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タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第1章 〜まずは帝国、そん次サビキア、たまーに日本〜
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第21話〜Your Majesty's Intention〜

【サビキア 王都 王宮】

「ご指示通り彼らにはトエリテスに向かうように伝えました。」

「ご苦労だった。帝国側の反応は?」

「交渉は諦めて撤収準備に入っています。」

「これで奴らの影響力を大幅に削ぐ事が出来た。余らも明日の朝イチで出発しなければな。」

「2人にはいつ伝えますか?」

「我々の間での話し合いが成立した後だ。」

「それまではフレアーを護衛に付けましょう。」

「頼んだぞ。彼らの行動を制限しても構わないから何としてでも守り抜くんだ。」

「セシル導師はいかが致しましょう?」

「この件が落ち着くまでは王都から出すな。

 クロエ達には申し訳ないが手紙はもう少し後でも間に合うはずだ。」

「…、本当に彼をセシル導師に同行させるのですか?」

「彼に初めて会った時、余は確かに彼から“気”を感じた。

 このまま祖国へ返すのは罰当たりな気がしてな…。

 ミネルバ女史に是非とも彼を会わせたいんだ。」

「彼の意志はどうなるのですか?」

「今の其方は余が強制した結果か?」


リックはかつてのその場面を思い出し、首を横に振った。


【東京 都内某所】

「良いニュースと悪いニュースがあります。」


神田は電話口で辰巳の抑揚の無い声を聞いていた。


「良いニュースから聞こうか。」

「邦人2名の居場所が分かりました。」

「どこにいるんだ?」

「隣国に滞在しているそうです。」

「帝国内には いなかったのか!?」


人質が帝国内にいるとばかり思っていた神田は報告に驚いた。


「どうやら帝国から邦人2名を連れ出したようで…。」

「どうやってその情報を?」

「連れ出した国が接触を図ってきました。」

「要求は?」

「不明です。2人の受け渡し場所以外は答えられないと言ったそうです。」

「信用できるのか?」

「名前、風貌及び帝国側の証言とも一致したそうです。」

「それで、帝国側とはどんな状況だ?」

「現在 帝国との交渉は凍結中です。

 現地の情報だと帝国側交渉団は撤収準備に取り掛かっているそうです。」

「指定場所に出向くしか選択肢は無い訳か…。」


神田の口調は重々しかった。


「悪いニュースというのは帝国との関係消失か…。」

「そうです。それと、今回の件を受けて佃陸将から活動範囲拡大許可の要請が出ています。」

「指定場所はどんな場所なんだ?」

「現在 停泊中の沖合から約1日の距離の港町だそうです。」

「陸路は使わないのか?」

「はい。ですので現地住民に与える影響は少ないとの判断です。」

「出動準備は?」

「既に完了しています。総理のGOサインでいつでも出動可能です。」


電話口で辰巳から告げられたのは非常に難しい内容だった。


「くれぐれも慎重に頼む。問題は起こすなよ。」

「伝えます。」


現地時間翌早朝、“おおすみ”は人質2名の救出を目的としてブニークを出港した。


【サビキア 王都 王宮】

「おはようございます、セシル導師。」

「おはようございます。タツロー、シゲルさんは?」

「外で運動してます。」

「毎日 精が出ますなぁ。」


職業柄、朝から筋トレは必須だからねぇ…。

出来なきゃ国防は担えないっつーの。


「先に食べちゃいましょうか。」

「それはシゲルさんが可哀想ですよ。」

「そうですぞ、タツロー殿。食事は逃げないので安心してください。」

「じゃあ 後もう少しだけ待ちましょうか…。」


優しぃなぁ、オイ。

数分後、扉をノックする音が聞こえた。

という事は斎宮さんではない。

入ってきたのはフレアーだった。


「ヤコブ卿、お話がございます。」

「あぁ、分かった。…、ちょっと失礼致します。」


ヤコブは部屋から出て行った。

朝食会場には僕とセシル先生とメイドが2人。

メイドはドアの前に陣取っていてテーブルまでは距離がある。

あの件を聞くには今しか無い。


「そういえば…、セシル先生、お師匠さんへの手紙はいつ届けるんですか?」

「明日の昼には出発しようと思います。魔導協会からの頼みですからね…、遅くなる訳にはいきません。」


明日の昼!?

