表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第1章 〜まずは帝国、そん次サビキア、たまーに日本〜
29/73

第28話〜尋問〜

【新港基地 パンゲア問題共同対策本部 作戦司令室】

「世田谷にいる残り2人が目覚めました。

 両名とも興奮状態は確認されず、現在 メディカルチェックを受けています。」

「メディカルチェックが終わり次第、直ぐに尋問を開始する。

 ここに拘留されている奴にも映像を見せて尋問しろ。」


スタッフがヘッドセットで加賀の指示を連絡する。

加賀が席に着く前に別のスタッフがファイルを手渡す。


「公安からです。同盟各国はまだですが、国内の中国系監視対象者が動き出しています。」

「山手・中華街エリアの警戒レベルを引き上げる。思ったより早いが、今はまだ泳がせておきたいな。」

「分かりました。」


スタッフは県警に連絡するため、その場を後にする。

木戸と別れて自分のデスクルームに入った加賀は受話器を取った。

コール音が数回鳴る。


「対策本部の加賀です。辰巳さんに連絡を。」

「お待ちください。」


電話を受けた秘書が辰巳に回す。


「何かあったか?」

「中国の動きが徐々に活発化しています。山手・中華街エリアの警戒レベルを引き上げました。」

「分かった。総理には私から伝えておく。

 中国大使を恐喝するタイミングは君に任せるから適切だと思う時に連絡を頼む。ご苦労さん。」


【世田谷 国防軍中央病院 特別隔離病棟】

「老師は?他の門徒達はどうなった?」


スクトゥムの問いに医官は何も答えない。


「おい、聞いているのか?」


メディカルチェックを終えた医官はスクトゥムを無視して退室する。


「どうなってるんだ…。」


スクトゥムは自分がいる部屋ー360°真っ白の壁に覆われ、ベッドと医療モニターがあるのみで天井の四隅にはカメラが設置されているーを見渡した。

魔法を使おうとしたが何も感じない。


「なぜだ…?」


スクトゥムは自分の両手を見つめる。

その視線は入室してきた伊藤へと移った。


「私に何をした?」


防護服越しに伊藤はスクトゥムへ老師から言われたことをそのまま伝えた。


「この世界にはツチがいないんだ。」

「この、世界…?」

「ああ。我々の世界だ。」

「魔法陣を超えたのか…。」

「君の名前は?どうやって呼べば良い?」

「私はスクトゥム。グリンダ老師の門徒だ。」

「スクトゥムさん、君が正直に話してくれれば老師は無事に解放する。」

「老師がいるのか!?」


伊藤は無言で頷いた。


「他の門徒達は?」

「我々が保護しているのは君と老師を含めた4人だ。君の近くで倒れていた2人はこの近くにいる。

 砂浜にいた男は別の場所だ。」

「私が確認しよう。」

「そうしてもらえると助かる。砂浜の男は特に強情で困っているんだ。」


伊藤がタブレットでヴィークのライブ映像を流した。


「こいつはヴィーク。門徒の中では最古参で実力は折り紙つきだ。

 まぁ、魔法が使えないこの世界ではただの人間だがな…。」


伊藤は次に隣室のホプロンの映像を流す。


「この男はホプロン。私と共に門徒入りした。私やヴィーク同様、他の門徒達を束ねている。」


伊藤が2人の名前をメモする。


「助かったよ。

 …、さて、本題だ。

 スクトゥムさん、君はなぜ あの場にいた?」

「あの魔法陣を閉じるためだ。」

「なぜ閉じる必要があった?」

「帝国が侵略する国を間違えたからだ。貴方達の国は強大すぎる。今の帝国では勝ち目が無い。」

「老師が帝国の軍艦を引き戻した時、艦内にいたのは確かに2人だけだったか?」

「私はこの目で見ていないが、確かにそう聞いた。」

「誰から?」

「老師や帝国軍の者達だ。」

「あの魔法陣を扱える者は老師以外にいるか?」

「いない。」

「老師の身に万が一の事態が起きた場合、あの魔法陣はどうなる?」

「存在し続ける。術者の力が必要なのは展開する時と消滅させる時だけだ。」

「あの魔法陣が存在し続けた場合、両世界にどんな影響がある?」

「具体的には分からない。我々も経験したことが無い。ただ、何らかの影響は必ずある。」

「そうか。

 では、君達は帝国政府に所属しているのか?」

「いいや。」

「ではなぜ帝国政府の命令を聞く?」

「政府の管理下には無いが、帝国政府御用達の一門だ。皇帝の頼みには逆らい難い。」

「皇帝の頼みという事は、今回の侵略は皇帝の計画なのか?」

「発案者は分からない。だが、議会で発言し、彼らの賛同を得て軍を動かしたのは皇帝だ。

 我々は軍を目的地に届ける役目を皇帝から頼まれた。」

「皇帝の依頼は他にどんなものがある?」

「暗殺、情報収集、逢瀬の手引き、私的お出掛けの警護…、何でもだ。」

「皇帝に忠誠心はあるのか?」


回答までに少し間が空いた。


「あくまで皇室は上得意様だ。我々は生まれも育ちもバラバラで、ただ活動拠点が帝国領内というだけの事。

 全員がそうではないが、私は皇帝への忠誠心など持ち合わせていない。」

「老師はどうだ?」

「老師の生まれはカイロキシアという国だ。少なくとも帝国という概念には忠誠心は無いだろう。

 ただ、ゲルト皇帝に対しては分かりかねる。申し訳ない。」

「いや、大丈夫だ。ありがとう。」

「老師の身は大事に扱ってくれ。」

「勿論だ。まだ解放はできないが、不自由ないように手配する。」


インカムで隣室ーホプロンーのメディカルチェックが済んだと伝えられた伊藤はスクトゥムの部屋を後にした。


【新港基地 病棟】

ヴィークはタブレットに映るスクトゥムを見ていた。

スクトゥムがヴィークの名前を告げたところで、タブレットを渡した男がヴィークに声をかける。


「そうか、あんたはヴィークって名前なのか。」


ヴィークは目線だけ男へと向ける。


「私の名を知ったからと言ってどうするんだ?」

「知らないよりも話はしやすいじゃん。」

「何も喋らんぞ。」

「強情だなぁ。スクトゥム君は話してるじゃん。

 尊敬する老師だって、少しずつ君達の世界の事を話してくれてるよ。」


ヴィークは黙ってタブレットを見続けている。

動画では伊藤が質問を開始していた。


「スクトゥム!!よせ!!何も話すんじゃない!!」

「無駄だよ。こっちの音声は聞こえてない。」

「ヴィーク、なんで君は頑なに発言を拒むんだ?見ての通り、君が話さなくても誰かが話すんだ。

 愛国心ゆえか?それはそれで賢明だが、話さないとなると君に興味を抱く人がいなくなる。

 つまり、誰もここには来ない。食事も、そのチューブから供給される栄養食だ。

 君は外界と隔絶され、仲間や老師がどうなったか知る術も無く時を過ごすんだ。

 さぞ辛い事だろうなぁ。」

「何が言いたい?」

「賢くなれって事さぁ。」


老師が尋問を受けている動画は事前に見せてある。

それに加えて目の前では仲間がポロポロと喋っている。


「国を売るなんて…。」


ヴィークはタブレットを脇に置いた。

男が畳み掛ける。


「君が何も喋らないと老師の身の安全は保障できないよ。」

「 …っ!!クソっ!!」


ヴィークは拳をベッドに叩きつけた。


「それでは始めよう。きちんと答えたら外の空気くらいは吸わせてやるよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