表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タダで読むのが丁度良い物語  作者: 聖域の守護者
第1章 〜まずは帝国、そん次サビキア、たまーに日本〜
12/73

第11話〜王都襲撃〜

ーー

【ウッドランド山脈 帝莎国境 白堊宮 飛天の間】

ーー


トップ交渉で条約締結にこぎ着けてから数時間、白堊宮は飛天の間にて行われた晩餐会に両国全権の姿はあった。

アルドは、先程からあまり食事が進んでいないカテリーナを怪訝に思った。


「殿下、お体の具合でも…?」

「いや、大丈夫だ。」


カテリーナは短くそう告げた。


「なら宜しいのですが…。

 体調が優れない時は仰ってください。

 腕利きの医者を連れてきています。」


王子は再び食事に戻った。


嘘だ。

大丈夫な訳がない。

早馬の情報通りだと今まさにサビキアでは国家存亡の危機が起きているのだ。

それを我々は知っていて目の前の被害者達は知らない。

これでは晩餐会どころではない。

周りを確認すると帝国側の参列者は皆どこか沈んでる風にも見える。

自分がそういう目線で見ているからだろうか…。

我々の対応は施政者としては申し分無い。

だけど人としては…?

カテリーナの中に葛藤が生まれた。

目の前の皿が完食を待たず変わっていく。

晩餐会はあっという間に終了した。

双方の交渉団が飛天の間を後にし、廊下の左右へ分かれる。

アルド王子達が上階へ消えるのをカテリーナは見届けた。

廊下にはカテリーナと騎士団だけが残っている。


「これが政治です。」


フィアンツが声を掛けた。


「選択肢は他に無かったのか…?」


カテリーナの声が震える。


「残念ながら、私には分かりかねます…。」


カテリーナは両の拳を力強く握った。


「殿下、出発は朝一番です。

 どうか今は少しでも体をお休めください。」


振り返ったカテリーナの瞳は赤かった。


「そうだな。

 陛下に事の詳細を確かめねば。」


だが、寝室へ向かおうとしたカテリーナを聞き覚えのある声が遮った。


「明日まで待つんじゃなくてぇ、今聞きたくなぁい?」


どこから入ったのか、声の主はそこにいた。


「ったく…。

 警備はどうなっているんだ…。」


フィアンツが頭を抱える。


「私の部屋で良いか?」


フィアンツとは違い、この程度の警備を破れないでは彼女が職務を全うすることは不可能だろうと思いつつ、カテリーナはヴェロニカを自室へ誘導した。


「上手くいったのか?」


勧められた席にヴェロニカがつくと、カテリーナは早速質問を開始した。


「"いった"じゃなくて"今の所いってる"が正しいかなぁ。」


2人しかいない室内にカテリーナの動揺が広がる。


「まだ続いているのか!?」

「えぇ。

 当初の予定通り、先ずは竜騎兵隊が王都に無差別攻撃を行って街を混乱状態にした。

 王宮には障壁が展開されてて竜騎兵隊の攻撃は届かなかったけど、陽動の目的は十分果たしたわ。

 続いて、傭兵部隊が王都へ展開して略奪・放火等々あらゆる破壊活動を実施。

 勿論、軍や治安部隊と衝突しながらだけどね。

 サビキア軍の半数以上が治安回復に向かったのを確認してから、我が方の本隊が王宮へ進攻中。

 残念ながら守りが堅くてまだ門にすら到達してないみたいだけど…。」

「今すぐ部隊を呼び戻せ!!!!!!

 陛下は耄碌したか!?

 条約交渉は成功したんだぞ!!」


カテリーナは両手を机に叩きつけた。


「品が無いわよぉ。」


ヴェロニカが嗜める。


「良い?

 よく聞いて。

 陛下は耄碌なんてしていない。

 それに、今回の襲撃の対象はサビキアの王族じゃなくて"水龍"だけよぉ。」


手元の紅茶を飲みながらヴェロニカはそう伝えた。


「標的どうのではなく、こちらが向こうを攻撃したという事実が問題なんだ!!」


カテリーナが語気を強めヴェロニカの顔を覗きこむ。


「大丈夫、決して身元は判明しないわぁ。」


上目遣いでカテリーナの顔を見る。


「どうして言い切れるんだ?」

「王宮付近に展開している部隊に身元を示すものは何も身に付けさせてないし、敵味方双方に気付かれないように私の部下が彼らの一挙手一投足を見張ってる。」


説明を聞いてもカテリーナはまだ分からなかった。


「つまり?」


ヴェロニカが溜め息をつく。


「万が一敵に捕まっても直ぐに"消せる"ってこと。」

「そんなことができるのか?」

「じゃなきゃ私の下では働けないわ。」

「なぜ捕まる可能性のある奴らに攻撃をさせて“捕まった後”にお前らが片付けるんだ?

 なぜ初めからお前達が主力として動かない?

