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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2章 〜やっぱり帝国、次にシャウラッド、たまーーに日本〜
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第54話〜第2章 完〜

【エリナス ファミリオ魔術大学校】

「吸血鬼の護送は滞りなく済みました。

 研究用の部分標本を採集した後、彼の身柄は禁獄へ送られます。」


ランドロフが不在の今、会議の進行はロディ1人の仕事だ。


「現状を研究調査部門から報告願います。」


ロディに言われ、女性が立ち上がる。


「生物担当部主席のタマーラ・オルストールンです。

 研究対象の吸血鬼、個体壱は“知恵の館”にて各種標本を採集中です。

 魔族自体の記録が少ないため、他に館へ運ばれた魔族と合わせて研究を急がせます。

 個体壱の身柄は明日にはお返しできると思いますのでもう暫しお待ちください。」


白衣を纏った金髪ロングヘアーのエルフは一礼して着席した。


「続いて、シャウラッド国内の状況についてです。

 ゲッティゲンとマルダンは消滅。

 パロマノーヴァもムスタファー理事長が処置を完了させたとのことです。

 コルカソンヌは城壁と市内の一部に被害が出ていますが軽微で済みました。

 コルカソンヌ以北の都市の被害は確認されていません。」

「シャウラッドは気にしなくて良い。

 我々の最終的な被害はどれ位なんだ?」


ドラゴミール・ブロードモアの問いにロディが答える。


「協会の被害を報告させていただきます。

 緊急対応課第1派遣団は全滅、第2派遣団も事実上の機能不全にあり、第3派遣団は2割の損失です。」

「派遣団の改編が必要だな。」


被害を聞いてホワイトホーンが口にする。

ロディも頷いて賛成を示す。


「魔導師候補生にも対象を広げて募集をかけていますが、当分の間は臨時的に部隊改編を行うべきかと。」

「それで良い。」

「…、話を戻します。

 コルカソンヌには新たに危機管理部の設備復旧課と脅威調査課を派遣しました。

 治安維持のために普通戦闘課の駐留を検討しましたが、大君より必要無しとの通達がありましたので第3派遣団と特殊戦闘課の一部を残して戦闘員は全て引き揚げさせました。

今後起こり得る対魔族戦闘を踏まえると、コルカソンヌ以南での拠点構築と即応体制の維持が望ましいと考えます。」


ロディの考えに待ったをかけたのはカラシオック・ジュークスである。


「シャウラッドでの拠点構築は性質的に理事の全会一致を必要とすると考える。

この場で決められる事案ではない。」

「それは承知しています。

今日、明日の話ではなく、もっと先を見据えていただきたいという思いで申し上げたまでです。」

「それでは今回の理事会はこれで終了かな。」

「まだそのままでお願い致します、ベルディハ導師。」


立ち上がりかけたパベル・ベルディハをロディは制止した。


「実は今回の理事会は吸血鬼事件の事後報告が目的ではありません。」


ロディの発言に議場が騒つく。


「ほぉ。

それではその目的とやらを聞かせていただこうかね。」


ミネルバがロディへ言う。


「この世界では遠隔地同士での連絡を即座に取り合う手段が存在していませんでした。

我々魔導協会も今回のような緊急の事態が発生した場合に逐次の状況把握ができないことを兼ねてより不便に感じており、事態の打開を研究調査部門へ依頼してきました。

本日はその努力が結実したことをご報告させていただきます。」


議場はここ最近で一番騒がしくなった。


「本当か!?」「信じられないわ!!」「なんと!!」「ほぉ…。」


ロディの顔は満足気だ。


「説明は魔導具担当部のルドヴィコ博士にお願いしたいと思います。」


ロディに紹介された老人は咳払いをして立ち上がった。

立ち上がったのだが、小柄なのと腰が曲がっているのとで座った時と大差無い。


「仕組みは簡単じゃ。

 この2つの受声器にそれぞれ対になる刻印を施し、使用時に魔力を流せば双方向の会話が可能になる。

 まあ、これは従来研究されていたものと変わりはないから説明するまでもないじゃろうな。

 この発明の鍵は受声器の材質にある。

 受声器、つまり刻印を打つ触媒にギガビブラの幹を用いた。

 ギガビブラについて知識のある者は?」


誰からも手は挙がらなかった。


「なんじゃい…。

 勉強不足じゃな。

 反省せい。」

「博士、説教はまた今度にしていただきたい。」


ロディに促されて博士は先に進める。


「ギガビブラはモーモリシア原産で衝撃が加えられると他の物質よりも激しく振動する樹木じゃ。

 これも研究者なら常識なんじゃが、我輩はもう一歩先を行く。

 我輩の研究で、与える衝撃によってギガビブラの振動数は明確に違うことが判明したんじゃ。

 さらに、ギガビブラ同士が共鳴し合うことも合わせて分かった。

 この性質を術式担当部の助力で魔導送声機に最適化したんじゃ。」


ルドヴィコは後ろに控える若者に手を向けた。

メガネをかけた若い男が一歩前に出る。


「術式担当部のアドナン・ロンパウです。

 使用した術式の説明については私からご説明させていただきます。

 博士が発見したギガビブラの性質を元に、我々は振動の管理とその到達範囲の拡大を目的とした魔法式を構築しました。

 これにより受声器に使われているギガビブラの振動はパンゲア大陸の端と端にいても伝わるようになりました。

こうして共鳴したギガビブラを対称点として魔法式が発動し、会話が可能となります。

残念ながら、距離によって使用する魔力量が違うことや、地下深くなどギガビブラの振動が届かない場所での使用はできないなど改良点はございますが、第1段階での完成品としては実用に耐えるものだと自負しております。」


