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説明

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「ゴンタ様お帰りなさいませ!あ、トシさん、なっちゃん、ミナモもお帰りなさい」


「お帰りなさい」


わう

わふ


「ただいまー。お土産があるよー」


「おう、帰ったぞ。俺の留守中に何かあった?」


「問題になるような事は何もありません。そして塩の売り上げが順調です。在庫はまだ半月分はありますが結構減りました」


「そうか。塩は補充するさ」


 俺達はバッキンの店へ戻った。

ビアンカとデイジーも直ぐに気が付いて挨拶してくれた。

謎のゴンタ崇拝は健在のようです。謎でもないのか……ゴンタは神使の見習いって話だしな。

ビアンカ姉妹がそれに気が付いたのは謎ではあるか。

なっちゃんがデイジーにお土産を渡している。

なっちゃんとデイジーが蜂蜜入りクッキーを食べている。

花ちゃんの屋敷周辺で見つけた蜂蜜で少しだけ蜂蜜入りクッキーを作った。

小麦粉はあまりなかったから少しだけなのです。

俺が作り方を花ちゃんに教えて作ってもらいました。

最初は温度調節を失敗して焦げてしまいましたが、二度目には食べられる物ができました。

窯を作った甲斐がありましたね。

卵が手に入ればもっとお菓子も作れるんだがなぁ。

魔物の鳥でも飼うか……。


「そちらの方は……」


「この子はアリーナ。訳有って俺が預かることになった。」


「初めまして。私はビアンカです。この店で住み込みで働いています。あっちの子は私の妹のデイジーです」


「よろしくお願いします。ビアンカさん達の事は、トシさんから伺っています」


「こんにちは、デイジーですっ」


「はい、こんにちは。よろしくね」


 口許にクッキーの粉を付けたデイジーも挨拶をした。

ビアンカが口許を綺麗に拭ってあげている。

ビアンカ姉妹も無事過ごせていたようで良かった。

俺達は居間で旅装を解く。

花ちゃんの屋敷ほどの広さはないが落ち着く。

ビアンカが出してくれた紅茶を飲みながら、売り上げ報告や近況を聞いた。


「結構な売り上げだな。予想より多いぞ」


「はい。飲食店の塩購入が安定して増えています。ソルティードッグは人気があります。これも元になるお酒の在庫が心許ないです。それ以外はソコソコですね」


「そっちの補充もしないとだな」


 一月の売り上げ予想は金貨二十枚くらいだったのだが、金貨二十七枚も売り上げがあった。

人件費と豆、レモン、あと蒸留酒を作るためのエールなどのお金くらいしか出て行かないので儲かっている。

店も賃貸じゃないのが大きい。

ただ俺の『錬成』が必須なのは将来的に何とかしたい所だ。


「デイジーも文字の勉強は進んだか?」


「うぅ……あんまりです」


「私は書けるようになったよー」


「えー!早すぎだよぅ」


 なっちゃんは学習能力が高い。俺よりも早く書けるようになっていた。

悔しくて俺も頑張って書けるようになったけどね。

花ちゃんはアンバーさんにこっちの世界の常識と共に文字も教えてもらっていたようで、既に文字を書けていた。


「俺となっちゃんが店に居る間は文字の勉強をしていてもいいからな?」


「教えるー」


「ああ、それがいいな」


「ありがとうございますっ」


 ふんすっと鼻息も荒く気合をいれているデイジー。

なっちゃんと張り合うと悔しい思いをしますぞ?と経験者の俺は心の中で思った。


「ビアンカも俺達が居る間は休みをやるぞ?何かしたい事はないか?」


「私もですか?」


「おう、そんなに長くもいないとは思うけどな」


「何も思いつかないので店にいますよ」


「そうか?何か思いついたら言ってくれ」


「はい」


 ビアンカはそう言って、デイジーを優しげな眼差しで見ている。

デイジーが嬉しそうにしているのが、嬉しいのだろう。


「給金は売上から取ってくれていいぞ」


「さすがにそれは不味いのではないかと……」


「俺もいつも店に居るとは限らないしなぁ」


「それでも店長から給金をいただけると働いているって気持ちになります」


