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「トシさん、こちらへ」


 朝になっちゃんとデイジー、グローリアを孤児院まで送り、午前中は店の仕事をして午後になって冒険者ギルドの応接室を借り、レナートさん同席の元でアリーナへの質問をした。

そして俺の質問とアリーナの返事が終わった後で、レナートさんに別室へ連れ出された。レナートさんには護衛が着いているので彼も一緒だ。


「アリーナさんは精神汚染を受けていますね」


「えっ!?」


「この場合の精神汚染というのは闇魔法、暗示、催眠術といった他人への精神攻撃です」


「……」


「私は一級真偽官です。二級審議官は耳で聞いた相手の声で真偽を見抜けます。しかし本人が嘘だと思っていないことも真として判断されます。一級真偽官は魔眼により心の奥底を見抜き正常な精神状態か解ります」


「一級真偽官は凄いのですね……」


「アリーナさんの返事の時に嘘を言っている反応はありませんでしたが、代わりに精神汚染の反応がでました」


「そうですか……彼女はロセ帝国の諜報員だったのです。今は俺が保護していますけどね」


「ロセ帝国ですか。あまりいい噂は聞かない国ですね」


「そうなのですか?」


「今現在、国同士の争いをしているのはロセ帝国だけですからね」


「魔物だけではなく他の国を相手にしているのですか……」


「ええ。寒い地域で農業もままならないという事は解りますけどね」


 豊かな土地を狙っているのかな?それでも良くないイメージには変わりがないな。


「精神汚染の解除はどうしたら良いのでしょうか?」


「闇魔法で更に強力な力によって上書きするか、光魔法で正常化させるかですね」


「魔法がいるのですね」


「はい。こればかりは症状によって、闇の魔法に詳しい人が見てみない事には正常化はできないでしょう」


「厄介そうですね」


「はい。魔力が高ければ抵抗できたのでしょうが、お話を聞く限り闇魔法を受けざるを得ない環境で育ったようですね」


「孤児院出身ですからね。生きるためには否応なしだったでしょう」


「彼女に精神汚染を掛けた人物が何かするか、定まった引き金によって現状で表には出て来ていない行動に出る可能性があります」


「ふむ。いつどこで何が起こるかは判らないと言うことですね」


「はい」


 本当に断り切れなかった自分が悪いな……。

爆弾を抱え込んでしまったぞ。

闇魔法の使い手は知り合いにはいなかったはず、光魔法はこの間知り合った鍛冶神の巫女であるルカさんが使えたな。

しかし巫女も使徒も自身の仕える神関係以外で力の行使はしてくれないと聞いた。

アリーナは今のところ無害だが、どうしたものか……。


「レナートさんは真偽官になるときに闇魔法を受けていますよね?その闇魔法の使い手を紹介していただくわけにはいきませんか?」


「それは難しいと思います。真偽ギルドの本部で闇魔法の使い手は厳重に管理されていますからね。私達真偽官に掛っている闇魔法の事もありますので接触はできないでしょう」


 なるほど闇魔法を掛けた人なら解除も出来るようだし、真偽官の信頼を大きく揺るがす問題にまで発展してしまうかもしれないな。

そっち方面は諦めるか。


「解りました。何とか自分達で魔法の使い手を探して見ます」


「はい」


「レナートさん、本日はありがとうございました」


「トシさん、イチルアの現状をお教えしましょう」


「あ、それがありましたね」


 アリーナの精神汚染という想定外の事が解ったので、つい忘れてしまった。


「あなた方のパーティを襲った賊は食料品を扱う商会の専属護衛でした。その商会も店と会長の屋敷が襲われて燃やされました。商会自体は商業ギルドの所属で怪しい商会ではなかったようです」


