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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2章 〜やっぱり帝国、次にシャウラッド、たまーーに日本〜
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第53話〜ディートリッヒ・ウェイン〜

【シャウラッド コルカソンヌ 外郭正門】

「数が多過ぎますわ!!」


消しても消しても湧き出てくる魔族に対してバチルダが不満を漏らす。

彼女も戦略的判断をすると流星群のような大技は何発も発動できない。

外郭正門での戦闘はバチルダ、エウジェーニオ、青蛙神がざっくりと敵を葬り、撃ち漏らしを特殊戦闘課の魔導師達が担当するという感じだった。


「女!!

 これで音を上げていては将は務まらんぞ!!」


いくら大技を発動していないからといって、使い魔を現界させたまま少しの衰えも見せずに次々と魔族を葬るエウジェーニオの魔力量に驚きと羨望を抱かずにはいられないバチルダである。


「2人とも口を開く暇があったら敵を1匹でも多く殺せぃ!!!」


青蛙神も休み無しで戦っていた。

個体毎の強さはともかく、量が多いのだ。

外郭正門での戦いは長引きそうであった。


【コルカソンヌ 二区】

「ハアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


ランドロフの掌底が魔族の鎧を打った。

鎧はひび割れ、中の魔族は勢い良く血を吐く。

外見上の損傷は見受けられないが内臓は全滅である。

彼からしたら省エネルギーの戦法で敵兵の亡骸を増やしていく。


「お前、楽しんでないか?

 コイツらは某が引き受けるから供給を遮断しろ!!」


ウーゴもランドロフに負けない勢いで死体の山を築いている。


「普段から建物に篭って仕事していると久々の運動は貴重でな。」


右ストレートを魔族の顔に決めながらランドロフは暫しの遊興を宣言した。

そこへ建物を壊しながら魔族の死体が転がり込む。

遺体は黒焦げだ。


「さっさと結界を張りな。

 いよいよアタシは疲れたよ。」


ナシメントが申し立てる。


「他の者達は?」


ランドロフがナシメントに尋ねる。

彼の両手には頭を握りつぶされた魔族がいた。


「ギマラエンスは特殊戦闘課の子達と一緒に戦ってたよ。

 トーレスは知らん。」

「ここの戦闘もぼちぼち終了だな。」


魔法を発動してランドロフは屋敷の敷地を封印した。

何も知らずに地下から出ようとした魔族数名は骨も残らなかった。


「ようやく封印していただけましたか…。」


戦闘を終えて戻って来たトーレスの服には返り血がこびりついていた。


「よし。

 必要な人間は揃ったな。

 外郭正門へ向かい魔族の供給元を封印するぞ。」


【コルカソンヌ シオン城 】

人数が人数(百数十名)なので黒書院にいるバローゾ侯爵に良い顔はされなかったが、カテリーナ達は無事に表広間へと通された。

室内には護衛のための衞君士が大勢いた。

非常事態の中の非常事態だからだ。


「こ、これは…。」

「初めて見ましたぜ。」

「殿下、これって…。」


カテリーナ、オーエック、フィアンツの感想である。

室内には吸血鬼がいた。

磔の身ではあったが、口はきけるようだった。


「おやおや。

 また客人が増えましたね。

 それもこんなに大勢。」


吸血鬼はカテリーナ達を一瞥して大君へ言う。


「失礼ですが、どうして吸血鬼がここに?」


カテリーナも大君へ言った。


「余が望んだのだ。

 余の国を蹂躙し、民に惨い仕打ちをした化け物を拝んでおきたくてな。」


大君は吸血鬼を力強く見据えた。


「協会との取り決めで余がコイツをどうにかすることは叶わぬ。

 だが、吸血鬼よ、最後に聞いておきたい。

 其方に名はあるのか?

 あるなら余はその名を心に刻もうではないか。」


大君の言葉に対して吸血鬼は即答しなかった。

数秒の間、沈黙が部屋を支配する。


「余の名は、ウェイン。

 ディートリッヒ・ウェイン。

 余は魔族の王だ、人間の君主よ。」


手足を繋がれたまま魔族の王は名乗った。

大君は深く頷く。


「ディートリッヒよ、直に其方はこの世界から隔絶される。」


大君は立ち上がった。

彼女の座っている姿しか見たことがないため、意外にスラっとした体型にカテリーナは驚く。

袴を揺らし、ブーツが床を打った。

大君は真っ直ぐにディートリッヒの元へ向かう。


「この国の君主として述べさせてもらう。

 人間に対する戦争を仕掛けたつもりかもしれんが、そんなものは直ぐに鎮圧される。

 3日と天下は続かなかったな、魔族の王よ。」


ディートリッヒは高らかに笑った。


「笑わせてくれる。

 雑兵どもで戦を判断するとは…。

 戦は敵将を落とせば勝ちだ。」


ディートリッヒの袖から黒い虫が溢れ出る。

大量の黒虫は大君に迫った。


「花君!!!」


フェリクスが身を呈して大君を守る。

大量の黒虫はフェリクスの体を飲み込んだ。

フェリクスの体が床に倒れた。


「大君を守るんだ!!」


カテリーナの叫びでエヴァノラが障壁を張って大君の安全を確保する。

カテリーナ達の身は騎士団が障壁を張って守った。

餌食になったのは衞君士だった。

ある衞君士は口から黒虫の侵入を許し、またある衞君士は黒虫に体の吸血を許した。

何らかの形で黒虫と接触した者達は床に崩れ落ちる。


「扉を開けるんじゃない!!」


その場から逃げ出そうとした衞君士達が表広間の扉を開けてしまった。

衞君士達と一緒に黒虫も外へ流出する。


「お前達、どうにかならないのか!?」

「お任せください。」


エヴァノラが禁術を発動し、室内を火の海にした。


「良いぞ!!