「そうか?それなら直接手渡ししていくか」


「はい」


 支度金として既に一月分のお金を出していたが給金としては初めてだな。

俺はビアンカとデイジーに合わせて金貨三枚を支払った。

デイジーは自分で稼いだ金貨を見て嬉しそうにはしゃいでいる。

なっちゃんに金貨を見せたりしているね。

なっちゃんもそれを見て羨ましそうにしていたので、お小遣いで同じ金貨一枚を上げた。

なっちゃんは船を動かしたり、花ちゃんのために頑張っていてくれたから問題はない。

ちびっこ二人は一緒になってはしゃいだね。


「このバッキンにも孤児院があってな、ビアンカとデイジーもそこの出身なんだ。アリーナもロセ帝国の孤児院出身だ」


「こちらにも孤児院があるのですね」


「そうでしたか。アリーナさんもそうだったとは……」


「はい。私は孤児院で仲の良い友達もいましたが、孤児院自体にはあまり良い思い出がないのですよ」


「バッキンの孤児院では余裕がある生活とは言えませんでしたが良い思い出も一杯です」


 ビアンカとアリーナが挨拶以降話していなかったので、共通の話題を提供したら話し出してくれました。

アリーナに秘密がない事が判ったら店で働いてもらおうかと考えているので、仲良くしてもらいたいものだ。

家族のいない人はゴロゴロいるので孤児院の話も言いにくい話でもないのです。


 ゴンタとミナモは馬達と一緒に厩舎で休んでいる。

住みにくい町のなかであっても、そこは自分達の場所なのであろう。


「俺はヒミコ様とヤマ様に挨拶してくるよ」


「はい」


「なっちゃんはどうする?」


「私も孤児院に行くー」


「そっか。子供達へのお土産は、なっちゃんから渡してもらおうかな」


「はーい」


「ビアンカ、デイジーは店番頼む」


「はい」


「任せてー」


「アリーナはビアンカとデイジーから店の仕事を教えてもらってくれ」


「解りました」


 俺となっちゃんは久しぶりのバッキンの町を歩いた。

ヒミコ達はゴンタにご執心なので、ゴンタ達にも来てもらった。

バッキンの町の通りを歩くと……。


「ゴンタちゃんだ……」

「帰って来たんだねぇ」

「可愛い……」

「ちょっと大きくなってない?」

「あの美人さんはだれだ?」

「狼の被り物を取ってくれないかなぁ……」


 ゴンタやなっちゃんが注目の的だったね。

ミナモも噂されていたが大きくて怖いだのといった、良くない評価も混ざっていたね。

ミナモは我が道を行くからな。

俺?俺は空気ですよ。強烈な光の元では霞む存在なんですよ。

忍びのモノになれそうだ。ニンニン。


 ヒミコは孤児院に居てくれた。

シスターさんに通してもらい部屋へ行った。


「ヒミコ様、ヤマ様、お久しぶりです。オルガさんとマリアさんもお久しぶりです」


「ゴンタ様!とトシさん、なっちゃん。お帰りなさい」


「お帰りなさい。いつバッキンへお戻りに?」


 ヒミコとヤマの返事に続いて、護衛として彼女らの横にいるオルガとマリアも会釈をしてくれた。


「ついさっきです。お土産を持ってきました。なっちゃんは子供達の所へ行っておいで」


「はーい」


 なっちゃんは会釈を一つした後で、お土産を持って部屋を出て行った。


「これをどうぞ」


そして俺はテーブルにお土産を置いた。

ドワーフ領のチーズを一塊と蜂蜜酒の入った素焼きの壺だ。


「まぁまぁ、これはありがとうございます」


「ありがとうございます」


 ヒミコもヤマも酒が好きだったはず。宴会をした時にずっと呑んでいたもんな。


「ドワーフ領のチーズと蜂蜜酒です」


 酒と聞いて更に嬉しそうな顔になる二人。


「チーズも匂いと味に癖がありますが、美味しいですよ」


「早速、今晩にでもいただきます」


 オルガとマリアも横で嬉しそうにしている。彼女らも食事は一緒に取れるのかも知れないね。


「ドワーフ領で鍛冶神と話す機会がありましたよ」


「鍛冶神と話……えぇぇっ!?」


「そんな事が……」


「何と!?」


「鍛冶神……」


 俺の言葉に驚く四人。

まぁ神の存在は知っていても、話せるような存在ではないからな。

もう俺も話す機会はないだろうし。


