第19話〜夜中の語らい〜
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【サビキア 王都 王宮 貴賓室】
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真夜中になっても僕は眠れなかった。
『其方の祖国にニーナを連れて行ってくれぬか?』
コーネリウスのあの言葉が頭から離れなかった。
あの後、特に追加で何か言われた訳ではなかったが、あれが冗談かどうかは分からない。
姫を連れて行ってくれって言われても、彼女と話してすらいない現状だ。
『何だか物語みたいだな…。』
結局、その後も寝付けなかった僕はバルコニーに出た。
聞いた通り、眼下に見える街は焼け跡が目立った。
当たり前だが、夜景なんてものは期待できない。
電灯だって無いし自動車だって走ってない。
だけど、真っ暗な街をただ見てるだけでも楽しかった。
「君の世界にもこんな街はあるのかい?」
振り返るとリックがいた。
「どっから入って来ました!?」
「屋根から。」
リックは上を指差した。
「や、屋根ですか…。」
『だとしてもオメェは屋根で何やってたんだヨォ…。』
「それで、どうなの?
君の世界にはこんな街はあるの?」
「僕の国にはありませんが他の国ならあるかもしれません。」
「そうか、街を眺めていた君の姿がてっきり故郷が恋しくなったのかと思って。」
リックは僕の隣に来た。
「不思議と故郷を恋しいと思う気持ちは無いんですよね…。
この世界は僕がいた世界とは全く違う。
だから、何ていうか、楽しいんです。
初めはどうなるかと思ったけど、皆さんに親切にしていただいていますし。」
「楽しくて眠れないのかい?」
「考え事をしていたら眠れなくなっちゃって。」
「どんな考え事だい?」
「実は…。
国王からお姫様を僕の国へ連れて行ってくれと頼まれてしまって…。」
「あの方らしいな。」
「国王は本気でしょうか?」
「本気だよ。
でも、それは恐らくニーナ姫の願いじゃないかな。
君達がこの世界にやって来たことを初めて聞かされた時の彼女の顔は興奮に満ち溢れてたから。
国王はそんな娘の気持ちを汲んだんじゃないかなぁ。」
「それにしたって会って間もない僕にいきなり頼みますか?」
そう言うとリックは僕の体を舐め回すように見た。
「そこなんだよ…。
僕には分からないけど国王は君の何かを見抜いたんだろうね。」
「冗談ですよね?」
「あの方の人を見る目は本物だ。
そのお陰で自らの眠っていた才能を開花させた男が目の前にいる。」
リックは笑った。
「しがない町人の幼い息子を天才だと言ってここまで育ててくれた。
あの日が無かったら今の僕はいないんだ。
だから、この国のためなら、あの方が治めるこの国のためなら命なんて惜しくも無い。」
泣かせる話だ。
「国王は僕の何を見抜いたんでしょうかね?」
「それは今後のお楽しみだ。
決してあの方をガッカリさせるなよ。」
リックはウインクした。
「それじゃ、そろそろ戻らないと。」
「ありがとうございました。
何だか胸がスッキリしました。」
「お礼なんて良いよ。
僕も一人で見張りしてるの退屈だったから。」
あぁ、見張ってたの…。
ご苦労さんです。
じゃあねと言ってリックは普通にドアから出て行った。
さてと、僕も寝るかぁ…。
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【帝国 帝都 テンプルトン地区 パブロフ邸】
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「もう一度聞く。
あの夜何があった?」
「小官以外は水龍の餌食となりました。」
地下室には男が3人いた。
1人は椅子に座らせれており、他の2人は座っている男に尋問を行っていた。
誰から聞かれても男は同じ言葉を繰り返すだけだった。
「我々は水龍が死ぬ瞬間をこの目で見ている。
その時は確かに貴様以外の兵士も生きていた。」
パブロフは机の上に水晶を置いて男の目の前へとズラした。
水晶には水龍と戦っていた帝国兵の姿が映っている。
「小官以外は水龍の餌食となりました。」
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」
もう1人の男がバケツの水を浴びせる。
「小官以外は水龍の餌食になりました!!!
本当ですっっ!!!
