第9話〜国防軍 パンゲア上陸戦〜
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【日本 横浜 赤レンガ倉庫跡】
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時刻は朝4時。
ほんの数週間前に激戦の舞台となったその場所には現在、国防軍の戦力が集結していた。
国防軍は既に作戦行動に移っており、周辺は陸海空全て封鎖されている。
報道規制もされているため各種メディアの姿も見受けられない。
国防軍の船が魔法陣へと消えていく。
『待ち受けているのはまだ見ぬ新天地か。』
『2度と帰れないかもしれない。』
『更に別の世界に繋がっていたらどうしよう?』
様々な期待や不安を抱え、巨大な船は魔法陣の向こうへと姿を消した。
静かに、しかし確実に、部隊は横浜の海からパンゲアの海へと進んで行った。
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【日本 市ヶ谷 防衛省地下 中央指揮所】
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「”むらさめ”が作戦地域に展開。」
オペレーターが作戦状況を告げる。
「通信は?」
士官が別のオペレーターに尋ねる。
「戻りました。」
魔法陣突入時に起きた通信障害も回復され、現地の映像が届いた。
どうやら無事に向こう側へ辿り着いたようだ。
一旦、指揮所は安堵の空気で包まれる。
「よし。
だが、ここからだ…。」
大臣席で作戦を見守っている辰巳が呟く。
彼も室内と同様に、魔法陣の通過の報には安堵していた。
「敵の待ち伏せは確認できず。」
報告通り、周囲に敵船は確認されない。
「”おおすみ”に作戦継続許可を。」
「CCPから”おおすみ”。
作戦の継続を許可する。
繰り返す。
作戦の継続を許可する。
慎重にコンタクト・ポイントへ侵入せよ。」
「こちら”おおすみ”。
これより本艦はコンタクト・ポイントへ侵入する。」
モニターの別の映像には、”おおすみ”が魔法陣へと進入するところが映し出されていた。
段々と通信にノイズが入る。
魔法陣を通過するのは100%成功するなんて保証はない。
毎回毎回祈るばかりだ。
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【帝国 ブニーク沖 魔法陣展開地点】
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辺りは暗い。
海上には既に戦闘準備が完了している船1隻と、今まさに陣を通過したばかりの船が1隻だけだった。
「”おおすみ”からCCP。
コンタクト・ポイントを通過。
繰り返す。
コンタクト・ポイントを通過。」
「”おおすみ”との通信が回復しました。」
両艦とも無事の報が届き、室内の張り詰めた空気が少しだけ緩む。
「艦体の損害は確認されず。
これより”むらさめ”へと合流する。」
「”むらさめ”からCCP。
”おおすみ”の合流を確認。
直ちに上陸準備を開始する。」
上陸支援開始の合図だ。
指揮所と”むらさめ”艦内の緊張がピークに達する。
「発射よーい!!
………、ってぇぇい!!!」
戦いのゴングが鳴り響いた。
”むらさめ”の主砲が火を吹く。
放たれた弾頭が弧を描いて目標地点へと飛んで行く。
もう後戻りはできない。
腹に響く大きな音とともに国防軍の第一撃が到着する。
「”むらさめ”からCCP。
弾着を確認。」
事前に飛ばしていた高高度ドローンからの映像も指揮所には届いている。
着弾地点の大地が抉りとられているのが分かる。
「敵防御装置は確認されず。
上陸部隊を出撃させる。」
GOサインとともに”おおすみ”からAAV7が吐き出されていく。
”むらさめ”からはなおも艦砲からの支援射撃が続く…。
ここに、日本対帝国の第2ラウンドが始まった。
「”むらさめ”からCCP。
敵影を確認。
繰り返す。
敵影を確認。
接敵!
