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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第2章 〜やっぱり帝国、次にシャウラッド、たまーーに日本〜
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第36話〜帝都の今〜

【帝国 帝都】

捕虜脱走事件から早くも数日が過ぎようとしていた。

皇帝の注意は復興には向かず、未だに傷跡が完治しない帝都。

その帝都で唯一、修復が済んだ場所がある。

帝都中心に位置するアバフェルディ練兵場だ。

この練兵場には騎士団の通常管区制で言うアピス騎士団の本部がある。

なぜ皇帝はこの練兵場の修復を急がせたのか?

無論、出陣式のためである。


『この帝都より戦線に赴く諸君ら皇軍将士の善謀勇戦は、

 宿敵の勢力を我ら帝国の天地より撃壤払拭し、

 蛮族に蹂躙されし祖国の土地を我が手中に帰すだろう。

 また、諸君ら皇軍将士は、

 その不撓不屈の闘魂を磨礪し、

 その強靭なる体躯を堅持して、決戦場裡に挺身し、

 誓って皇恩の万一に報い奉り、必ず各位の御期待に背かざるべし。

 これを以って出陣の訓示とする。』


昨日の正午に行われた式でパブロフが述べた訓示だ。

この後、全軍は皇帝の閲兵を受けながら戦地へと進軍を開始した。

現在、帝都に存在している武装勢力は近衛騎士団と治安維持局、それと皇帝親衛隊だけである。

駐留する軍がいなくなった今、自身の息が掛かった勢力を背景に、帝都では皇帝による粛清が活発化していた。


「報告します。

 アントン・ジューコフ議員及びジューコフ夫人を拘束。

 罪状は国家反逆罪。」

「ゲオルギー・ユスポフ伯爵の嫡男、ヴィクトル・ユスポフが逃走。

 まだ帝都内に潜伏していると思われます。」

「近衛騎士団帝都警固隊所属、フョードル・カヴィンスキーを拘束。

 騎士団内には他にも国家反逆罪と思しき団員がいるとの情報が寄せられている。」


治安維持局第1課、通称“黒犬”の仕事は帝都内の反体制勢力の取り締まりだ。

第2課(帝都監視、情報収集担当。私服)から反乱分子の情報がもたらされ次第、黒犬は直ぐに身柄拘束へ向かう。

身柄を拘束された者は帝都北西部にあるルヴァンカ監獄に幽閉される。

皇帝より『疑わしきは罰せよ』と言われた所為で監獄はフル稼働だ。

身柄拘束を恐れた市民は互いに話をしなくなり、屋外に出る機会も減った。


「治安維持局のお陰で反体制派は駆逐されつつありますが、同時に市民生活の活気も失われております。」


帝都の様子を尋ねられたグレイは事実を伝えた。

皇帝は顎をさすってグレイの報告に耳を傾けている。


「このまま風紀を締め過ぎると新たな思想が生まれかねないかと…。」

「…、食糧の備蓄は?」

「行商人同士で噂が広まっており、予定よりも早く集まりそうです。」

「余に確認する必要はない。

 予定数に達したら直ちに帝都を封鎖せよ。」

「畏まりました。」

「グレイよ、其方の言い分も分からんではない。

 だが、これは必要な措置なんだ。」

「失礼しました。」


グレイは執務室を後にした。


【帝都 兵部省 大臣執務室】

「ネチャーエフ将軍!!