「鍛冶神の巫女への神託を経由してですけどね。俺の転落の話に付いて聞けました」


「神託ですか……噂には聞いておりましたが、そんなこともあるのですね」


「俺の場合は特別だったようで、俺も次はありません」


「そうですか。そのお話は聞かせていただけるのでしょうか?」


「ええ。こちらの初代にも関わりがある話ですからね」


「オルガ、マリアは扉の外で警護をお願いします。話の内容次第ではあなた達にも話ができるかと思います」


「解りました」


「はい」


 オルガとマリアは一礼して部屋を出て行った。

俺は別に聞かれても構わないがヒミコ達にも事情があるだろうし、しょうがないのかな。


「俺がこちらの世界に落とされた理由はゴンタでした」


わぅ……

わふぅ


「ゴンタ様ですか?」


「ゴンタは俺のいた世界で神に仕えるべき存在だったのです」


「まぁ!」


「ゴンタが仕えるべき神に、俺とゴンタが仲が良いのを嫉妬されまして……」


「嫉妬ですか。ええ、それは無理もないですわ」


「えー?」


 ヒミコが俺を落とした神に同意を示した。


「ゴンタ様は可愛いですもの!私だってハンカチを噛み千切ってしましそうですわ……」


「……ま、まぁそれはさて置き、その俺を落とした神は処罰として一万年も幽閉される事になったようです」


「一万年……桁が違いますわね」


 ヒミコもヤマも想像を絶する年数に驚いている。


「ここからが初代に関する事なのです。こちらの世界へ落とすことが出来る存在として神がいます。それはこちらの神でも同じ様です。俺以外の人を落とした事に付いては処罰は無かったとだけ聞きました。」


「つまり初代に付いては落とされるべき理由があったのですね?」


「そうらしいのです。その理由に付いては謎ですけどね」


「……」


 ヒミコとヤマは言葉の意味を考えている様だ。

彼女達の眉と眉の間に皺が寄っている。落とされた初代に理由があったという情報は、歓迎すべき情報ではなかったのだろう。


「しかし殺される訳でもなく、異世界へ落とされたという所に何かありそうですよね?」


「神が直接手に掛けたという例は聞いたことがありません」


「なるほど。処罰としてそれが一番重かったとも考えられますね」


「ええ」


「もう我々の知ることができる範囲を超えましたので、これ以上の真相究明は無理と判断しました」


「そうですか……そうですわね」


 ヒミコも初代がいない今となっては知ることはできないと判断したのだろう。少しだけ表情から硬さが取れている。

今の俺達に何か罪が有る訳でもないしな。


「ヒミコ様達にも知る権利があると思い、今日は来ました」


「ありがとうございます。神が関わっていたと解っただけで十分です」


「トシさん達は今後どうされるのですか?」


 ヒミコがお礼を言ったのに続いてヤマが聞いてくる。


「ギルスア王国の遺跡へ行ってみようと思っています」


「ギルスア王国の遺跡……海を渡れば近いですね」


「そうらしいですね。かっちゃん以外のケットシー達も行っている様なので楽しみです」


「そうですのね。気を付けていってらっしゃいませ」


「はい」


 それから俺達はドワーフ領の話で盛り上がった。

ヒミコ達はバッキンから出る事は無いようで、旅の話や町の話を楽しそうに聞いてくれた。

こんなに喜ばれるとは……これからも旅の話をしてあげたいと思った。


 なっちゃんは久しぶりの孤児院の友達と遊べてご満悦です。

しかし帰り際になっちゃんは、もっと遊びたいとごねたので、また明日ねと言っておいた。

明日は冒険者ギルドを訪ねて真偽官のレナートの都合を聞かなくてはならないが、俺だけでいいからね。

かっちゃんから真偽官には高い報酬を払えば一般人でも利用可能だと聞ている。


「それなら明日はグローリアも誘って孤児院で遊ぶかい?」


「うん!」


「明日ユリさんの家に聞きに行こうな?」


「はーい」


 なっちゃんにとってもバッキンは大切な場所になりつつあるようだ。


 そういう場所を増やしていこうな、なっちゃん。


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