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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2章 〜やっぱり帝国、次にシャウラッド、たまーーに日本〜
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第46話〜白龍が呼ぶ者〜

【シャウラッド 南部迷宮】

「周囲に魔族は確認されません。

 同じく結界といった魔法的痕跡も見受けられませんでした。」

「ご苦労、下がって良いぞ。」


報告を終えた魔導師が天幕を後にする。


「だそうですが…。」


グウェノグ・デラクールは相席者へ意見を求める。


「決まりだな。

 直ぐに潜るぞ。」


ニンファドーラはそう言って天幕の外に出た。


「あの人苦手…。

 こうなるって分かってて組ませたわね。

 本当に意地悪な人なんだから…。」


1人残されたグウェノグはベクトルの違う自らの不安を気遣った。


「デラクール参席、部隊指揮をお願い致します。」

「はぁい…。」


天幕の外には協会と雄志隊の面々が整列していた。


「内部に潜入する部隊の基幹は我々雄志隊が担う。

 協会の魔導師諸君は我々の援護、そしてこの迷宮の周囲の安全確保を頼む。」


『それで良いよな?』とニンファドーラが振り返る。


「それで問題無いです。

 …、内部は想像を絶する状態だと推測されます。

 日頃の修練の成果を発揮して1人の犠牲者も出さずに任務を完了させましょう。」


ニンファドーラとは対照的にフワフワとした雰囲気が漂う。


「総員気を引き締めろ!!」


ニンファドーラが最後に喝を入れた。


「デラクール参席の言った通りだ。

 1人の犠牲者も出さずに帰還するぞ!!」

「オオォォ!!!!!!」


ニンファドーラの掛け声に全員が共鳴した。


【シャウラッド ゲッティゲン】

コルカソンヌにいるアルシャンドルへ応援要請を出してから早くも12時間以上が経とうとしているが、彼らからは未だに何の応答もなかった。

勿論、彼らが大君によって自由行動の権利を剥奪されたことも知らない。

何も知らずに、ただ希望だけで持ちこたえるのは熟練の兵士でも並大抵ではなかった。


「協会から連絡は?」


リックはギマラエンスに問うた。

彼は力なく首を横に振った。


「連絡が無くても、部隊を派遣したんなら既に着いていても不思議じゃないからねぇ。」


ナシメントも悲観的な意見を口にする。

脱出後、戦闘員以外は北部の街へと護送しているため、この場にいるのは少数の魔導師だけだ。

だが、対処するのは城門付近に接近した死徒だけなので彼らの手に余るような状態ではない。

問題はまた“奴”が現れた場合だ。


「アイツが現れたら間違いなく今の僕らはお終いです…。」


ギマラエンスの口から出た言葉へ一同は沈黙で賛同を示す。


「…、この場から退散したい気持ちは分かるけど、それは無理な話だからねぇ。」


ここで彼女達が退けば数えきれない死徒が街の外へ出ることになる。

連鎖的に増えていく死徒は、一体だけでもその存在が惨事になるため、それだけは避けなければならなかった。

この事をリックも重々承知している。


「街を破壊できれば今さら手段は問いませんよね?」


だからこそ彼はナシメントに相談を持ちかけた。


【シャウラッド マルダン近郊】

「進路を変えるぞ。」


トマスとマティアスを確保した後、フェムカ達は帰路についていた。

だが、彼らはその予定を変更してゲッティゲンへ向かおうとしている。


「街を地図から消し去るらしい。

 観光の最後にはもってこいだな。」


彼の冗談とも取れぬ言葉に部下達は沈黙という安牌を選択した。


「陛下には帰還が少々遅れると連絡を。

 国賊も一緒に連れて行く。

 貴様らに預けるのは心配だ。」


支援要請に応えるべく、フェムカ達は反転して急ぎ目的地へ向かった。


【日本 東京 総理官邸】

総理執務室にて顔を合わせた4大臣の意見は纏まらなかった。


「黙ってても数時間後には襲ってくる相手です。

 勝算があるのなら こちらが引く意味は無いと考えます。」

「ダメだ。

 積極的に攻撃してはいかん。

 あくまでも自衛手段としての反撃に限るべきだ。

 武力衝突の事実が広まればロクなことにはならんからな。」


三浦官房長官の意見を安藤外務大臣が真っ向から否定する。


「なあ、安藤ちゃんよ。

 お前さんの意見も分かるが、ここはGOサインを出してみようや。

 向こうは五月蝿い国際社会の目も無いんだ。

 ここで圧倒的な力の差を見せつければ交渉も有利に進むぜ。」


ソファに深く座り込んだまま、辰巳が安藤を諭す。


「辰巳先生、お言葉ですが今の発言は問題があります。

 国際社会の目がなければ何をしても良いと言うのは政治家として褒められた姿勢ではありません。」

「これは失敬。」


辰巳は声の主へと軽く頭を下げた。


「さて、安藤大臣の意見も正論ですが…。

 一先ず、ここは国防軍にやらせてみましょうか。」

「お待ちください!!

 本気ですか総理!?