 黒犬が来ました!!」


秘書官のジュガーノフが血相変えて執務室にやって来た。

セルゲイは彼の次の言葉を聞く前に下へ向かう。


「ここに隠れているのは分かっている。

 罪人の身柄を渡すんだ。」


黒衣を纏った男が5人。

兵部省の職員達は彼らを中に入れないように人垣を作っている。


「ここにはいない。

 お引き取り願おう。」

「中を確認させろ。」


黒犬達は職員達を掻き分けて進もうとした。


「何をしている?」


セルゲイは階段上から声を発する。


「これはこれは、ネチャーエフ大臣代行。」


セルゲイの姿を見るや職員達は脇へ避ける。


「話が早い。

 第二課から、ここに反体制思想を持つ者がいると情報が寄せられましてね。

 中を確認させていただきたい。」


先頭の黒犬が階段下まで近づく。


「そんな者はここにはいない。」

「逆らうのか?」

「帰れと言っている。」

「これは皇帝陛下の意志の下に行われている。

 我々を拒む事は陛下を拒む事に等しい。

 貴様、覚悟は…。」

「勘違いするな!!」


あまりの剣幕に黒犬は怯む。


「確かに治安維持局の設置は陛下の望みだ。

 だが、貴様らは皇帝直属ではなく軍事諮議院の隷下だ。

 貴様らの行動権限は軍事諮議院の認可で効力を得ている。

 この事を忘れるな。」

「屁理屈だ!!」


黒犬は抜刀した。

それを見た他の黒犬達も鞘に手を掛ける。


「抜くなよ。

 抜いたら終わりだ。」


セルゲイが後ろの黒犬達に警告する。


「平時における庁舎内での抜刀行為は違法だ。

 特に兵部省庁舎内での抜刀行為は重罪だ。」


後ろの黒犬達が鞘から手を離したのを確認して、目の前の黒犬に視線を戻す。


「治安維持局の度重なる過度な市民拘束は憂慮に値する。

 まして一時の感情で庁舎内での抜刀行為に及ぶなど言語道断。

 此度の法規執行は不当と判断し、軍事諮議院顧問官として命ず。

 直ちに法規執行を停止せよ。

 従わない場合は先の抜刀行為を軍事諮議院で審理する。」

「クッ…。」


黒犬達は兵部省を後にした。


「さあ、仕事に戻れ!」


職員達に促し、自分も執務室に戻ろうと階段を登るセルゲイ。


「治安維持局の活動はどうなっている?」


階段を登りながらジュガーノフに問いかける。


「身分に問わず手当たり次第です。

 元老院議員も多数が拘束されています。」

「陛下は何をお考えか…。」

「まさか庁舎にまで踏み込んで来るとは考えもしませんでしたよ。」

「今後もこんな事があっては困るな…。」


セルゲイは最後の1段に足を掛けたまま止まった。


「どうしましたか?」

「騎士団に頼んで各庁舎の警備を強化してもらうか。」


そう言うとセルゲイは方向転換して皇城へと向かった。


【皇城 近衛騎士団本部】

「団長、ネチャーエフ将軍がお越しです。」


セルゲイがグレイを訪れたのは、皇帝の執務室から戻った直後だった。


「通せ。」


数秒後、アヴィスがセルゲイを連れて来た。

アヴィスは退出する。


「掛けてくれ。」

「いや、このままで結構だ。」


セルゲイは座らずにドアの前に立っていた。


「そうか。

 それで、何ようだ?」


相手が応接用のソファに座らないのを確認すると、グレイは執務机に収まったまま話を続けた。


「ついさっき黒犬達が庁舎までやって来てな。」


セルゲイはそこで区切った。


「それは大変だったな。」


グレイも短く返す。


「各庁舎の警備を強化してもらいたい。」


グレイは見るからに嫌そうな顔をした。


「そう言う事か…。

 悪いが全ての庁舎に警備を付けるのは無理だ。

 手配できて1つの庁舎だけだ。

 …、兵部省だけで良いだろう?」

「それでは不平等だ。」

「無茶な事を言うな。

 こっちだって色々あるんだよ。

 アンタの所が黒犬達に目を付けられてるのは分かってるんだ。

 他の庁舎にも踏み込んだら全体の警備を考えるから今は不平等だとか言わないでくれ。」

「治安維持局に行動制限を設ける事は出来ないのか?」

「バカを言うな、設置を推進したのは陛下だぞ。

 そんな事が出来る訳無いだろう。」


グレイは手を額に押し当てた。


「もう良いか?」

「ああ。

 失礼した。」


セルゲイと入れ替わりで再びアヴィスが入室する。


「アリューシャ隊長がお越しです。」

「次から次へと…。

 …、通して良いぞ。」


今度の客は直ぐに現れた。


「お前は何の用だ?」


こちらは勧められてもいないのにソファに腰掛ける。


「備蓄用食料を大量に売りに来た商人がいてね。

 今日の内に準備が整うけど、どうする?」

「帝都の封鎖。

 それが陛下のお望みだ。」

「…、檻の中の羊と狼だよ。」

「この話は前にもしたが、イゾーリダ将軍が不在の今、治安維持局はどうにもならないんだ。」

「軍事諮議院は顧問官の全会一致で意思決定を行うんでしょ?

 知ってるよ。」

「じゃあどうして…?」

「だって、皆、元気ないんだもん。」

「それは陛下も承知している。

 だから今はまだ大丈夫だ。

 それに拘束された人だって少し窮屈な思いをしているだけだ。

 危害は加えられていない。」


アリューシャは下を向いたままだ。


「お前が何を思っているのかは分かっている。

 だが、お前は騎士団の団長であり、今は帝都警固隊の隊長だ。

 自覚を持つんだ。

 治安維持局の行動は俺とネチャーエフ将軍が見張っているから安心しろ。」

「本当に?」

「本当だ。

 ネチャーエフ将軍は黒犬と やりあったらしいしな。

 だから今は自分がやるべき事をするんだ。」

「…、分かった。」

「ほら、行くぞ。」


グレイはアリューシャを外まで送って行った。

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