接敵!」
挨拶代わりの一撃で敵の抵抗が始まった。
「”むらさめ”から”おおすみ”。
敵防御装置を確認。
繰り返す。
敵防御装置を確認。
これより威力偵察を開始する。」
敵の防御装置=シールドが確認された。
敵も一筋縄ではいかないようだ。
「”おおすみ”から”むらさめ”。
了解した。
これよりドローンによる威力偵察を開始する。」
”おおすみ”の甲板に準備されていた複数のドローンが飛び立つ。
「やはりミサイルと一体型の誘導装置は機能しません。」
ドローン制御を担う”おおすみ”CICでモニタリングをしていた技術士官が艦長へ報告する。
地球とは違い、相手はローテク世界なのだ。
機械やハイテク機器とは違って電磁波も熱も放射していない。
科学技術力で圧倒的な差を誇っていても、意外と使用環境に左右されてしまいローテク世界では使えなかったりする。
「使用兵装を機関砲に変更。
直ぐに誘導ドローンを飛ばしてくれ。」
”おおすみ”の甲板から更にもう1機が飛び立つ。
既に対空しているドローンからは機関砲が放たれた。
「機関砲、敵防御装置に全弾防がれました。」
「誘導ドローンによる誘導を開始。
敵を捕捉。」
機関砲を浴びせている間に現場へ誘導装置を搭載したドローンが到着する。
「ミサイルならどうだ…。」
誘導を受けたミサイルが敵に向かって行く。
「全弾命中。
効果は認められますが、影響は軽微。」
偵察ドローンから送られてきた映像を確認する限り、数名が膝を突いているようだが、致命傷は与えられていない。
「単にパワーで押せば突破できるのか…?」
艦長はミサイル攻撃の影響を推測する。
「”おおすみ”から”むらさめ”。
上陸支援の再開を要請。
本艦は貴艦の射線を避け、敵勢力への制圧射撃を行う。」
「”むらさめ”から”おおすみ”。
了解した。
上陸支援を再開する。」
”むらさめ”からは直ぐに艦砲射撃が再開された。
「ドローンでひたすら撃ち続けろ。
倒せなくても良いから奴らを防戦にさせろ。」
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【帝国 ブニーク 結界防衛用陣地】
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あまりにも突然のことだった…。
「負傷者はすぐに退げるんだ!」
ヴィークが門徒達へ指示を飛ばす。
「海から敵複数接近!!」
「応戦しろ!!」
門徒達は各々壁を作りながら国防軍の上陸部隊へ向けて魔法を打ち込んでいく。
しかし、車体に与えるダメージは少ない。
「当たっているのにどうして効かない!?」
「上だ!!
また来るぞぉぉぉ!!」
「量が多すぎる…!!!!」
抵抗虚しく、彼らは海上と空からの攻撃によって消し去られた。
「クソっ!!!
アイツら…!!」
「待てっ!!
お前達じゃ無理だ!」
ヴィークは飛び出そうとした同志を強引に引き戻した。
「ホプロン、スクトゥム、何人か連れてってお前達は結界と老師を死守しろ!」
「敵は!?」
「俺が仕留める。」
同志2人は門下達とともに結界へと向かった。
空から降る砲弾を爆砕し砂浜の門徒達を援護しながらヴィークは砂浜へと向かった。
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「全弾破壊されました。」
「こんなもんかと思ったら、いるじゃねぇか、ヤバい奴。」
「艦長、どうしますか?」
「パワーで押せば勝てるな…。」
艦長は数秒で考えを纏める。
「参謀本部に“あれ”の使用許可を取れ。」
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【帝国 ブニーク 砂浜】
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前線に辿り着いた時、上陸部隊は目と鼻の先だった。
「お前達は空からの飛翔体を最優先で破壊しろ、後は好きにやれ。」
それだけ言うと、ヴィークは両手に火球を出現させた。
上陸部隊の銃撃は全て火壁が防ぐ。
両手の火球はドンドン大きくなっていく。
一時砲撃が止んだため、門徒達も上陸部隊を攻撃する。
だが、彼らの威力では車体を凹ませただけで終わった。
上陸部隊の第一陣が浜に到達した。
直後、ヴィークを守っていた火壁が消える。
「塵となれ。」
右手の火球が蛇のごとく上陸部隊を襲う。
「炎蛇」
炎は車体の横っ腹を貫通しながら次々と上陸部隊を襲っていく。
