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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2章 〜やっぱり帝国、次にシャウラッド、たまーーに日本〜
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第47話〜白龍に乗ってどこまでも〜

【イェンシダス ヴェンデルピッツェ山】

「師匠!?」


セシル先生はそう言って飛び出した。

僕も彼女の後に続いた。

続いてしまった。

体が勝手に動いたのだ。

安全だと思ったのか、逆に危険だから飛び出したのか。

理由は分からない。

とにかく飛び出した先には白い小さなドラゴンと黒い大きなドラゴン、そして女性がいた。

お年を召した女性は黒いドラゴンに跨っている。

僕らに続いて騎士団の面々も岩陰から身を出した。

だが、セシル先生以外は誰も状況を直ぐに飲み込めなかった。


「おーやおやおやおやおやおや。

 どんな賊かと思ったら、可愛い可愛いセシルちゃんじゃないのさぁ。

 お婆ちゃんはもう会えないかと思ったさぁ。」


残された僕らが状況を理解するよりも先に夫人が言葉を発した。

ドラゴンから降りた夫人とセシル先生は抱擁を交わす。


「さてと、こんな所に戻ってくるなんてどうしたんだい?」


問いに対する答えは直ぐに明かされなかった。


「ちょ、ちょっとお待ちください!!」


声は上からした。

見遣ると、一同は岩の上にいる男2人を認めた。


「セシル導師、その方が“稀代の閨秀”と名高きミネルバ・ハディントン師なのですか!?」


岩の上からエドがセシル先生へと叫ぶ。


「はい。」

「お手柔らかに頼むよ。」


ミネルバはウィンクして見せた。


「それじゃ、答えを聞かせてもらおうかねぇ。」

「魔導協会から招集がかかっています。」

「協会から?」

「はい。

 クロエ校長から師匠宛の書簡を預かっています。」


セシル先生は懐から手紙を出してミネルバへ渡した。

受け取った手紙を黙読するミネルバ。

眉一つ動かさずに目だけが動いていく。


「やれやれ…。」


彼女は読み終わった手紙をくしゃくしゃにした。

直ぐに書簡は彼女の手の中で灰になった。


「この老いぼれに俗世へ降れと?」


誰を見るでもなく、彼女は問いかけた。


「協会は師匠の力が必要だと考えています。」

「違うよ。

 一通り頭数を揃えて体裁を整えたいだけさぁ。

 …、はてさて…、どうしようかねぇ…。」


彼女はそう言いながら白いドラゴンの頭を撫でる。


「セシルちゃんはお婆ちゃんに行って欲しいのかぇ?」

「それが協会の指示だとするならば従うのが得策かと。」

「う〜ん。

 セシルちゃんがそう言うならお婆ちゃんは行かざるを得ないよねぇ…。

 でも、この子はまだ手がかかるからねぇ。」

「ホーァ!!ホーァ!!」

「どうしたんだい?」


白いドラゴンは犬のように匂いを嗅ぎ始めた。

地面の匂いを嗅ぎ、セシル先生の匂いを嗅ぎ、僕の匂いを嗅ぎ…。


「ホーァ!!ホーァ!!ホーァ!!」


鳴いた。

白いドラゴンは母親らしき黒いドラゴンを振り返る。

二言程度やりとりして、母ドラゴンはミネルバを見る。


「本人が言うなら仕方ないねぇ。

 そこの若いの、名前は…。」

「タツローです。」

「タツローや、この子はお前さんが気に入ったようだ。

 この老いぼれと母親は暫くこの子の面倒が見れないからお前さんが代わりに面倒を見てくれやしないかねぇ?」

「へ?

 ドラゴンの世話?」

「名前は好きにつけてやって良いよ。

 この子の方がお前さんを選んだんだ。

 手はかからないよ。」


ミネルバは再び黒いドラゴンに跨った。


「この後セシルちゃんはどうするんだい?

 お婆ちゃんはこの若者…、タツローとやらとエリナスへ向かうが。」

「エ!?」「何ですとォォォォ!?」「ちょ、ちょっと!!」


セシル先生、エド、僕の順である。


「待ってください!!

 僕も一緒に行くんですか!?」

「大丈夫だ。

 その子は人を乗せて飛ぶくらいは造作無い。」

「違う違う違う違う違う!!!!

 そのことじゃなくて…。」

「なんじゃ?