 事が知れたら我々が負うダメージは決して小さくはないのですよ!!」

「バレなければ良いんですよね?」


列席者最年少の男の口元が緩む。


「世間には秘密にすれば良い。

 マスコミが嗅ぎつける隙を作らなければ済む話です。」


これには安藤も閉口した。

他の2名からも反対の声は上がらなかった。


「決まりましたね。

 国防軍には『全て任せる。ただし、必ず勝て。』と伝えてください。

 それじゃあ今日はこの辺で。」


出席者に一礼し、南郷京助 新内閣総理大臣は次の予定を消化しに向かった。


【イェンシダス ヴェンデルピッツェ山】

これまでの“ハイキング”とは違い、一行は“登山”を強いられていた。

標高が高くなるのに従って減っていく緑。

辺りには既に木々の姿が見えず、視界を占めるのは灰色の岩肌とそれに色彩を加える僅かな高山植物だけであった。

一行は酸素の消費を可能な限り抑えるべく口も開かずに淡々と山を登り続けていたが、遂に目の前に道を認められなくなると先頭を行くサンデルが一向に停止を指示する。

そこにはもう道は無く、手つかずの岩が自然に重なってできたもう一つの山があるのみであった。


「我々が先に様子を見て参ります。」


龍郎はエドに頷いてみせる。

エドはサンデルを連れて岩山を登り始めた。

両者の足取りは軽く、あっという間に岩山を登りきり姿が見えなくなってしまった。


「2人とも体調は大丈夫?」


2人はアレッタの問いかけに無言で首を縦に振る。

それを見たアレッタも『良かった』と言わんばかりに頷き返す。

ティモンが剣を構えたのはその時だった。

遅れてロブレヒトも鞘に手を伸ばす。

状況が分からない龍郎とセシルだが、アレッタが人差し指を唇に当てて見せたので声は出さなかった。

彼女はそのまま人差し指で龍郎達の視線を誘導する。

誘導された視線の先には1匹の白いドラゴンが空中で翼をはためかせていた。

アレッタは龍郎達を岩と岩の隙間に押し込み、続いて自らがそこへ入った。

ティモンとロブレヒトもゆっくりと後退する。

彼らは別の隙間に身を隠した。

風邪を切る音が次第に大きくなる。

風切り音が止み、代わりに息遣いが聞こえてきた。

位置的に視認は叶わないが、ドラゴンが自分らと近い距離に着地したことを龍郎は悟った。

騎士団の面々もドラゴンの一挙手一投足に神経を集中させている。

そんな中、不意にセシルが龍郎の袖を引っ張る。

えー!?こんな時にそーゆーことする!?というのが龍郎の正直な感想であったが、


『タツロー、聞こえますか?』


脳内に響くセシルの声で妄想は掻き消された。

言葉を発せない状況下を考慮した上での方策だろう。

龍郎はそう解釈して頷いた。


『龍の中には高山植物を主食にしている種類が確認されています。

 あの龍はその類かと。』


セシル先生の言う事が本当なら、じっとしていれば問題はないな。

龍郎は事態を楽観視した。


『アレッタさんにも伝えますね。』


セシルがそう言ってアレッタの肩を叩く。

アレッタの表情から判断して彼女の脳内にセシル先生の声が響いているのだろう。

龍郎はその間もドラゴンの息遣いを注意して聞いていた。


「ホーァ!ホーァ!ホーァ!」


だからいきなりドラゴンが鳴き始めた時にはビックリしてしまった。

主食が植物の疑いがあってもドラゴンという生物である以上、一同が気を抜く理由にはならなかった。

ドラゴンが急に鳴き出した理由は直ぐに明らかになった。

先ほどよりも大きな羽音と、ドスンという重量級の着地音。


『目視できないので何とも言えませんが、あの龍の大きさから判断すると、あの龍自体は子供だと考えられます。

 つまり…。』


結論を聞くまでもない。

龍郎は苦笑いでセシルへ頷く。

向こうに隠れるティモンとロブレヒトの表情からも推測できる。

あの白いドラゴンのパパかママが来たのだ。

嫌でも耳に入る息遣いがドラゴンの大きさを想像させる。

音と地鳴りから察するに、ドラゴンはこちらとの距離を確実に詰めていた。


『大丈夫な筈です…。

 肉食なら子供でも私達の存在に気が付いていますから。』


セシルの見解が正解でありますようにと祈るしか龍郎にはできなかった。

ただでさえ戦闘力がゼロというのもその理由だが、アレッタ達の行動選択から考えるにドラゴンと一戦交えるのは賢明ではないのだろう。

ただ息を殺してドラゴンが去るのを待つしかなかった。


「グルルルルルルル…。」


望みとは反対に、ドラゴンの唸り声が直ぐそこで聞こえる。

その証拠に、ドラゴンの鼻息は足元の砂を舞い上がらせ、小石を転がせた。

息遣いで分かる。

ドラゴンは匂いを嗅いでいる。

何のか?

我々のである。

終わった…。

龍郎は目を閉じた。

せめて一瞬で焼き尽くしてくれ、死に切れないのは勘弁だ。


「ホーア?」


ん?

今コイツ疑問調じゃなかったか?

不意に龍郎の緊張感が(ほぐ)れてしまった。


「おや?

 誰かいるのかい?」


岩の向こうから老婦人の声がした。

岩陰に隠れる者達の頭に“?”が浮かぶ。

だが、その中で唯一セシルの行動は早かった。


「師匠!?」


岩陰から飛び出たセシルは声の主をそう呼んだ。

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