慌てて外へ展開する部隊であったが、頭上から降る炎の槍が突き刺さる。
隊員とて黙ってやられるわけにはいかない。
しかし、応戦するも銃撃はまた火の壁に阻まれる。
「後ろにも気を付けろ。」
炎蛇が隊員達を食らうように覆う。
残った隊員は海へと退避する。
彼らを追撃しようとした門徒達だったが、再び海上からの砲撃が始まったためそちらの迎撃を余儀なくされる。
迎撃に回ろうとしたヴィークを隊員達は狙い撃つ。
彼らにしてみれば咄嗟の判断だろうが、隊員達のこの判断は吉と出る。
「無駄だと言っているだろうが!!!」
三度銃撃を防ぎつつ、残りの隊員達にトドメをささんと完全に意識を飛翔体から逸らしたのが間違いだった。
「なんだこれ!?」
「間に合わないっ!!」
門徒達の声を捉えた瞬間、ほぼ反射的にヴィークは自分の身を守った。
だが、爆風で火の壁は掻き消されてしまった。
何が起きたか分からぬまま体が衝撃を受ける。
そのまま彼は飛ばされ気を失った。
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「上陸地点クリア」
成功の報を聞くと、室内には歓声が上がった。
「”おおすみ”からCCP。
迅速な判断をしていただき感謝致します。」
「総理はなるべくリスクになるような選択肢は取りたくないそうだ。
あらゆる行動において、くれぐれも後は上手くやってくれ。」
現場管理者として辰巳が答える。
実際、少しばかり渋っていた総理の尻を蹴り上げたのは辰巳だ。
「承知致しました。
それでは引き続き作戦を継続します。」
国防軍が用いたのは戦前まで国際的に使用が禁止されていた(と言っても米国・ロシア・中国を始めとした多数の国々は条約に批准さえしていないが…。)クラスター爆弾の一種だ。
簡単に言うと親爆弾の中に子爆弾が入っており、親が爆発すると子がばら撒かれる仕組みの爆弾である。
その性質(不発弾となった子爆弾の問題など)から戦前は使用が禁止となっていたが、群発紛争において自粛していた非批准国が使用したことでルールは遂に形骸化してしまった。
日本も条約批准後、完全廃棄でかつ取得しないのではなく、米国と同じように代替品と順次交換していくにとどめていた。
門徒達は確かに“外殻”だけは破壊した。
しかし内部の子爆弾は破壊しきれなかった。
今回のケースは運に恵まれた部分が大きいが、国防軍内ではクラスター爆弾の有用性が証明されることとなった。
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【帝国 ブニーク 制御結界】
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「老師、防衛陣地が占拠されました…。」
「ヴィークはどうした?
あやつは簡単にやられるような男じゃない。」
「生死は不明です。
ただ、海岸線と防衛陣地は占拠され、こちらにも敵が接近中です。」
「なんと…。」
残ったのはここにいる10人にも満たない門徒達だけ。
グリンダの決断は早かった。
「お主らに結界は任せるとしようぞ…。」
グリンダは杖をとる。
「お待ちください老師!
いくら老師でも危険すぎます!!
それに今は一刻も早く陣を閉じなければなりません!!」
ホプロンがグリンダの行く手を塞ぐ。
「儂にヴィークを見殺しにしろと?
それは出来ん相談じゃ。」
「ですが老師…。」
「なぁに、儂は死なん。
ちょいと可愛い弟子を連れ帰ってくるだけじゃ。」
恩師の恩師に歯向かえる訳がなかった。
ホプロンは今となっては自らの師でもあるこの魔導師へ道を譲った。
後ろの門徒達も姿勢を正す。
「老師がお戻りになられるまで、ここは我々が死守します。」
グリンダは微笑んだ。
「うむ。
任せた。」
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【帝国 ブニーク 国防軍橋頭堡】
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「隊長、識別不明の老人です。」
「総員戦闘準備。
気を抜くな。」
隊長は事前に研修を受けたパンゲア語で老人に呼びかける。
「ここは軍の場所だ。
早く帰れ。」
簡単な言葉だが間違った意味ではないので通じているはず、彼はそう思った。
「先ほどは弟子達が大変失礼をした。
彼らの師として、ちと挨拶をしに参った。」
グリンダはそう言って杖を振り上げた。
「敵だ!!
