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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2.5章 〜閑話休題〜
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第58話〜閑話休題その肆〜

【日本 横浜】

一連のテロ事件(政府は横浜騒擾事件と呼称)の後、政令によって横浜には新たに特別地域が設けられた。

みなとみらい21地区、山下公園周辺地区、関内地区、中華街地区、元町・山手地区からなる特別地域は警察と国防軍の警戒監視が強化され、もはや横浜はそれまでの気軽に行ける観光地とは様相が一変した。

地域内の交通路は全てが規制されていて該当地域は封鎖エリアとも形容できる。

エリアごとに設けられたゲートではIDカードによるセキュリティチェックが義務付けられ、特別地域監督責任者である加賀の許可がない限りは何人もこのチェックを免除され得ない。

サビキア王国大使のニーナ・アンシャンテ・アーフェルカンプもその1人だった。

彼女は山手に設置されたサビキア王国大使館から霞ヶ関に向かっている最中だが、首都高速(特別地域に一部が入ってしまっているため)でのセキュリティチェックにおいて数分間の足止めを食らっていた。


「ニホンという国は警備が厳重なのね…。」


ゲートと、作業をする軍人を見ながらニーナは隣に座るエレナに言う。

こちらで言うところの大使秘書のエレナはニーナとは反対側の景色を眺めている。


「あちらこちらに要塞がある国です。

 何ら不思議はありません。」


エレナが言ってるのはただの雑居ビル群なのだが、彼女たちがそれを知る由はない。


「確認が取れました。

 ご協力ありがとうございます。」


開いた運転席の窓から兵卒の声が聞こえる。

受け取ったIDを運転手は助手席の女性に渡す。

運転手の男と助手席にいる女性の両名共に軍服に身を包んでいる。


「通せ。」


先ほどの兵卒が声と手振りで通行許可の合図を出した。

車はゲートを通過してベイブリッジへと進んで行く。

左側に広がる横浜の海、港を見てニーナたちはご満悦だ。


「見てください殿下!!!

 巨大な船です!!!!

 我が国の戦艦よりも巨大です!!!」

「見えているわ。

 そんなことよりも、あの天まで届きそうな柱を見なさい!!!」


ニーナはランドマークタワーを指差していた。


「この世界の大工は優秀なのね。

 魔法も使われているのかしら。」

「この世界には魔法は存在しません。

 我が国の建造物は全て手作業ですよ、殿下。」


助手席に座る濱田香織が振り返って答えた。


「全て手作業ですって!?」


ニーナとエレナは再びタワーを凝視した。


「勿論、建築用の機械は使いますが、それも人の手で動かしています。」

「我が国の機械技術なんて家すら作れないわ…。

 まさにこの世界の覇者ね。」

「残念ですが、我が国はこの世界の覇者ではありません。

 他にも強大な国家がございます。」

「本当なの!?」


ニーナは驚嘆すると同時に、この事態を生み出した者への憎悪も感じていた。


「ゲルト皇帝はなんという世界に戦いを挑んでしまったんでしょうか…。」

「成り上がりの君主め…。」

「エレナ、止めなさい。

 彼は仮にも皇帝ですよ。

 敬意を持つようにと日頃から教えている筈です。」


ニーナの指摘にエレナは頭を下げた。


「カオリさん、本日我々が会うのはどなたでしたか?」


ニーナは話題を変えた。


「まずは我が国の外務卿です。

 彼との面会が済みましたら、その足で元老院議員たちとの会食になります。

 会食後はこちらに戻ってきてグリンダ老師との面会の予定です。」


彼女は向こうの世界でも王家の一員として社交界などで様々な人物たちと顔を合わせてきているため、これらのスケジュールは特に問題ないのだが、グリンダと会うのは気が進まない様子だった。


「グリンダ老師ですか…。

 お名前は存じあげているのですが、面識はありませんね…。」

「老師から是非とも合わせて欲しいと頼まれたとのことです。

 申し訳ありませんが、ご協力のほど宜しくお願いします。」

「私の方こそ、高級魔導師にお会いする機会はないので楽しみです。」


車は扇島に差し掛かっていた。


【シャウラッド コルカソンヌ 冒険組合本部 議事室】

「それで、吸血鬼事件も解決したのに何でまた呼びつけたんだ?」


ヘルゴンザの右隣に座る老父が聞く。

彼はまた葉巻を吹かしている。


「申し訳ありません先代(ベラート)