アドナンは元いた位置に引っ込んだ。


「説明ご苦労だった。

使用する魔力量が違うと言ったが、最大距離でも大技1発よりは少ないので案ずるな。

 これまで魔導師を悩ませていた魔法発動領域の限界という最大の壁を克服したわい。」


ルドヴィコはニンマリと笑った。


【帝国 皇城 玉座の間】

皇帝はヴェロニカの任務報告を黙って聞いていた。

危惧されていた造反が発生せずに済み、皇帝の心中は穏やかだった。


「ご苦労だった。

シャウラッドの方も帝国の被害が無く済んで良かった。

それで、今回の結果に軍と元老院の連中は何て言っている?」


皇帝は脇に控えるセオドラへ顔を向けた。


「兵部省ではイゾーリダ将軍の死亡報告を受けて後任人事に追われています。

元老院の議員達の方はまだ表立って非難を表明している者は確認されていません。

事前に陛下が今回の出兵に否定的だったことを流していたのが功を奏して、責任論は軍事諮議院に向いています。

とは言っても、元帥府はほとんど機能を停止していますから、残った提督府と近衛騎士団長に向いていると言った方が適切ですね。」

「最後まで反対していたグレイには とんだ迷惑だな。

…、仮に軍部の責任にしても、元老院でセルゲイが罷免されるのは余の望むところではない。

どうにかして全て陸軍の責任にするんだ。」


ヴェロニカは皇帝のリクエストに応える。


「議員への根回しを進めさせます。」

「ユスポフの嫡男は何か吐いたか?」

「何も。」


ヴェロニカは否定した。


「自白魔法を行使しましたが、自白魔法から身を護るための刻印が体に刻まれていて失敗しました。

魔法が使えない以上、現在は古典的な方法で進めています。」

「彼の国に対抗するには魔法しか手段が存在しない。

一刻も早く魔導部隊の安全性を確保するんだ。」

「承知しました。」


【日本 永田町 首相官邸】

佃から作戦報告を受けた南郷達は、作戦行動についての会見を開かない方向で意見が一致した。


「戦死者の遺族には極秘作戦だったと伝えるんだ。

…、前回はそんなに被害が出なかったじゃないか…。」


南郷は俯いて顳顬を押さえる。


「魔法なんてありなのか…。」

「現在、老師に魔法の無力化についての研究の顧問を務めてもらっていますが、進展は無いそうです。」

「当然だ。

自分の弱点を晒すようなことをする奴はいないだろう。」


辰巳の報告に三浦が言う。


「誰でも良い。

魔法の無力化について知識がある者を探すように国防軍に要請するんだ。」

「分かりました。」

「それと、魔法が無力化できない以上、魔法使いは全員潜在的な敵と見なす。

魔法使いを戦力として保持している国も同様に潜在的な敵国として扱う。

武器使用は無制限を想定し、有事の際のサビキア王国の占領若しくは無力化作戦の立案を国防軍に命じる。」


【サビキア 王都 大審議廷】

廷内には国王を始め、枢密院関係者や議会議員の貴族達、軍部の高級将校の姿も見られた。

警備はリックやフェムカが直々に行うほどであった。

静粛とは程遠い廷内に被告が入場する。


「国賊め!!」「反逆者!!」「貴様は我が国の恥晒しだ!!」「消え失せろ!!」


次々と浴びせられる非難の声。

国王は黙って被告を見つめていた。


「静粛に!!」


審議長が木槌で机を叩いた。

審議開始の合図だ。

傍聴者達が静かになる。


「これより、被告、トマス・ローウェルの審議を始める。

容疑罪状、国家背反罪及び無断出国罪。

出国の際に理由・日数・滞在先を明記した届け出が必要な身分でありながらも、被告はその義務を怠り、入国禁止指定がされているシャウラッドへの入国を行なった。

 これは越境管理法違反である。

さらに、被告はシャウラッドにて敵国への武器の供与を行なった。

 これは国王陛下への明確な背反である。

 当審議廷の名の下に事実関係を詳らかにし、被告の生殺与奪を決定する。」


トマスはしっかりとした顔つきで審議長の言葉を聞いている。


「被告に聞く。

 どうして敵に武器を与えた?」


傍聴者達はトマスの答えを静かに待つ。