おい、嘘だろ…。

緊急の用件だけどよ、早ぇぇよ…。


「そう…、ですか…。」

「すいません…。」

「謝る事なんて無いですよ!!」

「優しいですね、タツローは。」


セシル先生は笑ってくれた。

お互い、それ以上何も言わなかった。

室内は少し暗い雰囲気になってしまった。

なったと思う。

その筈なのだが…。

何だ?

何だこの感じは!?

明日でセシル先生とは会えなくなるのに…。

今の笑顔を見たらそれが嘘のように…。


「遅れて申し訳ない。」


この不思議な空気を見事に消し飛ばす斎宮のアニキ。


「あれ? ヤコブさんは?」

「つい先程フレアーさんに連れられて出て行きま…。」

「イツキど…、あぁ、良かった。皆さん、朝食の前にフレアーからお話があります。」


言い終える前にヤコブが入ってきた。

フレアーがヤコブの後に続く。


「朝食前に申し訳ありませんが、急を要す話題ですので…。

セシル導師、貴女の出発は暫く延期してもらいます。」

「……!!、どういう事ですか!?」

「国王陛下の判断です。クロエ会長には既に了承を得ています。」

「手紙はどうなるですか? 緊急の案件の筈ですが…。」

「クロエ会長と協議した結果、予測されている遅れならば問題無いと結論付けられました。」

「予測されている遅れってどういう事だ?」

「お三方には明日正午にトエリテスへとご同行していただきます。」

「何故?」

「そちらに ニホン国の方がいらっしゃるからです。」

「本当か!?」

「はい。既に彼らはトエリテスへと向かっています。」

「ちょっと待ってください!! その件と私には何の関係があるんですか?」

「国王陛下はタツロー殿がセシル導師に同行する事をお望みです。」

「え!? 冗談でしょ!?」

「残念ながら本当です。」

「陛下と話をさせてください。」

「申し訳ありません、セシル導師。国王陛下はリック分析官と共に既にトエリテスへと出発されました。」


んーと、日本に帰れるのか、俺…。


【帝国 帝都 兵部省 軍議の間】

ミハイル達が昨夜の晩に出した早馬は翌日の昼前には帝都に到着し、

交渉失敗の報が皇帝を始めとした各方面の耳に入っていた。

帝国軍は直ぐ様 武官会議を招集して兵力動員計画書作成に着手した。


「幾ら何でも竜奇兵隊の夜間襲撃を食らえば奴らも ひとたまりも無いだろう!!」

「簡単に言うんじゃねぇよ。ライム、陸上専門の貴様に何が分かるんだ?」

「フライヤ、お前の気持ちは分かるが現実的に考えて私も竜奇兵隊の夜間襲撃が最も効果的だと思う。」

「セルゲイ将軍!?」

「我が艦隊は敵の前には微々たる戦力だ。」

「どうやら今回は陸軍と特戦隊が主体になりそうだな。」

「今回はお前に任せる。」


セルゲイはパブロフへ言った。

この宣言は事実上、今回の作戦立案責任者がパブロフに決定した事を意味した。

現状、武官会議で立案された作戦は軍事諮議院での評決を経て“軍事諮議院からの帷幄上奏”として皇帝へと伝えられる。


「まずは竜奇兵隊による夜間襲撃を合図に陸上兵力を作戦地域に展開させる。

 この際、リネックス達には敵の迎撃による我が軍の被害を陸海上から防いでもらいたい。」

「任せろ。」

「セルゲイ、海軍にはこの時に戦艦を1隻出してもらう。」

「承知した。」

「続いて陸上兵力の進軍に邪魔な敵障害物を上空から魔導部隊に排除してもらう。」

「という事は俺らは戦力を3つに分散させれば良いんだな?」

「そういう事だ。」

「こちらも襲撃部隊と魔導師を乗せた部隊の2つを用意した方が良いか?」

「いや、奇襲には全騎を動員する。奇襲攻撃完了後に待機地点まで戻って魔導部隊を拾ってくれ。」

「りょーかい。」

「ブニークにおける敵占領地域解放をもって本作戦を成功とする。

 この作戦を無事成功させ、二度と敵の上陸を許すな!!」


【帝都 皇城 評定の間】

「私は反対だ!! 敵を無闇に刺激してどうする?」