 私にはまるで効率が悪いように思えるのだが。」

「この作戦の主導権は陛下じゃなくて軍が握っているからよぉ。

 今回、陛下はあくまで軍の意見を聞いて許可を出しただけ。」

「お前らがいることは軍も知らないのか?」

「えぇ。

 知らないし、彼らに我々の“存在”を知らせる必要なんてないわ。」

「それで上手くいくのか?」


もはやカテリーナは呆れていた。


「問題ないわ。

 “今”、現地で水龍との戦闘が始まった。」

「どうして分かるんだ!?」


カテリーナが口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。


「悪いけど、ヒ・ミ・ツ。」

「戦うのは良いが勝てるのか?

 いくら陸上でも相手は水龍だぞ。」

「そこは軍の腕の見せ所でしょ。

 ウチは水龍との戦いには関与しない。

 我々の任務は敵の情報を得、こちらの情報が漏れるのを防ぐだけ。」

「ふっ、まぁ良い。

 それで戦況は?」

「王宮内の中庭で交戦中。

 敵の多数は王族を警護していて戦っているのは水龍と数人程度、対してこちらは20〜30の選りすぐりと宮殿内に潜むウチの人員。

 やはり水龍は強いわね、選りすぐりが次々と死んでくわ。

 だけど帝国軍の魔導部隊を先に始末しなかったのは間違いね。

 尤も、帝国軍も邪魔されないための布陣で挑んでいるのだろうけど。

 いずれにせよ術式が完成したからもう決着はつくわ。」


現地の状況を知るにはヴェロニカからの報告を聞く他なく、カテリーナはそれの真偽すら定かではなかった。


「作戦は成功よ。

 水龍は死んだ。」


カテリーナを見つめながらヴェロニカが言う。


「確かだな?」

「間違いないわ。」

「なら部隊を安全に脱出させてやれ。」


カテリーナはやれやれと言いながら額を押さえた。


「残念だけどそれはできないわ。」


カテリーナはまたもヴェロニカに驚いた顔を向ける。


「陛下はなんと?」

「証拠は抹消しろと。」

「殺すのか…。」


いいえとヴェロニカは首を横に振った。


「“消す”のよ。

 そりゃ少しは驚くと思うけど、魔導部隊が逐一交信していたから彼らだって作戦状況は把握している。

 作戦は成功に終わったから部隊が消えても正直そこまで問題はないわ。

 それにこれ以上の深入りは陛下の機嫌を損ねるだけだってことは連中だって承知しているから大きな問題にはならないし、記憶修正を施した一人を証人として軍へ返す予定だから信憑性は高まる。」

「陛下の力に直接あやかれるからできることか…。」


カテリーナは彼女達に恐ろしさと頼もしさとをヒシヒシと感じていた。


「他に聞きたいことはある?」


ヴェロニカが小首を傾げる。


「いや、もう良い。

 退がれ。」


ヴェロニカが去った後、自室のバルコニーにて心地よい涼しさの風を感じつつ闇夜にそびえ立つウッドランドの山々を見つめるカテリーナがいた。

彼女が何を思ったのか、それを知るのは彼女だけである。


翌日、ヌーナ地方には1. 異世界による帝国侵略、2. サビキア王都・王宮襲撃、3. 帝莎条約調印という超超一大事の報せが駆け巡った。

これに対する各国の対応は様々であった。

サビキアは隣接する3国のうち、帝国・モーモリシア国境を閉鎖、同国境付近に防衛用の軍を配備。(帝国国境へは条約の上限である1個大隊規模。)

帝国は占領地奪還のための軍を組織、領内の藩に兵の動員を要求。

モーモリシアからは何の動きも見られていない。

帝国・サビキア両国の関心の的だったイェンシダスは帝国の対外的混乱に乗じて対カイロキシアの戦力構築を進める政策へと舵を切った。

これに呼応してイェンシダスの隣国エリナスは湲惠同盟(イェンシダス・エリナス同盟)を結成、宣戦布告はしていないが、国境封鎖を始めとして実質的にカイロキシアとの戦争状態に突入した。

エリナス・モーモリシアと国境を接するシャウラッドはどの国にも与さない不介入方針を明言し、自国の国境警備を強化するにとどまった。

各国の反応で一番カテリーナの興味を引いたのはやはりサビキアだ。

自身の予想に反して今回の襲撃に関してあまり騒ぎ立てなかったのである。

サビキアとしてもここで事を荒立てて諸国から攻撃されるのは堪ったものじゃなかったのだろう。

条約により、結果として帝国はサビキアに悩まされず侵略者の相手をすることができる。

一時は侵略者と周辺諸国とを同時に相手にする事態も想定できた帝国であったが、それをひっくり返せたのは、今回の作戦を立案した軍の功績であろうか、はたまた証拠抹消を命じた皇帝陛下とそれを忠実にこなしたヴェロニカ達であろうか、あるいは条約調印にこぎつけた自分達であろうか…?

答えはまだ自分には分からない。

そう結論付け、カテリーナは急ぎ帝都へと戻るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