小官以外は…、小官以外は…。」
尋問を受けている兵士の目は血走っていた。
「私は忙しい身でね、時間が無いんだよ。
君がそんなことばかり言うのなら手段は選ばない。」
「やめろっっ!!
何をする!?」
「君の口を割らせるだけだ。
ルーケンス。」
パブロフがもう1人の男に指示を出す。
ルーケンス・コシコフは無詠唱で男に術をかける。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
男は体を仰け反らし悲鳴を上げた。
地下室に男の悲鳴が響き渡る。
「あの夜 何があった?」
「小…、小官以外は…、水龍に……。」
男はそのまま気を失った。
「嘘はついていません。」
ルーケンスがパブロフへ言う。
「どういう事だ?
私はこの目で見ているのだぞ?」
「コイツの記憶は改竄されています。」
「誰がそんな事を?」
「本当の事を知られると不味い人物…、でしょうか?」
「サビキアか?」
「だとしたら殺すのでは?」
「ああ。
それに水龍が死んだ事は事実だ。
隠そうとするのは無駄だな。」
「だとしたら誰が?」
「………いた。」
パブロフが呟いた。
「誰ですか?」
「………………………… 陛下だ。」
「いけません 将軍!!
そのような発言、今は将軍とて無事では済みませんよ!!!」
ルーケンスは発言を撤回するように求めた。
「落ち着け、ここは安全だ。」
パブロフは少しも動じなかった。
「陛下は最後まで出兵に反対だった。
それにコイツの調査を途中で打ち切って地下牢に連れて行ったのも陛下だ。」
「地下牢へ連れて行ったのは親衛隊ですよ…。」
「アイツらに軍へ口を出す権限も行動力も無い。
命令を出したのは きっと陛下だ。」
「ですが、それでどうするんですか?」
「何が起きているのか掴む必要があるな…。」
「何から始めますか?」
「親衛隊に近づきたいが直ぐに陛下の耳に入るだろう。
だとすると…。
まずは地下牢の守衛だ。
どんな事でも良い、コイツと親衛隊の間に会話は無かったか聞いてくれ。
私はコイツの上官に話を聞く。」
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【帝国 ブニーク パンゲア前線基地】
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「お待ちしておりました。」
基地に到着した井上達を佃が出迎える。
「その節はどうも。
佃陸将こそ、わざわざ外までご足労いただいて申し訳ありません。」
「大したことじゃないですよ。
さ、中へどうぞ。」
一行が向かった先は食堂だった。
「大人数のミーティングにはここが一番適してまして…。」
佃が苦笑いする。
「我々はどこでも構いませんよ。」
井上も笑って返す。
参加者の全員が席についたのを確認して五十嵐が口を開く。
ミーティングでは帝国交渉団の構成人数や代表者の国内での地位、人質の安否等々、事前に知らされていた情報の確認と新たに入手した情報の紹介が行われた。
「他にも、帝国領内では非常事態宣言なるものが発令されており、
皇帝主導で帝都内の反乱分子の身柄拘束が相次いでいて人質の身に不測の事態が起こる可能性があります。」
「反乱分子っていうのはテロリストの類じゃないんだな?」
「はい。
それらしい証拠で名目上は国家反逆罪で連行していますが実際は独裁制下の粛清に近いです。」
「こちらの何らかの人員は帝都に潜入しているのか?」
「いえ。
今はまだブニークの市街地だけです。」
「では帝都の情報はどうやって?」
「主に行商人からです。
帝都への人員派遣も彼らに協力をお願いしています。」
「信じられるのか?」
「現物支給で彼らには謝礼を払っていますので裏切る心配はないかと。」
国防軍は現地での活動を円滑に進めるために各種“物品”を提供されていた。
まぁ、外地問題担当対策チームも同じように各種“物品”を持参してきているのだが…。
「行商人の話が本当だとしたら人質の身柄を何としてでも確保しないと…。」
「我々も人質最優先で動いていますので どうか焦らないでください。」
五十嵐が交渉チームをなだめる。
「現状は伝えた通りだ。
交渉は数時間後に開始する。
総員 今はゆっくり休んでくれ。」
佃の号令でチームの“歓迎会”はお開きとなった。