「彼が敵だという認識が間違っている。

 彼は志を同じくする仲間だ。」

「それは相手が我が国の工作員だと言いたいのか?」


審議長の見解に枢密院関係者らが顔を見合わせる。

軍部の関係者も同様だった。


「我が国?

 違うな。」


トマスは否定した。

顔を見合わせていた者達は一先ず責任の所在が他へ移ったことに安心した。


「それでは被告自身が敵国の工作員だったということか?」

「違う。

 私はどこの国家にも心を委ねたつもりはない。」

「ではなぜ敵国へ新型の武器を与えた?

 やはり金銭目的か?」


トマスは首を横に振った。


「どうして敵国に武器を与えたという表現になるのだ?

 言っただろう、私はどこの国家にも心を委ねたつもりはないと。

 我が国?

 敵国?

 私には何の関係もない。

 ただ同志からの需要に応えただけさ。」


トマスの言葉に罵声が飛ぶ。


「売国奴め!!」「恥を知れ!!」「国家の面汚しめ!!」


廷内は再び喧騒に包まれた。

審議長が木槌を叩きつける。


「静粛に!!

 静粛に!!

 審議中だ!!」


トマスは肩を揺らして笑っていた。


「トマスよ、何が可笑しい?」


国王が口を開いた。

騒いでいた連中が口を閉ざしていく。


「馬鹿げているからだ。」


トマスは短く理由を告げた。


「何が馬鹿げているんだ?」


コーネリウスは再度問いかけた。


「私を売国奴と呼ぶ者は時代に取り残されている。

 この世界の国家という概念は既に制度疲労を起こしていることにどうして気が付かない?

 分からないか?

 代が変わっても中身は同じ。

 いずれ渡らなければならない大海へ目を向けようともしない。

 湖の中だけで話が済んだ黄金時代は過ぎたんだ!!

 ここ数十年で目覚ましい技術の革新があったか!?

 否。

 国家の指導者は得体の知れない魔法を重視し、技術を軽視した!!

 では、優遇された魔導師達は全ての解となる神々の叡智へと近づいたか!?

 否。

 何も発展は見られない。

 どうして異世界の敵に破れ、帝国の地は蹂躙された?

 簡単な話だ。

 技術水準が違いすぎるんだ!!

 敵には魔法をも凌ぐ技術がある。

 この世界で一番の国力を誇った帝国は敵国へ侵攻する筈が、気が付けば侵攻されている。

 魔法で対抗できぬのならば我々は無力だ!!

 なのに国家の指導者達は航海の術を考えようともしない。

 今はまだ帝国だけで済んでいるが、もしサビキアに駐留している異世界の者達が反旗を翻したら?

 我々には対抗すべき強大な敵が現実として存在している。

 だが、国家の指導者はそれに目を向けようとしないではないか!!

 いつまでも湖の中で互いに突っつきあっている。

 それならば私は国家など必要ではない。

 いつまでも国家という単一の枠組みに縋る者は決して新時代の荒波を越えられない。

 私達が描く超国家という青写真は時代の啓示だ。

 先に言っておくが、この後の審議に意味はない。

 私は何も喋らない。

 私から何かを引き出したところで誰にも止められないんだ。

 私を裁きの場に連れ出したところで車輪は動き続ける!!」


トマスの高笑いが不気味に廷内に響く。


「もう良い。

 審議は終わりだ。

 コイツは殺さずに枢密院が預かる。」


国王の決定に異議を唱える者はいない。


「死ぬよりも辛い生き地獄を味わうんだ。

 貴様から取れる物は全て取る。」

自分でも意外にサクサク2章が終わったなという感じです。

次回更新から暫く(〜5、6話)は閑話休題というか、3章に入る前の整理に回したいと思ってます。

連載から1年以上経ちますが、コンタクトから3週間も経っていないんですよね…。(ありえないくらい展開スピードが早いですよね。ちょっと考えます。)

次回更新がいつになるか分かりませんが、必ず更新するので気長に待っていてください。(更新をやめる時は報告しますからね!!)


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