 そうだ!!

 もっとやるんだ!!!!

 混沌だ!!!!!!」


身に炎を感じながらディートリッヒが叫んだ。

炎が蝶に姿を変えて収束する。

室内の調度品と、フェリクスを始めとした死徒化していた衞君士諸共、黒虫は焼き払われた。


「逃げた奴らを追うぞ!!」


オーエックが騎士団を引き連れて広間から慌ただしく出て行く。


「そう簡単に王の首は取れないか。」


ディートリッヒは大君の顔を見てニヤついた。


「満足か?」


障壁越しに大君がディートリッヒに問うた。


「どうして満足できる?

 余の目的は世界征服なのだぞ。

 達成されたように見えるのか?」

「否。

 達成したようには見えないさ。

 勘違いしているようだが、魔族が人間の世界を屈服させるなど最初から不可能。

 余はそれを踏まえて問うておるのだ。

 もう叶わぬ夢は見終わったか?とな。」

「叶わぬ夢だと?

 勘違いしているのは貴様の方だ。

 魔族の虐げられ続けた歴史は余の治世で終焉を迎える。

 それに立ち会えることを感謝したらどうだ?

 戦争は決して終わっていない。

 今日をもって始まったのだ。」

「お喋りはもう済んだか?」


ランドロフがエウジェーニオと青蛙神を伴って広間へやってきた。


「黙らせろ。」


ランドロフの命令でエウジェーニオはディートリッヒの口へ封印魔法を発動した。


「お前の蛙の毒は強力じゃなかったのか?」


既に青蛙神の体液が使い尽くされているのにも関わらずディートリッヒは無傷だった。


「全く分からんわい。

 どうして無傷で済んでおる?」

「魔法は発動できないようにした。

 つまり毒を無力化することは不可能。

 見たところ毒は使われている。

 必ず何かは溶かしている筈だ。」


青蛙神とエウジェーニオの推測は正解に近づいていた。


「そいつの着衣を剥がすんだ。」

「着衣を?」


ランドロフはカテリーナの発言を訝しんだが、言う通りにした。

床に転がっていた衞君士の剣を拾い上げる。

ランドロフは魔法を発動して剣先を鋭く尖らせ、ディートリッヒの衣服を縦に裂いた。


「騒がしい男が戦っていたのはコイツか。」


カテリーナの脳内にオーエックの顔が浮かぶ。

ディートリッヒの腹部からは黒虫が顔を覗かせていた。


「コイツを代わりに溶かしたんだ。

 ここも封印しろ。」


エウジェーニオは直ぐに実行した。


「この黒い虫は死徒化と関係があるんだろうな。」


ランドロフは道中に見たオーエック達の戦闘を思い返してそう結論づけた。


「魔族の供給地点の封印は完了した。

 取り決め通り、この吸血鬼の身柄は協会が預かる。」


ランドロフは事後処理を開始した。


「我々はこれからパロマノーヴァに向かう。

 街は地図から消えることになるが、シャウラッドに拒否する権利は無い。」


大君は無言で首を縦に振った。


「長期間に渡ってシャウラッドは協会の管理下に置かれる予定だ。

 平時には現存する都市の内政には干渉しない方針だが、非常時には全ての権限が現地指揮官に移管される。

 詳しいことは協会外交部の人間から説明があるだろうから聞いて欲しい。」


交渉ではなく決定事項の通達であるため、ランドロフは言い終わるとパロマノーヴァへと向かった。


「それでは、吸血鬼を協会へ引き渡さなければならぬので乃公も失礼させていただく。」


エウジェーニオは吸血鬼を連れて青蛙神と広間を出た。

室内に残っているのはカテリーナ達と大君のみであった。

大君は床に腰を下ろした。


「余は疲れた。

 其方らも腰を落ち着かせるが良い。」


大君に言われた通りカテリーナ達も床に座った。


「よく働いたな。

 特に先程は命拾いした。」


エヴァノラの方を向いて大君は言った。

エヴァノラは礼をして感謝を示す。


「この騒動を禁教徒ではなく死徒だと言ったのも其方らだったな。」

「はい。

 事実をお伝えしました。」

「借りは沢山、貸しは無しか。

 清算せねばならんなぁ。」


大君は頭をポリポリ掻く。


「聞いた通りだ。

 余の国は独立国としての尊厳が軽くなる。

 それでも良ければ皇帝が望む同盟とやらを結んでやっても良いぞ。」


カテリーナが最も望んでいた言葉だ。


「感謝します。

 皇帝もお喜びになるかと。」


カテリーナは深々と頭を下げた。


「幕下を援軍として送るのは難しいが、他の街にいる傭兵なら幾らでも貸そう。

 余は今回の件で余計に協会が嫌いになった。

 協会に良い顔をする国も然りだ。

 余の傭兵を賢く使え。」


カテリーナは重ね重ね頭を深く下げた。

シャウラッド全土と魔導協会を震撼させた吸血鬼事件はここに幕を下ろした。

様々な勢力の思惑が絡み合い、事件解決と同時に今後の火種も新たに生じた。

ディートリッヒが言った通り、戦争は始まったばかりなのだ。

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