第24話〜執着〜
【クラッジ 〜 ルヴェン航路】
男は部屋のドアを開けた。
遮音魔法を発動しているため、何の音もしない。
部屋に入った男の目の前には少年が倒れている。
男は少年の顔の近くにしゃがんだ。
「やっと2人きりになったねェ。」
男は少年に微笑みかけ、頬を撫でる。
少年は目を覚ます気配がない。
「可愛い寝顔ォ。」
男の息づかいが荒くなる。
男は自分の顔を少年の顔に近づけていく。
両者の唇が重なり…、合う前に部屋のドアが勢いよく開け放たれる。
「遮音魔法だけじゃダメだったかァ…。ったく、僕と彼の邪魔をしないでくれェ。」
「お楽しみの途中で申し訳ないが、タツロー殿の同意は得ているのか?」
「彼が僕を受け入れない筈がないだろうゥ。」
「呆れたな。こんなバカを送り込んでくるとは…。」
「これ以上の邪魔は許さないよォ。」
「貴様の戯れ言は後でゆっくりと聞いてやる。」
「僕を捕まえられると思ってるのォ?」
「貴様は既に捕らえられている。」
男の足元で魔方陣が赤黒く光る。
「業火の檻かァ…。お兄さんもやるねェ。」
「降伏しろ。そうすれば命は助けてやる。」
「僕を捕まえたいのなら首輪と鞭も用意しなくちゃダメだよォ。」
「いい加減にしろ。」
フレアーは龍郎の元へ寄った。
何をされたのか視診する。
「大丈夫ゥ。寝ているだけだからァ。」
フレアーの顔の真横で声がした。
フレアーは確認するよりも先に距離を取る。
男は檻から出ていた。
フレアーが攻撃魔法の発動準備に入る。
「言ったでしょ、首輪と鞭が必要だってェ。」
男は一歩ずつフレアーとの距離を詰めてくる。
フレアーも同時にドアの方へと後退する。
お互い目線は交わらせたままだ。
「いつでも良いよォ、撃ってきなァ。」
フレアーが中型の火球を2発放つ。
男は2発とも反射障壁で火球を吸収した。
「ありがとさん。」
「無駄口が多い奴は周囲に気が回らなくなる。」
さっき男が入っていた檻が形を崩し襲いかかる。
「僕はバカじゃないよォ。」
業火は何かに吸い込まれるように消えた。
そして男はフレアーの後ろにいた。
開け放たれたドアの向こうでは草原の一部が燃えていた。
「アルバス系か。」
「専門は空間だよォ。」
「俺を殺さないのか?」
「殺しは嫌いだァ。」
「変な奴だ。」
「今回はその子を諦めるよォ。」
「ダメ元で聞くが、貴様は何者だ?」
「ヒ・ミ・ツゥ。」
「次に会った時は遠慮はしない。」
「楽しみにしてるゥ。そーいえば、どこから気が付いてたのォ?」
「貴様がタツロー殿に酒を出した時だ。何を入れた?」
「ただのちょっとだけ強い睡眠薬ゥ。てゆーか、その子のこと見張ってたの?」
「当たり前だ。貴様らのような賊が狙う重要人物だからな。」
「全然 分からなかった。」
男は通路の手すりに足をかけた。
「そんじゃーねェ。」
男は手すりを踏み台に跳躍した。
空中で男の足元に紫色の魔方陣が出現する。
「なるほど。」
先ほど吸収した火球のエネルギーが下向きに噴射され、男は一層高く空を舞った。
男は草原に着地したが、その姿は草の陰に隠れて確認できなかった。
「手強いな。」
フレアーは治癒魔法をかけて龍郎をベッドに寝かせた後、防御魔法を部屋に施した。
「私よりも、後は彼女に任せますね。」
フレアーは隣室のドアをノックした。
【中国 中南海】
「米帝の申し出を受け入れる。」
委員会の面々は、その男―中華人民共和国国家主席王浩然―の決定に動揺した。
「一時的とは言え、何もアメリカと手を組む必要はないのでは?」
「先の衝突で我々の立場は不利になった。アメリカに多少でも恩を売っておくのは悪くない。
そうは思わないか、李総理?」
「御意。」
以後、この席上で李紫陽は閉口した。
「あれから3年ですか…。」
軍服に身を包んだ老人が過去の記憶を思い起こす。
「長い日々だ。」
王が相槌を打つ。
「これは我が国の沽券に関わる問題だ。
我々は今なお国際社会の鎖に囚われ、米帝の犬は好機とばかりに軍拡を進めている。」
「仰る通りです。」
他の出席者は固く口を閉ざしていた。
「私の話を理解してくれるのは張上将だけだ。」
「恐れ入ります。ですが閣下、我が国だけが不利益を被るのは確かに避けないといけません。」
「案ずるな。」
張勝利はお詫びの印に無言で頭を下げた。
「日本国内にいる情報部の人員を動員する。馬上将、手配しろ。」
「畏まりました。」
「フロンティアを日本の好きにさせるな。」