撃て!!」
四方から浴びせられる銃弾をグリンダは杖を一払いしただけで弾いた。
銃弾を弾いた風はそのまま隊員達に襲いかかる。
風に当たった隊員の体は切りつけられたかのようになり、隊員はたちまち絶命した。
「車内に避難しろ!」
「無駄じゃよ。」
グリンダは車体ごと彼らを吹き飛ばした。
「もう一発クラスターを要請するんだ!!!!」
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「陸上部隊からクラスター爆弾使用の要請を受領。」
躊躇する余地はない。
「もう一方の敵集団にもお見舞いしてやれ。」
命令は下った。
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【帝国 ブニーク 国防軍橋頭堡】
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「来たぞ!!
伏せろぉぉぉ!!」
隊員達は一斉に身を隠した。
グリンダは飛翔体の外殻をそつなく破壊する。
そして中から子爆弾がばら撒かれる。
隊員達は勝利を確信した。
しかし…。
「こんな小細工で儂は殺せぬぞ。」
グリンダは子爆弾を風で吹き飛ばす。
子爆弾は敵のいない空中で爆発した。
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「防がれました。」
「上手いこといかねぇな。」
艦長は拳を机に叩きつけた。
「敵集団Bへトマホークを撃ち続けろ。
強度を確かめたい。」
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【帝国 ブニーク 制御結界】
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「また来ます!」
「次から次へ何発も…。」
「スクトゥム!!」
「はいよ!!」
先程から彼らは障壁を展開し続けており疲労を滲ませる者も数名出てきた。
「このままだと俺らも危ない…。」
「分かってるがどうにもならないぞ。」
そうこうしているうちに障壁を展開していたうちの一人が倒れた。
「イカン!!」
爆風が障壁の穴から内部へと伝わる。
巻き込まれた別の一人が戦闘不能に陥った。
「障壁の範囲を小さくする。
各自そのまま後ろに下がれ。」
スクトゥムが指示を出す。
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「シールド作用範囲が小規模化。」
「敵Aが集団B方面へ移動開始。」
戦況が国防軍に傾いたのを確信した艦長は大博打に出る。
「戦術核を使用する。
陸上部隊に退避命令を出せ。」
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【帝国 ブニーク 国防軍橋頭堡】
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「目標追撃中止!!
総員、即時退避!!」
”おおすみ”から報告を受けた上陸部隊の隊長は直ぐに退避行動に移った。
「乗れるだけ乗れ!!
できるだけ離れるぞ!!」
隊員達は陸揚げした機動車などに分乗する。
「大胆なことしやがる…!!」
「おい、コイツどうするんだ?」
上陸部隊は先程の戦闘で気絶したヴィークを発見していた。
「捕虜でもなんでも乗せろ!!」
「全員乗ったか?
出すぞ!」
戦術核使用を伝えられた前線部隊は速やかに撤収を開始した。
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【帝国 ブニーク 制御結界】
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「よし、攻撃が止んだ!
体制を立て直せ!」
制御結界を守れる者は既に4人だけであった…。
だが彼らもそう長くは耐えられそうになかった。
そんな彼らにとってこのタイミングでの師の帰還は願ってもないことだった。
「待たせたのぉ。」
「老師!
ご無事ですか!?」
「儂は心配ない。
あやつら逃げて行きおったわい。
それよりもお主らの方が深刻じゃのう…。」
グリンダは寝かされている門徒達を一瞥した。
「エヴァ達が戻るまでは儂も自信が無い…。」
「こうなったら陣だけでも直ぐに閉じましょう。」
スクトゥムはあくまで目的を遂行だけを考えた。
「確かに我々がとれる選択肢はそれしかないな…。
陣を閉めるぞ。
お前たち、詠唱の間だけ障壁を展開してくれ。」
「畏まりました。」
ホプロン達が再度障壁を展開する。
グリンダは魔方陣を閉鎖するための詠唱準備に入った。
「敵の攻撃が再開されました!」
「あと少しの辛抱だ!!
絶対に死守しろ!!」
トマホークが数発着弾する。
第一陣は障壁によって防がれた。
グリンダは既に詠唱を開始している。
「このまま耐えろぉぉ!!」
あと少しで詠唱は完了し、彼らの優位は確保されただろう…。
しかし、彼らに第二陣を防ぎきることはできなかった。
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【帝国 ブニーク沖 おおすみCIC】
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「状況報告」
「引き続きシールドと思しきエネルギーが確認されていましたが爆発直後に消滅。
爆心地の確認を行わないと正確には分かりませんが、敵勢力は無力化されたものと思われます。」
「汚染範囲は?」
「爆心地から半径4kmです。」
報告を聞き終えた艦長はモニター越しに中央指揮所の面々へと状況を報告した。
「現在偵察機を現場に送っています。
敵勢力無力化を確認次第、当初より内陸部になりますが作戦通り全線基地の設営を開始します。」
「偵察機の映像はまだか?