「俺達を襲った賊は、その商会の指示だったわけではなさそうですね」


「断言はできませんが、その可能性が高まりましたね」


「ふむ」


「その賊達の持っていた冒険者カードから交友関係を辺り、その中で冒険者ギルドに所属する者達の真偽を問い冒険者ギルドの正常化に成功しました」


「おぉ!凄い」


 そこまでやったのか。本気だな。

真偽官も大活躍だったようだな。

ラマにも真偽官はいるだろうがレナートさんも応援にいってたしな。


「ヨゼフさん達のおかげで《殲滅の剣》の主力メンバーの協力があったのも大きかったです」


「ヨゼフ達も頑張ったのですね」


「ええ。そしてイチルア王国の貴族と騎士団、そして兵に関しては手が出せませんでした」


「そうでしょうね」


 俺もそこまでは期待していない。

いくら冒険者ギルドでも国の相手は無理だろう。


「ですのでトシさんに掛っている懸賞金は取り消されていません」


「そうですか」


 俺達はイチルア王国では表の道を歩けないねぇ。

レナートさんに今回の報酬である金貨五枚を支払った。

結構な額だが必要経費だ。

俺はレナートに礼を言って冒険者ギルドを出た。

ランベルトさんとネッロさんにも挨拶していきたかったが会議中らしく会えなかった。イチルア王国の件でお礼を言っておきたかったね。


 アリーナと店への帰り道で、アリーナに精神汚染の事を話すか悩んだ。

知らせておいた方が良い気もする。怪しい人物との接触を避けさせるなどの対応もできるかもしれない。

逆に本人が精神汚染について知る事がトリガーになっていたら不味い。

花ちゃんの屋敷に戻ったらアリーナの取り扱いについて、かっちゃんと相談だね。


 翌日は塩の補充のためにバッキンの港町まで行った。

俺と馬達だけである。

なっちゃん達は今日も孤児院で遊んでいる。

ゴンタとミナモは子守だ。

アリーナにはビアンカの手伝いを申付けてある。


 そろそろ秋のはずなのだが暑いままだ。夏が好きな人には良いね。

俺は四季折々の風情が好きだね。旬の食べ物もありがたい。

昨日、店の倉庫代わりにマジックバッグを追加で買った。

塩の運搬に使わせるつもりはないが、店の地下で使ってもらう。

塩の箱も含めて二か月は持つ量の塩を作った。

店に有る塩の在庫も含めてかなり持つだろう。

俺が塩を作っている間に馬達は放牧していたので、楽しそうに走り回っていた。

しばらく海をぼーっと眺めてから馬達の所へ行き、バッキンの店へと帰った。


「ビアンカ、このマジックバッグに塩の補充が入っている。地下の倉庫で使え」


「はい」


 ビアンカはマジックバッグの中身を確認して、塩の量に安心したようだ。

エールから蒸留酒も追加で作った。蒸留酒についても問い合わせが多いらしい。

これを直接売るつもりはないんだけどなぁ。蒸留酒を広めて更に美味い酒を造ってもらうってのはアリだとは思うけど、ドワーフが嗅ぎ付けてきたらこの仕事から離れられなくなりそうなので止めておく。俺に余裕が出来た時にまた考えるさ。

豆富用の大豆もかなりの量を買った。豆富は俺達店の者が一番消費している。

寒くなったら鍋とかで人気が出てもおかしくないと思うけど、今は暑いので冷奴くらいしか出番がない。あとはサラダに混ぜ込むくらいだ。

木の食器については倉庫の在庫で十分だろう。

これで俺が居なくても店は回るだろう。


 夕方に孤児院へなっちゃん達を迎えに行き、グローリアもユリさんの家まで送り届ける。今日も飽きずに勇者ごっこをしていたようだ。グローリアが昨日に続いて勇者役をやったそうで、ご機嫌だった。


「ぐっちゃん、元気でねー」


「うぅ……なっちゃん」


「ほらグローリア泣くんじゃないの」


 また俺達が旅に出るのでなっちゃんがグローリアに別れを告げている。

ここの所一緒にいたので別れがたいようだ。グローリアがスカートの端を小さい手でギュッと握りしめて目に涙を浮かべている。

こういう小さい子の行動は心に来るなぁ。


「また会いに来るからねー」


 なっちゃんがしゃがみ込み目線を合わせてから、グローリアの頭を撫でて言う。


「なっちゃん……」


「また一緒に遊べるわよ」


 デイジーも優しくフォローしている。孤児院で小さい子の相手はよくしているようで慣れたものだ。


「ぜったいだよー」


 なっちゃんに指切りを教えてあげた。

三人は順番に指切りをして再会の約束をしたようだ。


 またバッキンへ来るさ。


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