際は気を付けてください。

 数時間でも外にいたら凍死してしまいます。

 山岳地帯を抜けたこの国の大部分は草原地帯ですが、これといって野菜や穀物は育たず、牧畜が中心です。

 シャウラッド程ではありませんが、国内では生活資源があまり多く採取できないため、基本的には国の立地を活かした周辺国からの輸入に頼っています。」


説明が終わると先生は最後の地図に手を伸ばした。

ようやく最後の国だ。

長かった。


「最後はカイロキシアです。

 エリナスの北、帝国の西にある国です。」


ヌーナ地方の左上にある国だ。

よく見ると、イェンシダスとも僅かに国境を接している。


「この国は帝国とサビキアに次ぐ国力を誇っていて、この3カ国を以って列強が構成されています。

 海にこそ面していませんが、国内中東部には世界最大の湖であるヒューリア湖を抱えているため、川を駆使した物流業や水を豊富に利用した酒造業が盛んです。

 他にも、国内西部では稲作などの農業が盛んで、国内消費の他に帝国西部への輸出もされています。

 また、規模は少数ですが国内東端部の帝国との国境地帯には鉱物資源が確認されており、それらも同国の発展に欠かせない要素となっています。

 これでカイロキシアについての説明は以上ですが、ここまでで何か質問はありますか?」


兄貴が手を挙げた。


「話を聞いていると、エリナスっていう国も大国に思えるのだけど、どうなの?」

「良い質問ですね。

 エリナスと他の国々との決定的な違いは軍事力にあります。」


その言葉を聞くと兄貴の目が真剣になる。

やはり軍人なのだろう。


「エリナスは学問や芸術には力を入れていますが、戦闘や国防といった点には全く力を入れていません。

 なので、隣国のシャウラッドと仮に大きな戦争をしたとすればエリナスは負けるでしょう。」

「え、それではなぜシャウラッドは攻め込まないんですか?」

「タツローさんの気持ちはご尤もです。

 ですが、これにはきちんとカラクリが存在します。

 後程詳しく説明しますが、簡単に言えば、自分でやらなくても防衛を手伝ってくれる強力な”助っ人”がいるということです。」

「助っ人?

 まさかシャウラッドの傭兵じゃないよな?

 何者なんです?」


兄貴もその存在には興味があるようで、先生に続きを促す。


「魔導協会です。」

「魔導協会?」


魔◯協会なら聞いたことあるけど、魔導協会ですかい?

そりゃ知らねぇな。

もしやパクりですかい?


「詳しくは休憩の後で説明しますね。」


そう言うと先生はウィンクして見せる。

心臓を射抜かれた。


「おい、タツロー!!

 大丈夫か!?」


兄貴からユサユサとされるが、反応する余裕はない。

僕は今の一瞬を心に刻み込もうと誓った。

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