「そんな弱腰の姿勢だから捕虜に逃げられるんだな!!」

「斬られたいのか貴様!?」


武官会議で立案した作戦計画を巡り、軍事諮議院は予想に反して大荒れしていた。

構成員の1人である近衛騎士団長のグレイが作戦に対して激しく異を唱えたのだ。

軍事諮議院は元帥府、提督府、近衛騎士団長を構成員とし、

グレイ以外は武官会議の構成員も兼ねているため この場での評決は あくまで形式上の物だった。


「従軍の経験が皆無のお前に口を出す権限は無い!!」

「この前の水龍暗殺作戦に陛下が気乗りしていなかったのは知ってるだろう!!」

「今 敵を叩かなければ また帝国の領土が減る事になるんだぞ!!」

「なら言わせてもらうが、叩くんなら海上の敵も叩いたらどうだ。

 海上の敵を倒せないんなら必ず再び上陸されるぞ。」

「敵の上陸を許した時、あの場にいたのは帝国軍ではなかっただろう!!」

「はっきり言うがグリンダ老師の一門は帝国軍に所属する魔導師よりも優秀だぞ。」

「動員できる兵力が違うだろ。」


セルゲイとグレイの双方は全く譲らなかった。


「君たちじゃ結論は出ないようだな。それでは陛下がこの作戦をどう思うか お聞きしようじゃないか。」


パブロフがグレイに提案する。

グレイは何も答えない。


「沈黙は了解したという事で良いのかな?」

「私は最後まで抗議の意を示す。」

「決まりだな。」


【皇城 玉座の間】

「何か分かったのか?」

「グリンダ一門の宿営地を襲った魔導師達が使っていた魔法が帝国軍が訓練している物と類似していました。」

「魔導部隊が老師を襲ったと言いたいのか?」

「まだ可能性の段階ですが…。」

「由々しき事態だな。」

「これが本当なら軍部内に陛下の決定に異を唱える者がいるという事になります。」


ヴェロニカの意見にエヴァノラが私見を付け加える。


「魔導部隊を動かせるのは何人もいる訳じゃない。」

「部下に調査させていますが当面の間は軍部に対して注意を払った方が良いかと思います。」

「内乱だけはゴメンだ。」

「先手を打って拘束するのも手ですが…。」

「大きく動いて軍部を刺激するのは避けたい。」

「今後は万が一の場合も考慮して行動してください。」

「奴らが叛旗を翻したとしても城門は潜らせんよ。…それよりも、お主達は此度の作戦をどう思う?」

「既に異世界との繋がりは切れていますから外交的な見地からすると問題ないのでは?

ただ、勝算は低いでしょう。それに誰が離叛を考えているか分からない現状では動員される兵の全員が寝返る可能性も捨て切れません。」

「厳しい意見だな。」


皇帝はヴェロニカの言葉をゆっくりと消化した。

今の発言は当の軍人にしてみれば侮辱以外の何物でもなかったが、皇帝の軍への信頼度はその程度まで落ちていた。


「2人はどう思う?」

「出兵について反対する気はありませんが老師が苦戦したという事は軍の魔導師を動員しても満足に戦えないと思います。」

「セオドラはどうだ?」

「陛下の意見と周囲の状況を考えると、今回は軍の顔を立てた方が良いのでは?」

「最も恐ろしいのはこれ以上領土を奪われる事だ。それだけは許してはならない。」

「私を含めた情報部の人員が従軍します。お許ししてくだされば離叛の動きが確認され次第その場で全員を消す事も可能です。」

「身に危険が迫ったら直ぐに帰還しろ。エヴァとセオドラは引き続き一門を率いて調査を続けるんだ。」

「畏まりました。」「畏まりました。」


エヴァノラとセオドラが一礼して退出する。

ヴェロニカは既にその場にはいなかった。

同日夜、軍事諮議院が提出した作戦計画が承認され、直ぐ様 領内の各藩へと徴兵令が布告、諸藩連合の編制が開始された。

パブロフ指揮官の下、諸藩連合を中核とした帝国軍がブニークへと進軍するのはまだ少し先の話となる。

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