 コーネリウスはそれを望んだのではないのかぇ?」


一同は水を打ったように口を噤んだ。


「国王陛下が事前に連絡をなさっていたのですか?」


エドが彼女の発言の意図を探る。


「奴からは何も聞いてないさぁ。

 現状から推理しただけだよ。

 帝国に行った筈の弟子がサビキアの国王御用騎士団と一緒にカレッジの校長からの書簡を持ってきた。

 おまけに一緒にいる若いのは異世界の者だ。

 知っている情報と現状から推理するとコーネリウスの関与は明らかだぇ。

 それで、奴はこの老いぼれに君を会わせたかったんだろう?

 そうした背景を理解した上で連れて行くって言ってるんだぇ。」


ミネルバは僕へ指差した。


「どうするんだい?

 一緒に来た方が楽しいと老いぼれは思うがねぇ。」

「一緒に行くったって…。」


後ろにいる騎士団の面々の顔を見る。


「行ってきな。

 アタシらは後で追いかけるよ。」


アレッタが言った。


「我々の任務はお二方の護衛です。

 下山したら後を追ってエリナスでもどこへでも向かいますよ。」


団長のエドが言うんなら間違いない。

覚悟は決まった。


「腹は決まったかぇ?」

「はい。

 よろしくお願いします!!」

「分かったぇ。

 …、セシルちゃんはお婆ちゃんと一緒に来るかぇ?」

「勿論です。」

「直ぐに出発するよ。」

「え、あ、あの、ドラゴンに跨がれば良いんですか?」

「本当なら手綱があった方が良いのだが今は無いからそのまま乗りなさい。

 鞍は道中で買おうねぇ。」


ミネルバの乗ったドラゴンは既に離陸準備を始めている。

僕らも慌てて白いドラゴンに跨った。


「名前はどうしますか?」


後ろからセシル先生が聞いてきた。


「そうですね…。

 白い肌。

 白…。

 雪?

 …、この子はオスメスどっちか分かりますか?」

「メスですよ。

 この種類は口元にヒゲが無いとメスなんです。」


確かにこの子の口元はスベスベだ。


「メスかぁ。

 じゃあ、雪華(せっか)はどうですか?」

「セッカ?」

「雪の花という意味です。」

「雪の花…。

 素敵な名前ですね!!

 セッカで決まりです!!」

「ホーァ!!ホーァ!!ホーァ!!」

「ほら、本人も喜んでますよ!!」

「よし、雪華、行くぞ!!」


ふわりとした感覚が体を伝う。

雪華は翼をはためかせて上昇する。

僕は雪華の首を掴み、セシル先生は僕の胴体に手を回す。

控えめに言って最高です、ええ。


「お気をつけて!!」


エドが叫んでいる。

僕とセシル先生は彼らに手を振る。


「それじゃあ、また後で!!!!」


僕が叫ぶのと同時に雪華は上昇から進行へ動作変更した。


「うわぁぁぁぁ!!!!!」「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


雪華は加速も無しで初速から凄いスピードで空を駆けて行く。

僕らの冒険の舞台はサビキアから益々離れていった。


【シャウラッド 南部迷宮】

「上だ!!」


協会魔導師が障壁で敵の攻撃を防ぐ。


「うぉらー!!」


隙をついて雄志隊の戦士が怪物を切り捨てた。

南部迷宮地下5階。

調査団が足を踏み入れた時、現場は既に地獄絵図だった。

そこには変異した怪物が跋扈し、共食い、異種間交配などなど通常の迷宮にあらざる光景が広がっていた。


「推測で良い!!

 こんなバギランチュラは見たことない!!

