第12話〜騎士団〜
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【帝国 帝都 皇城 騎士団本部】
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先生の授業が始まってから丸3日経った。
今は城内見学の途中で、騎士団本部に僕・先生・斎宮兄貴の3人でお邪魔しており、今日はここでランチを食べる予定だ。
一応特別な身分であるらしく、僕らは騎士団の団長達と一緒に食事をするらしい。
先生の話だと食事の時間までもう少しあるそうなので、この世界について知ったことを追加で紹介したいと思う。
この世界の一日は概ね24時間。
これには1時間程度の誤差はあるそうだが、自分は天文学者じゃないのでこの点は気にしない。
1年は400日程度らしい。
こちらはかなりのズレがあるように感じたが、どうだろうか?
このズレの理由としてはこの世界の暦が関係している。
そうなのだ。
この世界にも暦があるようだ。
どうやら今年は神賜暦300年であるらしい。
キリが良い。
詳しくは分からないが、これは大山脈頂上のちょうど中央からご来光が差す周期のようだ。
次に、言語と伝説。
この世界には様々な伝説が残っているようで、建国伝説やら秘宝伝説やら勧善懲悪の冒険物語調の胸熱な話をしてくれた。
言語もこれまた先の伝説が関係しているとかで、どの国もパンゲア語を使用している。
というか、ヌーナ地方では言語はこれしか存在していない。
後述するが、”ヒト種”の言語においてである。
次に、生態系についてだ。
信憑性は置いておくとしても、この世界にはヌーナ地方以外にも生命が存在する場所があるという説が通説らしい。
誰も行った事がないので眉唾らしいが…。
そんなもんが通説に?と思うが、我々で言うところのエイリアンのようなもんだろう。
でも、個人的にはとても興味深かった。
それに、話を聞くと、獣人・エルフ・精霊・ドラゴンetc、地球ではファンタジー上の存在も、パンゲアでは当たり前のように存在している。
また、種族によっては独自の言語系も持ち合わせているらしい。
ヒトはまだまだだなと思わされたのは、たとえ彼らの言語が分からなくても、彼らはとても高度な知能を有しているようで、ヒト種との意思疎通は問題なく行えるとのこと。
実に早く会いたい限りである。
てな感じでこの世界について紹介したけど、当然まだまだ知らないことは沢山ある。
早く多くを知りたいなぁ…。
そーいえば、勉強面はセシル先生が担当してくれているが、生活面(簡単な作法の伝授や時事、帝都の歩き方)に関しては専属執事のセバスチャンさんと侍女(要はメイド)のデュノアさんが担当してくれるらしい。(まぁ、僕らが日常レベルのパンゲア語を習得するまでセシル先生が通訳として動いているけど。)
セバスチャンさんは見た目もスキルも絵に描いたような超一級の執事で、僕らに色々なことを教えてくれようとしている良いお爺ちゃんだ。
デュノアさんは何と言うか、その、けしからんね。
見た目がね、どストライクなんですよね。
容姿は勿論のこと、おしとやかーで、若そうなのに年上(多分ね、20代)の余裕ってやつ?が滲み出てんですよねぇ。
最高。
ありがとうございます。
お父さん、お母さん、こちらの世界も悪くはなさそうですよ。
アハハハハハハ。
「タツロー、天井なんて見上げてどうしたんですか?」
妄想の世界に羽ばたいていたら先生に心配をかけてしまったようだ。
ちなみに、二日目から既に先生からの敬称は無くなっている。
教わるのはこちらだから、敬称は不要と言ったのだ。
「いえ、何でもないです。
大丈夫です。
元気でやってます。」
「そうですか。
なら良いんですけど…。」
「セシルさん、お客人、団長がお会いになりますのでどうぞこちらへ。」