 諸君も繰り返しの招集に応じてくれて感謝する。

 実は調査部の方から気になる情報が寄せられた。」

「前置きは良いから早く教えなさい。

 アタシも暇じゃないのよ。」


ヘルゴンザの視界右、派手な緑色のドレスにつばの大きいハットを斜めに被る女。

カロル・ゼリョーナの機嫌は少々悪いようだ。


「淑女のご機嫌が斜めなようだから早速本題に入るぞ。

 …、カイロキシアがキナ臭い。

 国王の立場が危ういそうだ。」

「それで、奴は何を求めているんだ?」


ヘルゴンザの視界左、カロルの向かいに座る黒服の男が宙を見ながら尋ねた。


「帝国への亡命だと思われる。」

「思われる?」

「ああ。

 調査部の者に接触したのは国王の側近らしい。」

「そいつは勝手に動いているのか?」


信じられないという顔で男はヘルゴンザを見る。


「あらゆる可能性を探れと厳命されたようだ。」

「なるほどな。

 現在の状況だと帝国は自国まで護衛できない可能性があるのか。

 面白い。」


ヘルゴンザの横で老父は特に長く大量に煙を吐いた。


「お前さんはどうしたいんだ?」


老父に聞かれたヘルゴンザは即答した。


「介入しようと思います。」


室内が騒めいた。


「ちょ、アンタ正気!?」

「賛同しかねる。」


カロルと黒服の男は反対する。


「ゼリョーナ君、エルデス君。」


ゼリョーナの隣に座る一際大きな男が口を開いた。


「頭ごなしに反対するのではなく、組合長(ギルドマスター)の考えを聞いてみようじゃないか。」


2人はヘルゴンザへ視線を送る。


「ありがとう、ウィス。

 私が介入しようと思う理由は5つだ。

 1つ、ファビアン・アルマンド・ブランシャールは”始まりの血筋”であるから。

 これだけでも彼の命を守るに値すると私は考えるが、他にも理由はある。

 2つ、カイロキシア政府は組合の上顧客であるから。

 3つ、彼の妹のアデリーヌは統治者には不向きであり、彼女に統治権が移行するとカイロキシアは崩壊すると考えるから。

 4つ、カイロキシアで内乱が起こった場合には組合を閉鎖せねばならなくなり、組合運営に支障をきたすから。

 5つ、この任を遂行できるのは我々だけだから。

 以上だ。」

「お前さんらしい意見だな。」


老父はヘルゴンザの意見を聞き、出席者を見渡す。

異議の確認のためだ。

老父に遠慮してからか、誰もヘルゴンザの意に異を示さない。


「ゼリョーナとエルデスは良いのか?」

「アタシは反対よ。

 ただの組織でしかないアタシ達が国家に介入すべきではないわ。」

「俺もゼリョーナに賛成だ。

 確かにファビアンは始まりの血筋だが、それはアデリーヌも同じだ。

 組合を危険にさらしてまで彼を助ける必要性は認められない。」


2人は意見を変えなかった。


「決を取る。

 反対の者は手を上げろ。」


ヘルゴンザの言葉通りに行動した出席者は4人だった。


「先代は賛成かと思いましたが…。」

「賛成なんて一言も言ってない。」


老父はニヤリと笑った。


「私のことを言うならウェーラワもじゃないか?」


老父は先ほどヘルゴンザに続きを促し大男を指差した。


「小生も賛成だと申し上げたつもりはございませぬが。」


こちらは表情一つ変えずに答える。


「まぁ、いずれにせよ賛成派が過半数だ。

 好きにやれ。」


老父がヘルゴンザに言う。

今回は議事の進行よりも彼の葉巻が尽きるのが早かった。


「さっさと締めろ。」


彼はこの場で2本目を吸う気はないようだ。

ヘルゴンザは採決に移った。


「賛成5、反対4でこの議事は可決とする。

 委員会の決定として、組合はカイロキシア国王の護送任務を受理する。

 これは委員会直轄案件として処理し、指揮は私が執る。

 異論はないな。」


今度こそ出席者から反対の声は聞かれなかった。


「それでは解散とする。」


【帝国 皇城 皇帝執務室】

「カイロキシアで?

 それは本当なのか?」


皇帝は揉み手をした。


「はい。

 部下が意識共有を行って確かめました。」


皇帝は腕を組んだ。


「その意識が改竄されている可能性は?」

「不可能です。」


ヴェロニカは断言した。

彼女の言葉を聞いた皇帝は唸った。


「ファビアンに使いを出すだけではならんのか?」

「私はカイロキシアが保有する部隊の能力を把握しておりません。

 彼らの手に余る可能性もございます。」

「今回は其方には残ってもらうからな。」

「承知致しました。

 それでは適任者数名をカイロキシアに送り込みます。

 別途ファビアン王に事態を伝える使いを出してください。」

「何としてでもカイロキシアを守るんだ。」


ヴェロニカは気が付いていた。

皇帝が守ろうとしているのはファビアンではない。

今も彼は彼女にカイロキシアを守れと命じた。

統治者が誰かは関係ないのだ。

カイロキシアの体制が帝国に都合が良ければ良いのだ。

無論、彼女にとってもさほど関係がない話なので、口はおろか、表情にも出さない。


「直ぐに取り掛かります。」


彼女は一礼して部屋を後にした。

皇帝は椅子から立ち上がり、窓際に移動する。

眼下に広がる帝都の様子を見る度に彼の心は痛む。

彼にとって帝都は生まれてから今までの人生を過ごした場所だ。

そんな、言わば唯一無二の地が犯されたのだ。

心が引き裂かれんほどの痛みを味わわない筈がない。


「すまぬ。」


皇帝は誰に謝ったのだろうか?

それは何人にも分からない。

ただ、彼はポツリとそう呟いた。

またまた間が空いてしまいましたね。

1話の長さよりも更新を優先したので長さは短めですがご了承ください。

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