 この化け物はなんだ!?」


ニンファドーラは体長3m程度のバギランチュラ3匹を相手取っていた。


「大きさと言い、形と言い、私の知るバギランチュラじゃないぞ!!」


通常のバギランチュラは体長1m程度のただのクモだ。

噛まれたり、尻の針に刺されると毒が注入されるが、患部の軽度な痺れぐらいで特に命には関わらない。

だが、今ニンファドーラ達が目にしているのはバギランチュラであって非なるものであった。


「原型の特徴は完全にバギランチュラのものです。

 ですが、あの大きさ、鋭利な針、そして…、キャ!!!」


グウェノグは咄嗟に障壁を展開する。

障壁はバギランチュラから放たれた液体を防ぐ。


「体液の射出!?」

「何だこの液体は!?」


障壁が無くなり、液体が床へと落ちる。

液体の落下地点にあたる床が溶けた。


「接近戦は危険です。」


グウェノグは障壁を張って周囲を見る。

他の者達も別の怪物と戦っていた。

どれも異常な程に攻撃的で既に犠牲者が出始めている。


「あの攻撃性。

 外的要因で変異したと考えるのが妥当だと思います。」


バギランチュラの攻撃を防ぎながらグウェノグは所見を述べる。


「その要因を探せば行方不明者の手掛りにもなるってことか。」

「ええ。」

「何だコイツ!?」「オイオイオイ、嘘だろ!?」


彼女達の後方が騒がしくなった。


「一体どうし…っ!!!」


ニンファドーラは自分の目を疑った。

変異した怪物の餌食になった雄志隊の隊員が別の仲間に襲いかかっていた。


「死徒化してるぞ!!」


協会の魔導師の声がニンファドーラの耳に届いた。

その声にグウェノグも振り返った。


「死徒化ですって!?」

「クソッ…!!」


ニンファドーラの剣が着火する。


「ハァァァァァ!!!!!」


彼女は元部下の頭部を叩き切った。

死徒の体はそのまま燃え尽きる。


「魔法が使えない者は下がるんだ!!

 距離をとって攻撃しろ!!」


他にも死徒化した者を処理しながらニンファドーラは指示を出す。


「死徒化…。

 吸血鬼そのものは確認されていない。

 接触は迷宮に生息する怪物の変異種だけ。

 だとすると…。」


グウェノグはバギランチュラ3体の氷塊と対峙しながら状況を分析する。


「ニンファドーラさん!!

 外的要因は吸血鬼です!!

 方法は不明ですが変異の過程に何らかの形で吸血鬼が関与しています!!」

「だろうな!!

 じゃないと説明がつかん!!」


2人は怪物を倒し続けながら先に進んでいる。


「普通、吸血鬼はヒト種以外は襲わない筈です。」

「この事態を生み出している吸血鬼自体が特殊ってことか?」

「普通の吸血鬼でも、我々が知らない行動という可能性もあります。」

「とにかく迷宮を制圧しないとな。」


2人は地下6階へと続く階段へ飛び込んだ。


【帝国 ブニーク沖 いずも】

「海上敵勢力排除の許可が出ました。」

「“きりしま”へ繋げ。」

「回線良好。」

「“いずも”から“きりしま”へ、敵勢力排除作戦開始。」

「了解。

 我、直ちに敵勢力を無力化す。」


数秒後、“きりしま”から4発のミサイルが発射された。

目標は帝国海軍の艦隊。

空には4本の軌跡が刻まれていた。


【帝国 ブニーク沖から北へ100kmの海上】

合計4隻の一等戦列艦からなる帝国海軍の艦隊は突如として爆散した。

乗船していた魔導師が障壁を展開する間も無く艦隊は一瞬で破片と化し、乗員のほとんども肉の塊となった。

今時を持って帝国海軍は主戦力を失い、パンゲアの制海権はサビキアへと傾くことになる。


【帝国 ブニーク 国防軍前線基地】

「地元住民の避難は滞りなく進んでいます。」

「ご苦労。」


基地の正門前で避難民の様子を見ながら佃は上坂の説明を聞いていた。


「赤城が言っていた住民達は?」

「既に内通者と思しき住民達は拘束しています。」


上坂は基地内のプレハブを指差した。


「合計3名を多目的A棟に収容しています。」

「警備はしっかり頼むぞ。」

「はい。」


佃は正門の眼下に広がるブニークの市街地で行われている陣地構築の様子へと視線を移した。


「待ち伏せの用意は万端だな。

 哨戒の方はどうだ?」

「陸上からの偵察情報ですが、敵の進行速度は予定通りです。

 日没には全隊がこちらに到着します。」

「分かった。」


2人の元へ士官が駆け足でやってきた。


「報告します。

 我が海軍の攻撃により海上に展開中だった敵勢力は全て排除が完了しました。」

「よくやった。

 海軍には引き続き支援要請を出してくれ。」


士官は踵を返した。


「長野の方はどうなっている?」

「現在、立案した作戦のシミュレーションを行なっています。」

「結構結構。

 それでは私は戻るとするかな。」


数歩程度歩いてから佃は再び止まった。


「そう言えば、敵の工作員の情報は?」

「まだ何も。

 艦船のレーダーにも探知されなかったということは無事にコンタクト・ポイントを抜けられなかった可能性もあると考えています。」


彼らが話しているのは横浜事件の首謀者であるアメリカ・中国の工作員についてだ。

本国から連絡を受けていた国防軍は追尾を試みたものの、一度も反応が掴めなかった。

未だに何の手がかりも得られておらず、国防軍の失態となりかねない事態なのだ。


「レーダーに引っかからなかった点が気になるな。

 引き続き調査を頼む。」


佃は執務室へと帰って行った。

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