団員が敬礼とともにそう告げた。
鎧でも着てんのかと思ったけど、団長室には事務服みたいなのを着た男が2人いるだけだった。
「よくぞいらしてくださいました。
どうぞお掛けください。」
僕らは勧められた通りに椅子に座る。
「フェンリル騎士団団長のグレイだ。
こちらは副官のアヴィス。」
「宜しく。」
いかにも歴戦の猛者って感じの筋骨隆々のおっさんが自分と隣の細面の銀髪ロン毛兄ちゃんの紹介をする。
「こちらはタツローさんと、シゲルさんです。
タツローさんは学徒、シゲルさんは武官です。」
先生が僕らの紹介を済ませる。
双方の紹介を終えたところで食事が運ばれてきた。
初めに僕らのことを少しだけ説明(そんなに興味はないみたいだった。)した後、食事中は騎士団の話がほとんどだった。
ちなみに、食事はカレーだ。
主食はパン。
まぁ、悪くない。
「騎士団の通常任務は帝都及び皇城内外の警備を中心となって担うことだ。
と言っても、皇族の周辺や何らかの式典の際の警備の中心を担うのは親衛隊だがな。」
「なんだか複雑ですね。
騎士団と親衛隊の管轄は…。」
先生の通訳を介して警備構造を聞いた兄貴が溜息を吐いた。
「そう難しくもない。
我々は遠くからの警備、親衛隊は近くでの警備といったところだな。」
グレイが端的に言った。
「管轄区の話をすると、帝国には4つの公設騎士団があって、各騎士団によって管轄区域が違う。
我々フェンリル騎士団は皇族の周辺を除いた皇城内の警備を担当する。」
「じゃあ皇族は先程仰っていた親衛隊が?」
兄貴が尋ねる。
「基本的にはその通りだ。
しかし、皇族や貴族となると騎士団に相当するものを私的に組織している者もいる。
その場合、主人の護衛は彼ら私設騎士団なりが管轄することとなる。
まぁ、皇帝陛下ご自身や帝国の公式な式典などでは親衛隊が常に護衛するがな。」
「皇帝陛下は親衛隊が常に護衛を致しますが、皇女殿下には薔薇騎士団が付いておられますので通常の警備は彼らが行います。
皇后陛下は私設騎士団をお持ちではございませんので親衛隊が警備を担当致します。」
アヴィスがグレイの説明を補足した。
「どの騎士団がどこを担当しているんですか?」
兄貴が聞いた。
僕はこの手の話にはあまり興味がないから、兄貴に任せようと思う。
カレーを頬張っているグレイに代わってアヴィスが説明する。
「アピス騎士団が帝都を、タラゼド騎士団が城外を、レグルス騎士団は例外として帝国内全土となっております。」
「帝国内全土?
そりゃまた随分広範囲ですね。」
「基本はルーテルと帝都に駐在しておりますが、私設騎士団を持たない皇族や貴族の方々が帝都を出る際や、皇帝陛下が指定した場所で警備を行います。」
「ルーテル?」
「帝国・サビキア国境であるウッドランド山脈の麓の町だ。
場所柄、出入国者が多くてな。
必然的に警備を強化しなければならんので平時は分駐させている。」
カレーを飲み込んだグレイが再び答えた。
「今は皇帝陛下の命令でブニークの警備に出ているので帝都にレグルス騎士団はおりません。」
アヴィスが捕捉する。
「なるほど。」
他にも、それぞれの騎士団の歴史や団長についての話を聞いて食事会はお開きとなった。
ちなみに、団員の中ではアピス→タラゼド→フェンリル騎士団の順で出世らしい。
レグルス騎士団はまた特殊な立ち位置なんだとか…。
騎士団は確かに悪者と戦うのだが、軍隊ではないため、どちらかというと警察組織に近い。
そんな中、レグルス騎士団は任務内容、任地の点で他の騎士団よりも交戦確率が圧倒的に高く、内部は軍隊とほぼ変わらないらしい。
なので、好戦派には好評なのだが他の団員には…。
といった感じらしい。
講義室(便宜上そう呼んでいる。)へと戻った僕らはセバスチャンからお茶をいただいた後、これから午後の授業を受ける予定だったが、そこへ火急の報せが届くこととなる。