成功したかどうか早く知りたい。」
中央指揮所にて作戦を見守っていた辰巳が言った。
「偵察機の映像出ます。」
そこに映し出されていたのはなんとも奇妙な光景だった。
無力化された敵勢力3人が横たわっている結界のような部分だけは何事もなかったかのように元のままで、周囲はいかにも爆心地という具合に大地が抉られていた。
「どうなってる?
どうして消滅せずに残ってるんだ…。」
映像を見た一同は目を丸くしていた。
現地から中央指揮所へ補足説明が入る。
「恐らく敵が用いていたシールドか何かの影響かと…。」
補足を受けつつ自分なりに納得したのだろうか、辰巳の指示は早かった。
「すぐにあの3人を確保してくれ。」
「了解。」
その後、爆心地に到着した偵察隊が調べたところ、3人とも息はあり命に別条はなかった。
ただ、彼らは放射能に汚染されている可能性が非常に高く、日本に運ばれた後も隔離されることになる。
上陸部隊との戦闘で捕虜となったヴィークは横浜の前線基地内で検査・監視されることとなった。
予定外に激しい戦闘を行う羽目になった国防軍だったが、大幅なズレが出ずに橋頭堡設営を開始した。
前線基地が完成するまでの現地本部として“いずも”も無事にパンゲア入りし、第一次パンゲア派遣隊が全て揃う。
今はまだ国防軍も予測の範疇だが、地球で一般に超能力や魔法と言われるモノに現代兵器が勝利した。
もっとも、勝利に貢献したのは戦術核といった旧自衛隊では取得すらできなかった代物であるが…。
群発戦争の前から米国を中心に議論され始めた日本の核武装論。
日本政府は当初、核武装などあり得ない。と言って相手にしなかったが、容認派の合衆国大統領就任を機に核武装論が現実味を帯びてくる。
そんな中、アジアに関係する国々の緊張がピークに達していたことで日本国内における米軍基地反対運動が活発化、アメリカ国内でも日米安保に疑問を呈する声が大きく聞こえていたこともあり、在日米軍基地の返還、米軍の撤退が決まっていく。
この時点で国内では官民双方で核武装に関する議論が巻き起こるほどこの話は現実味を帯びていた。
歴史の巡り合わせとは分からないもので、そこにアジア地域紛争が勃発する。
悪いことは続くもので、北朝鮮から日本を標的とした核ミサイルが発射された。
幸いにして、自衛隊が迎撃。
だが、この経験が日本国民の意識を大きく変えることとなった。
世論の多くは最低限度の核武装(戦争そのものを左右する戦略規模ではなく、個々の戦闘に勝利するための戦術核)なら認めるという意見に変わったのだった。
他にも、現に日本が戦争に巻き込まれているのにもかかわらず、9条を声高に叫ぶ平和主義者達がいたため、憲法改正の動きも加速した。
結果として憲法は改正され、自衛隊も国防軍へ名称を改めた。
“戦前・戦後”の戦の字もこの群発紛争を指すようになり、第二次世界大戦は単に第二次大戦と呼称されるようになった。
群発紛争の前後で実に多くのことが変わった。
それが良いことなのか悪いことなのか、それはまだ分からない。
かくして、パンゲア上陸戦は日本の勝利で幕を閉じた。
この出来事は帝国のみならずヌーナ地方全土に広まった。
無論、他者の例に漏れず龍郎達にも。
地球側が受けたのと同じように、未知との遭遇はヌーナ地方各国に衝撃をもたらすことになる。
だが、帝国だけは他国と受けた衝撃の程度が違った。
彼らは数時間で魔方陣とそれを操る者を失ったのだ。
この損害は帝国にとって計り知れないものとなる。
誰が予期できただろうか…。
ここからヌーナ地方は、まさに激動の道を歩み始めていく。




